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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

要望にしても、要請にしても。

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要望にしても、要請にしても。



剣と魔法の国と称するのにふさわしいベリエ王国に、
双肩を並べるソルダット共和国は、
些か時代遅れとも思える科学と機械の国として知られる。
数百年に一度廃れた学問だけでやっていけるほど、
このミッドガルド大陸は甘くはないが、
古代遺跡から発掘された遺物を元に研究を重ね、
電気の代わりに魔力、半導体に特殊な鉱石を用い、
作り出した発明品の数々は、
人々の暮らしを豊かにする物として、
国内外に普及し、今やなくてはならない存在である。
もし、何か一つ、誇るものを選ぶとしたら、
人間が選ぶべきはこの技術ではないかと、
竜王、ルーディガーは思う。

遙か昔、まだ壁が完全に壊れきっていない頃、
人に化け、その世界に潜り込んだ時に見た物に比べれば、
今の機械は子供のおもちゃに等しいのかもしれないが、
一人住まいを手助けするには全く問題がない。
呪文を唱えずとも、摘みを一ひねりするだけで、
食事が暖まり、衣類の汚れが落とされ、光が灯るのは、
便利と言わずに何と言おう。
望んだことではなかったが、手元に設置され、
使ってみれば、ただの洞穴を快適な住宅とし、
一度で手放せなくなる代物であるのが、
身を持ってよく解った。

新しい住居の壁は加工済みで、ドアや窓も取り付けられ、
家具は勿論、下水道まで完備されている。
加えてに設置された、暮らしに便利な機械類のおかげで、
植物も少なく、生き物の寄りつかない岩山では、
手に入りづらい薪を集める必要も、
水を汲みにいく労力もなくなった。
その上、食料を長く保存できる冷蔵庫もあったので、
日々の糧を得るために出かける回数も少なくなった。
そうなると、仕事も守るべきものもない老竜には、
やることがなくなってしまうのだが、
用意の良いことに、家具の中には本棚と、
そこにぎっちりと詰まった書物があった。

戦記物を片手に紅茶を啜りながら、
最近自分は、本を読むことしかしていないと、
ルーディガーは考えた。
悪いわけではない。むしろ、快適すぎる。
他にやりたいことも、特別思いつかない。
冬眠から覚めて一度、自国に戻ってみたりもしたが、
結論として戻る必要はないと判断した為、
再び、足を延ばす気にはなれなかったし、
幾ら嫌いだからといって、
必要のない戦を人間に仕掛ける趣味もなかった。
生活が楽すぎると言っても、家事が好きなわけでもなし、
人との関わりを気にせず、
自由気ままにくつろげる今の状況は大変ありがたい。
どんなに嫌っても、
人に近い姿を取る方が何かと都合がいいのは、
数千年以上前から判りきっていることであり、
亜人は勿論、獣族や自分たち竜族ですら、
身を変えるのが当たり前となっているのに、
彼らが作る物だけは拒否するというのも、
おかしな話である。

結局、人の道具に囲まれるのが不愉快だなど、
自身の勝手な我が儘にすぎない。
そう納得してしまえば設置された器具を、
敢えて毛嫌いする気にもならなかった。
それでも、落ち着かない気分になるのは何故だろう。
王族でありながら、若き頃より戦場に身を起き、
快適とは無縁の生活が多かったとはいえ、
時折感じるむず痒さの、
原因を考えていたルーディガーの耳に、
男にしては甲高い声が響いた。
「チョリーッス。三河屋ですー」
「その訳の分からん挨拶は止めろと、言ってるだろう。」
いい加減聞き馴れた声から、不安の原因の到来を知り、
半ば呆れながら竜王は突っ込んだ。

「良いじゃん、別に。
 閣下にあら、サブちゃんとか言われたら、
 俺も引くけどさ。」
招き入れられてもいないのに勝手にドアを開け、
ズカズカと上がり込んできた山羊足の魔術師、
カオスには伝わらないのを知りつつ、
ルーディガーは言った。
「だから、そういう内輪ネタは、
 オリバーとでもやれと言ってるだろう。
 さっぱり判らん。」
冬眠から目覚めた直後より始まった、
奇妙な縁は短くないはずなのだが、
相変わらず、なにを言っているのか多々分からない。
うんざりと顔をしかめたルーディガーを、
気にする様子もなく、カオスは元気よく言い放った。
「あいつは判るだけで、付き合い悪いから嫌だ!
 やるならジィゾとやる。」
「じゃあ、そうしてくれ。」
「まあ、運んでいるものが、実際酒屋っぽいんだよね。」
何時も通り、人の話を聞いているのか、
若干怪しい受け答えをしながら、
カオスは持ってきた物を机に並べていった。
「コーヒーと、缶詰と、牛乳と、調味料の類と、
 あと、クッキーはリキッドからね。」
「別に頼んでないぞ。」
さして大きくもない紙袋一つでどれだけ持ってきたのか、
次々出てくる土産物に、気を使うなと言う意味の文句は、
そっちこそ気にするなと軽く流された。
並べられる品の中には、嬉しい物もあれば、
どうでもいい物も含まれている。
それにしても、銀悪魔からの菓子類は何故、
あんなに可愛らしくラッピングされているのだろう。

