HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。
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ただいまコメントを受けつけておりません。
愛用の帽子を脱ぎ、席に着くと、
吸血鬼公爵こと、ヒュンケルが早速口を開いた。
「遠いところをご苦労さん。
双子のお坊ちゃま達は元気だったかね?」
「変わりない。いつもと同じだ。」
アセナの返事を聞いて、子狼ちゃん達は相変わらずかと、
ヒュンケルは笑った。
そんな社交辞令的世間話を押し退けて、
黒悪魔の長、マーケルが単刀直入に聞く。
「向こうは大丈夫なのか?
ヌルの奴が、派手に暴れたらしいが。」
古代都市イデルに生息するホムンクルスが、
神域イアールンヴィズで爆発した。
最近、そんな噂がまことしやかに流れている。
しかし、現場が山羊足の魔術師カオスと、
伝説の魔狼王フェンリルの遺児、
ハティとスコールの広大なテリトリー内のため、
当事者以外の目撃者もいなければ、
詳しい事情が流れてこない。
双子は滅多に森を離れることはなく、
ヌルはイデルの奥深くに潜り込んで出てこない。
話を聞くならカオス一人だが、
あの魔術師ときたら、必要な時に限って顔を出さない。
普段、前触れもなくやってきては、
長々無駄話をしていく癖に、
肝心なときに役に立たない奴だ。
腹立たしげにマーケルは唸った。
神出鬼没はまだしも、口数が多い割に、
大事なことを話さないカオスの性質を思えば、
仮に会えたとしても情報が得れたか、はなはだ怪しい。
かといって、率いる群をもたないヒュンケルはまだしも、
マーケルやリカルドの立場を考えれば、持ち場を離れ、
遠い北西の森まで様子を見にいくわけにはいくまい。
だからこそ、定期的にイアールンヴィズを出入りする、
自分が捕まったのだ。
己が立場は損と言うべきか、利とするべきか。
そんなことを考える。
「あれがやったにしては被害は少なかった様だ。
勿論、現場の地形は変わったが、
爆発したのが湖の中だったそうだからな。
若干湖が大きくなった程度だろう。」
目の前にいる3人は年齢的にも、実力的にも、
自分の上に当たるが、あえて敬語は使わない。
特に黒悪魔のマーケルとは、
雇い主と雇用者の関係ではあるが、
関係は対等でなければならず、
アセナは淡々と見聞きしてきたことを伝えた。
噴水のように水が吹き飛んだのだと、
笑いながら話す双子達に案内されて訪れた事故現場は、
津波に洗い流されてむき出しになった地肌や、
折れた木々が痛々しく、そのままになってはいた。
しかし、水の中だったのが幸いしたのだろう。
その範囲はさほど大きくもなく、
他に目に付く津波の影響といえば、
流された水草が高木の枝に引っかかっていることぐらい。
抉れたであろう湖底まで調べれば、
また違った印象を受けるのかもしれないが、
絶え間なく流れ込んでくる雪解け水で、
減った水位も元に戻っていた。
尤も、外見と中身の被害はまた、別のものである。
「ただ、爆発した振動のショックで大量の魚が死んだ。
事故直後は浮いた魚の死骸で湖が埋まったらしい。」
大きな湖であればあるだけ、
そこに棲む生き物たちの数も多い。
被害は容易に想像でき、マーケルが眉をしかめた。
「要は爆弾漁と同じか。
ヌルの火力なら、相当な被害が出ただろうな。」
水の中で爆発を起こし、そのショックで魚を捕る漁法は、
珍しいものではないが、通常は焼いた石を投げ込み、
温度差で破裂させる程度である。
危険物の固まりの様なホムンクルスが爆発したとなれば、
その影響は計り知れない。
自領地での出来事ではなく、よかったと思ってしまい、
不謹慎だと黒悪魔は自分を諫めた。
その横で、吸血鬼公爵がそういえばと顎をなでる。
「いつだったか、ジャルの奴が似たようなことをして、
