忍者ブログ

VN.

HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

砂漠の人狼は諦める。

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

砂漠の人狼は諦める。



遙か昔、神々の住まう地、アースガルドと、
人間の住む地、ミッドガルドは遠く離れてはいても、
元々地続きだった。
しかし、神々の黄昏と呼ばれる、
力を持つもの同士の大決戦において、
か弱きものが巻き込まれるのを憂いた知の巨人、
ミーミルの英知と、
神の父オーディンがその身と差し替えに手に入れた、
ルーンの神秘の力によって、二つに分けられたという。

神々の大地と隔てられた人は魔力を失い、
神を忘れ、独自の文化を築いた。
世界の独占ともいえる人の繁栄は、
いくつかの問題を抱えつつも、永久に続くかに見え、
人と神との邂逅は夢物語であったが、
永久に続くものなど存在しない。
ラグナロクを引き起こした悪神ロキが、
再びもたらした火種によって、
アースガルドとミッドガッドの壁は少しずつ壊れていき、
最後には音を立てて崩れさった。
否応なくそこに住むもの達は、
争い、時には共存の道をはかりながら、
生きていくことになったそうだ。

壁の崩壊から一千年以上たった今、
アースガルドとミッドガルドの合わさった新しい大地は、
しばしば、その形から竜になぞらえられる。
人の住まう地は左翼に集中し、
世界人口の5割が所属するというフォートディベルエ、
その東北部に有り、失われた科学文明を元に、
独自の国家を築いたソルダットランド、
この2国をのぞけば、国と呼べるものは少ない。
ベルエの西部にあたる、
グレートシーランドは人より岩山が多く、
国とは名ばかりの有り様だし、
その他に幾つかある集落も町、村の域をでていない。
遠方の為、我が目で見たわけではないが、
竜の胸元にあるという古代都市パイロン、
頭部にあたる島国ヤハンも似たようなものであろう。
言わば、人と魔物の抗争は、
竜の掌ならぬ翼の上で転がされているわけだ。

「要は手羽先の取り合いだな!」
そう称して、
激しいブーイングをかった奴がいるのは差し置いても、
両翼でもなければ、尻尾も胴体も含まれないのは事実だ。
しかし、大きかろうと小さかろうと、
当事者にとって、頭の痛い問題であるのは変わりない。
ほとんどのアースガルド従来の住民にとって、
敵対者である人間との進退を決める話し合いは、
どの種族でも最重要事項の一つとされているはずだ。
そんな重要な会議が行われる会議場が、
現在未決定なのは、如何なものか。

今思えば銀悪魔の長、銀翅の魔杖ことリカルドの居城は、
竜の翼の中心にありながら、
ベルエの首都シュテルーブルともほどよく離れた、
非常に良い立地だった。
彼らの兄弟分に当たる黒悪魔の長、
黒槍マーケルのは、
木々の茂る深い森ベネッセの奥にあるとはいえ、
シュテルーブルに近すぎ、
各魔物の長が集まるには人間の警戒心を刺激しすぎる。
そこから北東にあたる森林、
双子狼のハティ、スコール達の住処イアールンヴィズは、
雪が多く、寒波に耐えかねるし、
北端にあたる白雷ジャルが支配する山々は険しく、
翼を持つ者以外がたどり着くのは非常に難しい。
鋼鉄の死神ジィゾが身を置く、
古代の廃墟街は古すぎて安全性に欠け、
造られた者ヌルの住処、研究所跡地イデルにいたっては、
無尽蔵に沸いた彼の分身達が、
見境なしに襲いかかってきて始末に悪い。
死者の皇帝セイロンの墓場は洞窟であるので、
暗く、狭いと人の集まるような場所ではないし、
金色の撃墜王ルーディガーのテリトリーは、
纏めて特別危険地区に認定され、迂闊な動きはできない。
他も立地が悪いの何のと、未だに決まらない。
因みに我が人狼族の村は海を越えねばならないのと、
晩春の砂嵐と抜け毛が酷いと言う理由で却下された。

