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猫の出処。

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猫の出処。





昔々、あるところに、
きいたんというたべこさんが住んでいました。
たべこというのはちいさいひとのことです。
ちみことも呼ばれます。
世間一般では赤ちゃんと呼ばれることが多いです。
食べて、寝て、にこにこして、
みんなに大事にしてもらうのがお仕事です。
きいたんもお兄ちゃんやお姉ちゃんにお世話をしてもらい、
マイペースなお父さんと毎日幸せに暮らしていました。

さて、そんなきいたんのお父さんですが、
本職だけでなく、いろんなお仕事をしていました。
お父さんは器用だったので、沢山の人にお手伝いを頼まれたからです。
そのお仕事の一つに、郵便屋さんがありました。
頼まれたお荷物や、お手紙をあちこちに運ぶのです。
運んだ先でも新しいお手紙を預かるので、
何時までたってもお仕事が終わりません。
お家の近所は飼っているわんこさんに任せることもありましたが、
遠い場所はお父さんが自分で運びます。
その日もお父さんはヤハンと呼ばれる島国にやってきて、
頼まれたお手紙を片手に、お社を一つ一つ廻っていました。

お社というのは、要は神社です。
神社というのは昔は神様のいるところ、だったのですが、
今は土地の元気が強いところと思っていれば大丈夫です。
詳しいことは省きますが、
龍脈、霊気などとも呼ばれる土地の元気が強いと、
良いこともあれば、悪いこともあります。
お化けや悪霊を作ってしまうこともあれば、
人を元気にしたり、悪いものを追い払ってくれることもあります。
そして大概、御神体と呼ばれる中心になるものがあります。
そこで御神体を管理するお社を作って、
悪いものが他所に行かないようにしたり、
安心して遊びに来れるようにしたりするのです。
お社には管理人である宮司さんの他に、
御神体が生み出したり、呼ばれて集まってきた霊獣が住んでおりまして、
皆、きいたんが遊びに行くと喜んでくれましたので、
きいたんはお父さんにくっついて、お社に遊びに行くのが好きでした。

そんなわけでお父さんも、
お社を廻るときはきいたんを連れて行くようにしていたのですが、
その日はたまたま、お父さん一人でした。
わんこさんのお社に行って、ペロペロされ、
狐さんのお社に行って、もふもふされ、
カラスさんのお社に行って、ツンツンされて、
今度は、獅子さんのお社にやってきました。
階段をとんとん上がり、蒼い鳥居をくぐって、お父さんがとっとこ進むと、
入り口に有った獅子の石像2体が、突然動いてグルルと唸りました。
『あんた、誰だい?』
『勝手にはいったら、駄目なんだよ!』
あっという間に石像は真っ白い生きた獅子になって、
お父さんに向かって牙をむき出し、ガオッと吠えました。
けれどもお父さんはちっとも驚きません。

「何だ、お前ら。今更、誰だも何もないだろ。」
お父さんは何度もこの神社にきていましたから、
ここの神社に沢山の白獅子がいることを知っていましたし、
当然、この霊獣である獅子さん達とも顔見知りでした。
獅子さんたちもあっさり吠えるをやめると、台座からポンと降りて、
お父さんに頭を擦り付け、挨拶しながらいいました。
『だって今日、僕、門番だから、誰って聞かなきゃいけないんだよ!』
『悪い人が来たら、ガリッて引っ掻いてやるんだ。』
偉そうに言う獅子さんたちの頭をなでてやりながら、
お父さんはため息を付きました。
「そいつは杓子定規なことで。
 っていうか、八幡に璃宮、何でお前らが門番やってるんだ?
 二前と陸奥はどうした?」
八幡と呼ばれた短い鬣の跳ねた獅子さんが胸を張って答えました。
『ニノ兄とムツ兄は、爺ちゃんとお出かけだよ!
 だから僕らが、門番してるの!』
「そうか、五十嵐はどうした?」
続けて聞いたお父さんに、今度は璃宮と呼ばれた獅子さんがしっぽを揺らして答えます。
『イガ兄はお昼寝だよ。僕ら、もうお兄ちゃんだから、
 代わりに門番やっても大丈夫なの。』
「そうすか。」
説明を受けたお父さんはもう一度ため息を付きました。
この二匹の獅子さんは、人間で言うなら大体15歳ぐらいで、
一人前になったつもりのお年頃です。
五十嵐お兄ちゃんはそれをいいことに、本来、
自分がやらなくてはいけないお仕事を押し付けたに違いありませんでした。
けれども、お父さんにはあまり関係のないことです。