「そんなことよりどうよ、新居の具合は。」
トマトの缶詰を片手で弄びながら、
カオスは軽く小首を傾げて聞く。
「竜王閣下にご不満のないよう、
 配備したつもりだけど。」
何せ、俺の都合で動いてもらったからねと言うのを、
ルーディガーは鼻先で笑って切り捨てた。
「居心地が良すぎて、返って具合が悪い。」
「そりゃ、諦めて。」
しかめっ面で返事をする竜王に、
魔術師は屈託なく、ゲラゲラ笑った。
「しかし、誰にも煩わされることもなく、
 気ままな隠居生活とか、羨ましいよ。」
言いながら、戸棚を開けて、
それぞれ、適当な場所に仕舞っていく。
勝手知ったる他人の家というより、
ただの洞窟を改造し、立派な住居に仕立てあげたのは、
彼本人なのだから、知らない方がおかしい。

「俺ものんびり、何者にも煩わされずに、
 日がな過ごしたい。いや、嫌みじゃなしに。」
次々に、持ってきたものを片づけながらぼやく魔術師を、
隠居する歳でもない癖にと、竜王はせせ笑った。
本当の年齢など知らないが、
見かけだけならカオスは二十歳そこそこでしかない。
「自ら忙しくして置いて、何を今更。」
確かに世界中の孤児の世話に加え、
魔王の代表として受け持つ仕事は相当大変だろうが、
育児は勿論、他種族間での同盟も人間との協定も、
皆、彼が始めさせたことだ。
他人を巻き込んで好き勝手やっておいて、
仕事が増えたと文句を言うのはお門違いだろう。
しかし、カオスは口を尖らせた。
「いや、だって、好きで忙しいんじゃないもん。
 仕方がないから、やってるんだもん。」
本来、自分の子供のことぐらい、
自分でなんとかするべきだ。
けれども、それすら出来ないものが多すぎる。
弱者が酷い目に遭って行くのは、もう見飽きた。
これ以上黙っているのもつまらないと自戒を破り、
手を貸すことにはしたが、
だからといって、望んでやっている事でもないと言う。

戸棚の整理を終え、次は冷蔵庫に飲み物を突っ込むため、
元々入っていた中身を引っ張り出し、整理しながら、
魔術師はため息をついた。
「まあ、ガキの世話と新しい親を捜すのは、まだいいよ。
 でも、魔王さん会議はそろそろ、
 自分達だけで管理して欲しいわ。
 人間への通達と各地への伝令は、
 俺以外に出来ないだろうから、引き続きやるけどさ。」
言いながら引っ張りだしたのが、
缶ビールであることに気づき、
そのままルーディガーに投げつける。
昼間から勧められたアルコールが、
人の作ったものであるのに竜王は眉をしかめた。
「それだって、自分がやらせていることだろう。」
怒るだけ無駄だと思いつつ、
当たり前のように人間の物を持ち込むなと、
ルーディガーが文句を言うのに、
カオスはもっと眉をしかめて返した。
「違うもん。俺、会議やったらとは言ったけど、
 強制してないもん。」
いいじゃん、旨いよ、ヴィッセンのビール。
俺はビール嫌いだし、飲まないけど!
等と、よく判らないことを言いながら主張する。
「どこの一族も自分のガキは大事だし、
 余所のにも手を出さないのはいいけど、
 一律揃って何か決めるのは難しいって言うからさ。
 じゃあ、会議やってまとめればいいじゃん。
 やるなら手伝わないこともない、って提案はしたよ。
 でも、議長とか、スケジュール調整とか、
 その他管理に関する細々したことまで、
 やるなんていってないし、
 それは手伝いの範疇を越えてると思います!」
自主性がないとカオスは怒るが、
ルーディガーに言わせれば強制されて自主性も何もだ。
「しかし、その子供に関する協定を結ばせてるのが、
 お前だろう。」
「だから、赤ん坊に手を出すなとも、
 言ってないってば!」
驚いたことに、カオスは最大の目的すら否定した。
「人間年齢5歳以下の子供に危害を加えないとか、
 非戦闘地区の指定とか、
 どれも会議の結果、生まれたものであって、
 俺が指示したのは一つもないっての!」

