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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

高性能装備の入手方-欲望の代償、その4。

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高性能装備の入手方-欲望の代償、その4。



「え、何だよ、ユッシ、ちゃんと話してないのか?」
「大丈夫です。保護者のうちがちゃんと理解してるから、
 何の問題もない。大丈夫です。」
「駄目だから。それ、根本的に駄目だからね。」
流石に顔色を変えたイーギル、
堂々と無問題を主張するユッシ、
無表情で突っ込みを入れる千晴と、
場の雰囲気が微妙な方向に流れたが、
一応、今はそれどころではない。
大事なのは現状把握とハンター達の目論見如何だ。
さて、どうするかと口元に付いた油を拭いつつ、
ユッシは困った様子で千晴を見下ろした。
「兎も角、こうなったからには、
 うちは最後まで付き合うけど、
 ちゃお君は帰った方がいいかもね。」
「何、バカなこと言ってるんだお。
 そんなの、認められるわけないお。」
君に何かあっては困ると、
白魔導士は尤もらしい顔をしているが、
それは千晴にとっても同じことだ。
母親から気をつけろと言われているし、
彼に何かあったらフェイヤー達に顔向けできない。
また、安全面でも問題があった。

「大体ここじゃあ、セーレの翼も使えるか怪しいし、
 ボク一人で帰るなんて、
 死んでも良いって言ってるのと同じだお。」
移動魔法には使用制限がある。
公式冒険者の証、レンジャーバックルに登録された、
拠点地より一定範囲内にいなければ、
簡易移動魔導具セーレの翼は勿論、
移動白魔法ラウムハーヘンも使用できない。
きちんとマッピングを行ってきたユッシや、
鼻の利くスモークを連れているイーギルならまだしも、
千晴だけでは帰り道もわからない。
せいぜい、太陽の位置から方角を推測するのが関の山だ。
なにより、ここは凶暴な魔物が棲む森、フロティアの中。
行きに何もなかったからと言って、
帰りも安全とは限らない。
今が魔物の活動が大幅に少なくなる冬で、
場所もソルダット軍の討伐が、
行き届いている北東側であっても、
千晴のような子供が単独行動など、無謀にすぎる。

検討する余地もない事を言う白魔導士を睨みつければ、
ユッシは大げさに溜息を付いた。
「やっぱ、そうなるかー
 だから、気乗りしなかったんだよなー」
条件が良すぎる反面、こけたら面倒そうだと思ったと、
ブツクサぼやく。
気乗りしないのは、胡散臭いからだけではなかったのか。
説明不足にもほどがある。
もう、こんなのにさん付けなどしない。
ユッシンで十分だ。

千晴が憤怒に燃えているというのに、
ユッシはいつもと変わらずマイペースな態度を崩さない。
「まあ、何はともあれ、まずは腹ごしらえしないと、
 どうにかなるもんもならないしなー」
言いながら、再び焼けた肉をかじり始める。
一理あるのが余計に腹立たしい。
プンプン怒りながら、
千晴は追加の串をたき火の前に並べた。
肉だけじゃなく野菜も食べなきゃいけないんだお!

怒る小さい黒魔法使いを気まずそうに眺め、
イーギルは改めて肩を落とした。
「けど、まさか本当に、
 ここまで変な話になるとは、思わなかったけどな。」
まだ幼い千晴をも巻き込んだ負い目を、
今更ながらに感じているのか、言い訳じみた呟きに、
ユッシがのんきに首を傾げた。
「そもそも、本当に人狼に関わりあるのかね?
 一応まだ禁猟地だし、用心深い魔物だけに、
 早々でてくるとも思えないんだけどな。もっと南、
 生息地奥まで入り込んだってんなら兎も角。」
「それは、そうなんだけどさ。」
一般常識に肯定の相づちを打ちながらも、
イーギルの表情は晴れない。
それどころか、いやな情報を入手していると、
ため息を付いた。
「さっき行ったあの空き地、
 あいつ等、台風で出来たとか言ってたけど、
 俺が独自に調べたところ、
 ソルダットの魔人が人狼と戦った痕らしいんだ。」
「魔人?」
ソルダット軍の関係者から聞いたという情報の正否より、
聞き慣れない呼称に千晴は首を傾げた。
反面、通じないことが意外だったのか、
イーギルは目を丸くする。
「聞いたことないか? ソルダット総魔法支部長、
 スナヒト・フォン・ヴォルフのことだよ。」
「あの人も二代目狼将軍とか、ケルベロスの頭とか、
 色々言われてるからねえ。」
生まれ持った地位だけでなく、実力あればこそ、
周囲からあれこれ言われて呼び名も増える。
幾つあるかはうちも知らんと、
補足しながらユッシが肩をすくめた。
「尤も、うちらは『ユーリさんのお父さん』って、
 呼ぶのが、一番分かりやすいかもね。」

