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白鳳は舐められてる。

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白鳳は舐められてる。



 「アセナ、尻尾食われてるぞ!」
「・・・子供のすることだから。」
忠告を受けたときには既に諦め、
現状を受け入れていたのか、
年若い人狼の族長は慌てることなく、
自分の尻尾をしゃぶっている男の子を驚かさないよう、
ゆっくりとおもちゃを取り上げた。
そのまま、半獣人の姿から獣へと変わると、
腹ばいに子供の隣へ横たわる。
子供は目の前で、青年が狼へと変身するのを、
口を開けてみていたが、
自分の隣に獣が寝そべったのを見ると、
早速、よちよちと歩み寄り、
のしかかってみたり、耳を触ってみたりと、
おびえることなく、新しいおもちゃで遊び始めた。
狼が大人しくされるがままになっているのを見て、
他の子供たちも興味津々と言った体で、集まってくる。
灰色の閃光と呼ばれる人狼も、これでは形無しだ。

少し離れたところでは吸血鬼たちが、
手下のコウモリを使った曲芸で子供の興味を引き、
死神と称される人型機械が、
意外にも慣れた様子で、泣いている子をあやしている。
他もおぼつかない手つきで、
手をのばしてくる子を抱き上げ、
転びそうな子を支え、足下を通り過ぎる子を避けた。
そんななか、鳳一族の長、ジャル・ダブルヘッドは、
安全な木の上で高みの見物を気取っていた。
その飛行速度から白銀の稲妻と称される彼だ。
一足先に安全地帯に避難するのは簡単だった。

相手をしろというのなら、
魔術師の養い子らに自慢の翼の一つや二つ、
広げて見せてやること自体は吝かではないが、
人狼がやられているように、
涎でベトベトの手で触られるのは御免だ。
「アイツも、よく付き合うよ。」
狼、犬系列は元々子供に甘いし、
種族全体で面倒をみる傾向がある。
アセナが大人しく相手をしているのも、
そういった土台からであろうが、
好奇心の固まりである子供らは、
悪気は無くても容赦がない。
耳を引っ張られ、目をつつかれそうになりながら、
アセナは黙って耐えている。
全く、辛抱強いことだ。

気がつくと、自分の足下でも何人か集まって、
珍しい、羽の生えた大人を見ようと、画策していた。
お愛想程度に翼を何度か動かすと、
それだけで歓声があがる。
鼻を垂らした3歳ぐらいの子供が、
純白の翼を指さして、嬉しそうに言う。
「ちれーだねえ。」
綺麗、と言いたかったのだろう。
子供のくせに判っているじゃないかと、
彼は口元を緩めた。
一族のなかで最も白いといわれる翼を誉められるのは、
やはり気分がいい。
だが、その手には乗るものか。

山羊足の魔術師は、情操教育だ、社会経験の一巻だ、
面白い動画が撮れたと、何かと理由を付け、
自らの家庭事情に周りを引き摺りこもうとする。
幼い頃から子供たちに色々な種族とふれあわせ、
成長に役立たせようという親心を名目に、
普段、自分の子供とすら関わることのない者等の、
意識改革を狙っているらしい。
だが、最大の目的は世話係を増やし、
自分の手間を少しでも減らすことであるのは間違いない。
油断すれば、いつ「ちょっと頼むわ。」などと、
二・三人、押しつけられることか。
まだ、結婚どころか、特定の相手もいないのに、
今から所帯じみるのは御免だ。

当の魔術師はまだ竜王と口論を続けている。
「怒鳴るなよ、ガキどもが怖がって泣くだろ!」
「むっ、」
自分を棚に上げて怒るカオスに、
ルーディガーが詰まった。
人間とはいえ、年端もいかない子供らを、
竜王も泣かせたいはずがなく、
苦虫を噛みつぶすようにして、非難を飲み込む。
幼児の前で大声を出すのは、確かに大人げない。

