HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。
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Zempには様々な理由でベルエ王国から遠く離れた、
東洋の出身者が多く所属しており、
小日向祀も島国ヤハンの出身になる。
主家筋である竜堂鉄火の側仕えとして、
彼と共に国を出奔したものであるが、
当時はまだしも、現在その上下関係は、
はたから見ている分には実に怪しいものと化していた。
祀としては、鉄火が国を捨てた今でも、
母国の次期当主であることに変わりはなく、
彼に使えること自体には疑問も不服もない。
が、それが大きな価値を持っているかと言えば、
別の話なのだ。
何故なら、鉄火はあくまで立場上の上司であって、
祀個人として主と定めたのは彼の妻、瀬戸紅玲であるからだ。
例え、表面上は離縁状態であろうが、
紅玲当人が絶対にそれを認めなかろうが、
っていうか、以前も結婚には到ってないよねと指摘されようが、
祀にとって紅玲は、未だ鉄火の唯一の相手であり、
己が生涯かけて仕える主君なのである。
したがって、Zempに居候として居付いた、
紅玲の恩人であり、魔術の師匠である魔王、
カオス・シン・ゴートレッグに敬意を払うことも、
その娘のキィを大事にすることにも、
祀はまったく異存がなかった。
大体、キィは大層幼くて、
前提がなくとも全力で保護すべき対象である。
同じZampのメンバーであり、
冒険者仲間として良くつるむ土方敦が、
すすんで相手をすることもあって、
祀も周囲をウロチョロする小さい人を構い、
遊びに連れて行くことが多かった。
その日も、まだ早い時分であったため、
敦の戻りも早ければ、
共にキィと公園でも行こうかと祀は考えていた。
仕事上がりとはいえ、
今日は単独行動で危険のない範囲に活動を留めている。
さして疲労してもいなければ、
幼児の相手如きがこなせない、軟弱さは持ち合わせていない。
まあ、まずは一息つこうと靴を脱いでいた祀の耳に、
とっとっとっとと、小さな足音が転がり込んできた。
玄関に取り付けられた鈴の音を聞きつけて、
キィが出迎えにやってきたのだろう。
最近、小さい人は気が向けばスリッパを出してくれる。
昼寝はすんだのだろうか等と考えながら、
ぎぃと居間に続くドアが開いた音に、祀は振り向いた。
「きいたん、ただい、」
帰宅の挨拶は途中で途切れた。
祀の目の前に現れたのは、
出先に手を振ってくれた小さい人ではなく、
白い布を頭からかぶった異彩の生き物だった。
体長は1m足らず。
全身は白い布で覆われ、上腕はなく、
二本の素足だけが僅かに見えてる。
切れ長に縁どられた両眼以外に顔のパーツもなく、
お化けの仮装というには妙にのっぺりとし、
それでいて異様な目力を感じる。
「…きいたん、ですかい?」
戸惑いのままに祀が口にした名前に、
その生き物は答えなかった。
代わりにジツと祀を見つめ、
カツと目を見開いたかと思えば、勢い良く叫んだ。
「メジェド!」
「…メジェド?」
困惑で祀は眉間に皺を寄せた、
が、大した間も置かず、
自身も右手を挙げて応えた。
「メジェド!」
祀の返事に、早速白い生き物も応酬する。
「メジェド!」
「メジェド!」
「メジェド!」
そのまま玄関口で、意味不明のメジェドコールが繰り広げられた。
10回程繰り返したあたりで双方満足し、
むふーとやり遂げた満足感に浸る。
併せてバンと居間に続く戸が開く。
「違うだろ! その平常の如し扱いは違うだろ!」
現れて早々、憤懣やるかたない様子で叫ぶ鉄火に、
祀りは呆れを隠しもせずに、肩を落とした。
「なんですかい、帰って早々喧しい。」
「普通、ここは困るところだろ!
なんで当たり前のように対応してるんだよ!」
「んな騒がなくたってぇ、どうせきいたんのやることなんざ、
誰かの真似だとか、新しく何か覚えてきたとか、
その辺に決まってるでしょうがよ。」
「限度があるだろ!
何時ものことだと判断するにも、限度があるだろ!」
「もー うるせえなあ、若旦那は。」
ぎゃあぎゃあと揉める二人に、
それこそ何時もの事と慣れた様子で、
白い生き物は争う上司と部下の間をさっさと通り抜け、
居間でロッキングチェアに陣取り、
様子を眺めていた父親の膝によじ登った。
当然の権利として膝の上を占領し、
ふんと、偉そうに鼻息を吹く娘を抱え、
カオスが静かに溜息をつく。
「もう、その辺にしておけよ、鉄。
言いたいことは分かるが、祀に限らず今更だ。
お前だって分かってるだろ、この後どうなるかぐらい。」
「そりゃ確かにわかるけど! わかるけどよ!」
認めたくない。
部下が変な生き物に平然と対応できるほど、
異常事態に慣れ親しんでいるのも嫌だが、
己が所属ギルドのメンバーがこの後どうなるか、
安易に想像できるだけに認めたくない。
頭を抱えた鉄火を非情に祀が鼻先で笑い、
その様をカオスはぼんやりと眺めた。
その日の夕方、彼らが予測したように、
キィの出迎えを受けたZempのメンバー達は、
特に意味もなく「メジェド!」と挨拶しあうようになり、
更に数名、白いシーツを被って生活する者が現れた。
喧騒こそ起こらないものの、
理性ある者から表情が消え去る状況に、
発端となった魔王は遠くを見つめながら呟いた。
「まあ、きいこに教えた時、
こうなるかなーと思わなかったわけじゃないんだが、
こうも予想通りの結果になると、
正直、反応に困るな。」
そもそも、名前の意味が「打ち倒す者」であること、
目によって撃ち、姿は見えないこと以外、
何も分からない神であるだけに、
良く分からない結果に終わるのは当然かもしれんなどと、
他人事のように宣う。
そんなカオスがいらんことしいなのは何時もの事だが、
素直に面倒な事態に発展させるZempメンバーも、
如何なものかな奴ばかりである。