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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

人型機械の見る夢。

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人型機械の見る夢。



また、いなくなった。
もう大人と呼んで、
差し障りのない年齢になったにも関わらず、
行き先を告げることなく、
ふらふらといなくなってしまう習性は、
幾つになっても直る気配がない。
サブマスターとして登録された青年の姿を追って、
私は外へ出かけることにした。

途中、彼を捜している様子のマスターに遭遇する。
「ジゾ、八弥君をみなかった?」
開口一番に問いた主は、酷く心配そうだった。
その髪に白髪が幾本も混じっているのが、視界に入る。
もう若くはないのだと、理由もなく記録する。
初めて会った時は、まだ、25歳の研修医だったのだが。
尤も、年をとるのは人間に限ったことではない。
私こそ、すっかり旧式だ。
『恐らく、いつもの場所でしょう。
 これから、迎えにいくところです。』
いかにもプログラムらしい、少し甲高い声で答える。
今時、こんな声を出すロボットは稼働していないだろう。

「うん、よろしく頼むよ。
 気をつけて、行ってきてね。」
『畏まりました、マスター』
ロボットである私が、
周囲に気を配らないはずがないのだが、
彼は私が外出する必要があるとき、決まってそう言う。
ウィーン、キシキシと稼働部が動く音を確認しながら、
道の途中で振り返り、後ろに手を振る。
主は、やはり私が出発するのを見送っていた。
まるで、私が人間であるかの様に扱う彼の習慣は、
昔から変わることがない。
疲れているのか、振り返された手の動きがぎこちない。
私やサブマスターの不在によるストレスを、
少しでも減らすため、出来るだけ早く戻る努力をしよう。
そのまま機動スピードを上げる。

先に情報を飛ばしておいたので、
ゲートの管理システムは私の到着を確認すると、
すぐに門を開けてくれた。
「やあ、ジゾー お出かけかい?」
『はい、サブマスターを迎えに。』
片手を挙げて声をかけてきた警備員に答えると、
彼は困った顔をした。
「ハチヤは、また、帰ってこないのかい?」
『いえ、すぐに戻ります。
 ここが、彼の家ですから。』
当研究所のエースが、理由もなく留守がちというのは、
余り、良い印象を与えるものではない。
彼が今の所属を嫌っているわけではないのだが、
余所の方がいいと考えている、
引いては現状に不満があると捉えられるのは、
プラス要因にはなるまい。
そんなことが分からないサブマスターではないのだが。

信号をわたり、いくつかの分岐点を曲がり、
公園へ到着する。
数年前の大火事で焼け落ちた研究所は、
今は木々溢れる散歩道となり、
嘗ての面影は見あたらない。
それでも歩を進めていくと、いつもの場所に彼は居た。
何時も通り、新しく設置された椅子に座り、
並木通りとなってしまった、元の住処を眺めて。
『やはり、ここでしたか。』
「やあ、ジゾか。」
探しましたよとは言わなかった。
探すという行為になるのは、
ここに居なかった場合だろう。
返事はしたが、こちらに顔を向けることも、
立ち上がることもせず、彼は並木通りを眺め続けている。
まるでそこから、誰かが現れるのを待っているかの様に。
いや、待っているのだ。
けして現れることのない、あの人が戻ってくるのを。

『風邪を、引きますよ。』
「ひかないよ。だって、まだ10月だよ?」
彼はそう言うが、空は曇り、気温は18度しかない。
出発前に公園の天気を確認するべきだった。
新型であれば、こんなミスはすまい。
上着を持ってくれば良かったと言えば、
そんなに心配なら帰ろうかと、彼は笑って立ち上った。
『そうしましょう。マスターが心配しています。』
「えぇー 何でだよ。
 夜中ならまだしも、まだ午後3時だぞ。」
『行き先を、告げていかないからです。』
「だからってさー 大体、俺が幾つだと思ってるんだよ。
 先生は心配性すぎるんだよー」
ぶつぶつと文句を言いながらも帰路につく彼の後を、
黙って私は着いていった。
彼が18歳になっても、5歳の子供であっても、
マスターにとって変わりはあるまい。