「まあいいや、爺さんはお留守かい。何時頃帰ってくるか、聞いてないか?」
今日のお手紙は大切なものなので、
直接宮司さんに渡さなければいけませんでした。
それに、まだ他にも回らなければいけない神社も残っています。
宮司さんが直ぐに戻ってくるなら、このまま待って、
帰りが遅ければ、先に他所のお社に行こうとお父さんは考えました。
けれども二匹とも、首を横に振るばかりです。
『知らないー そのうち帰ってくるよ。』
『ねえ、それより今日はおやつ持ってないの?』
知らん顔であくびをする八幡くんと、
何時もあげているおやつをおねだりする璃宮くんに、
お父さんは三回目のため息を付き、
璃宮くんを捕まえてほっぺたをムニムニ揉みました。
「なんだよ、役にたたないな。
 これだからニャンコは。子猫ちゃんは。」
子猫と同じとあからさまに馬鹿にされて、二匹とも怒りました。
『ちがうよ! 僕ら、ニャンコじゃないよ!』
『僕ら、ライオンだよ! 子猫じゃないよ!』
八幡くんは前足でパシパシお父さんを叩き、
璃宮くんもムニムニされながらグルグル文句を言いましたが、
お父さんはちっとも気にしません。
「ニャンコだろ。でっかい赤ちゃんニャンコだろ。」
『違うよ! ニャンコじゃないよ!』
『若獅子だよ! お兄ちゃんだよ!』
獅子さんには獅子さんのいいところがあるように、
猫さんには猫さんのいいところがあります。
だから二匹とも、
別に猫さんが悪いと思っていたわけではありませんが、
自分がライオンだという誇りもありました。
少なくとも、小さな子猫ではありません。
五十嵐お兄ちゃんも立派な大人だと門番を任せてくれたのです。
それに、二匹とも自分がライオンだという証拠を持っていました。

『みて! タテガミ生えてるでしょ!』
『ニャンコじゃないよ! タテガミ生えてるでしょ!』
璃宮くんはブルブルっと首を振り、
八幡くんも顎を上げてタテガミがあることを主張をしました。
まあ、あると言っても、
まだ10cmあるかないかでしたが、
最近ようやく生えてきた大人の証は、二匹の自慢でした。
けれども、お父さんには通用しませんでした。
「何だ、暑苦しいな。」
なにせ、きいたんのお父さんです。
若獅子のプライドなど全く考慮してくれません。
いえ、考慮しないどころではありませんでした。
「暑苦しいから刈ってやろう。」
何処からかバリカンを取り出して、先ず、八幡くんをひっ捕まえたのです。

『嫌だあ!!!』
八幡くんは慌てて逃げようと暴れましたが、
きいたんのお父さんからは逃げられませんでした。
ブィィィィィン…と無情な音を立て、
バリバリとバリカンは八幡くんの生えたてのタテガミを刈ってしまいました。
「フギャアアアアアッ!!」
「よし、次。」
お父さんは悲鳴を上げる八幡くんをぽいっと捨て、
今度はあまりの事にびっくりして、
ポカーンと口を開けて固まっていた璃宮くんを捕まえました。
バリカンがブィィィィィン…と鳴ります。
「二ギャアアアアアアアアア!!」
「こら、暴れるな!」
二匹の悲鳴がお社に響きました。

