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大きい、大きい。

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大きい、大きい。


 



 本日は多種族協定会議、通称魔王会議の開会日だ。
最近の会議はやたらと長引き、一日では終わらない。

この分では今日も泊まりかと考えながら、
中央森林の石猿、ガナス・ウタラは休憩時間、
領主リカルドのが丹誠込めた庭園を散歩していた。
彼の故郷も温暖な気候が生んだ緑豊かな土地ではあるが、
下手に湿気が多く暖かいだけに、
気を抜くと直ぐに草ぼうぼうの荒れ地になってしまう。
それに比べて、この庭の整えられていること。
剪定が行き届いた木々、枯れ葉の取り除かれた花々。
見事としか言いようがない。
しかし、雑草一本生える隙の無さは不自然でもあり、
返って美しさを損なわせているのではなかろうか。
尤も、美について語る技量なんぞ、
持ち合わせちゃいねえけどよ等と独りごちて、
石猿は耳を動かした。
近いところで、誰かが泣いている声がする。

魔王会議の出席者に、
人前で涙を流すような可愛げのあるものはいない。
領主リカルドに所属する民らは、
一部の小間使いを除いて、城より離れ、
会議の邪魔をしないように勤めている。
とすれば、あいつかと、ウタラの予想をはずれず、
旧友カオスの愛娘、キィがベンチに座り、
ベソをかいており、その周りをぬいぐるみのルーが、
心配そうにぐるぐる回っている。
今日は家で留守番していると聞いたが、
幼児は神出鬼没の父親と同じく、移動範囲が広い。
保護者の目を盗んで、
勝手にやってきてしまったのだろう。

「どうした、ちびすけ。何、泣いてるんだ。」
「きいたん、ちびすけじゃないよー
 たべこだよー」
片手をあげて声をかけたウタラに、
キィは泣きながらも反発した。
相変わらず”たべこ”の意味は理解していないらしい。
言葉の通り、食べて寝るだけが関の山な、
小さい幼児は鼻を啜って、目を擦った。
そのほっぺたをルーがペロペロ舐めて慰める。
いったい、何があったのか。
「誰かに、いじめられたのか?」
まさか、そんな命知らずはおるまいとは思ったのだが、
案の定、お守りのぬいぐるみが不服そうに唸った。
「そんなの、ボクが許さない!」
「そうかい。」
最近カオスが魔術師と呼ばれるその能力をフルに使い、
改良を加えたらしく、
ルーの体は以前より精巧な作りになっており、
傍目には生身の子犬と見分けが付かない。
さりとて体長30cmの彼が息巻いても、
どれだけ周囲に影響を及ぼすかは微妙なところだ。
中身が本来の力を発揮すれば、あらがえる者は少ないが、
今の器にそんな暴挙を許す性能はあるまい。
ふかふかでむくむくのプンスカ怒るこの毛玉を、
うちの孫が見たら、欲しがって仕方ないだろうなと、
ぼんやり考える。

何にしろ、泣いている子供を放置しておく理由はない。
「それじゃあ、なんで泣いてるんだよ。」
おじちゃんに相談して見ろと隣に座れば、
キィは泣くのをやめて、一生懸命説明した。
「きいたんも、まんまるぐるぐる、やりたかったんだよ。
 でも、むずかしいし、あっちいからだめって、
 いわれちゃったんだよ。」
「・・・そりゃ、残念だったな。」
どうやら、何か大人の真似をしたがって、
断られたようだ。
「でも、熱いんじゃ、やめた方がいいんじゃないか?」
「きいたんは、小さいから背が届かないんだよ。
 火の近くで、ぐらぐらする台は使えないよ。」
本当に駄目なことか、単に面倒だったのか。
許可が下りなかった理由は兎も角、判る範囲を拾い、
保育者の意向を支持すれば、
補足するようにルーが吠えた。 
「火は危ないんだよ! みんな燃えてしまうんだよ!」
たしたしと前足で地面を叩いて、子犬は主張する。
「それにきいたんはつまみ食いが多いんだよ!
 できる前に、なくなってしまうよ!」
今ので大体、予想が付いた。
確かに火は危ない。それに調理関係であれば、
恐らく包丁など刃物も周囲にあるとみた。
これは確実に止めた方がいい。

