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帰れない。

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帰れない。




「カオスさん、又貸しするから、本貸してよ。」
「別に良いけど、借りる態度としてどうなの、それ。」

今日は多種族協定会議、通称魔王会議の日だ。
会議場談話室で顔をつきあわせた、
山羊足の魔術師ことカオス・シン・ゴートレッグと、
悪霊棲まう常闇の城ドンケルナハトの現管理人、
吸血鬼のオリバー・スドウのつき合いは非常に長い。
遙か昔、神秘にあふれた世界アースガルドと、
魔力の存在しない大地ミッドガッドが、
二つに分け隔てていた頃から始まり、
過ぎた月日は1千年を越えている。
加えて、オリバーは幼年期、
家庭の事情でカオスに預けられ、
養育されていたこともあり、
もはやお互い身内と言ってはばからない間柄だ。
オリバーが成人してより、
本来の所属である吸血鬼の国に移ってからも、
その関係は代わらず、
何年、何十年会わずとも親子、
というにはカオスの見た目と精神年齢が低いので、
兄弟のようなつき合いに変化が生じたことはない。

また、今となっては数少ない、
人が支配していた時代のアースガルドを、
身を持って知るものであり、
だからこそ通じる当時の冗談を言い合っては、
周囲を困惑させる仲でもある。
最近では当時のメモリーディスクを所有する、
人型機械のジィゾが間に加わることもあるが、
基本的には理解されず、
そろって冷たい視線を浴びることも度々の、
いわば似たもの同士であった。

共に過ごした時間が長ければ、
趣味や習性もにてくるようで、
今までも、それぞれ集めた古代の資料を交換したり、
借り受けたりはよくあったが、
最近、オリバーは貸し出し先を広めたらしい。
お互い学者ではなく、集めた書物に学術的価値はない、
むしろ娯楽の類であるだけに、
古代文化特有の環境や設定はさておき、
文字さえ読めれば現代の者にも、
話の流れぐらい理解できなくもない。
翻訳してまで、案内する必要があるかは兎も角、
需要があるなら貸しだすのに異論はないが、
気乗りしない様子でカオスは詳細を聞いた。

「因みに物は何よ?」
「武男君の奴。こないだアセナに貸したら、
 『是非、続きを。』とのことだったので。
 でも僕のは原文だし、そもそも朔夜さんに貸したまま、
 帰ってきてないんだよ。」
「あーね。やはり、セナ夫にもツボだったか。」
該当の本と貸し出し先を把握したカオスは、
かりかりと頭を掻き、オリバーが首を傾げる。
「『やはり』ってなにさ?」
「あれは、犬、狼族に人気が高いんだ。
 提供次第9割の確率でバイブルとして扱われる。」
主人公の生き様が理想のリーダーとして、
固定種族の賞賛を受けるのだが、不器用熱血漢の魅力は、
砂漠の人狼にも有効のようだ。
軽く頷いて、山羊足の魔術師は了承の意を示した。
「それなら実家にあるから、俺が許可出したって、
 ドクに頼んで出してもらえ。」
飼い犬の名前を告げるのに、
吸血鬼の青年は再び首を傾げた。
「持ってきてくれないの?」

山羊足の魔術師と言えば、変幻無限の魔術によって、
想像を現実に変え、
瞬く間に千里をかける唯一の存在として有名だ。
いつもであれば、さっと不可侵の神域にある自宅から、
5分とかからず持ってきてくれる。
しかし、今日に限って顔をしかめ、手をこまねく様子に、
何かあったことをオリバーは察した。
「どうしたのよ?」
「一口に言うと、犬どもの機嫌が悪い。」
問われてカオスは、実に嫌そうに溜息をついた。

カオスは、使い魔として7匹の犬を飼っている。
ドーベルマンのメルセデス・スリースター、
ジャーマンシェパードのシルバーリングス、
コーギーペングローブのスカイハイ・ホワイトプロペラ、
ボーダーコリーのドクター、
シベリアンハスキーのスタンダード・ダブルス、
アメリカンハスキーのシステムルッツ、
豆芝のリトル・タイムカウンター。
カオスに代わって留守を守り、
集めた乳幼児の育児を受け持つ彼らは、
主人に絶対の忠誠を誓っており、志気高く、
職務に忠実である。