その少し先で、白獅子の五十嵐くんはお昼寝をしていました。
今日は宮司のおじいちゃんがお出かけで、
お兄さん獅子の二前さんも、陸奥さんも一緒に出掛けておりましたので、
五十嵐くんがお留守番責任者でしたが、なにせ、お社は平和です。
門番は弟の八幡と璃宮が引き受けてくれましたので、
五十嵐くんは他の小さな弟たちが遊んでいるのを眺めながら、
涼しくて気持ちのいい木の上でのんびりしていられたのです。
けれども、突然二匹の悲鳴が聞こえ、五十嵐くんは慌てて飛び起きました。
一体何があったのでしょうか。
五十嵐くんは一飛びで木から降りると、大きな声で吠えました。
『皆、早くお社に隠れろ!』
遊んでいた弟たちは大慌てでお社に逃げていきます。
そのまま、五十嵐くんは悲鳴が聞こえた参道に走って向かいました。
その後を蒼鬣の仁護さんがついてきます。
『何があったんだろう!?』
『わからない!』
のんびり屋の璃宮ならまだしも、生意気ざかりで見栄っ張りの八幡が、
あんな子猫みたいな悲鳴を上げるなんて、ただことではありません。
もしかして何か悪いもの、邪鬼が攻めてきたのでしょうか?
そんな気配は未だ感じませんが、五十嵐くんはそれが余計に恐ろしく思えました。

風のようなスピードでお社の中を走り抜け、参道の階段を飛び越えると、
みゃあみゃあ泣いている八幡と、
ショックでぷらーんと吊り下げられたままの璃宮の姿が見えました。
璃宮をつまみ上げている、
人の姿をしたものは、知った顔でした。
「よう、イガとジンか。」
『なにしてんの!』
『一体、そこで何してんの!』
五十嵐くんと仁護さんは同時に叫びました。
そこにいたのは宮司のおじいさんのお友達で、
良くお手紙を持ってくるお兄さんでした。
時々小さな赤ちゃんを連れてきたり、弟たちと遊んでくれたり、
五十嵐くん達にもおやつをくれる人です。
名前はなんでしたっけ? 確か、おじいさんは加賀見とか呼んでいました。
「なんもしとらんよ。」
二匹に吠えられても加賀見さんは驚かず、ゆったりといいました。
「ただ、暑そうだから、鬣を刈ってやったんだよ。」
『何だ、びっくりした。』
『何かと思った。』
五十嵐くんも仁護さんも、ひとまず安心しました。
鬣を刈ったと言うのは気になりますが、
弟たちは二匹とも痛かったり、危ない目に遭ったわけではないようです。
加賀見さんは怖い邪鬼や悪い怨霊の類ではありません。
時々、悪い匂いがすることもありますが、
それは悪いものを退治している時に、くっついただけだからです。

けれども、別の意味で悪い人だったことを、
二匹は直ぐに思い知ることになりました。
「ついでだから、お前らも刈ってやろう。」
そう言って加賀見さんは、五十嵐くんたちにもバリカンを向けたのです。
バリカンがブィィィィィン…と鳴りました。
五十嵐くんも仁護さんも、璃宮や八幡と違い大人です。
文字通り、立派な若獅子でした。
けれども、きいたんのお父さんこと、加賀見さんはそれ以上に立派な魔物で、
海を超えた先の外国では山羊足の魔術師とも呼ばれる魔王でした。
「フギャアアアアアアアアアアッ!!」
「二ギャアアアアアアアアアアッ!!」
二匹の悲鳴がお社中に響くのに、さほど時間は掛からなかったのです。

そうして、きいたんのお父さんは、
結局、お社にいた獅子さんたち全員の鬣を、
ついでに帰ってきた二前さんと陸奥さんの鬣も、
宮司さんが止める間もなく刈ってしまいました。
宮司さんが大層怒りましたが、お父さんはちっとも気にしませんでした。
そうして刈ってきた鬣を使い、布を作り、きいたんのシャツを作りました。
何も知らないきいたんは、新しいシャツを作ってもらい、大層ご機嫌でした。

