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高性能装備の入手方-課題未だ攻略できず、その2。

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高性能装備の入手方-課題未だ攻略できず、その2。




「じゃあ、今度こそ帰るわ。」
「はーい、お構いもしませんで。」
「ほな、先生によろしくなー」
適当な時分で立ち上がった二人を見送って、
後片づけを手伝いながら、千晴は長く息を吐き出した。 
役に立つかは別として、大量の情報が手に入った。
それはいいのだが、人狼に対して、
どのようなスタンスをとったらいいか、
分からなくなってしまった。
そんな意識はなかったが、
自分の中に、どんなに賢くても所詮獣だという、
人狼に対する蔑視があった。
だが、実際はどうか。
ミミットの白魔法使いたちの話を聞く限り、
非常に理知的だ。
人間と同じか、それ以上に賢い魔物と簡単にいうが、
その意味を自分も理解していなかった。
人狼とて家族もいれば、友達や、恋人もいるだろう。
仮に彼らと向き合ったとき、戦えるのだろうか。
しかも、理由は己の私利私欲。
現在、人間は他の種族の殆どと敵対している。
原因は強すぎる欲望、
物欲や独占欲、征服欲、色々あるが、
四面楚歌にまで悪化させたのは色欲だと、
当ギルドの居候魔王に教わった時には、
絶望と生理的不快を感じたものだ。
そんな大人には絶対ならないと堅く誓ったのだが。

それでも、やっぱり帽子が欲しいという答えに、
千晴は酷く落胆した。
ただ、冒険者としてやっていきたいだけなら、
諦めもつく。
けれども、自分には目的がある。
それを果たすためであれば、どんな代償も、
例え、養母に二度と会えなくなることだって厭わない。
自分がいなくても彼女には仲間たちがいる。
彼女が幸せに暮らしていれば、それで十分だ。
最愛の母と別れてでも、
ボクはあいつを倒さなきゃいけない。
その為には努力を尽くして強くなるだけでなく、
あらゆる手段を講じなければ。
だから、魔王自作の装備がどうしても要る。

「大丈夫、別に人狼と戦わなきゃいけないって、
 決まったわけじゃないお。
 むしろ、それはない方向だお。」
自分に言い聞かせ、気を取り直す。
確かにカオスは言っていたではないか。
材料は千晴に揃えられる物だと。
人狼は上級職であるギルドの面々が、
揃って戦うのを拒否するほど、手強い相手だ。
千晴に倒せるはずがない。
ひいては、戦わずとも手に入る方法があるはずだ。
そう考えると気が楽になって、
奥の部屋でぬいぐるみと一緒に転がっているキィの隣に、
自分も寝転がる。
「きいたん、お昼寝終わったのにまた寝るの?」
「ちゅかれちゃったよー」
ただ、話の間、抱っこされていただけなのに、
なにが疲れたというのだろう。
一人前に草臥れた様子で言うのがおかしくて、
千晴は吹き出した。

「なにが疲れたのさー」
「むじゅかちいよー」
「ああ、話が難しかったってこと?」
確かに、大人の話は小さいキィには退屈で、
つまらなかっただろう。
「そうだね、きいたんには難しかったよね。」
幼児にも分かるよう説明してやろうと、軽く逡巡する。
「えっとね、簡単に言うと、敦お兄ちゃんのおうちには、
 近くに狼さんたちがすんでて、えーっと、
 皆で仲良く出来ればいいのにねって話だよ。」
大分、間が抜けているが、こんなものだろう。
そもそも、犬猫なら兎も角、
小さい人が狼を知っているかも怪しい。
案の定、キィは不思議そうな顔をした。
「おおかみちゃん?」
「そう、狼さん。」
耳がとがっていて、鼻が長いのだというと、
キィは抱えていたぬいぐるみをじっと見つめ、
持ち上げた。
「ルー?」
確かにお気に入りのぬいぐるみは狼に似ており、
良いところをついている。
「ルーはわんこでしょ。でも、よく似てるはずだよ。」
取りあえず、そういう生き物がいるのは、
知っているらしいなと思う。
幼児は愛犬をぐるぐる回しながら、
頭も一生懸命動かしているのか、下を向いて、
困ったように言った。
「はいいろで、むくむく?」
「そうそう。」
「おにいちゃん?」
「そうそう。」
うんうんと、相づちを打って引っかかる。
「お兄ちゃん?」
聞き直すとキィはこくりと頷いた。
「あちぇな、おにいちゃん。
 はいいろで、むくむく。」
ええっと、大きな声が出そうになるのを、
慌てて千晴は飲み込んだ。