だが、それ故に理想を追い求め、
主に刃向かうことがなくもない。

「家のこと放ったらかしで出歩いてばかりいるから。」
また、育児を嫌っての長期不在を、
リーダー格のメルセデスが怒ったのだろう。
今までも何度か有った流れに、オリバーは眉を顰めたが、
カオスは静かに首を横に振った。
「今回はそれじゃねえよ。」
「じゃあ、どうしたのよ?」
「ほら、今、俺は紅玲のところにいるだろ?」
現在、魔術師が居を置く先の弟子の名前が挙がり、
吸血鬼の青年はこともなげに頷いた。
「ああ、別宅ね。」
「そういう不倫先みたいな言い方は感心しない。」
「似たようなもんじゃん。」
指摘されて尚、省みる様子がないのに、
カオスは改善を諦めた。
「まあ、いいや。こないだ、その別宅に、
 新しい奴が加わることになってさ。」
居候先は人間の冒険者が作る、
個人ギルドの共同住宅である。
当然人が増えることも、減ることもあるが、
実にむさ苦しいことに先日3名の男性が仲間に加わった。

「その一人がスタンって言うんだけど、
 “スタン”はうちにもいるだろ、紛らわしいことに。」
正確には“スタンダード”だが、
フルネームで呼ばれることは少ない。
「確かに。」
チョコレートブラウンの毛並みをした、
飼い犬の一匹の顔を思い浮かべながら、
オリバーが相づちを打てば、
だるそうにカオスは先を続けた。
「で、会話上の判別をどうするかと思って。
 初めは形状を付ければいいかと思ったんだが、
 大きい方とか、目つきの悪い方とかって、
 どっちも似たようなもんだしなあ。」
犬の方とか、白い方とか、区別できないわけではないが、
どのみち固有名詞に追加が必要でもあり、面倒だ。
呼称はシンプルに限ると魔術師は鼻先で笑う。

「で、どうせならこの機会に、
 うちのはダブルスで統一するかと思ったんだけど。」
「あー 確かにそんな呼びかたもしてたね。」
件のハスキーは、
基本、上の名前を縮めて呼ばれているが、
時々、下の名前“ダブルス”とも言われる。
「それでいいじゃない。」
突拍子ない変更でもなく、
オリバーからみれば何の問題もないように思えるが、
カオスは首を横に振った。
「けど、ルッツが反対してな、
 それが拗れて偉いことになった。」
もう一匹のハスキー種が、
相棒の扱いに納得しなかったそうだ。
「スタン本人は、気にしなさそうだけど。」
「そうなんだ。」
オリバーには今一、しっくりこない理由で、
当のスタンもどうでもいいことであったとしても、
彼を兄貴分と慕うルッツには違ったらしい。
後からきた者の為に前からいる者を変えるのは、
順序としておかしいというちょっとした反発から、
口論に発展し、最終的に犬たち過半数から反感を買った。
「あいつ等より、新参者を優先したと、
 判断されたのがいけなかった。」
遠い目をして語る魔術師に、
吸血鬼の青年は肩を落とした。
犬族は情深いがそれだけに嫉妬深い。
大好きなご主人が自分達を差し置いて、
他の者を大事にするなど、許せることではないのだ。

「それで、どうするのさ。」
愛故とは言え、使い魔が主の命令に従わないなど、
放置して良い案件ではない。
さっさと改善すべきな案件に眉尻を下げたオリバーに、
カオスは内容は兎も角、きっぱり言い切ってみせた。
「紛らわしいからダブルスで統一すると、
 宣言はしてきた。そのまま逃げてきたんで、
 今どうなってるかは知らん!」
胸を張った発言の割に、余り改善されていない。

「と、言うわけで、本を貸すのはいいけど、
 俺は暫く家には帰らないからな! だって、怖いから!
 あいつ等にもそう言っとけ!」
言いながら席を立ち、弟分からも逃げるカオスに、
オリバーはがっくりと肩を落とした。
「情けな。」
山羊足の魔術師と言えば世界最強の魔王であるが、
大体こんなものである。

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