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ウタラさんが来た。

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ウタラさんが来た。



今日は多種族協定会議、通称魔王会議の日だ。
珍しく会議場に一足早く到着し、
談話室でくつろいでいたジャルのところに、
オリバーがやってきた。
「ウタラさんが来てるらしいですよ。」
「誰だ?」
「アーディティア・ガナス・ウタラ・
 ヴァナラ・アンジャネーヤさん。」
いや、そう言うことではない。
難しい顔のオリバーを見ながら、
ジャルは食べかけの菓子を飲み込んだ。

「そうじゃなくて、何処の誰なんだよ?」
「アセナと同じ中東の、石猿族の長老だよ。
 西の金竜、東の黒犬、
 中央の白猿って聞いたことない?」
「ないな。」
「だろうね。今、僕が作ったからね。」
顔に似合わない素っ頓狂な台詞に、
ジャルはがくっと肩を落とした。
この年若い吸血鬼は、時折真顔で冗談を言う。
幼年期、
あの山羊足の魔術師に養育されていたというから、
少なからず影響を受けているのだろう。
淡い金色の髪に洗練された気品を宿す青い瞳、
如何にも高位吸血鬼らしい白い肌。
黙っていれば勝手に周囲がかしずく容姿をした友人の、
らしからぬ厄介な癖を軽く振り払い、
ジャルは先を促した。
「それで?」
「まあ、今言ったとおり、
 カオスさんやルーディ閣下と並ぶ中央の実力者だね。」
「なるほど。」
言われてみれば、カオスには魔術師以外に、
黒犬という呼び名もあった。
要は桁外れの化け物ということかと、頭の隅で考える。
同時に、自分には関係がないとも思う。
砂漠の人狼と同じく、海を越えた先に属するのであれば、
北西に住む自分と関わることはあるまい。
興味をなくせば、反応も単調になるが、
そんなジャルにオリバーは呆れて溜息をついた。
「ジャルってさ、時々、驚くほど物を知らないよね。」
「悪かったな。」
生来の怠惰に任せて自領に引きこもっていたため、
世情に疎い自覚はある。
休眠していた時期が異常に長いオリバーも、
似たような状況のはずだが、
こちらはきちんと情報収集をしているらしい。

「油断してるとヌルに負けるよ。」
横目で睨まれて、反論する。
「それは流石にないだろ。」
「わかんないよ。
 最近、ジィゾがこまめに面倒みてるらしいからね。」
意外な情報にジャルは眠そうな琥珀の目を見開いた。
「そりゃ、なんでまた。」
お互い同じ人間の国で生まれた者同士、
仲がいいと思いきや、ヌルは兎も角、
ジィゾはホムンクルスに興味を持っていないと、
思っていたのだが。
「あいつ、データの収集と解読がどうとかで、
 忙しいんじゃなかったのか。」
ジィゾは唯一無比の最新型ロボットであるだけに、
群れも仲間も持たない。
故に自身の安全を守る以外にするべき仕事もないが、
稼動に古代のメモリーファイルと、
プログラムを使っているため、未解読のデータが多く、
一度整理しなければならないらしい。
だから、それなりに忙しいと言っていたのに、
人型機械は奇妙なことを始めたものだ。

「正にそれが原因だってさ。」
「何が?」
「なんか、解読出来たデータに、
 観察と養育に関するプログラムが、
 入ってたんだって。」
ジィゾの人格を変えるようなものではなかったそうだが、
これを機会に、
ヌルの相手をしてみることにしたのだという。
「ある種の気まぐれだって言ってたよ。」
そういって、オリバーは肩をすくめた。
「ロボットに気まぐれとかあるのか?」
「しらない。ジィゾがそうだっていうなら、
 そうなんじゃない?」
僕に聞くなといわんばかりの返事に、
確かにオリバーに正否はわかるまいと考え、
ジャルは話題を変えた。

「それでその、世界三大チートがどうしたんだよ。」
「三大チートって・・・まあ、間違ってないけど。」
金色の撃墜王ハンス・ルーディガー・ヴァイスフルーも、
山羊足の魔術師カオス・シン・ゴートレッグも、
常識では考えられない実力と遍歴の持ち主であり、
彼らと並べても、ウタラの能力は見劣りしない。
ジャルの言葉はおかしいとは言えず、
続いた質問にも、オリバーは頷いた。
「どの道、山羊足ほどじゃないんだろ?」
「うん、でも、閣下ほど攻撃特化って訳でもないね。」
カオスの特異なところはその万能性にあり、
反面、ルーディガーは、
戦場における影響力こそ凄まじいが、
所持スキルにしても、一本筋な性格的にも、
実戦以外ではさほど脅威ではないともいえる。
そしてウタラは、その戦闘力もさることながら、
妖術を用いた搦め手も扱う。
「じゃあ、強さはカオスの下、閣下の上って感じか。」
「いや、それはどうかな。
 持久戦に持ち込まれたら、
 閣下に勝てる人っていないし。
 カオスさんだって難しいだろうしね。」
あのひと、体力ないもんと、
オリバーは小さな声でつぶやいた。
魔術師が無限に等しい魔力を駆使するために、
意外と大きな代償を支払っているらしいという噂は、
ジャルの耳にも入っている。
長期戦を行うには反動が厳しすぎるのだろう。
とてもそうとは思えない、
カオスのいい加減で不敵な態度を思い出し、
ジャルは鼻先で笑った。