とっさに後ろを振り返れば、
敦はいつの間にかいなくなっていて、
紅玲たちもまだ、戻ってきていない。
大人の邪魔が入らないのを確認して、
キィを驚かせないよう、ゆっくりした口調で尋ねる。
「きいたん、狼のお兄ちゃん、知ってるの?」
「あちぇな、おにいちゃん。はいいろで、むくむく。」
小さい人は同じ言葉を繰り返した。
これだと、千晴は確信する。
どうして、気がつかなかったのだろう。
キィはカオスの愛娘だ。
そしてカオスは山羊足の魔術師の別名を持つ、
魔王の中の魔王だ。
人狼の一人や二人、配下にいてもおかしくない。
いや、配下だなんだとの上下関係ではなくても、
知り合いにいないはずがない。

キィは魔王の娘だけあって、
不思議な道具を持っている。
その中の一つ、何処へでも好きなところに飛べる力で、
人狼の所へ連れていって貰い、
カオスの知り合いだと言えば、
交渉ぐらい、幾らでもできるだろう。
「きいたん、そのお兄ちゃんのところにいけるかい?!」
思わぬ急展開に鼻息荒く問いただすと、
幼児は吃驚して目を見開き、
眉間にしわを寄せて、小さい楓のような手を振った。
「むり、むり。」
「えっ、なんで?」
出端をくじかれて、ガクンと肩を落とすと、
ますますキィは泣きそうな顔をした。
怒っているわけじゃないんだよと言い含め、
嘘ではない証拠にぎゅっと抱きしめる。
「どうして、ダメなのかな?」
「とおい。うんととおい。」
「そっかー」
大人がするように抱き上げてあやすのは重いので、
抱きしめたまま自分ごと体を揺らし、
出来るだけ優しく聞きだした答えは、
分かりやすいものだった。
それならいいんだよと、一度話を終わりにして、
キィを揺らし続けながら、千晴は考えた。

今まで、キィが行き先を理解さえすれば、
何処へでも移動できていたので、
制限があるとは気がつかなった。
しかし、十分ありうることだ。
紅玲たち白魔法使いが使う移動魔法だって、
幾つも使用条件が揃わなければ使えない。
この方法じゃ、ダメなんだろうかと一瞬迷うも、
千晴は首を横に振った。
カオスは得意の移動魔法を駆使して、
西へ東へと飛び回っている。
幾ら数が少ないといっても、
人狼の知り合いがいないはずがない。
また、敦たちの言っていたことが本当であれば、
人狼というのは話の通じない相手ではないようだし、
魔王の中の魔王の名前を出されて、
無視するとも思えない。
方法は間違ってない。では、どうすればいいのか。

しばらく考えて、千晴は答えを見つけた。
キィの言う人狼の居場所が遠いのであれば、
近いところにいる人狼を探せばいいのだ。
「きいたん、さっきのお兄ちゃん以外に、
 狼さんの知り合いはいないかな?」
「おおかみちゃん?」
その話は終わったのではないかと、
理屈で考えたわけでは無かろうが、
不思議そうな顔をされる。
さて、どうやって説明するかが問題だ。
「そう、狼さん。誰か他に、知ってる人、いないかな?」
「ふくふく?」
「そうそう、ふくふくもこもこだと、尚良いよ。」
「ルー?」
「うーん、ルーは違うけど、そんな感じでもいいよ。」
「チー?」
「そうそう、そのチーって、狼さん?」
「ルーの、お兄ちゃん。ふくふく、もこもこ。」
根気よく会話を続けると、
それっぽい名前が出てきた。
キィのぬいぐるみ、
ルーのお兄ちゃんだというのが気になったが、
細かいことをいっても仕方ない。
会うだけ会ってみて、違えば、また次を当たろう。
「それで、その、チーのところにはいけるかな?」
何気ない様子を装って尋ねれば、
キィはあっさり頷いた。
「きいたん、いけるよー」
「ボクも、連れていってくれる?」
「いい、よー」
何の気負いもなく幼児は了承し、
よしよしと千晴はほくそ笑んだ。

「今からでも、いける?」
「いけるよー」
小さいお兄ちゃんの誘いに、
キィは疑問を感じた様子もなく、
もぞもぞと立ち上がろうとした。
抱っこの腕をほどいてやると、そのままよちよち、
お出かけ用の上着や鞄に向かったので、
千晴もコートを着て、キィの着替えを手伝う。
「お外に行くの?」
「チーは、お外に、いるんだよー」
「そっかー」
急々と出かける準備を済ませ、靴を履く。
ぬいぐるみも持っていこうとするのを、
なくしたらいけないと取り上げて机に置き、
キィの手をしっかり握る。
千晴は元気よく扉を開け、併せてキィの魔法が発動した。