ヴァン川の魚を全滅させかけたことがあったろ。
あれより酷いのか?」
数年前、ここミッドガルドと呼ばれる大陸の中で、
尤も長いヴァン川上流近辺の山に棲む、
鳳一族の若頭が魚を捕ろうとして失敗したことがあった。
あの時も結構な被害がでたはずだとヒュンケルが言えば、
後方から「安易に比較できないのでは?」と、
疑問が飛ぶ。
「ジャルが川瀬を壊した時、確かに魚も死にましたが、
最も大きかった被害は土手の崩壊と水路の変形により、
氾濫が多発した為の周囲の水没ですし。」
お茶の準備ができたらしい。
リカルドが美しい細工の入った茶器を盆に乗せて現れ、
あの時も酷かったと、
事故当時の話題が次々と持ち上がった。
リカルドは、確かに大トカゲの頭を持つ亜人で、
腕には日を受けて光る鱗が無数に生えてはいるが、
慣れた手つきで、客人たちの前にお茶を並べていく様は、
落ち着いて、気品に満ちてすらいる。
机の上に並べられている菓子の類は、
甘い香りと花を象った繊細な作りで、
見るものを楽しませる。
それを乗せる食器や部屋を彩る調度品も華美ではないが、
精巧な模様が描かれ美しく、
受け取るマーケルやヒュンケルからも、
それぞれ生まれの良さがヒシヒシと伝わってくる。
人間たちが言うような、
闇の魔物らしいおどろおどろした魔術の臭いは、
欠片も感じさせない高級感溢れる品々と、
それを事もなく扱う他の面々は、
やはり自分とは違う世界の生き物だ。
アセナは誰に気づかれることもなく息を付いた。
自国の砂漠化は年々広がっており、
調度品どころか、日々の糧を得ることで精一杯だ。
この菓子一つにしたって、
仲間たちが見たら、なんと言うだろう。
「死んだ魚の量はかなりのもので、」
白鳳の昔話で盛り上がる魔物たちの会話を遮り、
強引に人狼は話を再開した。
「魔術師が対処に困ると嘆いていたが、
恐らく、これも程なく解決するだろう。」
内蔵の除去や水洗いなど手間はかかるが
加工さえしてしまえば保存が利くし、
魔術師宅のエンゲル計数は80%近い。
「あそこほど良質なタンパク質と、
カルシウムの補給が欠かせない場所はないものな。」
アセナの言いたいことを察し、
ヒュンケルが尤もらしく頷いた。
実際、事故現場の片づけをするカオスが、
肩を落としたことをのぞけば、
イアールンヴィズは予期せぬ大漁に大喜びだったらしい。
ハティ達との待ち合わせのため、
魔術師宅にアセナが顔を出した時も、
敷地内にくまなく広げられた干物の周りを、
小さい人が「おしゃかな、おしゃかな!」と叫びながら、
はしゃぎまわっており、
埃を巻き起こすなと怒った父親に追いかけられていた。
「ああ、それは・・・不幸中の幸いだな。
全て食べられなくても、
畑の肥料や家畜の餌になるだろうし。」
実際どこまで食料外とされるのだろうか。
そんな疑問を感じながらマーケルが相づちを打ち、
続いてリカルドも頷いた。
「魚の骨や皮は良い肥料になりますからね。
カオスの事ですから、
余ったからといって無駄にすることはないでしょう。」
それにしてもと、銀悪魔は言う。
「被害が少ないのはなによりですが、
まず、どうしてヌルは水中で爆発などしたのです?」
リカルドの疑問に他の二人も頷き、
視線は再びアセナに集中する。
「水浴びをしようとして、溺れたらしい。」
「水浴び? あのクソ寒いイアールンで、今?!」
答えを聞いたヒュンケルが驚愕の声を上げた。
「まだ6月だぞ! 何でそんなことを?」
「ハティ達が誘ったとのことだが、
湖が冷たいということを、
よく理解していなかった様だ。」
双子は霊体だけに寒さ暑さを感じない。
子供らしい無責任さに、大人達は顔を歪めた。
「ヌルの奴は、平気なのか?」
「平気じゃなかったから、爆発したんだろう。」
取りあえず、死んではいないとのアセナの答えに、
バカなことをとマーケルは頭を振り、