人の姿に身を変えていても、
威厳と覇気を感じさせる佇まい。
流石に金色の髪は灰色掛かり、
顔には皺が幾筋も浮かんでいるが、
長命な一族としても壮年の域に達しながら、
全く衰えを感じさせないのは流石だ。
正体を知らぬ人間がみても、
名のある冒険者かなにかだと思うに違いない。
幾多の戦場を駆け抜けた生粋の兵士であるが、
痩躯の長身は戦士というより、軍師に見える。
地位も武力も身につけた竜王ともあろうものが、
見た目だけとはいえ、
年若い魔術師に振り回されるのは、さぞ不本意であろう。
「閣下も、苦労が多いよな。」
気の毒にと、ジャルは呟いた。
閣下とは、カオスがルーディガーにつけたあだ名だが、
血筋を考えても、おかしな呼び方ではなく、
ジャルも揶揄なしで、そう呼んでいた。
鳥と竜・蛇は歴史上、仲がよくないが、
彼はある事情から、他の仲間たちと違い、
竜に対する偏見はもっていなかった。
特にルーディガーは実力からしても、
太刀打ちできる相手ではなかったし、
彼が魔術師を押さえなければ、カオスは容易に暴走し、
会議は明後日の方向へ飛んでいくに違いないのだ。
そうなったら、どれだけ被害をこうむるかわからない。
感謝はしても、憎む筋はない。

そうこうしている間に、
子供らは新しい遊び場に慣れたようだ。
泣き声はいつしか収まり、
聞こえるのは笑い声だけになっている。
だが、それが喧しい。
甲高い歓声の中でカオスが言う。
「よし、じゃあ、そろそろ始めるかね。」
「会議やるつもり、あったのか。」
耳を引っ張られたまま、アセナが突っ込む。
他からも、苦情が挙がったが、
子供らの声でかき消される。
とてもじゃないが、話し合いが出来る雰囲気ではない。
「これでは会議も何もないだろう。」
代表して、ルーディガーが苦言を述べるが、
魔術師はやはり意に介さない。
「大丈夫。今日は結果報告だけだから。
 適当に聞いといてくれればいいよ。」
言いながら、メモを腰ポケットから引っ張り出した。

「で、今期の境界線だけど、
 シュテル近辺は、取りあえず今のままな。
 ただマーケル、シムリ湖近辺は空けてくれ。
 この時期、大カタツムリが湧くだろ。」
早速、人間と談合結果が各自に伝えられる。
変更が多いのは、やはり人の集落に隣する地域で、
特にフォートディベルエの首都、
シュテルーブル近辺に注文が多い。
言われて、黒悪魔の長が頷いた。
「あれは下手すれば森の木を食うからな。
 退治してくれるんなら、願ったりだ。
 ただ、森にだけは入るなと重ねて言っとけ。」
「はいよ。」
頑なにテリトリーを主張するマーケルに、
カオスは頷いて了承したが、
ちゃんと聞いているのかは、甚だ怪しい。
続いて、ベルエ各地域へ話が移る。
「それとセイロン爺、
 新人冒険者をそっちにやりたいんだが、
 洞窟の進入区間、4階までに留めても別にいいよな?」
「儂の所まで来れるような、
 活きのいいのが少なくなるのはつまらんがの。
 まあ、下の連中が上へ行かんようにしとこう。」
「オリバーの所も人が増えるかもしれんけど、
 今まで通り地下まで行くことはないし、
 代わりに第二邸への道をふさぐから。」
「任せるよ。」
弓使いが多く住むフロティアの森深くにある、
死者が徘徊する洞窟の主は、
首を軽く竦める以上の不平は言わず、
魔術都市ニュートーン近辺に居を構える年若い吸血鬼も、
素直に決定を受け入れる。
ただ、人間側に追加要望があったようで、
続いて注意が入った。
「あとヒュンケルは、もうちょっと大人しくしとけ。」
魔力は高いが年の足りない甥、オリバーの後継人として、
行動を共にしているヴァンパイアの貴族が、
名指しの指示に整った眉をひそめた。
品を崩さない程度に不快感を示す。
「なんだ、人の楽しみにケチを付ける気かね。」
自らの敷地に入り込む人間を、
追い払うのは当然の権利だと、
公爵とあだ名される魔物が主張するのに、
どうでも良さそうにカオスは対応した。
「普通に侵入者討伐なら何も言わねえけどさ。
 お前、こないだ美人だからって口説いただろ。
 シュテルで噂になってるぞ。」

