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真似る。

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真似る。



現在最高の人口を抱える国家フォートディベルエの首都、
シュテルーブルに星の数ほど合る個人ギルドの一つ、
ZempことZekeZeroHampには山羊足の魔術師こと、
魔王の一人、カオス・シン・ゴートレッグが、
娘のキィと共に居候している。
キィは2歳足らずの子供にしては珍しく、人見知りをしない。
にこにこ嬉しそうに笑いながら甘えてくる、
よちよち歩きのちみっさいのは可愛い。
ギルドメンバー総出、
普段、子供に興味を示さない連中までもが、
暇であれば相手をしているせいか、
見かけの割に口はたいそう達者になり、
幼児とは思えない知識を蓄え始めた。

「なあ、お前等も口の利き方に少しは気を配ってくれよ。」
いつも通り、ワイワイ騒いでいるところへやってきた、
カオスの苦情に、ポール達は顔を見合わせた。
「え? なんか変なこと言ってました?」
特段、乱暴な言葉を使っていた訳でもなく、
首を傾げたポールに、カオスは溜息をついた。
「まあ、癖って言うのは自覚がないもんだし、
 流行言葉に文句を言っても詮無きことだけどな。」
うちのギルドの面々は口汚い荒くれ者ではないが、
けしてお上品ではない。
似たような歳の者が集まっていることも相まって、
若者言葉と呼ばれ、年輩者には受けの悪い言い回しも、
多用される。
中には耳障りなものもあるだろう。
言われたことは理解できたが、
それを言うならカオスだって似たようなものだ。
わざわざ文句をいってくるからには、
なにかしら、理由があるに違いない。

「なんか、あったの?」
「あったっていうか、今更と言うか。」
ストレートなアルファの問いに、カオスはバリバリと頭を掻いた。
「お前等の言葉使いはきいこに直結してるだろ。
 最近、本当に酷いんだよ。」
言われてみれば、確かに今更のことではある。
子は周囲の大人を見て育つ。
そしてキィはぱやぱやの髪の毛しか生えていない、
ちみっこのくせに、非常に記憶力がよいのだ。
良いことも悪いことも、ちゃんと覚えて真似をする。
お風呂上がりにいつまでも裸でいるのを注意したら、
「でも、ひげちゃんやゆっちんだって、
 ずっと、はだかんぼだよー」と反論するようになり、
該当者がこっぴどく怒られたのも記憶に新しい。

「まあ、確かにそうかもしれませんね。」
「特にクレイさんの影響が大きく出てるよね。」
納得したポールが深く頷き、ジョーカーも口端を歪めた。
「こないだ、部屋に入ってきて、
 なんか言ってるのに返事してたら、
 『これだから、じょかしゃんは!』って言われたよ。
 その言い方がクレイさんそっくりなの。」
挙がった実例に、即行でつっこみが入る。
「その前に、きいたんに『これだから』って、
 言われるようなことしないでよ。」
「これだから、ジョカさんは。」
結局、幼児にまで言われるようなことをしているのだ。
アルファとポールに白眼を向けられ、
ジョーカーは「なにさー」と頬を膨らませた。
当然、無視してカオスは話を進める。

「まあ、紅玲や鉄のせいで、
 口調がきつくなってるのもあるけどな。
 俺も『おとうたん、うるせえぞ!』って言われたし。」
ギルドの環境上よく聞く言葉ではあるが、
親に向かって言う台詞ではない。
「それでどうしたんですか?」
「ん? 普通にお説教よ。」
顔を顰めたポールを、
問題はそこではないとカオスは片手で振り払う。
「そういうのは、まだ、良いんだよ。 
 乱暴だって注意するだけだからな。
 けど、こないだなんか、
 『いやー 困っちゃうなー 
  きいたんは、かわいいからなー』とか言ってさ。」
「あー ジョカ君、そっくりだね。」
淡々とアルファが感想を述べ、
ジョーカーに向けられた視線が一層冷たいものになる。

キィは普段から可愛い可愛いと褒められており、
当然、当人もそのように信じている。
しかし、自分で可愛いとか言っちゃうのは如何なものか。
さりとて、それが誤っているわけでもなければ、
乱暴な言葉も使用していないだけに、
駄目な理由を説明し辛い。
心底弱り果てた様子で、魔王様は肩を落とした。
「口癖って言うのは写るもんだから、
 有る程度は仕方ねえけど、
 『きいたんから、じゅーちゅをとったら、
  なんにも、のこんないよー』とか、
 『われわれのぎょうかいでは、ごほおびです!』は、
 流石にまずいと思うんだ。」
「それね。」
「確かにやばいですね。」
元ネタが容易に思い出せる悪例だけに、
改善の必要性が魂に突き刺さる。
ジョーカーとポールも顔を青ざめさせた。

「覚えたそばから忘れるのもあるし、
 神経質になっても仕方ないとも思うんだけどな。」
珍しく元気のないカオスを慰める意味合いもあってか、
アルファが無責任に明るく言う。
「大丈夫だよ! 
 クルトに相談すれば、きっと何とかしてくれるよ!」
確かに彼の兄貴のような弟分は、
ギルドの要の三柱の一人とされ、
非常に頼れるナイスガイだが、
ここまで頼りっぱなしも情けない。
今までとは別の意味で、
雰囲気が微妙になったところで、
話題の小さい人が二階からちみちみ降りてきた。

「おとうたんたち、なに、ちてんだ?」
大好きなぬいぐるみを抱え、問いてくるキィを抱き上げ、
アルファが優しく説明する。
「ちょっとね、最近、お兄ちゃんたち全員、
 喋り方が悪いから、困ったねって話してたんだよ。」
「ちょっかあ。」
困り事と聞いて、キィは真面目な顔をしたが、
直ぐににこにこ笑って言った。
「でも、だいじょうぶだよー
 きっと、おとうたんがなんとかしてくれるよー」
「うっ、」
先ほど己が吐いた言葉がそのまま返ってきたのに、
アルファが固まり、周囲はひきつった笑顔を浮かべた。
「ほら、つまり、そういうことなんだよ。」
大げさに指差して、カオスは問題の大きさを主張したが、
幼児の言葉はそれだけでは終わらなかった。
「ただし、そのだいきんは、
 きちゃまのたまちいだけどな!」

当人としては恐ろしげに言い放ち、何が面白いのか、
ププーとキィは自分の言葉に受けて吹き出した。
無邪気に笑う小さい人から、
ポールはゆっくりと視線を動かす。
「・・・これは、カオスさんのですよね。」
「まあな。」
娘を除いた全員に能面の如し無表情な顔を向けられて、
カオスは堂々と己が非を認めた。
何と言っても、子供が一番見るのは親の背中である。

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津路志士朗
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