リカルドが心配そうな顔をする。
「それでヌルは、今、どうしているんですか?」
「イデルに戻って大人しくしているそうだ。
大層気落ちしているとか。」
「気落ちなんてするのかね、あれが。」
すっかり呆れかえった様子の吸血鬼公爵が、
大げさに椅子にもたれ掛かり、悪魔たちも鷹揚に頷いた。
新参者で物を知らないくせに、
ホムンクルスの不遜な態度は、目に余る物がある。
ただ、ふてくされているだけじゃないのかとの見方を、
アセナは肯定も否定もしなかった。
「俺も魔術師から聞いただけだからな。
詳しくは知らない。
ただ、イデルに閉じこもっているのは確からしい。」
イデル近くに住む人型機械が、
近いうちに様子を見に行くそうだと、
知っていることだけ伝え、話題を変える。
「そんなことよりマーケル、うちの連中はどうだ?」
商売相手の黒悪魔の王がここに居るのだ。
彼らの森に立ち寄らず、
傭兵として彼の元で働いている仲間について話せれば、
随分な時間短縮になる。
向こうが求める情報は提供したのだ。
多少自分の用事に付き合わせても文句はあるまい。
プライベートから職務に引き戻されて、
マーケルは少し眉を寄せたが、
世間話に延々付き合うほど、
人狼が暇ではないことも承知していた。
「変わりない。よく働いてくれている。」
「欠員は?」
「ない。負傷者も今のところ、出ていない。」
「それで契約の更新はどうする。」
「今と同条件でいいのならば、是非続行して貰いたい。」
「承知した。
あいつ等にはその事をあんたから伝えてくれ。」
「うちへは寄っていかないのか?」
仲間と会って行くものと、
マーケルは考えていたようだが、アセナは首を振った。
「契約に支障がないのであれば、
直接会うべき用事はない。」
彼等も自分も、受け持った仕事をするだけだ。
用件を済ますと、アセナは立ち上がり、
リカルドに礼と退席を告げた。
もう少し、ゆっくりしていくよう引き留める銀悪魔に、
出来るだけ早く自国へ戻らねばならないと答え、
脱いだ帽子を被る。
足早に人狼がでていくのを見送り、
残った魔物たちは揃って嘆息した。
いつも慇懃なリカルドはさておき、
外交上堅かった態度も、
自然と気の置けない者同士で交わす、軽いものになる。
「あいつも、忙しいな。」
「休戦中とは言え、目の前に仇敵が居るからな。
長く家を空けたくないんだろう。」
忙しなさにヒュンケルは呆れたようだが、
事情をよく知るマーケルは無理もないと言い、
リカルドも頷いた。
「先日、小競り合いが起きたそうですしね。
確かに安心はできないでしょう。」
「え、なにそれ、知らん。」
新しい情報に吸血鬼公爵は驚きの声を上げ、
説明を要求したが、銀悪魔は首を傾げた。
「30ほどのハルピュイアが境界線を大きく越えて、
狩りを始めたのがきっかけらしいんですが、
それ以上のことは私も・・・」
「それなら、叩き切った首を向こうに送りつけたら、
相手が引いて、終わったそうだぞ。」
リカルドが言い終わらないうちに、
マーケルが結果を話すと、
ヒュンケルは大げさに顔を歪めた。
「血生臭いなあ。
脅しにしても、やり過ぎじゃないのか?」
「中途半端が一番舐められるからな。
喧嘩するなら、
徹底的にやるって態度を示しておかないと、
すぐ攻め込まれるだろ。
元々、休戦条約を無視するような奴らなんだから。」
そんなものかねと吸血鬼公爵は頬杖をついたが、
彼らと取引をしている黒悪魔は、
人狼たちが一欠片も譲らない、
強硬な態度を示す理由を理解していた。
中東の人狼達は日々悪化する領地の砂漠化に加え、
隣国との戦で疲弊し、数を大きく減らしている。
本来であれば、手を借りることはあっても、
戦力を他に回す余裕などないはずだ。
それでも、出稼ぎにでなければ食べていけない。
主戦力が外へでている今、他国との戦争が起これば、
