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異国の神 Part.2。

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異国の神 Part.2。






ミツドガルド大陸でもっとも大きな人間の大国、
フォートディベルエの首都、シュテルーブルには、
公式冒険者の個人ギルドが数多くあり、
ZempことZekeZeroHampもその一つになる。

Zempには様々な理由でベルエ王国から遠く離れた、
東洋の出身者が多く所属しており、
小日向祀も島国ヤハンの出身になる。
主家筋である竜堂鉄火の側仕えとして、
彼と共に国を出奔したものであるが、
当時はまだしも、現在その上下関係は、
はたから見ている分には実に怪しいものと化していた。

祀としては、鉄火が国を捨てた今でも、
母国の次期当主であることに変わりはなく、
彼に使えること自体には疑問も不服もない。
が、それが大きな価値を持っているかと言えば、
別の話なのだ。
何故なら、鉄火はあくまで立場上の上司であって、
祀個人として主と定めたのは彼の妻、瀬戸紅玲であるからだ。
例え、表面上は離縁状態であろうが、
紅玲当人が絶対にそれを認めなかろうが、
っていうか、以前も結婚には到ってないよねと指摘されようが、
祀にとって紅玲は、未だ鉄火の唯一の相手であり、
己が生涯かけて仕える主君なのである。

したがって、Zempに居候として居付いた、
紅玲の恩人であり、魔術の師匠である魔王、
カオス・シン・ゴートレッグに敬意を払うことも、
その娘のキィを大事にすることにも、
祀はまったく異存がなかった。
大体、キィは大層幼くて、
前提がなくとも全力で保護すべき対象である。
同じZampのメンバーであり、
冒険者仲間として良くつるむ土方敦が、
すすんで相手をすることもあって、
祀も周囲をウロチョロする小さい人を構い、
遊びに連れて行くことが多かった。

その日も、まだ早い時分であったため、
敦の戻りも早ければ、
共にキィと公園でも行こうかと祀は考えていた。
仕事上がりとはいえ、
今日は単独行動で危険のない範囲に活動を留めている。
さして疲労してもいなければ、
幼児の相手如きがこなせない、軟弱さは持ち合わせていない。
まあ、まずは一息つこうと靴を脱いでいた祀の耳に、
とっとっとっとと、小さな足音が転がり込んできた。
玄関に取り付けられた鈴の音を聞きつけて、
キィが出迎えにやってきたのだろう。
最近、小さい人は気が向けばスリッパを出してくれる。
昼寝はすんだのだろうか等と考えながら、
ぎぃと居間に続くドアが開いた音に、祀は振り向いた。
「きいたん、ただい、」
帰宅の挨拶は途中で途切れた。
祀の目の前に現れたのは、
出先に手を振ってくれた小さい人ではなく、
白い布を頭からかぶった異彩の生き物だった。

体長は1m足らず。
全身は白い布で覆われ、上腕はなく、
二本の素足だけが僅かに見えてる。
切れ長に縁どられた両眼以外に顔のパーツもなく、
お化けの仮装というには妙にのっぺりとし、
それでいて異様な目力を感じる。
「…きいたん、ですかい?」
戸惑いのままに祀が口にした名前に、
その生き物は答えなかった。
代わりにジツと祀を見つめ、
カツと目を見開いたかと思えば、勢い良く叫んだ。
「メジェド!」

「…メジェド?」
困惑で祀は眉間に皺を寄せた、
が、大した間も置かず、
自身も右手を挙げて応えた。
「メジェド!」

祀の返事に、早速白い生き物も応酬する。
「メジェド!」
「メジェド!」
「メジェド!」
そのまま玄関口で、意味不明のメジェドコールが繰り広げられた。
10回程繰り返したあたりで双方満足し、
むふーとやり遂げた満足感に浸る。
併せてバンと居間に続く戸が開く。

「違うだろ! その平常の如し扱いは違うだろ!」
現れて早々、憤懣やるかたない様子で叫ぶ鉄火に、
祀りは呆れを隠しもせずに、肩を落とした。
「なんですかい、帰って早々喧しい。」
「普通、ここは困るところだろ!
 なんで当たり前のように対応してるんだよ!」
「んな騒がなくたってぇ、どうせきいたんのやることなんざ、
 誰かの真似だとか、新しく何か覚えてきたとか、
 その辺に決まってるでしょうがよ。」
「限度があるだろ! 
 何時ものことだと判断するにも、限度があるだろ!」
「もー うるせえなあ、若旦那は。」
ぎゃあぎゃあと揉める二人に、
それこそ何時もの事と慣れた様子で、
白い生き物は争う上司と部下の間をさっさと通り抜け、
居間でロッキングチェアに陣取り、
様子を眺めていた父親の膝によじ登った。

当然の権利として膝の上を占領し、
ふんと、偉そうに鼻息を吹く娘を抱え、
カオスが静かに溜息をつく。
「もう、その辺にしておけよ、鉄。
 言いたいことは分かるが、祀に限らず今更だ。
 お前だって分かってるだろ、この後どうなるかぐらい。」
「そりゃ確かにわかるけど! わかるけどよ!」
認めたくない。
部下が変な生き物に平然と対応できるほど、
異常事態に慣れ親しんでいるのも嫌だが、
己が所属ギルドのメンバーがこの後どうなるか、
安易に想像できるだけに認めたくない。
頭を抱えた鉄火を非情に祀が鼻先で笑い、
その様をカオスはぼんやりと眺めた。

その日の夕方、彼らが予測したように、
キィの出迎えを受けたZempのメンバー達は、
特に意味もなく「メジェド!」と挨拶しあうようになり、
更に数名、白いシーツを被って生活する者が現れた。
喧騒こそ起こらないものの、
理性ある者から表情が消え去る状況に、
発端となった魔王は遠くを見つめながら呟いた。
「まあ、きいこに教えた時、
 こうなるかなーと思わなかったわけじゃないんだが、
 こうも予想通りの結果になると、
 正直、反応に困るな。」
そもそも、名前の意味が「打ち倒す者」であること、
目によって撃ち、姿は見えないこと以外、
何も分からない神であるだけに、
良く分からない結果に終わるのは当然かもしれんなどと、
他人事のように宣う。
そんなカオスがいらんことしいなのは何時もの事だが、
素直に面倒な事態に発展させるZempメンバーも、
如何なものかな奴ばかりである。

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津路志士朗
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