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石猿おじさんはやんちゃ坊主。

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石猿おじさんはやんちゃ坊主。



今日は各種族の長が寄り集まっての、
多種族協定会議、通称魔王会議の日である。
会議室を提供してくれている銀悪魔の長、
リカルドの居城に足を運んだカオスは廊下を歩きながら、
ルーディガーに今日も文句を言われていた。
「だから何故、つれてくるんだ。」
「いや、置いてこようとしたし、
 その準備もしてましたよ?
 でも、こいつが付いてきちゃったんだもん。」
文句の元は片手で抱き抱えた小さい娘、
キィの存在である。
今日は父親と一緒にいるつもりらしく、
当たり前のようにくっついてきたキィを抱えて、
カオスは頭の後ろを掻いた。
魔王としての公共業務に、
物の道理も解らない赤ん坊を連れてくるな。
義務の有無は兎も角、
職務には忠実な竜王の苦言は尤もだが、彼とて、
常に狙って騒ぎを引き起こしているわけではない。

カオスが尤も得意とするのは移動魔法であるが、
それは少なからず娘のキィに、影響を及ぼしている。
まだ幼く、行動範囲は狭いとはいえ、
気が向いた時に気が向いた場所へ、
ふらふら遊びに行ってしまうのだ。
移動魔法を封じるべく、高位の封移結界を張り、
勝手な行動を留めようとしても、
幼児は穴を通り抜けるようにするりと結界を抜けて、
いなくなる。
常人では対処できないレベルの結界を、
二重三重に張り巡らせても効果がなく、
無理をしておいてきたのに、気がついたら、
後ろをちょこちょこ歩いていたなんて事になるよりは、
本人の意志に併せてしまった方が楽なのだ。
しかし、説明するのが面倒なので、
非難を受ける覚悟で適当にごまかしている。
ルーディガーが一番怒るのは、
そういういい加減なところなのだが、
きちんと説明する手間をかけるくらいなら、
怒られた方がマシ。
それが多々おかしいと指摘される、カオスの判断だった。

「まあ、飽きたらうちに帰るだろうし。」
「今、帰らせろ。」
ぶつぶつ言い争いながら会議室の前までやってくれば、
複数名が揉めている。
「身も蓋もないこというな。
 世の中には、言って良いことと悪いことがあるだろ。」
「でも、事実だし。」
「なにやってるんだよ。」
白鳳のジャルが吸血鬼のオリバーに、
くってかかっている間をわざわざ通り抜け、
仲裁するどころか返事すら待たず、
カオスは会議室のドアを開けた。
中に珍しい顔を見つけて立ち止まった彼の腕の中で、
キィが無遠慮にも大声で叫ぶ。
「うしゃぎしゃん! 
 おとうたん、うしゃぎしゃんがいるよ!」
「ああ、うさぎさんだなあ。」
答えているだけの返事をして、巨大なウサギに手を振る。
キィの声で、こちらに気がついた向こうも、
手を振り返してきた。
「よう、久しぶりだな。」
「珍しいじゃん。どうしたのよ大将。」
親しげな挨拶に、手を上げてカオスは応えた。
ここ数年、会議に不参加だった中央の石猿、
ウタラが屈託なく笑う。

「ちょいと、お前さんに伝えたいことがあってよ。」
「急ぎの案件かい?」
何の話かを聞き出す前に、キィが会話を遮った。
「おじちゃんだよ! うしゃぎしゃんのかっこした、
 おじちゃんだよ、おとうたん!」
「ああ、おじちゃんだなあ。」
着ぐるみは丁度顔のあたりがくり貫かれ、
顔が出せる仕様になっている。
顔を白く塗りつぶし、髭や鼻を書いた中の人が、
ウサギでないことは明らかであり、
小さい人の目には非常に不可思議に映るようだ。
鼻の穴を広げ、興奮状態でウタラを指さすキィの腕を、
カオスはそっと押さえた。
人を真正面から指さすのは品が悪い。

「相変わらず小せえなあ、お前ん所のは。
 少しは少なくなったのか?」
「まあ、早々減りはしませんな。」
「それもそうか。」
付き合いの長いものだけがわかる挨拶を交わし、
ウタラは右上を見上げた。
「それで、そちらの御仁は?」
釣られてカオスが視線を動かすと、
その先でルーディガーを眉を動かした。
大騒ぎのキィと違い、感情を表に出していないが、
ウタラの格好に動じていないのか、
そういうもんだと納得してしまったのか、どちらだろう。
多分、後者だ。
閣下は天然だからと勝手に決めつけ、
軽い調子で紹介する。