そうなのだ。
我らがギルド、Zempのアイドルにして国一番の美女、
ユーリこと、リーネ・ユーリア・フォン・ヴォルフは、
かの国で最も古く由緒正しい貴族、
ヴォルフ家の直系にして、最強の黒魔導士、
ルドルフ・スナヒト・フォン・ヴォルフの娘でもあった。
スナヒトは黒魔術の一派でも、
攻撃を主としないアセガイル系列に属しながら、
最強の名を欲しいままにする、
ソルダットランドの総魔法支部長であり、
十数年前フォートディベルエを壊滅寸前まで追い込んだ、
金色の竜王、ルーディガーと戦った勇士の一人である。
「あのルーディガーと、
 唯一互角にやりあったって人だからな。
 実際、人狼とだって戦えてもおかしくないけど、
 それって即ち、あの辺にでるってことだろ。」
「なるほど。」
イーギルが言う噂話が示す状況に千晴は頷き、
ユッシが更に危険性を主査する。
「やたら急いでたことからしても、
 あそこが危険なのは間違いなさそうだよね。」
「急いでた? そうなの?」
何も考えずに答えを求めるのは、
馬鹿のようで気が引けたが、ここまできたら、
観察力及び、判断能力の不足を認め、
教示を願うが最速且つ、最適であろう。
己の能力不足を素直に受け入れるのも、
出来る子供の在り方だなどと考えつつ先を促す千晴に、
ユッシが呆れた様子で答える。
「早くしとめたがってただろ。
 魔法を使うのもあっさり承認したし。
 普通、そこまでするほどじゃないし、
 毛皮に傷が付くって嫌がるのに。」
ハンターのプライドと実利の点でも変だったとの説明に、
苦い沈黙があたりを包んだ。
これは、思っていたより相当ヤバい橋かもしれない。

「それにうちの参加を嫌がらなかったところからも、
 目的を果たすまでの安全性は確保したかったとみた。」
「あー それであっさり帰るとか言いだしたの?」
「あれは焦ったわ。」
気を取り直す様にユッシが続けた言葉も、
危険性を裏付けはしても、
場を明るくする材料にはならなかったが、
出先の悶着にも理由があったのかと千晴は素直に驚き、
イーギルが顔をしかめる。
「ヨハン君達の反応を見ようと鎌を掛けたのに、
 イーギルが怒りだして困った。」
「馬鹿言え。そんなん、打ち合わせもなしに、
 早々うまく対応できるかよ。」
飄々と言う白魔導士に槍騎士が怒るのを聞き流しながら、
千晴は口に残った鹿肉を飲み下した。
ソルダットの魔法支部長が人狼と戦っていたのなら、
ユーリがほのめかしていた伝手とは、
父親が狩り捕ったものがあることだったのだろうか。
もし、そうなら、それなりの実力さえあれば、
人狼は倒せると言うことだ。
高レベルのモンスターとは言え、不死でもなければ、
無敵でもない以上、当然のことであるし、
まず、その実力があるのかという問題もあるが、
何となくほっとする。
ギルドの新米騎士、ポールは勿論、
熟練の冒険者である祀や敦までが嫌がるので、
1%の勝ち目もないような気になっていたが、
周囲の意見に飲まれすぎていたかもしれない。
力はあればあったに越したことはないが、
非力であっても生き物は殺せる。
要はやり方だ。
そしてなにより。