「どちらにしても、雲の上の話だな。」
「そうだね。今、あのひと達に対抗できるのって、
 後はティーとルーぐらいだしね。」
挙がった名前に、ジャルは再び鼻白んだ。
カオスと同じ森に住む双子の仔狼、ハティとスコールは、
古代から伝わる神話に属する魔狼の癖して、
今ではすっかりカオスの、
正確にはその娘のペットと化している。
元々、彼らは子供だから仕方がないが、
世界を滅ぼす力を持った魔物である自覚は皆無だ。

なんにしろ、世界の頂点に立つ彼らが、
強硬な態度をとれば、自分達に対抗手段は少なかろう。
引いては中東の魔物が顔を出した理由如何によっては、
面倒なことになるかもしれない。
ジャルは顔を歪めて舌打ちした。
「で、どうするんだよ。」
隣の吸血鬼は本気になれば、
カオスやルーディガーと同等とまではいかなくとも、
相当の戦闘力を有する。
外見だけとは言え、オリバーはジャルより年下で、
大人しい性格だけに認めがたいものがあるが、
いざとなったら、
彼を中心に動くべきだという事実を認めないほど、
ジャルは間抜けではなかった。
主導権はお前に預ける。
暗にそう言われてオリバーは首を振る。
「どうもしないよ。
 まずは閣下のときと同じく様子見かな。
 ただ、ウタラさんは呼ばれてきたわけじゃないから、
 それなりの理由があるとは思うけど。」
数年前、ルーディガーが始めて会議に顔を出した時も、
かなり揉めた。
冬眠から目覚め、周囲の人間を駆逐した後も、
暫く単独行動を取っていた竜王が、
突然、出席した理由が判らなかったからだ。
蓋を開けてみれば、
暇なら箔付けに顔を出せというカオスの我が儘に、
喧嘩に負けたので従っただけという、
裏も表もない単純な理由だったが、
同時にカオスが一撃で、
ルーディガーを地に付けたという事実が判明し、
皆、顔面蒼白になったものだ。

「山羊足がなんかしたわけじゃないんだよな?」
「違う、と思うよ。
 思いつく理由としては隣国の、
 アセナのとこに関する援助的なことが考えられるけど、
 あそこは本人達が介入を拒否してるしなあ。」
「そういえば、あいつ、最近来ないけど大丈夫なのか?」
「芳しい噂は聞かないね。」
遠方の友人の苦境を思い、オリバーは顔を伏せ、
その様子から、ジャルも大体のところを理解した。
北の灰色熊に西の神霊とアセナの敵は強大で、
領土の砂漠化も安易に解決できる問題ではない。
なにより当事者の人狼達が、他の手助けを拒んでいる。
要請もなく他種族に便宜を図るお人好しはおらず、
居たとしても、支払う代償を踏まえれば、
好き勝手に動く訳にはいかない。
「セナ夫も大変だな。」
悪人面としかいえない人狼の顔を思い浮かべながら、
ジャルが菓子で汚れた口元を拭うと、
オリバーが柳眉を顰めた。
「辞めなよ、その呼び方。」
「なんで?」
妙な指摘に驚いて吸血鬼の青年をみやれば、
オリバーは苦渋に満ちた表情で額を押さえた。
「カオスさんが言ってるのが移ったんだろうけどさ。
 己の首も絞めるよ。」
「そう、なのか?」
よく解らない忠告に、どうしたものかジャルは迷い、
取りあえず、再び机の菓子に手を伸ばした。
オリバーがこういう物言いをするときは、
大概、一千年以上前に存在した、
人間だけの世界に関わることなのだ。
オリバーは古代文明を身をもって知る、
数少ない生き残りであり、
当時の不可思議な機械や書籍を幾つも持っている。
何度か見せて貰ったことがあるが、言語が違い、
ジャルには殆ど理解できなかった。
ただ、テレビの中の人間を動かす遊びは、何となく解る。
うっかり、弟妹に話して、
自分達もつれていけと騒がれたのには閉口したが、
あれは確かに面白い。