わざわざ今までの経過など確認したこともなかったが、
認識との違いに、ルーディガーは思わず目を見開いた。
「じゃあ、お前は何をしたんだ。」
強制も指示も行わずに、
他種族に不干渉という暗黙の境界を壊し、
現在行われている規模の連携が可能とは思えない。
また、協定内容が今の形となった理由も判らない。
彼の疑問に、魔術師は重ねて首を振った。
「何もしてないよ。」
そう聞いても納得いくはずもないことを知ってか、
如何にも序でとばかりに付け加える。
「ただ、もうムカついた奴は、
 容赦なく潰すことにしたから、
 俺を怒らせるなら相当の覚悟でやれって、
 言っただけだよ。」
「世間一般では、それを脅迫と言うぞ。」
かの魔術師を敵に回すと知って、誰が逆らえるだろう。
言われずとも、意に添った行動をとるしかない。

大体の状況を把握した竜王は肩を落とし、
非難に等しい指摘が不服なのか、
魔術師は腹立たしげに言う。
「善悪なんか所詮感情にすぎねえし、
 余所様の家庭にどうこう言いたくはありませんがね。
 自分の都合で他人に嫌な思いさせるなら、
 他人の都合で痛い目にあわされても当然だろ。」
怒り、と言うよりは憎しみを込めて、
カオスは荒々しく吐き捨てた。
「良かろうが仕方なかろうが、
 なんの抵抗もできないのに手を出すとか、
 見ても聞いても腸が煮えくり返るんだよ。」
結局、それ以外の理由もないのだろう。

弱肉強食の理をもって、弱者に勝手を強いるので有れば、
逆に強者には従うのが筋であり、
結果、不利益を被ったとしても文句を言う権利はない。
また、責めを負うのが嫌なら、
咎を望む者に勝てばいい。
つまり、不満であればカオスに勝てばいい。
それが結論だ。
至極、真っ当な理屈と言えなくもない。
問題があるとすれば、カオス自身が、
心からそれが正しいとは思っていないことだ。
「しかし、やり方は兎も角、
 口を出したのは事実であるし、
 多少は諸事をこなす義務があるんじゃないのか?」
魔術師の扱いにくい性質を思いつつ、
ルーディガーが首を傾げれば、
カオスはすぐさま反論した。
「だから、手伝いはするって!
 でも、俺がやってるのは手伝いを超えてるだろ!」
経過は兎も角、やると言ったからにはやれとは言うが、
経過が経過だけに、各自動きも鈍くなるだろう。

「その辺は今後の改善に期待するんだな。」
言い合う気力が減少するのを感じながら、
ルーディガーは手元の缶ビールをどうするか考えた。
今、飲むと、
越えてはいけない一線を越えてしまう気がする。
短く息をついた竜王の思いも知らず、
魔術師は怒りながら文句を言い続けた。
「期待できないから怒ってるの!
 自分らで決めたくせに、揃って俺に押しつけやがって。
 そんなに俺の所為だって言うなら、
 もっと好きにやってやろうかと思うね!」
「好きにやった結果が現状じゃないのか?」
「好きじゃありません! 
 仕方がないからやってるんです!」
魔王も育児もやらずに済むならやりたくない。
だが、放っておくと精神安定上よろしくない。
だから、やる。

好きだからやりたいことと、仕方がないからやること、
これは確かに違うだろう。
しかし、嫌な思いをしないために行うことも、
それを良しとする言う意味では、
やはり好きでやることではないのだろうか。
少なくともカオスは幼児を守ることを
誰にも強制されておらず、
他の面々は無言の圧力あって動いているのだから、
立場が違う気がする。
だが、選択権は各自所有しており、
幼児に手を出さないぎりぎりの一線は保ちつつも、
会議招集も他との連携も無視している一族がいるのも、
また、事実である。
と、すれば、協力を選んだ以上、
会議の運行はその面子で行うべきという主張は、
やはり正しいのだろうか。
しかし、生命の安否が架かれば選択肢は多くないと、
ルーディガーは首をひねった。

堂々巡りになりそうな会話に飽きたのか、
缶詰をもったままの右手でルーディガー指さして、
カオスはこれで終わりとばかりに大仰に宣言した。
「大体、勘違いされてるから、
 この際はっきり言っとくけど、俺は子供嫌いなんだよ!
 うるさいし、手間かかるし、言うこと聞かないし!」
「誰が信じるんだと、俺も言っておこう。」
言われた側から否定して、
竜王は缶ビールのプルタブをこじ開けた。
プシュッと小気味の良い音が響く。

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