『材料は、全てボクに集められる物、なんだ。』
千晴は所詮、
黒魔法使いの中でも初級のマジシャンでしかないが、
手数は少しばかり多い。
上級騎士が嫌がる人狼を相手にするのに、
単なる騎士のイーギルでは、
盾としても火力としても正直頼りないが、
同じ白魔導士からも一目おかれる実力があり、
機転の利くユッシがいる。
合流可能か全くわからないがヨハン達の存在もある。
魔法を駆使して一時的でも良い、
人狼の動きを止めるなどできれば、例え殺せなくても、
腕の一本ぐらい何とかならないだろうか。
それに、あの必殺技が決まれば。
現実味を帯びてくる戦闘の可能性を、
ひしひしと肌で感じながら、
手持ち札の使い方と組み合わせを吟味する。

「兎も角、何をする気かは見張ってれば分かるでしょ。」
思考を遮るようにユッシが出した結論に、
千晴は再び首を傾げた。
「でも、どうやって?」
既に二手に別れてから、それなりの時間が過ぎており、
森を得意とするハンターを素人の自分達が発見、
追尾するなど無謀に思える。
「そうだ、分かれた後も行動を把握できるって、
 本当なんだよな、ユッシ?」
思い出したようにイーギルも顔を上げ、
ユッシが自信満々といった体で胸を張る。
「まーね。
 知り合いに頼んで入手した、使い捨てながらも、
 超高性能追跡センサーでばっちりよ。」
事前より練った対策に自信がなければ、
こんな無防備にハンター達から離れたりしない。
そう言って金髪の白魔導士は、
胸元から薄い板状の物を取り出した。

「え、何の話?」
胡散臭い魔導具よりも、
また出てきた未開示情報に千晴は顔をしかめた。
「まだ、聞いてないことがあるのかお。」
「俺も、今朝聞いた。」
知らなかったのはお前だけじゃないと、
イーギルが慰めてくるが、そういう問題でもない。
「いつ?」
朝合流してから、ずっと二人で話してはいたが、
そんな大事な話は欠片も耳に入ってこなかった。
不信感を隠さない千晴の問いに、
ユッシは事も無げに答えた。
「移動中に。 ちゃお君がレイナさんを、
 引き留めてくれてたから楽だった。」
「だから、どうやってよー
 そんな話、全然聞こえなかったお!」
「世の中には筆記という通信手段があるのだよ。」
イデルまでの移動中、無駄話をしていると見せかけて、
文章で打ち合わせをしていたらしい。
挙げ句、金髪の白魔導士はさらりと言った。
「それに途中で離れて魔法の試し打ちしたりしてたから、
 喋ってても聞こえなかったんじゃない?」
さっくり突かれた不備に言い返せず、
千晴はがっくりと肩を落とした。
いくら自分が子供で経験不足にしても、
ここまで裏で動かれ、それを察知できなかったとは。
幾ら学校で誉め讃えられても、
所詮、ボクもまだまだお子さまだお。

「ま、新しく入手した魔導具を、
 試しもしないで実践に挑むなんて論外だし、
 間違ってはないよ。」
完全に自信をなくして凹む小さい黒魔法使いを、
原因の白魔導士は軽く宥め、早速魔導具を動かし始めた。
「えっと、まずはターゲット設定か。
 バックルと連動して・・・
 ああ、やっぱりパーティは解除されてるな。」
言われて千晴とイーギルは、
それぞれ自分の冒険者バックルに目をやった。
魔応石を調べれば、行きしに結成したパーティから、
ヨハンとレイナの名前が消えている。
何時の間にとイーギルが舌打ちし、
千晴は不安を隠さずユッシの顔を仰ぎみた。
「大丈夫かお?」
パーティを結束する結界魔法、
サークルの効果の一つとして、
メンバーの居場所を把握する機能がある。
魔道具がその効果を増幅する仕様であれば、
パーティにいないというのは致命的な要因に思えたが、
ユッシは当たり前の顔をして、
千晴の心配を片手で振り払った。
「平気。そんなこともあろうかと、
 予め、発信機くっつけてやったからね。」
フーゲディアの解体中、どさくさに紛れて、
付属の小型アンテナをハンター達に張り付けたそうだ。
「うちから逃げようったって、
 そうは問屋が降ろさないぜ。」
「ユッシン、恐ろしい子。」
悪い笑顔を浮かべながら魔導具を操るユッシに、
千晴は顔を青ざめさせた。
その手腕は兎も角、白魔導士の指の動きに併せて、
板状の魔導具にはテレビのような画像が浮かび、
最後に青と赤の点が打たれた地図を写しだす。