魔術師の情報網は広い。
ただ人間の管轄者と話をしてきただけでは、
決して得られない情報に、今度は甥っ子が顔をしかめた。
「叔父さん・・・」
「判った。判ったから、そう睨むな、オリバー」
ヴァンパイアたちが話し合い、というより、
お説教とそれに対するいいわけを始めるのを無視し、
カオスは話を進める。
「次はソルダットのほうな。
 ジィゾ、ヴィッセンからブロウブルグ間で、
 暫く商隊が通るけど、手を出すなよ。
 イデルと正反対だし関係ないとは思うが一応言っとく。
 ヌルもだぞ。」
大国フォートディベルエと、
唯一肩を並べるソルダットランドに、
住を構える以上の深い関わりをもつ、
人型機械とホムンクルスは正反対の反応をした。
「別に構いませんよ。」
『何故、駄目なのか。』
ジィゾが欠片も態度を変えることなく承諾したのに対し、
ヌルが即座に理由を問いた。
行動を押さえられる不満なのか、単なる疑問なのか、
無表情な顔からは、今一つ読みとれないが、
通達をよく思っているようには見えない。
生意気な新参者にカオスがため息をつく。
「お前、この前、派手にセナンの大橋壊しただろ。
 そのせいで面倒なことになってんの。
 てか、もうちょい分裂押さえられないのか?
 イデルからも溢れそうだし、
 大がかりな討伐隊が組まれそうなんだよ。
 真面目な話、少し数減らさないと庇いきれないぞ。」
ソルダットの首都・学術都市ブロウブルグと、
最新端の科学技術の集まるヴィッセンスブルグを繋ぐ、
大橋セナンが破損したとあれば、
人間側の被害は甚大に違いない。
修復のために条約の緩和や、
非戦闘対象の拡大を求めてくるのは、
橋の重要性を考えれば当然だ。

そもそも、人間たちは只でさえ、
このホムンクルスを非常に驚異と考えている。
ヌル自身の攻撃力や潜在能力は勿論だが、
一定の体力を蓄えると分裂する習性がある所為だ。
主である彼から切り離された分身は、
そのまま次々と分裂を繰り返し、姿形を変えて増殖する。
自分たちが作り出したとはいえ、
絶え間なく増えるホムンクルスに人は恐怖し、
住処となった古代街イデルに強固な、
ヌル本体ですらも、
カオスが作った裏ルートを通らなければ、
出られないほどの結界を張った。
結界で押さえられていると信じているからこそ、
人間たちはイデルを危険地区として、
立ち入りを制限するに止めているに過ぎず、
危険だと判断すれば対策として、
国を挙げての討伐隊が結成されるに違いない。

ソルダットの人間は合理的な分、
ベルエより、この手の行動が早い。
もっと危険性を感じ取って自重するべきなのだが、
原因のホムンクルスは不愉快そうに顔を歪め、
カオスの忠告にも首を振った。
『来たければ、くればいい。』
「しゃあねえなあ。知らねーぞ。」
非協調的なヌルに、カオスは肩を落としたが、
それだけで済むはずもなく、
同じくブロウブルグ西方の山岳に身を置く、
ルーディガーにも影響は及んだ。
「後、閣下、悪いんだけど、
 今住んでる山から二峰下がってくれよ。
 でないと橋の材料集めるのに鉱山が足らない。」
「なんだと、またか?」
「頼むよ。
 この工事が終わったら、
 それなりの対価を支払わせるから。」
セナンの大橋は非戦闘地域ではないとはいえ、
ヌルは表向き、
イデルから一歩も出られないことになっている。
原因をごまかすためにも、
交渉先と帳尻あわせをしなければならなかったのだろう。
珍しく、頭を下げるカオスに、
ルーディガーは仕方なさげに頷いた。
意外なことだが、結構カオスはルーディガーに甘え、
竜王もそれに目を瞑っている節がある。
なんだかんだいって、
お互いを認めあっているのかもしれない。
ならば、喧嘩もしなければ良さそうなものだが、
それとこれは別な話のようだ。

他にも何点か、変更点が告げられたが、
境界線は2割も変わらず、
ソルダット北東に位置する、
人里離れたジャルの縄張りに変化はなかった。
「人間側との交渉結果は以上で終わり!
 なんか文句ある奴は挙手!」
カオスの確認にも、手を挙げる者はいない。
ただ、好意的に相手をしようと、
子供達を追いかけていたセイロンが、別件で抗議する。
「協定内容に文句はないがの、
 子供らが儂の顔を見ると逃げるんじゃが、
 これは、なんとかならんのか?」
「ならん! 鏡見て出直せ!」
あっさり、切り捨てられた。
死者の皇帝はゾンビのように腐って爛れてこそいないが、
子供じゃなくても、一緒に遊ぶのは確かに嫌だ。

