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出来ない。

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出来ない。




初めはちょっとした違和感でも、
積み重なれば不信に変わっていく。
「こんにちはー!」
散歩の途中で知った顔をみつけ、声をかける。
相手はそれに気がつくと、ぎこちない笑顔を浮かべて、
足早に去った。
「? どうか、したのかな?」
少年は首を傾げ、その場はそのまま立ち去った。

現在最多の人口を抱える国家フォートディベルエの首都、
シュテルーブルに登録している個人ギルドは、
星の数ほどある。
その中の一つ、ZempことZekeZeroHampのギルド寮の、
玄関のドアが乱暴に開けられた。
取り付けられた鈴の悲鳴に、
何事かとメンバーが顔を上げる。
不機嫌も露わに現れたのは新米騎士、ポール・スミス。
年若い彼は感情を抑えることもせず、
荒々しく帰宅を告げた。

「ただいま戻りました!」
「なに、なんかあったの?」
早速、前ギルドからと付き合い長い、
アサシンのジョーカーが問いただし、
談話室にいた他の者も、
心配、興味本位、条件反射で藁藁と集まる。
「いや、別に大したことじゃないんですけどー」
大したことじゃないとする割に、
不満全開でポールは言った。
「そこの角で、“Rans solution”の、
 パドリックさんにあったんですよ。」
「ああ、ユッシの友達の。」
当ギルド所属白魔導士の友人の名前に、
ノエルが反応し、アルファが頷く。
「最近、よくパーティを一緒に組むよね。」
一口に冒険者と言っても、その職業は多岐にわたり、
特徴も異なる。
当然、狩り場に合わせて、
他ギルドのメンバーとも組むことがあり、
友達の友達でも、複数回に及べば顔見知りにもなる。
あの人がどうかしたのかと先を促され、
ポールは口をとがらせた。
「挨拶をしたら、嫌な顔して逃げられたんですよ。」
何故、挨拶しただけで、
そんな顔をされなければいけないのか。
新米の憤りを理解して、ジョーカーも顔をしかめた。
「え、なんで?」
「なんかRansと揉めるようなこと、したっけ?」
「どちらかと言えば、ジョカさんがいつもの如く、
 盛大に叩かれたっすかね。」
嫌われる理由を思いつけず、ノエルが祀を振り返り、
異色の剣士は肩をすくめた。
「つっても、冗談の類で終わってますし、
 パドさんとポール君が繋がるようなことは、
 記憶にありませんな。」
「パドリックさんって、あのアルケミストさんだよね?
 僕のイメージじゃ、別に普通だけどなあ?」
アルファも不思議そうに首を傾げたが、
理由など、ポールが知りたい。
「しかも、一度じゃないんですよ。
 先週も、その前なんです!」
今回限りであれば、まだ何かの間違いかと推測するが、
複数回に及ぶとなれば、確実に故意であろう。

一体、自分が何をしたというのか。
憤る新米に、ノエルも眉を寄せる。
「なんだろね、一体。」
そんな人には見えなかったと首を傾げた彼の横から、
祀が口を挟んだ。
「無視ってか、
 そのまま、素通りされたとかじゃないんすよね?」
「いえ、違うんです。」
気が付かなかったのではと思い直せるだけ、
ある意味、無視された方がよかったかもしれない。
だが、確かに相手はポールに気がつき、足を止めたのだ。
けれども。

「苦笑いで会釈して、
 さっさと逃げていくんです。」
「何なんだろうねえ、本当。」
「なんか、後ろぐらいことでもしてるんじゃないの。」
世の中には、挨拶一つまともにできない奴もいる。
自分には理解できないとノエルはため息をつき、
ジョーカーもろくでもないと鼻先で笑った。
「あれじゃないの、上位職至上主義で、
 騎士なんかに付き合ってられないとかじゃないの。」
上級職になれば偉いと言うことはないが、
それなりの財力と実力が必要になるだけあって、
時折、高慢なのがいるのだ。
最近、条件が緩和されたこともあって、
そのレベルにも達しない輩と、
下位職を見下す風潮が強くなってもいる。
Zampのメンバーでも、
まだ、戦士系中級職ナイトのポールは、
相手をするに及ばないと判断されたのだろうか。
特に技術面に不安の残る新米には、
見下されるだけの心当たりがあったようで、
何も言わずに唇を噛みしめた。

不穏な空気に、アルファが眉を下げる。
「えー 上位のプロフェッサーなら兎も角、
 アルケミさんで、それはなくない?」
アルケミストは技術士の中級職で、
レベルとしてはナイトと変わらない。
立場としては同じはずだ。
反論を受け、ジョーカーが頬を膨らませる。
「じゃあ、何だって言うのよー」
「それは僕も、分かんないけど・・・」
何にしても、気分のいいことではない。
なんと言うべきか困ったアルファが祀の顔を仰ぐ。
「どう思う、マツリちゃん?」
意見を求められ、祀はしばらく黙っていたが、
確信を得たように深く頷き、ポールに指示を出した。
「ポール君、次に会った時にゃ、挨拶だけじゃなく名前、
 余裕があったらギルド名も言ってみなせえ。」
「へ? 何でですか?」
嫌われている相手にそんな事をしてなんになるのか。
意図を飲み込めず、目を丸くした新米に、
兎も角やってみろと言う。
納得いかないままポールは頷き、
取りあえず、その場は解散となった。

