HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。
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一定の力と、領土を持つ魔物が集まる多種族協定会議、
通称魔王会議は最近一日では終わらない。
延長を重ねた会議がようやく中休みにはいり、
会議室を出ながら、
座り続けて堅くなった腰をジャルはさすった。
参加する種族が増え、
定める規定も増えるのは仕方のないことであるし、
休憩時に、普段付き合いのない者と、
持ち寄った珍しいものを口にしたり、
情報交換するのも悪くない。
だが、会議中、長時間に渡り、
一カ所に拘束されるのはいただけない。
これは何とかならないかと考え、
何ともならないかと、すぐに諦める。
それより、つかの間の休息を楽しもう。
ふらふらと客間を通り、庭へ抜けて、
木陰の下のベンチへジャルは腰を下ろした。
銀悪魔の王、リカルドの居城は広くはないが、
手入れが行き届き、庭にも数多くの美しい花が、
淑やかに咲いている。
すずやかに晴れた秋空に誘われるのは、
ジャルばかりではないようで、
砂漠の人狼と吸血鬼の青年、アセナとオリバーが、
何かを話しながら目の前を通り過ぎ、
しばし遅れて現れた人型機械のジィゾの後を、
ホムンクルスのヌルが追いかけていった。
他の三人は兎も角、ロボットのジィゾが、
風の舞う戸外を好むとは不思議なものだ。
精密機械である彼には砂や埃は天敵であろうに。
そんなことを考えていると、
こんどは山羊足の魔術師、カオスが、
愛娘のキィと灰色の飼い犬を引き連れて現れた。
ベンチで涼むジャルを見つけ、
カオスは軽く小首を傾げたが、
なにを思ったのか、小さなカメラを取り出した。
レンズの方向からして、
自分を撮っているのは間違いない。
しかし、寄ってくる様子もなければ、
話しかけてくるわけでもない。
無言でカメラを向けられれば、疚しいところはなくても、
何となく不安を感じるのは、ジャルだけではないだろう。
それでも鳳は軽く眉をしかめただけで、
そのまま、魔術師を放っておくことにした。
カオスが動かず、何も言ってこない以上、
藪をつつく必要はない。
「いったい、なにを考えているのやら。」
どうせ、ろくなことではあるまい。
魔術師を無視して、ジャルはベンチの上に寝ころんだ。
閉鎖された部屋の中と違い、外の空気は心地よい。
何故、こんな良い天気の日にあんな部屋の中で、
面白くもない話し合いに興じなければならないのか。
考えると、王という身分が呪わしいが、
誰かがやらねばならないことだ。
どこまでも澄んだ青い空をぼんやり眺めていると、
ちょこちょこと、キィが近寄ってきた。
お菓子を乗せた皿を持っている。
その皿を、そっとジャルの近くにおくと、
本人としては大急ぎなのだろうという速度で、
父親と犬の元へ戻っていく。
起きあがって皿を見、カオスを振り返ったが、
相変わらず無表情でカメラを回している。
なにを考えているのかわからないが、
置かれた菓子に特段不審な点はない。
恐らく、リカルドが客間に用意した茶菓子の一つだろう。
近くまで運んできたのだから、食べろということか。
差し入れのつもりなのかもしれない。
断る理由もなかったから、
ジャルは黙ってその菓子をつまみ上げ、口に運んだ。
砂糖菓子はかりかりと歯ごたえのいい音を立てて、
あっという間に溶けてなくなった。
おいしい。
口の中に広がった甘みが程なく消えていくのを、
残念に思いながら、ジャルはここに残るか、
客間に戻り、もっと菓子を食べるか悩んだ。
さて、どうするかと顎をなでたところで、
また、キィがちょこちょことやってくる。
そして、再び皿に菓子を載せると戻っていった。
カオスの様子は変わっていない。
本当に何を考えているのだろう。
3度、同じことが繰り返された後、
流石に黙っていられなくなって、
ジャルは立ち上がり、理由を問おうとした。
そこに、灰色と白の毛並みの飼い犬が、
カオスの指示に従って、吠え掛かってきた。
「うわっ、なんだよ!」
よけようとしても、犬は執拗に吠えかかってくる。
まさか、拳や魔法で振り払うわけにもいかず、
ジャルは翼を使った。
彼のように翼を持つものは、
生まれつき、体に空を舞う為の力が流れている。
ほぼ人型のまま軽々と宙に浮き、ぐるりと回転しながら、
下の様子を眺めれば、キィが興奮した様子で叫んでいた。
「とんだとんだ! ジャルお兄ちゃん、とんだ!」
そりゃ飛ぶよ。だって鳳だもん。
犬が主の元へ戻るのを確認してから、
ジャルは地上に戻った。
そのまま、無表情にカメラを回すカオスと、
カメラが白いコードによって、
彼の左腕と直接繋がっているのを確認し、
ジャルは口元を歪める。
「おい、なにやってるんだよ。」
「ん?」
悪びれもせず、眉を動かしたカオスに、
疑心は確信に変わり、ジャルは大きな声をだした。
「なにやってるっていってるんだよ!
ちょっと、再生してみせろ!」
いいながら取り上げたカメラは、
簡単にコードからはずれ、
カオスは不愉快そうに文句を言った。
「まだ撮ってる途中なのに。」
「いいから、映せってば!」
ジャルに怒鳴られ、カオスはブーブー言いながら、
カメラを操作した。
『あそこにいるのは、鳳凰のジャル君。
ジャル君は今年でカキクケッコッコ歳。
人間でいうなら27歳。
そろそろお嫁さんがほしいお年頃です。
けれども鳳は一人で飛べないと、
大人として認めらません。
まだ、ジャル君はうまく飛ぶことができないのです。
ジャル君がとべるよう、
クケの実をあげて応援しましょう。
あげすぎると返って飛べなくなってしまうので、
注意してください。
・・・満足したようですね。
さあ、遂に飛ぶ覚悟を決めたようです
ジャル君は飛べるのでしょうか。
ダララララララララララララ・・・ジャン。
あっ飛んだ! ジャルが飛んだ!
これでついに、
ジャル君は一人前の鳳凰になったのです!』
「なに、短時間でおもしろおかしい、
ナレーション入れてくれてるんだよ!」
一体どうやったのか、
再生されたビデオが上手に編集されているのに、
ジャルは激しく声を荒げた。
しかしカオスは意に介すことなく、飄々という。
「このあと、お嫁さん候補の前でも、
飛ばないといけないんだよ。」
「おにいちゃん、おかしあげるから、がんばれ!」
キィは父親と違って一生懸命だ。
何か勘違いしているらしい。
「キィはちょっと、黙ってなさい!
相変わらず訳わかんないことしやがって、
誰得だよ、これ!」
小さい人を押さえて、自分に食ってかかるジャルに、
カオスは真顔できっぱりと答えた。
「少なくとも、オリバーは大うけ。
そしてその後、怒る。これだから7信者は!
最高傑作は5だろ!」
「だから、わかんないって言ってるだろ!」
長々生きている為、
滅びた色々を知っているのを差し置いても、
カオスはやっぱり、何を考えているのかわからない。