「ジゾもジゾだよ。
 先生が心配してるからって、
 逐一迎えにこなくったって良いだろ。
 小さい子供じゃないんだしさ、ちゃんと帰るよ。」
『それは、そうでしょうね。』
不平を言う彼の口調から、
旧式である私への労りと不安が双方感知できる。
私の関連部品はもう、製造が中止されている。
不具合が起きれば、今度こそ廃棄処分だ。
それでも、迎えに行くのが私の仕事。
マスターもそれを望んでいるだろう。
「なんでさ、ああも心配性なのかね?
 俺の心配より、する事があると思うんだけど。
 だから嫁の来てがないんだよ。」
ぶらぶらと頭の上で腕を組みながら、
やる気なく歩く後ろ姿に、掛けたい言葉を消去する。
『それならば、もう、ここへ行かないでください。』
そんなことを伝えても、彼は困った顔をするだけだ。
私は立ち止まり、昔の住居があった場所の方角を眺めた。
プログラムを消されなければ、ロボットこそ、
戻ってこない主を待っても、おかしくはない。
私のデータも、消されてはいない。
消す必要がないので残っているというだけだが、
あの日、消えてしまったあの人の名前と、
データは遺っている。
私も、待つべきなのだろうか。

「ジゾ、どうしたの?」
作動停止がすぎたらしい。
3mほど離れたところから、声をかけられる。
『何でもありません、サブマスター』
「なんでもなく、ないでしょ。」
振り返り、見上げた彼の顔は歪んでいた。
「それにその呼び方、止めてって言ってるじゃん。」
『申し訳、ありません。』
幼かった少年は、父とよく似た美丈夫に育った。
ほとんど私と変わらなかった背丈は高く延び、
手足も力強く、成長したけれども。
声の震え方、眉のしかめ方は、子供の頃と変わらない。
涙がこぼれ落ちるのを、
必死で堪えようとするその仕草が、
会った事のない母親に瓜二つであるのは、変わらない。

『申し訳ありません、八弥。』
「・・・・・・。」
答えのないその背中に手を伸ばし、
さすることは、もう私にはできない。
代わりにしっかりと、手を握る。
『さあ、帰りましょう。マスターが心配します。』
「うん、そうだね。」
子供にするように手を引きながら、
けして私から、この手を離しはすまいと考える。
私には、なれないから。
早くに亡くなった彼の父や、
生まれる前に死んだ血縁上の母の代わりには、
なれないから。
だからこそ、彼の側にいよう。

「・・・ジィゾ、ジィゾ、どうしたの?」
人であれば微睡んでいたと言うべきであろう。
他のプログラムを停止し、行っていたデータ整理は、
思わぬ相手に遮られた。
「ああ、オリバーじゃないですか。」
「こんなところで何やってるのさ。」
「いわゆるクリーンアップとデフラグですね。」
機械に支配された時代を知っている彼ならば、
通じるであろうとの予測は正しかった。
不可解そうだったヴァンパイアの顔が、納得に変わる。
「そっか、重たいの?」
「いえ、まだまだ余裕なんですけれどね。
 整理をするに越したことはありませんから。」
それに機能の大半を、
停止しなければいけないデフラグは、
安全が確認できる場所でしかできない。
その点、家主の魔術と7匹の使い魔、
周りを囲う森自体の魔力、古代の魔神が二柱も、
守備に当たっているこの場所はうってつけだ。
これ幸いと普段使わないファイルまで動かした所為か、
夢を見ていたような不可解な残像が残っている。
機械の自分が夢とは、馬鹿げた表現だが。
「ふーん。
 僕はまた、ヌルがあれこれ無茶言うから、
 変なデータが溜まっちゃったのかと思った。」
別段、不信を感じた様子もなく、
オリバーは屈託なく笑い、イデルのホムンクルスが、
字を覚えたがっているのは本当かと聞いてくる。
事実であることと、
6ヶ月かかって、ようやくアルファベットが、
全て間違えずに書けるようになったことを伝えると、
吸血鬼の青年は、また笑った。
「それで、遙々イアルーンまで来たのはなんで?」
「ヌルから、ハティとスコールに手紙を預かりました。
 また、彼に丁度良い、絵本があればと考えまして。」
「なるほどねー」
けれども、館の主が不在のため、
通された貴賓室のソファで、
待ち時間の消費ついでにデータの整理を行っていた。
そこへ突然、予期せぬ来訪者があったというわけだ。