数日後。
偶然か、あの日と同じメンバーが、
同じように談話室でくつろいでいると、
やはりポールが帰ってきた。
「ただいま、戻りました。」
不可解そうな新米の顔に、
ジョーカーは出迎えの挨拶を質問に変えた。
「おかえ・・・なんかあったの?」
「パドリックさんにあったんです。」
即座に答えたポールに憤りはない。
ただ、何もなかったわけではないらしく、
そのまま、彼は祀の元に向かった。
「マツリさん、どう言うことなんですか?」
「人に物を尋ねる前に、状況を説明しなさいや。」
呆れ顔で諭されて、ポールは興奮気味に経過を語った。
「言われたとおりにしたら、
 パトリックさんが笑顔になって、
 そのまま立ち話になったばかりか、
 プレゼントまで貰ったんです!」
話が狩り場についてに流れ、アドバイスばかりか、
回復剤までくれたらしい。
この変わり様は一体なんなのか。
全身で疑問符を浮かべる新米に、したり顔で祀は頷いた。
「やはりか。」
「だから、何がやっぱりなんです? 
 説明してくださいよ!」
納得いかないのはポールだけではない。
「何がわかったの、マツリちゃん?」
「僕らにもわかるように説明してよー」
ポールと同じ気持ちのノエル、
アルファに急かされた祀は、苦渋を浮かべて首を振った。
「恐らく、誰だか分からなかったんでしょう。」
そのまま、はぁとため息をつく。

「・・・つまり、忘れられてたってこと?」
若干腑に落ちない様子でジョーカーが聞き直し、
アルファが大きな声をだす。
「えー でも、結構な回数、一緒に狩り行ってるよ?」
覚えていないはずがないと反論され、
祀は更に難しい顔をした。
「ま、顔ぐらいは覚えてるかもしれませんな。
 けど、名前もでてくるとは限らねえんすよ。」
「オレ、そんなに印象薄いですかね?」
何となく不安になったポールが、ノエルの意見を仰ぎ、
先輩騎士はうーんと唸った。
「元気もいいし、新米だから事故らないか気を配るし、
 どちらかと言えば、覚えられる方だと思うけどな。」
「そういう理屈じゃないんすよ。」
賛同を得られていないのを知って尚、
祀は確信を込めて主張する。
「どれだけ、失礼だと分かっても、
 どれだけ、本人が気をつけようと思っても、
 他人の顔と名前が覚えられないもんが、
 この世にはいるんです。」

妙に実感の隠ったその台詞に不穏なものを感じ、
その場にいた全員の視線が異色の剣士に集まった。
「もしかして、マツリちゃん・・・」
「ええ、あたしがそうだから、よく分かりますわ。」
ノエルの推測を肯定し、祀はきっぱりと言い切った。
余りにすがすがしく言い切るので、
顔をひきつらせつつ、ジョーカーがフォローに入る。
「で、でも、ある程度仲良くなれば覚えるでしょ?」
「確かに相手によっちゃあ、
 すぐ覚えられることもありますが、
 覚えられない相手は、
 例えギルメンであっても覚えられません。」
フォローどころか、状況が悪化した。

同じギルドのメンバーを覚えられないなど、
あるのだろうか。
信じられずにポールが尋ねる。
「でも、オレのことは覚えてますよね?」
「・・・ポール君はね。」
答えるまで、若干の間があった。

ノエルとジョーカーが飛び上がり、
大慌てで問いただす。
「ええ?! じゃあ俺、俺は?」
「ボクは大丈夫だよね、マツリちゃん!?」
「ノエルさんはそのうざい長髪を切らなきゃ、
 ジョカさんはお面を外さなきゃ、
 滅多なことはないと思いますが。」  
「髪切ったら駄目なのかよ!!」
「ボクの存在意義って仮面だけなの!?」
祀がギルドに所属してからの付き合いにも関わらず、
曖昧な回答にノエルが悲鳴を上げ、
そこまで行かずとも気の置けない仲を、
疑っていなかったジョーカーも叫ぶ。
そしてアルファが泣き崩れた。
「覚えてないんだ! 
 ここ数ヶ月に加入した僕のことなんか、
 マツリちゃんは覚えてないんだ!」
「・・・・・・。」
無言で目をそらした祀を、ノエルが怒鳴る。
「そこはそんなことないって、
 言ってあげなよ、この際嘘でも!」
「そんなはっきり嘘だって言ったら、
 意味ないんじゃないすかね。」
開き直りも甚だしく飄々と言う祀に、
ポールも意識が遠くなるのを感じた。

人には得手不得手がある以上、ある程度は仕方がないが、
それでも限度という物がある。

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津路志士朗
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