「じゃあ、そんな感じで、
 来てない連中には俺から伝えとくわ。はい、解散。」
本当に協定の結果だけで終わり、
珍しく早い閉会をカオスが告げる。
遠くから呼び出した割にこれだけかと、
いいたくなる内容量とはいえ、
揚々子供たちから解放されることになり、
各自ホッとした顔で腰をあげる。
だが、魔術師の話はまだあった。
「後、マーケルとアセナとジャルは残れ。」
「なんでだ。」
居残りと聞いて、
黒悪魔の長が不満を露わに理由を問う。
「用事があるなら早くしろ。
 お前と違って、俺は忙しいんだ。」
黒悪魔の象徴である山羊の角と黒く長い鬣をふるわせ、
マーケルが催促すると、
少し驚いたようにカオスは目を開き、
取り出した封筒をヒラヒラと振った。
「え、なに?
 前線に出張中の美人秘書ヨルリットちゃんから、
 奥さんに内緒の手紙預かってるとか、
 公然の場で言ってよかった?」
ザワと、辺りがどよめく。
集まる好奇の視線に慌てつつ、マーケルが怒鳴る。
「言っちゃ駄目だと思ったなら、何故言う!」
慌てて引ったくろうとする黒悪魔を軽く避け、
手紙をひらつかせながら、
カオスはのんびりと付け加えた。
「まあ、建設中の長壁の材木代について、
 毎回経費連絡しろって奥方に言われてるのに、
 めんどいからごまかせって、
 指示受けたのがバレてやばいですって話だけどね。」
「何故に無駄に誤解を生むような言い方をするか!」
わざわざ好奇心を煽る言い方をした割には平凡な内容に、
周りの興味は一気に冷めたが、
焦った分、心当たりがないわけではないようだと、
裏で勘ぐるものもいるだろう。
有らぬ疑いを不必要に掛けられたマーケルが、
怒るのは当然だ。
伝言を預かってきたのに、
無愛想に対応された腹いせだとしても、
全く酷いやり方だが、カオスはやっぱり気にしない。
マイペースにも、あっさり話題を次へ移す。

「アセナにはハティとスコールから輸送物資の件で。」
「わざわざ、どうも。」
「この後、今回の協定の連絡で行くから、
 返事を書くなら今のうちだぜ。」
ようやく受け取った手紙を、
荒々しくポケットにしまうマーケルを横目でみつつ、
アセナが北の森に住む兄弟分からの手紙を受け取る。
こんな騒ぎを起こした後で親切にされても、
対応に困るのだろう。
差し出された手紙をくわえると、少し小首を傾げ、
灰色の人狼は魔術師の申し出を断った。
「後で別途連絡する。」
「はいよ。じゃあ、奴らにはそう言っとくわ。」
アセナが下がり、
残るは自分だとジャルは木から飛び降りた。
伝言をもらう予定はない。
もしかして、諸事情で人里に降りた知り合いから、
何か言づてでもあったのだろうかと軽く期待するが、
それはむなしく裏切られた。

「後、ジャル君は、
 残ってチビ共の相手をするように。」
「ちょ、なんでだよ!」
突然の宣告に、思わず声を大きくしてしまう。
何故そんなことを言われるのか戸惑うジャルに、
若干不機嫌そうに眉を上げ、カオスは冷たく言い放った。
「他のみなさんが、それぞれ頑張って相手をしてる中で、
 一人、サボってたから。」
併せて周囲から白眼で見られ、
慌てて、ジャルは反論する。
「だからって、そりゃないだろ!
 そもそも、何で俺らが、
 あんたの所のガキの相手しなきゃならないんだよ!」
本来、子守を強制されるのがおかしいと、
正面から抵抗してみるも、
それが通用するなら、ルーディガーとカオスが、
毎回口論になることはないだろう。
案の定、魔術師は呆れた顔をした。

「会議不参加者への連絡、且つ人間側との交渉を、
 誰がやってると思ってるんだよ。
 別の形で返してもらわなきゃ、やってられねえっての。
 じゃなきゃ、お前が伝言役やるか?」
言われて、ジャルはぐっと詰まった。
確かにカオスは全面的な人間との交渉と、
会議に出席しない者等への、
決定事項の通告などを受け持っている。
魔王の代表と言えば聞こえはいいが、
人間と会うことすら嫌がる者が多い中、
小うるさい輩との面倒な話し合いや、
協定のすり合わせを一人で行っているからには、
相応の苦労があるだろう。
会議不参加者への連絡だけとっても、
東西南北を駆け回らねばならない。
一瞬にして千里を駆けると言われる、
魔術師カオスでなければ、勤まる仕事ではあるまい。