扉の向こうは、いつもの町ではなかった。
振り返っても、出てきた家は既にない。
木と土の強い香り。
魔力の強い土地独特のエネルギー波が、
体の中を通り抜けていく。
ここは何処だろうと周りを見渡しせば、
もみの木に似た、
針のような細かい葉の針葉樹が茂っていた。
空を覆うような木々の黒い葉はキィの実家を囲う、
黒杉と同じものだ。
「ここ、きいたん家の森?」
「そうだよー」
確認すると、キィは嬉しげに頷く。
「チーは、どこかなー?」
仲良しの友達に会いに行くかのように、
グイグイと手を引くキィは楽しそうだが、
千晴も嬉しくて仕方がなかった。
ついに人狼の毛が手に入る。
激レアの超高性能装備GETまで、もうすぐだ。

ふっと、不可思議な風を感じた気がして、
千晴は立ち止まった。
今までに感じたことのない、不思議な感覚。
周囲から伝わってくる魔力が鈍いものになった。
なくなったわけではない。
まるで霧がかかったように、感じ取れないのだ。
結界の中にでも入ったのだろうかと首を傾げ、
探索魔法でも使うべきか、考えている間に、
何かの気配が半径10mの辺りをぐるりと回った。
「チー!」
キィが何かを指さす。
その先に、居た。
尖った耳、緑色に光る目、
ふわふわと柔らかそうな毛並み。
そして、半透明の体。
ポルターガイストやウィル・オ・ウィプスのような、
霊体の仔狼だ。
「チー!」
小さな狼の側に行こうとして、
キィがグイグイと千晴の手を引っ張る。
引きずられるように歩きながら、
小さい黒魔法使いは気が抜けるのを感じだ。
確かに狼だが、霊体では毛がとれない。
「うーん、これじゃないんだよなー」
いったい、この狼は何だろう。
まだ、子供のようだが、幽霊の一種だろうか。
それならば、生きた仲間を紹介してくれるかもしれない。
期待がはずれたショックと、何か麻痺したような感覚で、
上手く考えをまとめられず、千晴は首を傾げた。

寝ぼけているかのように不安定な状態の中、
キィの手を握っていた右手に、
ばしっとはたかれたような痛みが走る。
えっと思ったときには、千晴の体は既に5mほど後ろに、
吹き飛ばされていた。
後から地面に叩きつけられた痛みが、
ジンジンと伝わってくる。
何が起こったのか理解できず、体を起こすと、
きょとんと立ちすくんでいるキィと、
爛々と目を光らせた仔狼の姿が見えた。
『何だよお前、誰だよお前。』
物理的に形成されたのではない、
精神波のような物が言葉として、千晴を貫いた。
鼻に皺を寄せて牙をむきだし、毛を逆立てて、
仔狼は千晴を睨んでいる。
『変な臭い! 変な奴!』
「え、違うお! ボクは怪しいもんじゃないお!」
侵入者と見なされていることを瞬時に理解して、
必死で否定する。
「ボクは、ほら、カオスさんの友達だお!」
『知らない! お父さんから、聞いてない!
 変な臭い! 人間くさい、変な臭い!』
何度も変だと繰り返され、軽く凹みながら、
千晴は自分の袖の臭いをかいでみた。
いくら、向こうは鼻が利くといっても、
そんなにおかしいだろうか。
毎日、ちゃんとお風呂に入っているのに。
『変な臭い! 変な奴! きいたんに、近寄るな!』
激しい警戒を露わにしながら、
仔狼はキィを隠すように、千晴の前に立った。
それをみて、ああ、そういうことかと納得する。
向こうは向こうで、小さい人を自分から庇おうと、
必死に威嚇しているのだ。
人間は彼らの敵だが、キィは小さいから、
それがよく分かっていない。
だから、自分が守ってやらなきゃと思ってるのだろう。
誤解を解こうと、千晴は声を張り上げた。
「違うお! ボクは敵じゃないお?
 ボクは、きいたんのお兄ちゃんだお!」
その言葉を聞くや否や、
仔狼の目がくわっと緑色に燃え上がった。
口が裂けるように開かれ、
青白い煙がゆるゆると立ち上がる。
煙にふれた枯れ葉が炎を上げることなく、
チッと音を立て灰になるのをみて、
「あ、詰んだ。」と、千晴は思った。
人狼の幽霊? 
これはそんな可愛らしいものなんかじゃない。
とてつもない、
それこそ魔王を越える力を持った化け物だ。
感覚が鈍くなったのは、仔狼が放つあまりの魔力に、
千晴の感覚が壊れた、
簡単に言えば、メーターが吹っ切れたからだ。