苦戦は勿論、最悪全滅することも十分考えられる。
かといって、戦闘を避けて一歩引けば、
ハルピュイアだけでなく、砂漠狼の隙を狙う他の魔物も、
挙って境界線を破るだろう。
それを許さない為には、
自分たちがいつでも戦えると言うことを、
強く示す必要がある。
侵入者の首を送りつけるのは、
確かに恐怖で相手を怯ませるかもしれないが、
同時に大きな怨恨を買う。
一歩間違えれば即戦争となりかねない、
危険な選択の土台には戦争になっても何とか出来るいう、
人狼たちの自信がある。
その代表、アセナが受け持つ責任は重いが、
人狼は弱みどころか、重責を苦にする様子すら見せない。
自分の一族に、
彼と同じ程の器を持った者がいるかを考えて、
黒悪魔は眉間のしわを深くした。
その横で吸血鬼公爵が興味深そうに問う。
「そう言えば、あいつに頼んでる傭兵って、
どうなんだ?」
「1人でうちの連中3人分ぐらいは働くな。
なにより、耳と鼻が格段に良いから、
侵入者の発見が早くて助かる。」
「ふーん。」
自分の所も頼めないかなと、
ヒュンケルが首を傾げたのに、
思っている以上に高いぞと、マーケルは忠告した。
彼と甥っ子の棲むドンケルナハト城は、
小さな村が一つ入るほど巨大であるのに、
その隅々にまで、ポルターガイストから始まる浮遊霊や、
持ち主なく動く鎧などが配備され、警備に不足はなく、
彼らを養うべき魔力は土地から提供されるので、
兵糧や経費の心配も必要ない。
城の目的が対人用のおとりであるので、
守るべき領民も城内には居ない。
大がかりな戦闘が起こりそうな気配も、
非戦闘民の心配をする必要もないのに、
吸血鬼公爵が傭兵を望むのは、ただの興味本位だろう。
気楽なものだと黒悪魔は肩を落とした。
「フロティアの黒狼達なら、
もう少し安く契約できるのでは?」
過去、傭兵を派出していた別の地区に住む獣人の名を、
リカルドが代理案として提示したが、
これにもマーケルは首を振った。
「奴らがそう言う仕事をしていたのは一昔前までだ。
100年前、セイロンが暇つぶしに広げた領地が、
結果的に人間との境界線になったからな。
獲物の取り合いがなくなれば、
奴らの森は元々豊かだし、出稼ぎにでる必要もない。
今は不可侵不干渉の掟もあるしな。
仮に引き受けてくれるとしても、
相当ふっかけられると思うぞ。」
砂漠狼達もそこを重々承知しており、
貧窮に屈して安売りすることもなければ、
余所に客を取られることもない程度に、
契約料を調整しているようだ。
生活のためとはいえ、彼らは実に計算高い。
「まだ若いのによくやるよ、あいつは。」
ジャルに爪の垢を飲ませてやりたいとマーケルは言い、
ヒュンケルが小首を傾げた。
「うちのオリバーもそこそこ出来るんだが、
アセナに比べると、どうもなあ。」
歯に衣を着せるような物言いを、
憮然とした面もちで黒悪魔は切り捨てた。
「寝ている時間が長いせいじゃないのか。
何処となく、ぼんやりしてるし。」
冬眠を繰り返し、竜族と同じほどに長い寿命をもつ、
ヴァンパイアの一族としても、
吸血鬼公爵の甥っ子が若すぎるのは、周知の事実だ。
長い人生の大半を寝ていられるとは、
うらやましい限りだと皮肉るマーケルを牽制するように、
リカルドが言う。
「どちらが勝るかは兎も角、
オリバーも相当しっかりしていると思いますが。」
年若く、血筋だけで吸血鬼の代表となったにも関わらず、
同族が彼を悪く言うのを聞いたことがない。
そう、銀悪魔は公爵の甥を褒めたが、
ヒュンケルの不満はただの謙遜ではないようだ。
ますます難しい顔をして、落ち着きなく目を泳がせた。
「いや、確かに仕事はきちんとやるんだ。
しかし、なんというか、変わっているというか、
地に足が着いていないというか・・・」
「生まれが古い子ですからねえ。
私たちの知らない時代の癖もあるでしょうし、
あまり、気にすることもないのでは?」