「ルーがいうとおり、火は危ないからな。
 火傷は後々まで残っし。ほら、見てみろ。」
涙で汚れた顔を拭いてやり、
腕を捲って古傷を見せてやる。
「おじちゃんが若いときに、
 火を噴くお化けと喧嘩したときの傷だ。
 でこぼこになってるだろ。」
回復魔法でも消えなかった戦傷に、
キィは不安そうな顔になる。
「いたいの?」
「ああ、火傷ってんのは、もの凄く痛ぇぞ。
 いつまでもジクジクひりひりして、治った今でも、
 動かすとちょっと突っ張る感じがするしな。」
脅かされて幼児はすっかり萎縮してしまった。
しょんぼりと肩を落とし、
小さな声で「きいたん、いたいのはイヤだよ。」と呟く。
ここらが頃合いと、諦めるよう促す。
「そうだろ。だから、我慢しな。」
「うん・・・」
酷く残念そうにだが、キィはコクリと頷いた。
実際に彼女が怪我をすれば、
父親のカオスがどんな手を使っても完治させるだろうが、
こんな小さな幼児が痛い思いをするなど、
ないに越したことはない。

気落ちする小さい人をルーがしっぽを振りながら慰める。
「大丈夫だよ、もっと、大きくなったら、
 きっとやらせて貰えるよ。」
そんな言葉が大した気休めになるはずもなく、
キィは一人前にため息を付いた。
「きいたん、はやくおおきく、なりたいよー」
何時になったら、大きくなれるのだろう。
幼児は心底困り果てたように言うが、
その日が来ないことをウタラは知っている。
そのうち、大きくなるなどと適当な慰めを言うには、
石猿は魔術師との付き合いが長すぎた。
幾ら待っても成長することのないキィが哀れで、
カクリと独特の調子で左肩をすくめる。
何か、気晴らしになるようなことが出来ればよいのだが。

「なあ、きいこ。お前、大きくなりたいのか?」
出来ることを考えながら尋ねれば、キィは大きく頷いた。
「うん。おおきくなったら、まんまるぐるぐる、
 やらせてもらえるよー」
「そうかい。そりゃ、そんなに面白そうなのか?」
「そうだよー こむぎこ、とかしたのいれて、
 きゃべつと、あげだまいれて、
 くしでぐるぐるってすると、まんまるになるんだよー」
「あーなあ、何となく判った。」
多分、島国ヤハンの食い物だ。
以前、カオスが土産に持ってきたことがある。
「ありゃ、なんて名前だったかな?
 あれだろ、タコ焼きだろ。」
ネギやソース、鰹節の掛かった奴だ。
思い出した名前に幼児は頷いたが、こうも言った。
「そうだよー でも、タコははいってないんだよー」
「・・・そうか、タコは入っていないのか。」
タコが入っていないのに、タコ焼きとはこれ如何に。
何となく、不可解な気持ちになったウタラを余所に、
小さい者等は口々に言う。
「あちしおにいちゃんはタコ、きらいなんだよー」
「きいたんもお父さんも、タコは嫌いだよ!」
「そうなのかい。」
代わりに餅やソーセージが入っていて、
味は良いらしい。
しっくりこないのは如何ともしがたいが、
ひとまず論点はそこではない。