「普通に回ったらお前でも数日かかるだろうな。
 それを1時間の子守で勘弁してやるってんだ。
 ありがたいと思え。」
さして背の高い方ではない彼に、
見下されるように言われ、白い鳳凰は唇を噛みしめた。
それをさもバカにした様子で、魔術師が選択を迫る。
「で、どうするんだ?
 1.このまま、ちみっこどもの相手をする。
  2.各国秘境巡りをする。
 3.今日のおやつの唐揚げになる。」
「なんで選択肢が増えてるんだよ。」
当たり前のように付け足された、
危険な選択肢に突っ込むと、
どうでも良さそうにカオスは頭を掻いた。
「小腹が減ったな、と思って。
 俺はさほど肉は好きじゃないけど、鳥は食う。
 ダチョウは油がない分堅いけど赤みでさっぱりしてて、
 雉は臭みがないって知ってる?」
「知りたくねえよ、そんな豆知識!」
自分をなんだと思っているのか。
思わず叫んだジャルの思いとは裏腹に、
背後から失笑があがる。

「ぷぷ、確かに鳳凰姿は鶏そっくりじゃしの。」
「誰が上手いこと言えと。」
「爺さんとおっさん、うるせえぞ!!」
口元を押さえたセイロンと、
苦笑いを浮かべたヒュンケルを、
大声でジャルは怒鳴りつけた。
しかし、周囲の反応は冷たい。
『唐揚げとは何か?』
「鶏という食用鳥の肉を塩こしょうで味付けし、
 小麦粉の衣を付けて、油で揚げた料理ですよ。
 因みに衣が片栗粉だと、竜田上げと呼ばれます。」
『それは、うまいのか?』
「老若男女問わず、人気のある調理法ではありますね。」
『ふーん・・・』
「おい、何の話をしてる!」
ソルダット二人組の不穏な会話を咎めるも、
時すでに遅し。
ヌルの視線からは、ありありと考えが読めた。
『あいつ、おいしいのか。』
「食い物じゃねえ! 俺は食い物じゃねえぞ!!」
危険な思考を必死で否定するも、
ホムンクルスはそっぽを向いただけで、
考えを改めた様子はない。
「やれやれ、困りましたねえ。」
余計な知識を与えておきながら、
ため息をつく、ジィゾの他人事ぶりが憎たらしい。

しかも、大人の話を、
子供は聞いていないようで聞いている。
「からあげ?」
「おやつって言った?」
大人たちの会話の中で、わかる部分をつかみとり、
わらわらと子供らが集まってきた。
遊び回って、お腹が空いてきたのだろう。
にこにこと満面の笑みを浮かべている。
このままでは、強制的に3になりかねない。
「だから、唐揚げはないって言ってるだろ!」
ジャルの悲鳴に、子供たちは不思議そうな顔をした。
誰が唐揚げにされるのかまでは理解していないのだ。
それでも、比較的年かさの子は、
大好きなおやつが却下されたのは分かったようで、
悲しげに父親にしがみつく。
「からあげ、食べらんないの?」
「からあげ、食べたいー」
泣きつかれ、父親はため息をついた。
「しょうがないなー
 おい、ジャル。まずは片羽、提供しろ。」
「駄目に決まってるだろ!」
どこまで本気なのか全く判らない。
真顔で無茶を言うのは魔術師の習性だが、
言われる方はたまったものではない。

「うだうだ言ってないで、さっさと決めろ。」
横からルーディガーの口出しが入った。
勝手なことをとジャルは噛みつこうとしたが、
竜王がわずかに首を振り、隣のオリバーも黙って頷く。
「そろそろ、やばいぞ。」と。
気がつけば、カオスの眉間の皺はかなり深い。
「会議に来るだけマシだけどさ、
 意見は言わない、他人の話聞かない、
 決めたことは守らない、
 その上、手伝いもしないって大人としてどうなの。」
中盤から、どの口が言うかと反論したくなるが、
人里離れた地に住むため、
会議内容と基本無関係のジャルが発言するどころか、
ろくに話を聞いてもいないのは事実だ。
外出先での流れで規定を破ったことも幾度かある。
どうやら、以前から魔術師の不興をかっていたようだ。
己を棚に上げる辺りが理不尽だが、
苛立つカオスは色々と怖い。