確か、ジィゾのプログラムも、
その時代に造られているはずだ。
あいつなら、不可思議な忠告の意味も解るだろうか。
そんなことを考えながら、
卵白で造られた甘くて白い菓子を噛みしめる。
「全く、カオスさんときたら、
 僕のこともオリ太って呼ぶしさ。
 三百年寝太郎だから丁度良いとか、失礼なんだよ。」
「へえ・・・?」
相手の理解を確かめずに話す癖も、
カオスから移ったのだろうか。
オリバーに山羊足の魔術師が及ぼした影響は、
やはり少なくさそうだ。
まともに相手をするのは面倒なので適当に流していたら、
鼻先で笑われた。
「ジャルは語呂以外、そんなに変でもないかもね。」
「何が?」
意味は分からずとも侮蔑は伝わってくる。
「どういう意味だよ?」
逆に興味をなくして、その場を去るオリバーの背を、
ジャルは追いかけた。

「大したことじゃないよ、別に。」
「じゃあ、説明したって良いだろ。」
軽く言い争いながら歩を進め、
会議室の前までやってくる。
部屋の規模にしては小さめなドアの前には、
オリバーの叔父、ヒュンケルをはじめとした、
幾人かの姿があった。
「何、してるんだよ。」
各種族の王にあたるものが、話をするわけでもなく、
微妙な顔をして立ち往生しているのに、
ジャルは眉を顰めた。
そんなに、ウタラという猿が怖いのだろうか。
だらしがねえなと、ひとりごちたジャルに、
黒悪魔の長、マーケルが顎でしゃくり、
部屋の中を示した。
まずはみてみろ。
促されてジャルは前へ進み、隣にオリバーが立った。
躊躇することなくドアを開け、中の様子をうかがう。

いつも通り、会議室に椅子と机がずらりと並んでいる。
高くもないが安くもなさそうな、中途半端で、
城主リカルドの趣味に外れた家具が用いられているのは、
会議中に暴れて壊す輩がいるからだ。
通常であれば複数名、席についている時間帯に、
部屋にいたのは一人だけ。
初老の男が議長席より少し離れた右側の席に、
足を投げ出してふんぞり返っている。
海を越えた先に住む者多くがそうであるように、
背はさほど高くない。
付き合いのない他種族の居城にいる気後れはないが、
他を圧倒するような威圧感を放っているわけでもなく、
これと言った驚異は今のところ感じない。
取り立てて語るべき特徴のない中、
目を引くのは、全身を覆う柔らかそうな毛皮と、
頭の上から生えた白く、長い耳。
ジャルは、黙って扉を閉めた。

「なあ、」
そのまま、傍らの吸血鬼を振り返ることもせずに問う。
「あれ、猿じゃなくてウサギじゃねえのか?」
何かの間違いではないのかを確認するジャルに、
さして驚いた様子もなく、オリバーは答えた。
「相変わらずだね、ウタラさんは。」
間違いなく石猿族の長であることを肯定され、
ジャルの疑問はますます深まる。
「なんでウサギの格好してんだよ。」
「着ぐるみが好きだから。」
オリバーが悪いわけではないが、
ふうと、小さく息を吐くのが耳に障る。

「なんだよ。なんなんだよ、あれ!」
一定のショックから解放され、
大きな声を出したジャルを、
マーケルが苦々しげに窘めた。
「騒ぐな。でかい声を出しても始まらん。」
「困るよなー 対処に困るよなー」
世界で指折りの魔王だけに、
笑って良いのか、触れてはいけないのか判断に困る。
ヒュンケルがバリバリ頭を掻きながら嘆き、
館の主、銀悪魔のリカルドが腕を組む。
「それより、何の目的があって来たんでしょうか?」
自領は単独統治であり、他種族との取り決めは、
カオスに一任している中央の石猿族が、
西側に足を運ぶ理由はないはずだ。
今更ながらの疑問を、どうでも良いとジャルは一蹴した。
「そんなこと、どうでもいいだろ!
 なんで閣下やカオスに並ぶ実力者が、
 各種族の代表が集まる会議に、
 ウサギの着ぐるみ着て出席してるんだよ!!」
「そんなこと、俺らに言われてもな。」
全て諦めきった様子で、マーケルが首を横に振る。
頼りない反応に、感情にまかせてジャルは叫ぶ。
「カオスと言い、あいつと言い、何を考えてんだ!
 仮にも一族の上に立つものとして、
 それなりの品格ってもんが必要だろ!!」
至極もっともな意見ではあったが、
オリバーが至って真剣な顔でそれを諫めた。
「いや、それってジャルに言う権利はないでしょ。」
無言の肯定が部屋を満たす。
大概のところ、魔物の集まりは今日も平和だ。

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