「会ったことなかったっけ?
 ほら、白竜王国の、」
「やっぱり、かの有名な金色の撃墜王殿か。」
答えは聞かずとも分かっていたのだろう。
カオスの言葉を遮るようにウタラは大仰に驚き、
ウサギの頭をはずすと立ち上がった。
「こんな格好で失礼致します。
 おいらはオリンポス海峡を越えた先にある、      
 田舎村キーマの、アーディティア・ガナス・ウタラ・
 ヴァナラ・アンジャネーヤっつう、
 つまらねえ石猿です。」
どう考えても場違いな格好のウタラに、
やはり顔色一つ変えず、
ルーディガーは差し出された右手を握り返した。
「ハンス・ルーディガー・ヴァイスフルーだ。
 密林の破壊神殿の噂はかねがね伺っている。
 考えなしの若い頃は、
 一度お相手願いたいと願ったものだ。」
少々物騒な返しに、ウタラはニヤリと口端をあげ、
カクッと独特な調子で肩をすくめた。
「そいつはおっかねえ。
 色々うるせえのが多くて、そちらに行くことも、
 来られることもなかったが、
 もし、御身に攻め込まれていたら、
 ひとたまりもねえところだった。」
「なに、あっと言う間に打ち落とされて、
 恥をさらして終わりだったろうよ。」
もし、彼らが争っていたら、どちらが勝ったにしろ、
周囲を巻き込んで甚大な被害がでただろう。
それはそれで観てみたかった気もするなと、
世界の頂点を押さえる二人の会話を、
カオスはのんびりと聞き流した。
どのみち、キィには判りもしなければ、
興味もないことである。
しかめっ面の小さい人は、
父親の腕の中でむふーっと鼻息を吹いた。
「おとうたん、顔がとれたよ。
 うしゃぎさんの顔が、とれちゃったよ。」
「ああ、とれちゃったなあ。」
「なんで、とれちゃったんだー?」
何もかもが、納得いかない様子で、
キィはウタラが抱えたウサギの頭に手を伸ばし、
耳をグイッと引っ張った。
挨拶中の石猿への配慮もなければ、
普通に乱暴な娘に眉をひそめ、カオスはキィを窘めた。

「こら、きいこ。やめなさい。」
「なんだ、おちびはそんなにこれが気になるか?」
面白がってウタラがウサギの頭をキィにかぶせる。
全くサイズが合わない被り物をはね除けながら、
幼児は憤懣やるかたない様子で怒った。
「おちびじゃないよー! きいたんだよー!
 きいたんは、たべこなんだよー!」
自分はちびではないと当人は強く主張しているが、
たべことは時折父親が使う赤ん坊の呼称であり、
食べて寝るだけが関の山の略だ。
意味として殆ど変わっていないどころか、劣化している。
しかし、意味なぞ分かっていなければ、
考えたこともないだろうが、
カオスがそう呼ぶからには良いことなのだと、
キィは頑なに信じている。
丸くって、ちっちゃくって、ぷにぷにした、
可愛い生き物である自分は、この世で一番偉いのである。
おとうたんもおねえちゃん達もそう言うんだから、
間違いない!
ちび助扱いにぷんすか一人前に怒るたべこを、
カオスはなま暖かい目で眺め、
ウタラはそのまま聞き流し、
ルーディガーは幼児を囲む環境を思い、眉を顰めた。

「お前、自分の教育に誤りを感じたことはないのか?」
「なにが?」
頭の上からの苦言を振り払う父親の腕の中で、
キィは不愉快そうな顔をしながらも、
再度、ウサギの耳を引っ張った。
「なんで、とれちゃったの!?」
それは被りものだからとしか答えられない質問に、
ウタラは大きく頷いた。
「そうかい、そうかい、そんなにこれが気になるか。」
答えになっていない返事をした石猿は、
無造作に右の耳をゴソゴソと探った。
「こう言うのも、あるんだぞ。」
耳をいじるのをやめて、ウタラが差しだした手から、
ボンと白い煙が上がり、どこからともなく、
茶色の座布団のようなものが現れる。
「ほら。」
よく見れば座布団ではなく、丸い帽子のようなものを、
ウタラは頭に乗せた。
途端にキィが奇声を上げる。
「キノコだよ! 
 おじちゃんが、キノコになったよ、おとうたん!」
「ああ、茸だなあ。」
耳の代わりに笠をかぶっただけだが、
胴体が白いので変でもない。
流石大将、バリエーションが多い。
部屋の外がなんだか騒がしくなったようだが、
少なくともカオスにとって大したことではなく、
穏やかに笑う彼の横で、ルーディガーが再び眉を顰めた。
「常にそんなものを持ち歩いているのか?」
「それでな、この紐を引っ張るとな、」
魔王らしからぬ持ち物を問い正すべく、
ルーディガーが口を開いたのと、
ウタラがキノコの傘から垂れる紐を引っ張ったのが、
ほぼ同時だった。

ポヒューーーーッ!!