「そうして出来上がったのが、あのシャツです。」
「何をやってるんだ、お前は!」
魔物を相手に戦う公式冒険者の個人ギルド、
ZempことZekeZeroHampの居候魔王、
カオス・シン・ゴートレッグの長い説明に、
メンバーの実質的中核、鉄火が怒鳴った。
話題の一品を着ていることなどちっとも知らず、
何時も通り世話係の紅玲に抱っこされたカオスの娘、
キィはご機嫌でニコニコしている。
「ちっちゃいにゃんこ、かわいいねえ。」
「そうね。言うほど小っさくないけどね。」
嬉しそうに小さい人が指さした先には、
真っ白い子猫が三匹、不信も顕に毛を逆立て唸ったり、
カオスの後ろに隠れ、不安そうに顔を覗かせている。
ただ、猫にしては足がやたら大きいし、
そもそも大人の猫としても大きいし、
しっぽの先がふさふさしているのがおかしい。
普通に考えれば、白獅子の仲間…いや、考えちゃ駄目だ。
己の魔術の師匠であるカオスの言動に、逆らうのは勿論、
是非を論じても意味がないことを紅玲はよく知っていた。

だが、あの白い獣がなにかは、この際どうでも良いとしても、
見知らぬ人の手から逃れようと、大暴れしてくれたことはどうしてくれよう。
今でこそ大人しくカオスの影に隠れているが、
数分前まで、彼らの暴れっぷりは凄かった。
帰ってきた住人の姿に驚いて、走り回ったり跳ね回ったり。
おかげで部屋中にクッションやら倒れた椅子やらが散乱し、カーテンはズタボロ。
誰が片づけんの、これ。
現在外出中の女友達が、帰ってきたらなんと言うか。
頭の隅をかすめるように浮かんだ不安を、紅玲は見なかったことにした。
現実逃避は大事である。

って言うか、師匠、ヤハンで加賀見とか呼ばれてるんだ。
久方ぶりに故郷の名前を聞いたのにも関わらず、ちっとも嬉しくない。
むしろ、余計な知識が増えたなどと考えている彼女の後ろでは、
別の問題がぎゃあぎゃあ騒いでいる。
「あのニャンコ、どうやったら懐かせられますかね?」
「ポール君、君は何を聞いてたの?
 だからあれは猫じゃないって。」
のんきな後輩は未だ、状況の異常性を理解しておらず、
先輩騎士に窘められている。
国に認められた公式冒険者として、見た目によらず、
知能の高い魔物と対峙することもあると言うのに、
意識の低いことだ。
っていうか、今の話の流れで、あれが猫だとどうして思えるの?
いや、考えちゃ駄目だ、考えたら負けだ。
猫だ猫。
ポール君やきいたんが言うように、あれは猫だ。
そう思っている方が幸せだ。
腕の幼児を抱え直し、紅玲がクッと己を諌める間にも、
鉄火とカオスの言い争いは続く。

「それでこの小さいのをひっ攫ってきたのはどういう了見だ!?
 ただの動物じゃない、仮にも神使。遊びで済む話じゃねえぞ!!」
白い獅子達や紅玲と同じく東方の島国ヤハンを故郷とし、
歴史ある良家の出身である鉄火は、受けた教育から、
猫のように扱われる子ライオンの価値を正しく理解していた。
だからこそ、紅玲のように見てみぬ振りはできず、損をしていた。
こちらの感覚では王家直轄騎士団に所属する血統書付き騎獣の群れを壊滅させ、
更に数匹攫ってきたと言えば、近いだろうか。
背後から聞こえる後輩の暢気な発言に絶望しつつ、
とりあえず、目下の問題、カオスを叱る。
しかし、諸悪の根源は相変わらず適当であった。

「人聞きの悪い。攫ったんじゃねえよ、押し付けられたんだよ。」
シャーと周囲を威嚇する一匹を抱き上げ、
怒るなと腹をコチョコチョ擽りながら、暢気にカオスは言う。
「刈ったって言ったって、所詮鬣だし、霊獣だしな。
 良いもの沢山食べれば、すぐ元通りになるんだよ。
 でも、兄ちゃんたちばっかり美味しいもの食べてたら、チビが拗ねるだろ。」
くすぐったいのか、にゃごにゃご暴れる子ライオンにまだ鬣はなく、
刈り上げ被害に遭わずに済んだようだ。
「だから、こいつらの分も何か、
 どうせなら、向こうじゃ入手し辛く、
 且つステータスアップになるようなものをと頼まれてな。
 ま、ちょっとした遠征ってところだな。」
従って、連れ出しは飼い主の了承済みである。
「その宮司、なかなかギャンブラーだな…」
文字通り虎の子、ではなく獅子の子ではあるが、
掌中の珠を魔王に任せて良いのだろうか。
一応、カオスの魔王の肩書は西方でついたものであり、
東方では一般的はないが、どのみち、
安易に関わってはならぬものとされていたはずである。
忘れつつある故郷の記憶を反復しつつ、
項垂れる黒髪の剣士に向ける配慮はカオスにはない。
顔色一つ変えず、話を続ける。