「そっか、邪魔しちゃったかな?」
「いえ、何の問題もありません。
 それより、オリバーは何故ここに?」
「僕もここで待ってろって、案内されたんだよ。」
わざわざ別室に分けるほど、気の知れない中ではないが、
来客をまとめて客間に放り込む乱雑さは、如何なものか。
本日、初見の案内係は、
少々プログラムに問題があるように思える。
元、とはいえ、
同じ所有者の補佐を目的として作られた機械として、
欠陥の可能性を危惧する。
反面、粗雑な扱いになれているのか、
オリバーは気にした様子もなく、
ノートサイズのプラスチックケースを取り出した。

「借りたDVD返しにきただけなんだけどね。」
「相当古いものですね。再生できるんですか?」
データはネットでやりとりすれば、
わざわざ持ち運ぶ必要がないため、
この手のツールはさほど発展しなかったが、
それにしても映像データの容器としては随分大きい。
「うん。僕が生まれた時代のものだから、
 持ってるゲーム機で再生できるんだ。
 確かに特撮技術は古いんだけど、
 特に不自然さはないよ。」
簡単にオリバーは言うが、
そのハードも相当な年代物だろう。
何度か情報交換したところ、
彼の知る時代は自分のメモリーが作られた頃より、
100年ほど昔に当たる。
そこから優に4桁に渡る月日が過ぎてることを考えれば、
未だ使用に耐えるというのは驚異的だ。

「精密機械にしては、随分丈夫ですね。」
「腐ってもMade in Japanってところかな。」
「実質的製造元は中国でしょう。」
「設計と品質管理は日本だよ、多分。」
何の前置きもなく、遙か昔の地名が挙がる。
壁の喪失によって大きく地殻変動があったから、
全く同じではないが、
今で言うパイロンやヤハンの辺りは、
当時、最先端の技術を有する国が幾つかあった。
こんな何気ない会話の中にも、
現代の者が知り得ない情報が混ざっているのに、
滞りもなく会話ができるというのは、
考えてみれば、凄いことではないだろうか。

吸血鬼の青年が得意げに三本の指を立てる。
「それにまだ、保存用、鑑賞用、予備分と、
 3台おさえてあるから、何かあっても問題ないね。」
「万全の状態ですね。」
まるで古くからの知己であるかのように、
通じて当然と会話は進められていく。
「そういえばさ、ジィゾは格ゲーとか出来る?」
ゲームと言えばと訪ねられ、首を傾げる。
「出来なくはないでしょうが、
 プログラムと戦うのと大差ないのでは。」
「そっかー ジャルが時々相手してくれるんだけどさ、
 アセナは忙しいし、カオスさんは嫌いだし、
 相手が居ないんだよね。」
ヌルがおおきくなったら出来るだろうかと顎をひねり、
オリバーは難しい顔をして唸った。
「きいたんじゃあ、絶対無理だし、
 他に近所で暇そうな人って言うと、
 ルーディガー閣下なんだけど。」
誘ったら怒られるかなと、真面目に言う。