「それで、どうするんだ。
 帰ってもいいなら、俺は帰るぞ!」
黒悪魔の長も怒鳴る。
「どうせ、戻ったところで、
 する事なんかないんだろう。
 餓鬼の面倒ぐらい、みればいいじゃないか!」
毎日、人間との攻防戦に明け暮れている身としては、
縄張り争いに縁のないジャルが気楽に見えるのだろう。
マーケルの言葉にも険があった。
先ほどの八つ当たりに見えなくもないが、
ジャルに不満があるのはカオスだけではないようだ。
だが、ハイそうですねと言えるほど、
彼の身分も楽ではない。
「おい、勝手に暇人扱いするなよ。」
一族の長ともなれば、それなりの責任はあるし、
仲間達や弟妹たちの先も考える必要もある。
自分だけが忙しいと思うなと不快を示したが、
黒悪魔の長は更に言う。
「似たようなもんだろうが。
 前線に手伝いにくるわけでもなけりゃ、
 後方支援するわけでもない。
 餓鬼の面倒をみるなり、唐揚げになるなり、
 少しは役に立て!」
「だから、唐揚げは止めろっていってるだろ!」
いくら不満があるからと言って、
唐揚げに話を戻すのはどうだろう。

四方八方からの鶏扱いに怒るジャルの肩を、
いつの間にか人型に戻ったアセナが叩いた。
「もう諦めて、大人しく子守しろ。」
「ムキになっても、良いことないって。」
併せて吸血鬼の若いほうにも宥められるが、
既に問題は別次元まで飛んでいる。
「ふざけんな! 子守は兎も角、
 何で俺が鶏扱いされなきゃなんねえんだ!
 アセナだって犬呼ばわりされたら怒るだろ!
 オリバーはコウモリって言われても、黙ってるのか!」
「確かに犬と狼は別種族だから反論はするが・・・
 巷で言われてるほど、他種族感も差別意識もないから、
 気にならないのが本音。」
「僕はむしろ蝙蝠扱いが何故蔑視となるのか、
 反発しなければいけない立場にいる。」
同意を求めたら、即行で否定されてしまった。

「畜生、判ったよ!!」
孤立無援の状況に、
半ば、自棄を起こしてジャルは了承した。
「ガキの面倒を見ればいいんだろ、見れば!」
「おうともよ!
 しっかり世話しとけ!!」
カオスに向かって怒鳴ると、
何の滞りもなく、あっさり押しつけられた。
「じゃ、そういうわけで、後、頼んだな。」
今までの不機嫌さが嘘のように、
鼻歌交じりで、魔術師が出かけていく。
「くっそ~ なんか、いいようにやられた気がする!」
地団太を踏みつつ悔しがれば、
周囲からあきれたような声が挙がった。
「やられたんだよ。」
「だから始めから、大人しく協力してればいいのに。」
どこからともなく、聞こえる嘆息が腹立たしさを煽る。
やるせない怒りに頭をかきむしっていると、
トコトコと足下にカオスの愛娘、キィがやってきた。

会議は人や他種族との協定を結ぶためにある。
カオスが協定を望むのは、赤ん坊のためだ。
彼が赤ん坊を大事にするようになったのは、
愛娘が原因だろう。
即ち、本日降り懸かった災難全て、こいつの所為だ。
そう考えると非常に腹立たしい。
しかし、何も知らず、自分を見上げて、
にこにこしている無邪気な様子に、怒る気も失せる。
代わりにやってきた脱力感を持て余しながら、
ジャルはため息をついた。
「何だ? なんか用か?」
聞いたところで、
明確な返事がくるとは期待していなかったが、
ひざを折って視線を合わせる。
それにぷぷぷと笑って応えると、
小さい人はジャルを指さして、こう言った。
「白色レグホン。」

白色レグホン。
一般的な採卵用として有名な鶏。
フォートディベルエ、ソルダット双方で産卵鶏として、
約80%を占める。
「・・・ねえ、そんな難しい言葉、
 どこで覚えたのよ。」
まさか幼児に品種限定されるとは。
自慢の白い翼でこんな目にあうとは、
考えたこともなかった。

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津路志士朗
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