いくら条件が付り会わずとも、
多少ならず、お互い妥協しあって、
早急に新しい場所を確保するべきだろうに、
集会所が修復されるまで、
先送りされそうな緩慢な流れに魔術師がキレた。
彼はさほど気の長い方ではない。
銀悪魔の集落ほど近くに結界を張り、
人払いをした上で強制的に集会を再開するという、
強硬手段にでるまで、かかった時間は長くなかった。
まあ、そこまではよかったが。

「そんな訳で、
 本日の会議は外でやることになりました。」
「他の場所、なかったのか。」
「青空会議なんて、オツでいいんじゃないの。」
『外だと、何故いけないのか。』
「今はいいですけどね。
 風が吹いて砂埃が舞ったり、
 雨が降ったら、何かと面倒でしょう。」
「今だって、日当たりがよすぎて老体に厳しいぞ。
 儂ゃ、日光は苦手なんじゃ。」
「我慢しろよ、ご老体。
 吸血鬼である俺らだってキツいんだ。」
「リキッドさんは今日はきてないんですか?」
「この際だから、大がかりに改装工事するって、
 現場指揮に立つのに、忙しいらしい。」

会議が開会しても、各自好き勝手に話し、進まない。
何せ、結界が張られたのは春風舞う草原。
目の前に広がる涼やかな景色と、開放的な青空の下では、
小難しい話し合いなど、する気にならないのも仕方ない。
そして何よりも。
不愉快極まりないと竜王が言う。
「場所はともかく、何故、チビどもをつれてきた。」
足下に転がるカオスの養い子達が、
縦横無尽に歩き回り、騒ぎ、泣き喚くなかで、
一体、何の会議が出来るだろう。

山羊足の魔術師が愛娘ならず、
養い手の居ない人の子を集め、
面倒をみているのは有名な話だが、
魔王会議につれてくる必要はないはずだ。
至極当然の問いに、カオスが答える。
「どうせ結界を張るなら、
 ついでに気分転換&運動に、
 解放してもいいかと思って。」
「それなら、
 会議が終わった後に連れてくればいいだろう。」
「更にどうせなら、
 うちの犬どもの休日にしようかと思って。
 あいつら、毎日ガキの面倒みてるからなー
 少しでも長く、息抜きさせな。」
言葉だけならば、
使い魔を思いやる主に聞こえなくもないが、
この場にいる者は誰一人として、そうは思うまい。
結局、いつだって、
竜王の指摘も怒りも、当然のものなのだ。

「だったら、別の日に機会と場を設けるべきだろう!
 これではまず、本来の目的が進まないだろうが!」
いつも通り、ルーディガーの怒声が響く。
だが、それを意に介さないのが魔術師カオスという男だ。
自ら会議を強行しておいて、この有様。
やる気があるのだか、無いのだか、さっぱり判らない。
怒る竜王に負けじと声を張り上げた。
「なにを言うか!
 これだけ人手があるのに、
 ちみこどもの面倒をみさせずして、なんとする!」

ああ、これは駄目だ。

「カオスさん、きいたんがこけて泥まみれに!」
「こっちの子、泣いてるけど、どうしたらいいんだ?!」
「駄目だ、これは食べ物じゃない! 食うな!!」
そこかしこで、子供たちが好き勝手に暴れまわり、
大人の悲鳴と困惑の声があがる。
公共の活動に私情を持ち込み、混沌を巻き起こし、
詫びることなく主張を展開する神経は、
図太いと表現して、まだ足らない。
大体、各種族の王に、
会議序でに子供の面倒を見させようなど、
一体誰が考える?
山羊足の魔術師、カオス・シン・ゴートレッグ。
やはり、ただ者ではない。
「おいアセナ、尻尾食われてるぞ!」
彼の前では、誰かの忠告も既に空しい。

初夏の風が速やかに吹き渡り、
空は限りなく青い。
鳥たちは声高くさえずり、
獣たちは忙しく餌を漁っている。
生き物が活動するに最も良い季節、
夏が近いというのに、
心も晴れ晴れとはいかないものだ。

拍手[0回]

PR

コメント

プロフィール

HN:
津路志士朗
性別:
非公開

忍者カウンター