「おじちゃんは、タコ焼きは何ともできないんだが、
 きいこを大きくはしてやれるぞ。」
密林の破壊神という二つ名を持ち、
世界三代チートとも呼ばれる魔王の一柱であるウタラは、
単純な攻撃力だけでなく、多彩な妖術も操る。
山羊足の魔術師と呼ばれるカオスほどではなくても、
雲を呼んで空を飛び、体を鋼に変え、
切り落とされた首を生やすことも可能だ。
幼児の見た目を変えるぐらい、たやすいことであった。
石猿の提案に幼児と子犬は目を見開く。
「きいたん、おおきくなれんの?」
「嘘だあ!」
キィが素直に受け入れた反面、
ルーは疑り深く鼻にしわを寄せて否定した。
そんなの、出来るわけないと騒ぐぬいぐるみに、
ウタラは胸を張って答える。
「本当だぞ。でも、その代わり、タコ焼きは諦めろよ。」
「あい!」
手段と目的がひっくり返ったが、
キィは大喜びで返事をし、にわかには信じ難い様子で、
ルーはきょろきょろウタラとキィの顔を見比べる。
思いも寄らぬ展開に、文句の一つも言うかと思われたが、
幼児が一番大事な彼はキィが喜ぶのを見て、
悪い話ではないと判断したようだ。
パサパサ大きくとしっぽを振り始めた。

「よし、じゃあ、おまじないをかけるからな。
 ちちんぷいぷいの、ぷい!」
小さい人にも分かりやすいよう適当な呪文を唱え、
その裏で魔力を練る。
中身が変わらない以上、
年齢ばかり引き上げても不自然なだけだ。
5・6歳程度の姿になるよう調整し、
転身変化の術を掛ける。
キィを中心にボンと煙が上がるが、
幼児の姿は変わっていなかった。
「あれ?」
何か間違ったかと、もう一度術を掛けて見るも、
結果は同じであった。
「おじちゃん、おおきくならないよ?」
「おかっしいなあ。ちょっと待てな。」
きょとんとしているキィに手をかざし、
魔力の流れを確認してみる。
「んー こりゃ、多分、ブロックが掛かってるな。」
一見、ただの人間の子供に見えても、
やはり山羊足の魔術師カオスの娘ということか。
詳しくは判らないがキィの体が妖術に反発している。
「きいたん、おおきくなれないの?」
「まあ、待て待て。」
あからさまにがっかりする幼児を片手で制し、
魔力の流れを調べつつ、ウタラは少し考えた。

「これならどうだ? ちちんぷいぷいのぷい。」
今度は転身巨大化の術をかける。
たちまち、キィの体はムクムクと膨れ、
見た目はそのままに身長5mの巨人と化した。
「おおきくなった! きいたん、おおきくなったよ!」
本来望んだ”大きい”とは意味が違うが、
巨大化した手足を振り回してキィははしゃいだ。
幼児らしく無分別なだけに危険極まりない。
しかし、掛けた術は短時間しか持たず、
さした被害はでないだろうと、
周囲に掛かる迷惑をウタラは黙認した。

「きいたん、おねえちゃんに、みせてくるよ!」
「おう、周りにぶつからないよう、気をつけろよ。」
大喜びの幼児はドスドス足音をたてながら去っていき、
良いことをしたとウタラも満足する。
残された子犬は大きく口を開けていたが、
満面の期待を込めたキラキラした瞳をウタラを向けた。
「・・・ルーも、大きくなりたいのか?」
「うん!!」
元気のいい返事に石猿は首を傾げた。
どんなに大きくても所詮幼児で、とろくさいキィと違い、
ルーは俊敏だ。
これを巨大化させても良いものだろうか。
ぱっさぱっさ揺れるしっぽを眺め、
動物に目がない孫がいなくて良かったと再び考える。
絶対、見たら欲しがるな。
しかし、カオスもキィも手放すはずがなければ、
ルー自身が全力で嫌がるだろう。
それで孫が納得すればいいのだが、
あれは全く人の話を聞かない。
無理強いして、ルーを怒らせれば、
ある意味カオスと喧嘩をするより質が悪いが、
このぬいぐるみはどれぐらい、
中身の出力に耐えうるのか。
うーんと首を傾げたウタラのところに、
ドスドスと、大きな足音が戻ってきた。

「おじちゃん、」
心底、困った様子のキィが言う。
「これじゃあ、きいたん、おうちにはいれなかったよ。」
「そうかい。」
まあ、そうだろうなと口にはしない。
簡単に予想が出来た問題発生で、
幼児の気晴らしはあっさり終了した。
密林の破壊神ガナス・ウタラは多彩な妖術を操るが、
あまり結果は考慮しないのだ。

 

 

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