人族の対策を目的とした連携は勿論必要だが、
それぞれ自国の利益や牽制を踏まえ、
一定の距離間を保つのが普通であろうに、
この吸血鬼の青年にとって、
他の魔物は友人かそれに近い存在でしかないのだろう。
孤立した地域に住むため、
周囲を警戒する必要のないジャルや、
圧倒的な力で他の叛意を許さないカオスは兎も角、
他の魔王達にとって、オリバーの邪気のない態度は、
さぞかし付き合いづらいに違いない。
ヴァンパイアの方も、それに気がつかないほど、
鈍感でもなさそうだが。
しかし、言われてみれば、
利権の柵もなければ驚異も寄せ付けない、
金色の竜王殿は彼をどう扱うだろう。

「さて、どうでしょうね。
 意外と付き合ってくれるかもしれませんが、
 ご趣味に合わない可能性も高いと思いますよ。」
完全否定しない返答は予想外だったのか、
オリバーは目を丸くしたが、
直ぐ、何でもなさげに頷いた。
「そうかもね。でも、シューティングなら、
 絶対、上手いと思うんだよね。」
「撃墜王の二つ名をお持ちですしねえ。
 公爵殿は付き合ってくださらないんですか?」
遊び相手なら、すぐ隣にいるのではと指してみたら、
大きく首を振られる。
「叔父さん? 叔父さんはだめだよ。
 やり込み過ぎて廃人みたいになっちゃって。
 最近ようやく禁断症状が無くなってきたんだから。」
さてはて、ヒュンケルはなにをやっているのやら。
黒悪魔の王が知れば、友人を頭から叱咤するだろう。

それさえなければと嘆息して、
吸血鬼の青年はつまらなそうに窓の外を眺めた。
「それにしてもカオスさん、遅いね。」
「そうですね。」
機械である自分には、特に問題となる事項ではないが。
求められた仕事もない身では尚更だ。
しかし、オリバーは違う。
「今日案内してくれたのって、新しい子だと思うけど、
 ちゃんとカオスさんに連絡してくれたのかな?」
自分達の到着がきちんと報告されているかを心配する、
オリバーの意見は尤もだ。
そもそも客を待たせるのであれば、
お茶ぐらい出すべきであり、
主の指示が無くとも、それぐらい判断できなければ、
プログラムとして使えない。
そこまでの機能はないとしても、
部屋に通しただけで、何時、主が来るとも告げず、
何の説明もせずに、ただ待てと言うのはおかしい。

「接客一つまともに出来ないようでは、
 あの案内係はプログラムの書き換えが必要ですね。」
許可が下りれば、自分がやってもいい。
当然の判断にオリバーは目を大きく開いた。
「え、それは、可哀想だよ。」
プログラムを書き換えるのは、
生物であれば自我を作り替えられるに等しい。
ひいては自己否定されたも同然の行為は、
確かにオリバーの言うとおり、
生き物であれば残酷かもしれない。
しかし、あの案内係は違う。
欠陥があれば直すべきだ。
「機械ですよ?」
「うん、でも・・・やっぱり可哀想だよ。
 僕はそういうの、なんか、嫌だなあ。」
物でしかない物を、
あたかも生物であるかのように扱う対応に、
既視感を覚える。
オリバーは初めから、生き物のように動くのに、
生命を持たない異質な存在である自分を、
あっさり受け入れた。
他の魔王達と異なる反応は本人の柔軟性や、
難しいことを考えない大雑な種族柄もあるが、
慣れの部分が一番大きいのだろう。
遙か昔に自分のような存在と、
多く接してきたことを示すように、
オリバーは案内係の仕様を見抜いた。
「それに僕の記憶通りなら、あれ、掃除用でしょ?
 元々対人機能、ついてないんじゃないの?」
指摘の通り、接客用に作られたにしては、
先ほどの案内係は非常に薄かった。