『きいたんのお兄ちゃんは、お前じゃない!』
憎々しげに目を怒らせた仔狼が低く頭を下げ、
戦闘態勢に入るのが、スローモーションのように見えた。
激しさを増した唸り声と共に吐き出される煙が、
しゅうしゅうと大地を焦がしている。
ああ、敵も討てずに、こんなところで死ぬなんて。
ママ、先立つ不幸をお許し下さいだお。

ふっとどこかの天井が目に入り、景色が変わったのを、
千晴はしばらく理解できなかった。
ひょいと黒い髪と青い瞳が視界を横切り、
カシャリと音を立てて歯車が合う。
「カオスさん。」
自然と口からこぼれた自分の声が、耳にはいる。
止まっていた時が動き出したかのように、
色や音が頭の中になだれ込んできた。
「あ、えっと、ああ。」
くらくらする頭を押さえ、千晴は身を起こした。
びゃあびゃあと、キィが大声で泣いており、
それを抱きかかえ、ぽんぽん尻を叩いて、
カオスがあやしている。
「馬鹿だねえ。本当に馬鹿だねえ。」
心底あきれかえった様子の魔術師が、
いつもの調子でため息を付く。
生きて帰ってきたのだ。

「うう、うっぇ、ううえ、」
今更ながら恐怖で体がぶるぶると震え、
歯がガチガチと鳴り、脂汗がだらだらと流れる。
肺が凍り付いたように呼吸ができず、
吐き気に喉を絞め上げられて、千晴は何度もえずいた。
「おい、大丈夫か?」
背中を叩かれ、ふわっと暖かいものが、
体の中に流れ込んでくる。
呼吸が少し楽になり、顔を上げると、
小さなコップが突き出された。
受け取ると、かたかたと青い液体が波打っていた。
震えが止まらない。
何とかこぼさないように啜るとぽっと胃が暖かくなり、
ようやく、人心地つく。
「馬鹿だねえ。天下の双子狼の兄貴に喧嘩を売るとか、
 本当に馬鹿だねえ。」
“きいたんのお兄ちゃん”は彼らのステータス。
それを横から取り上げるような発言をして怒らせ、
襲われるなど、
バナナの皮が落ちているのに真っ直ぐつっこんで、
見事に滑るようなものだと、カオスは首を軽く振った。
彼の例えは、いつも若干納得しがたい。
ただ、天下の双子狼という、
仔狼の正体は千晴も知っているものだった。
いや、知っているからこそ、逆に信じられない。
「じゃ、じゃ、じゃあ、あそこって、い、い、い、
 イアールン、ヴィズ、だったの?!」
まだ、呂律が回らない。
もう一度、カオスが回復魔法をかけてくれる。
「だったもなにも、
 お前だって何度もきてるじゃないか。
 イアールンは俺の実家だぞ。」
「ぎやあああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」
なにを今更と魔術師は言うが、
そんなこと、知らなかったし知りたくもないと、
千晴は耳を押さえ、喉が裂けんばかりに絶叫した。

シュテルーブルの北西ニュートンの更に北、
フロティアとは別の意味で不可侵の森、
イアールンヴィズ。
ソルダットランドに属するこの黒い森の奥には、
神世の世界樹が聳え立ち、
妖精族と呼ばれる亜人の村もあると噂されるが、
森に入り、まともに帰ってきた者がいないため、
事の真偽は不確かなままとなっている。
この最大にして、最古の神域には、
嘘か誠か神を滅ぼした魔狼の息子、
ハティとスコールがいるという。
つまり、先ほど会ってきたのはチーではなくティー、
即ち神話の魔狼ハティだったのだ。
「やだ、もうやだ。神様どころか、
 それに勝る魔狼とか、もうやだ。無理!」
一介の黒魔法使いにはスケールが大きすぎて、
さめざめと千晴は泣いた。
そりゃ、いつかは魔王級と対峙できるぐらい、
強くなるつもりだが、まだ自分はちょっと出来がいい、
ただの子供だ。
大きくなったって、神レベルは手に負えないだろうし、
負いたくもない。
太陽や月をボール代わりに追いかけ、
時に飲み込む魔狼なぞ、一体どうしろというのだ。
神話の中でも最上級に当たる魔神の中の魔神を、
こうも簡単に引っ張り出さないで欲しい。
土下座するように床に突っ伏して、千晴は懇願した。
「せめて、せめて、
 対峙させるのは群ボスぐらいにして下さい・・・!」
小さい黒魔法使いは、
そんな当たり前の願いと共に泣き崩れた。

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津路志士朗
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