HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。
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恨みはない。
むしろ、研究所から出してもらった恩がある。
その“恩”という奴がなんなのかは知らない。
同郷だからと言って、何も思わない。
同じく人に造られた身であるが、
こいつと自分は全く違う。
小指の先まで、人に定められて作られたこいつは、
生まれたときから、優雅に言葉を操り、動き、
世界の全てを知っているかのようだ。
それに比べて、自分が知っていた事と言えば、
食べることと寝ること、生きるために争うこと。
人の形を模すことを覚える前は、
姿形すら、定まったものを持たなかった。
有機物で造られたか、無機物で造られたか。
同じ造りものでありながら、
材質の違いだけで、何故ここまで違うのか。
それを思うと、胸の奥が渦巻くような不快を感じる。
ならば、こいつは嫌な奴なのだろう。
理由は解らないが、
そう感じるのだから、そうなのだ。
しかし、自分の相手をしてくれるのも、
確かにこの人型機械と、魔術師カオスぐらいなのだ。
他はだめだ。
「何故、そんなことが解らない。」
話しかけた相手は大概、そうやって声を荒げる。
あれは不快だ。
「所詮、造りものには判るまい。」
そう、鼻先で笑われることもある。
それはもっと不快だ。
怒鳴り声の用に耳を痛めつけられることはないが、
嫌な目で見られる。
あの視線は単に話し相手を捉えているのはでない。
相手を侮蔑していると、そう言う視線になるのだという。
侮蔑とはなにか。
要は我が下等な生物なのだと、言っているのだろう。
下等とは何か。
上等ではないことか。
上等とは何か。
立派なこと、質がいいこと。
立派とは何か、質がいいとは何か。
非がないことか。では非がないとは何か。
完全と言うことか。
ならば下等とは完全ではない、
足らないものということか。
「こいつは生き物として足らなさすぎる!」
研究所で、そう、あの男は叫んだ。
「所詮、出来損ないだ。
データを取り終わったら、さっさと廃棄処分にしろ!」
顔を歪めて、怒鳴っていた。
顔を歪めるのは不快だからだ。
不快な存在。出来損ない。足らないもの。
それは、存在してはならないのか。
処分されるとはなにか。
死ぬことか。
死とは何か。消えることか。
いやだ。
我は、消えたくない。
完全な生き物になれば、消えなくてもいいのか。
ならば、我はそれになろう。
しかし、どうすれば、それになれるのか。
我には足りないものがあるから、不完全なのだという。
足らないものがなければ、完全なはずだ。
我には、感情がない、知識がない。
ならば、それを補えば、完全となるはずだ。
ジィゾの腕の中で、
拾った魔術師の娘が、こちらを見ている。
あれはなにもできない。
与えられるだけ、生きているだけの生き物だ。
だが、あんな生き物でも、感じると言うことができる。
それに、聞いたところに拠ると、
あれでいて、多くのことを学び、考えているのだという。
そしていつか、大人の人間のように、
振る舞うことが可能となるのだという。
「でも、そんな大層なことは考えてないと思うな。」
カオスはそう言っていた。
「せいぜい、自分にとって良いか、悪いか。
良かったら笑うし、悪かったら泣く。
後は、人がどんな顔をするか。
その積み重ねで、色々発展していくんだろうね。」
山羊足の魔術師の言うことは、
不明瞭で不可解なことが多いが、そのときは違った。
単純な感覚を多く積み重ね、
そこに学んだ知識を足していけば、
何時か感情に発展すると言うことだろう。
快か、不快か、
それぐらいならば、我にも解る。
考え、知識をためることも出来る。
赤子に出来て、我に出来ないはずはない。
まして、我は自ら食べることも、身を守ることもできる。
話しかけることも、答えることも出来る。
むしろ、幾分マシなはずだ。
相変わらず、魔術師の娘はただ、我を見ている。
何を考えているか知らないが、
先に完全となるのは、我の方だ。
『お前なぞに負けはしない。』
断言する。
こんなのに、我が劣るはずがない。
人型機械が呆れ顔で振り返った。
「赤ん坊相手に、
なに、対抗意識を燃やしてるんですか。」
何か、間違ったことをしたのだろうか。