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魔術師は揺るがない。

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魔術師は揺るがない。



触れてはいけないものに触れてしまったと、今でも思う。

眼下ではしゃぎ回る子供達を前に、
山羊足の魔術師と呼ばれる魔王は、ため息をついた。
「エゴだよなあ、やっぱり。」
初めから判りきっていたことである。
悩むだけ仕方がない。
全て覚悟の上でのことだと、
再認識する必要すらなかったが、
それでも時々、惑うことがある。
それが己の職務であり、性であると知ってはいたが、
損な話だと彼は思った。
「せめて、これさえなけりゃ、
 まだ楽なんだろうけどな。」
相変わらず主語がなく、
誰に話しているのかも知れない彼のぼやきに、
傍らの竜王が反応する。
「また、悩んでいるのか。」
「いあ、悩むことは何もないんですけどね。」
そう、全ては逡巡し尽くされ、既に答えはでており、
決定事項は揺るぎなく、変更点は欠片もない。
後はただ実行していくだけで、実際にそうしてきた。
自分の選択肢は一つしかない。
「でも、幾ら判りきっていようと、
 他に方法がなかろうと、納得済みだろうと、
 何も思わないのは別の話っていうか、ね。」
「全て考えた上で他に選択肢がないのであれば、
 何も思う必要はないだろう。」
「実にその通りです。すんません。」
ルーディガーに判らないとは思わない。
むしろ、真面目で責任感の強い彼が一番、
判ってくれるだろうと思うし、
だからこそ、なんだかんだ文句を言っても、
竜王は自分に本気で反目しないのだと考えている。
多かれ少なかれ、悩まないものなどいない。
いるとすれば、それはよっぽど視野が狭い馬鹿だけだ。
尤も、悩み、思考しさえすればいいというわけでもなく、
「馬鹿の考え休むに似たり」とは、
よく言ったものだとも心から思う。
そういう意味じゃ、あいつは本当に馬鹿だったなどと、
思考が余所に飛び始めたのを押さえ、
同じ所で立ち止まる俺こそ、相当阿呆だと、
自分にうんざりする行為に戻る。
「でも、悩まないと俺の存在意義がないって言うか、
 常に模索していないと進歩がないって言うか。」
新しい方法や考え方は疑問から生じるはずだ。
それに選択肢がないとはいえ、
己が間違っているのも判っている。
間違っているならば、
正しい方向に少しでも修正する努力は、
怠るべきではないと思う。

とは言え、
他に方法がないから今の結論に至った訳であって、
悩んでどうにかなるなら、疾くになっているはずだ。
結局何度考えたところで堂々巡りとなり、
同じ結論しかでない。
何十回、いや何百、何千、何万回考えたところで、
変わらないと言うことも、
揺るぎなさすぎて嫌になるほどに判っている。
「意味がない。
 意味がなさすぎるのは判ってるんだけど、
 どうにもならねえのよ。」
「相変わらず、優柔不断を絵に描いたような男だな。」
これも過去何度も繰り返されたやりとりで、
彼は頭を抱えて掻き毟ったかと思えば、
「あー」と力つきたように、両手をだらりと垂らした。
「すみませんね、真面目な話。」
「ただの優柔不断なら、
 いい加減にしろと怒鳴るだけで済むんだが。
 自分の好きにやって、それが気に入らないのだから、
 実に面倒くさい男だ、お前は。」
この件に関し、魔術師が忠告を採り入れた試しがない。
他者の意見に耳を貸さないわけではない。
だが、一歩たりとも譲らない。
そもそも、譲れるものならばここまで発展せず、
問題にすらならないのだ。
難儀な奴だと、ルーディガーも嘆息した。
「名は体を表すとは、
 お前の為にあるんだろう。」
竜王の皮肉に、顔色一つ変えず、
混沌と呼ばれる男は淡々と答えた。
「バファリンの半分は優しさで出来ていますが、
 俺の半分は矛盾で出来ています。」
「残りの半分は?」
「嫌がらせ?」
「本当にどうしようもないな。」
呆れることすら出来ないと、竜王は首を振ったが、
その口調からは非難も否定も感じ取れなかった。
意味はない。
だが、こんな軽口を叩きあうことすら否定していたら、
キリがない。
結局、ボヤきたいだけで、
それで多少なりとも気が晴れるなら、
十分じゃないかとカオスは思う。
どうせ、何も変わらないのだ。