相変わらず具体性を持たない公爵の言い分に、
銀悪魔は首を傾げ、
黒悪魔はどうでもいいと背を預けた椅子を揺らした。
「仮に変わっていたとしても、それで困るほど、
お前の所は荒れていないだろ。」
別にマーケルはオリバーが嫌いなわけではない。
むしろ、あの養母の息子にしては、
礼儀正しい子だと思っている。
それにリカルドの言うとおり、生まれが古い分、
自分達の知らない苦労も背負っているだろう。
だが、それと比べても。
砂漠の狼達の不遇は彼が口を出すことではなく、
手前勝手な同情だと思いつつも、
言葉は口からこぼれ落ちた。
「お前ら、アセナが幾つだか知ってるか?」
突然の質問に、吸血鬼公爵と銀悪魔が顔を見合わせる。
「30前後じゃないのか?」
「いくら何でも、それは多く見積もり過ぎでしょう。
25になるか、ならないか位じゃないですか。」
アセナの外見と能力を踏まえて提示された予想に、
黒悪魔は大きく首を振った。
「まだ、あいつはたったの16だ。」
「16だぁ?!」
マーケルが予測したとおり、
ヒュンケルは大きな声を上げ、リカルドも目を見開いた。
「16って、まだ、子供じゃないか!」
「人狼は早熟だと聞きますが・・・それでも若いですね。」
驚きを隠せない様子の二人に同意する代わりに、
マーケルは長い鬣を振るい、唸った。
そう、あの人狼は若すぎる。
幾ら能力があり、人手が足らないといっても、
一族の行く末を背負うような歳ではない。
それなのに、アセナは人並み以上に優れた頭として、
役目を果たしている。
自我を抑え、時勢を詠み、
冷徹な判断をくだす様は老獪と言えるほどであり、
自分よりも多く年を重ね、
力を蓄えた他種族の王と並ぶことがあっても、
砂漠狼の代表として、引かない度胸も兼ね備えている。
本来であれば、まだ遊びたい盛りであろうに、
人狼がこなしている職務を思えば、
年齢差にそぐわない、生意気で無愛想な態度も、
値に吊り合う価値があるとはいえ、高額な契約も、
目を瞑ろうという気にもなるものだ。
「しかし、16ねえ・・・」
まだ幼い自分の息子が、
もしアセナと同じ状況に陥ったらを想像すると、
いたたまれない。
似たような年の甥が居るヒュンケルも同じなのだろうと、
マーケルは気の抜けたような吸血鬼公爵の言葉に、
合図地を打とうした。
「ああ、まだ・・・」
「随分な、とっつあん坊やが居たもんだな!」
予想と違う感想に、マーケルは固まる。
そんなことを知らないヒュンケルは、
絶対30過ぎてると思ったと重ねて言い、
改めてリカルドに窘められた。
吸血鬼公爵が暢気に人狼の見た目とのギャップを、
笑う横で、黒悪魔は自分を押さえようとした。
だが、今はプライベートであり、
外交も立場も気にする相手ではなかったのが災いした。
「何で、お前はそうお気楽なんだよ!
もっと他に言うべきことがあるだろ!」
「わあ! 何でいきなり怒ってるんだよ!」
我慢できずに爆発したマーケルのパンチを、
寸でのところでヒュンケルが避け、
そのまま、叩き合い混じりの喧嘩に突入した。
「平和ボケしているとは言わないが、
お前は暢気すぎるんだよ!
大体、あの時だって・・・」
「なんだよ! 嫁さんを怒らせたのは、
そもそもお前が原因だろ!」
魔王会議名物の竜王と魔術師の喧嘩もそうだが、
これが良い歳した大人のやることだろうか。
カオスがルーディガーをからかう為に、
毎度騒ぎをワザと起こしているらしいことを考えると、
こちらは本気なだけに質が悪い。
『所詮男なんて、いくつになってもそんなもん。』
目の前に繰り広げられる子供じみた争いに、
リカルドはカオスの言葉を思い出し、ため息をついた。
こうやって、喧嘩ができるのも仲がよく、平和だから。
だとすれば、むしろ、微笑ましいじゃないですか。
言い訳だと知りつつ、銀悪魔は自分に言い聞かせ、
黙って机を片づけた。