「普通にやってるだけじゃ、大幅な戦力増加は見込めんからな。
 そんなわけでこいつらを自宅に連れて帰ろうしたんだが、
 犬共に差止め食らってなー」
「なんで。」
「自分の群れの仲間しか見たことないような、田舎育ちの世間知らずを、
 突然見知らぬ外国に放り込んだら、パニックを起こして大暴れしかねない。
 引いては子供達に被害が及びかねず、お互いに悲劇を呼ぶような真似をするなと。」
いくらおまけがいるとは言え、使い魔に帰宅を拒否されるという、
魔王としても、飼い主としても問題のある状況であったが、
至極真っ当且つ、当然の理由であった。
カオスの自宅には彼が趣味で集めた、
虐待されたり身寄りのいない小さな子供達が保護されている。
飼い主の言いつけで、子供達の面倒を見ている犬達からすれば、
よそ者が来るのはまだしも、
養い子の安全が保証ができないことを受け入れられないだろう。

「実際、お前らだけもこの有様だしなー 
 メルセデスは何時も正しい。うちのわんこは実に優秀!」
「どうなの、それ。飼い主としてどうなの。」
事実、予想は的中し、見慣れない人間、
ポール達の姿に子獅子たちは怯え、大暴れした。
滅茶苦茶になった部屋を眺め、カオスは満足げに頷き、
鉄火ならずとも顔色を青くせざるを得ない発言を恥じることもなく、
シャアシャアと宣言した。
「と、言うわけで、
 暫く小っさいのが更にチョロチョロするけど気にしないでくれ!」
「するわ! 思いっきりするわ!!」
「えー」
即行で拒否されて、山羊足の魔術師は困ったように眉尻を下げた。
「これが上手くいったら、狐とカラスも預かる予定なんだけど。」
恐らく、そのカラスも三本足だったり、
狐の尻尾が9本有ったりするものと思われる。

当ギルドZampは仮にも魔物相手に戦う冒険者の集いであって、
霊獣の赤ちゃん保育所ではない。
うちの居候は一体どれだけやらかせば気が済むのか。
鉄火はバシバシと机を叩いて怒鳴った。
「お前、何をやった! そっちでは何をやった!」
怒り心頭の黒髪の剣士に問い詰められて、残念そうに魔術師は俯く。
「いや、こんなはずじゃなかったんだ。
 特にカラスとはちゃんと交渉の上での物々交換で、
 実際当人は納得してるんだが、宮司が納得しなくて…」
「だから何をやったんだ!」
「風切り羽をもらった。
 そしたら、暫く飛べなくなるのに対価がビー玉じゃ割に合わんと。
 まあ、そうだろうなあ。」
「何故、自分でもおかしいと思う取引をする!!」
どれだけ、体面では愁傷に遺憾の意を表示していても、
所詮ポーズでしかないことが発言で丸わかりである。

ぎゃあぎゃあと揉める二人を眺める紅玲の後ろで、また話し声がする。
「カラスも狐も飼ったことないなあ。
 餌って、鶏肉とかで良いんですかね?」
やはり後輩は、己やギルドの置かれた状況を理解していないらしい。
「だからポール君。そう言う問題じゃないんだって。」
先輩騎士に再び窘められるのを聞きながら、
紅玲はフフッとこみ上げてくる笑いを抑えた。
結局、カオスのやることに文句を言っても仕方はない。
同時に問題児なのは、師匠に限ったことではない。
「こんこんさんと、ぴっぴちゃんもきたら、楽しいねえ。」
「そうね。」
大人の話から分かるところだけを拾い、
無邪気に喜ぶ腕の中の小さい人に、表面だけのにこやかさで答え、
紅玲は己の周囲を取り巻く残念な環境に、口の端を釣り上げた。

 

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