竜王が問う。
「それで、どうするんだ。」
魔術師が答える。
「どうもこうもねえっしょ。」
そう、どうしようもない。
「傲慢な男だな。
 過ぎたる欲は身を滅ぼしているだろうに。」
「上等。私利私欲に走れねえなら、
 魔王なんかやる意味ねえわ。」
嘲りとも、
心配とも取れるルーディガーの言葉に力はなく、
対したカオスの台詞には、
他者を寄せ付けない強さがあった。

確かに彼を止めることも、変えることも、
誰にも出来はすまいと、竜王は考えた。
優柔不断だが、意志ははっきりしている。
己が間違っていることを知っているが、
他の選択肢を選ぶつもりは毛頭ない。
開き直っているというには、よく迷うし、
悩んでいるのかと言えば、
自信や覚悟がないわけではない。
矛盾で出来た、この誰よりも自己中心的な男は、
これからも身を削りながら、
我が儘を押し通し続けるのだろう。
小さな子供達の幸せのためだけに。

「おとたんー みて、みてー」
何が得意なのか、子供の一人が嬉しげに手を振る。
「あー 見てる見てる。凄い凄い。」
やる気なさげに父親が答える。
特に変わった様子もなかったので、
何が凄いのか聞いてみたが、
「わかんね。」と、返ってきた。
結局、世界は弱肉強食だ。
強いものが勝ち、弱いものはそれに従う。
ならば誰よりも力を持つ、
この男がやることが正しいと言えなくもない。
だが、そんなことは何の慰めにもならないのだろうと、
竜王は再びため息をついた。
全く面倒な奴と言うしかない。
そして、何も変わらない以上、
自分もやるべきことをするしかない。

「ところでだ。」
己が職務を果たすため、
いつも通り、竜王は聞いた。
「会議まで、後10分もないわけだが、
 どうやって片づけるつもりだ。」
「取りあえず机を並べ直すぐらいは出来ると思うけど。」
「あちこち、涎や泥でいいように汚されてるな。」
「あれは拭かないと駄目だろうなー」
「10分で何とかなるのか?」
「ならないんじゃ、ないかな。」
暫しの沈黙。

いつも通り、ルーディガーの怒声が響く。
「だから何度も、
 会議に子供らを連れ込むなと言ってるだろうが!」
「だって、ついてきちゃったんだもん、
 しょうがねえじゃんー!」
自宅から会議場へ移動する際、
まとわりつく子供らを振り払えずに、
まとめて転移魔法を使ったはいいものの、
新しい遊び場に連れてきて貰ったと、
勘違いした子供たちに会議室を乗っ取られた。
まだ、皆が集まるには時間があるからと、
リカルドの好意に甘え、好きにさせたら、
あっという間に机や椅子はおもちゃになり、
そこかしこに手形や足跡が付けられてしまった。
「ごめんね、リキッド。
 新しい会議室なのに、本当にごめんねー」
「お前、親なのにこの事態を予測できなかったのか?」
「だって家じゃ、もう少し大人しいし!
 新しい場所だからって、
 ここまでハイになるとは思ってなかったんだもん!」
カオスにしても、予定外のことだったらしい。
しかし、開会時刻は刻一刻と近づいている。
「どうするんだ、このままじゃどうもならんぞ。」
「だけど、どうにかするしかねえっしょ。」
問われて、魔術師はようやく真面目な顔をした。
「取りあえず、ガキどもは転移魔法で家へ帰すとして。」
それだって、一人一人捕まえるのに時間が掛かるだろう。
間に合うのかと、竜王は不安を顔に出したが、
カオスはきっぱりと言いきった。
「その後のことは、後で考えよう。」
「今、考えろ!!」

今日も会議場にて怒声が響く。

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