「キョヒーーーーーーーーッ!!」
キィがつんざくような悲鳴を上げる。
汽笛に似た音を立て、
ウタラの頭から白い煙が盛大に吹き出したのだ。
「ちょっ、大将、なんだよ、それ!
 なにそれ、超ウケる!」
虚を突かれ、カオスは吹き出し、
ルーディガーは顔をしかめて身を仰け反らした。
目を見開いて、キィが父親にしがみつく。
「ほうちだよ! キノコがほうちをふいたよ!
 お部屋中、キノコまみれになってちまうよ、
 おとうたん!」
「ああ、胞子だなあ!」
笑いが止まらない魔術師の腕の中から、
竜王が小さい人を取り上げた。
父親の笑いは止まりそうになく、
うっかり落としたり、ぶつけたら大変だ。

ポヒューーーーッ!!
大笑いのカオスに気をよくしたのか、
ウタラが再び胞子をまき散らす。
「たいへんだよ! キノコがはえてくるよ!
 ちゅくえやいすから、キノコがはえてきてちまうよ!」
「胞子は、笠の襞から出てくるもので、
 天辺からは出ないだろう。」
大興奮の小さい人に勘違いを正しても、
理解できるはずがない。
どのように言い聞かせるべきか、
ルーディガーは首を傾げ、カオスは無責任に笑い転げた。
「閣下、それ、多分、今、関係ない。
 ヒーヒッヒッヒ、腹、痛てぇ!」
ポヒューーーーーーーーッ!
鳴り響く汽笛に、吹き上げられる白煙。
際限なく笑う友人。
「おい、もう、そろそろ、いい加減にしろ。」
責任はウタラに大きくあるのだが、それを無視して、
ルーディガーはカオスの首根っこを掴んで持ち上げた。

「笑うより他に、する事があるだろう。」
「ああ? なんかあったっけ?
 それよりきいこ、お前、胞子なんていつ覚えた?」
ルーディガーは本来の目的を指摘するが、
カオスは全力で横に受け流し、
ウタラが他人事のように首を傾げた。
「そういや、会議はいつ始まるんだ?」
「そりゃ、全員席に着いてからだろ。」
石猿の問いに、ようやくその気になったのか、
カオスは笑いと不真面目な態度を引っ込めたが、
同時に眉を顰めた。
「あいつら、なにをやってるんだ?」
会議開始時刻はとっくにすぎたはずだが、
彼らに続いて、部屋に入ってくるものはない。
時折、中を伺う様子はあれど、
扉の前から動こうとしない外の気配に、
大体の理由を納得して、耳の後ろを掻く。

まあ、世界のトップクラスが馬鹿騒ぎしている中に、
のこのこ踏み込む間抜けはいまい。
さて、どうするか。
一応カオスとて、会議のために足を運んだのであり、
いつまでも仕事が終わらないのは困る。
大人しく席について、狂宴終了の意志を提示しようと、
彼は椅子を引っ張ったが、そうは問屋が卸さなかった。
「全く、いつまで無駄話をしている気だ。」
「うし、ちょっくら、おいらが気合いを入れてやるか。」
思わぬ流れに振り返れば、
ウタラがひらりと机の上に飛び乗るのが目に入った。
そのまま、石猿は河の上の石を渡るかのように、
身軽に机の上の飛び越えていく。

キノコの胞子をまき散らしながら。

ポヒューーーーーーーーッ
ポヒューーーーーーーーッ
ポヒューーーーーーーーッ
「うわぁ! こっちくんな!」
世界を二分する魔物に向かって、
思わず本音を吐いたのは誰だろうか。
逃げ回る彼らの姿を見ながら、
キィを抱えたまま、ルーディガーが怒声をあげる。
「子供じゃあるまいし、いつまで遊んでいるんだ!」
「いや、遊んでいるつもりは、ないんじゃないかな。」
一応、それぞれのプライドのためにフォローを入れて、
カオスは再び、耳の後ろを掻いた。
まだまだ、会議は始まりそうにない。

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