「掃除用でしょうね。
 ただ、私のデータが正しければ、
 簡単な執務応答を行える機種も、
 販売されているはずです。」
「じゃあ、旧型なんじゃない。
 どっちにしても、お茶だしとかはできないと思うよ。
 腕もないし。」
「しかし、運ぶだけなら可能かと。」
「無理無理、こぼすって。
 それより変なのは・・・」
簡単な論議の途中で、
センサーが案内係のモーター音を捉えた。
探知レーダーを稼働させずとも、
部屋に至る通路15.3m先から、
こちらに向かっているのが分かる。
しかし、その後に続く足音が感知できない。
カオスは来ていないようだ。
頭部を動かした私の動作で、
待っていたものが来たことにオリバーも気がつき、
口を閉じた。
まもなく、ガツガツと幾度か壁にぶつかる音がして、
床上15cm切り取られたドアの隙間から、
新顔の元自動掃除機が現れる。
その気になれば、
ドアに自動開閉用の魔術を組み込むことも可能だろうに、
電動家具のために扉を切り落とすとは、
流石、山羊足の魔術師と言ったところか。
やることが乱暴だ。

『長らくお待たせして、申し訳ござらぬ。
 主は程なく参ります故、もう少々お待ちくだされ。』
プログラムにしては、少々低い30代男性の声。
ウィィィンとローラー音をたてて、
近寄ってくる案内係に、オリバーは小首を傾げた。
「それは別に、かまわないけど。
 DVDだけ返せればいいから、何なら、僕は帰るよ。」
カオスはそこそこ多忙だが、
ここまで客を待たせるのは珍しい。
魔術師を煩わせてはいけないとの心遣いだろう。
腰を浮かせた吸血鬼を、案内係は押しとどめた。
『いやいや、そう仰らずに。
 それほど時間は掛からぬと申しておりました。
 本来であれば、
 某が主の元までご案内する処ですが、
 この通り、粗忽者なれば、
 移動を許されている範囲も限られております故、
 ご容赦いただきたい。』
小刻みに前後移動を繰り返す案内係を眺め、
オリバーが困った顔で首を傾げた。
それほどとは5分か10分か、30分ほど掛かるのか。
具体性にかけている。

「じゃあ、もう少し、待ってるよ。」
『おお、それでは今暫く。』
吸血鬼の青年は再びソファに腰掛け、
案内係はその場でぐるりと回った。
『茶菓子が焼けるので、是非、
 ご賞味いただきたいと、奥の者も申しておりました。
 今、呼んで参ります。
 では、ごゆるりと。』
来たときと同じく、静かとはいえない稼働音を響かせて、
隙間からでていく。
「何故、通信機能を使わないのでしょうか。」
連絡だけなら、逐一足を運ばずとも、
データを飛ばせば良かろうに。
「あれだけの口上を述べる機能があれば、
 それなりの電子頭脳を持っているはずです。
 データ送信ぐらい、できるでしょうに。」
「こう見えて家全体に通信設備設置されてるもんね。
 ある程度、改造したんだろうけど、
 そこまで追いついてないんじゃない?」
「やはり、調整が必要なのでは。」
プログラムは勿論、可動部分も確認する必要があろう。
かなりうるさい。
あれでは寝ている子供を起こしそうだ。
「キャタピラに何らかの支障が出ていそうですし、
 プログラムの優先順位、重要事項の設定も、
 見直す必要があると思います。
 一度、本格的なメンテナンスを行うべきでしょうね。」
システムの調整まで行う余裕がなければ、
可動部分の修復だけでも良い。
無理な継続使用は故障の元だ。

「気になるのは、そこだけ?」
「どういう意味ですか?」
オリバーの質問が理解できない。
何故か提案に不満げだが、他に問題点があっただろうか。
「だって、あの時代錯誤な口調とか・・・」
「別段、不遜でもなければ、
 意志疎通に不備はなかったと思いますが。」
「うん、そうだね。何でもないよ。」
言葉と裏腹に、オリバーの眉間のしわが深くなる。
さて、何が悪かったか。
再度計算し直して、一件、引っかかる。
「ああ、何故、ゴザルなのか、
 指摘した方が良かったですか?」
「良いよ、今更取って付けなくても。」
言葉など、正確に意図が通じればよいと思うのだが。
深々と、嘆息するオリバー様子からすれば、
そういうわけにはいかないようだ。
いつの時代も、他者の心というのは御し難い。

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津路志士朗
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