「よし、設定完了と。
 この青がうちらのいる場所、赤がヨハン君たちね。」
説明を受けながら、
千晴とイーギルが魔導具をのぞき込むと、
ユッシは更に指を動かして画像を操作した。
「それで、うちらと別れた後、
 つまり、大体1時間ぐらい前から、
 今までの彼らの動き、と。」
赤と青の点が線に変わり、移動の経路を示す。
青い線の移動を見るに、現在地より直線3cm下、
つまり真っ直ぐ南下したところが、
フーゲディアをしとめた場所になるらしい。
そこから半円を描くように別方向に延びた赤い線は、
青い線の倍以上もあり、
線が絡まった点が所々に現れていた。
ある一点まで達したところで、
直線になった赤い線を突っついて、ユッシが首を傾げる。
「この絡まった点は何だろ・・・移動と休憩、かな?
 重労働の後なんだし、半端な休憩よりも、
 しっかり体を休めた方がいいのにな。」
急いでいるにしては妙な動きに、イーギルが言う。
「多分、仕掛けた罠とかを、回収してるんじゃないか?
 今回はたまたま1つ目に獲物が掛かってたけど、
 何時もそう上手くはいかないし、
 普通は何カ所か仕掛けた場所を見て回るだろ。
 ハンターの性格的に、獲物がいようといまいと、
 仕掛けた罠をそのまま放置はできないだろうし、
 何をするにも全部回ってからだろ。」
罠猟の特性を考慮した尤もらしい意見だったが、
金髪の白魔導士は口を尖らせた。
「じゃあ何で一カ所みただけで解散しちゃったんだよ。
 それにヨハン君も、
 罠の回収終わったって言ってたじゃん。」
終了宣言の解釈を求められ、
赤毛騎士は顔を大仰にしかめた。
「そんなん、俺が知るかよ。
 あの場所のはって事じゃないのか?
 少なくとも、罠は獣の通り道とか、
 丁度良いポイントを幾つか定めてかけるもんだろ。」
「じゃあ、他の場所にも獲物が掛かってたら、
 どうするんだよ。5人であんなに苦労したのに、
 2人じゃ処理できないぞ。」
「けど、一カ所だけに絞って、何も掛かってなかったら、
 それこそどうするんだよ。」
言い争いながらも不思議がる二人の顔を眺めながら、
千晴は思い出したことを口にしてみた。
「そういえばレイナさんが、フーゲディアのことを、
 『餌につられた間抜け』って言ってたお。
 特に狙い目のところに餌を付けて、
 一点賭したんじゃないかお?」
食べ物の乏しいこの時期に美味しそうな餌があれば、
獲物が掛かる確率はぐっとあがるだろう。
千晴にはありそうなことに思えたが、
それでもイーギルは納得行かない顔で首を傾げた。
「餌は兎も角、一点に絞る理由は、
 やっぱりないと思うけどな・・・」
「絶対に引っ掛かる自信があったんじゃないの?
 ま、なんでもいいや。」
ユッシは悩むことに飽きたらしい。
どうせ、考えても分からんと、
身も蓋もないことを呟きながら、
魔導具の操作に戻ってしまう。
『だったら、初めから揉めなきゃいいのにお。』
白魔導士のマイペースに、
千晴とイーギルは肩をすくめあった。
尤も、今に始まったことでもない。
改めて魔道具の示すデータ解析に戻る。

「それで、ここで長々固まってる・・・
 これは本当の休憩かな? 
 今は一気に来た道を戻ってるね。」
ユッシが指摘するように、
赤い線はフーゲディアをしとめ、
二手に分かれた場所へ真っ直ぐ向かっていた。
「戻ってる、ってことは、何かあるって事だよね。」
「なんか、忘れ物をしたとかじゃなきゃな。」
ぽりぽりと顎を掻きつつ呟いたユッシに、
イーギルが難しい顔で頷く。
今更、取りに戻る物は何もなかろう。
もはや疑うべくもないハンター達の裏工作は、
果たして、どのような内容なのだろうか。

暗い想像ばかり掻き立てられる現実から、
逃げるようにイーギルが話題を逸らす。
「しかし、こんな魔導具があるなんて、
 聞いたことないけど、新開発されたのか?」
言いながら槍騎士の青年が薄い画面を指で突っつくと、
魔道具は写していた地図を縮小し、
現在地から周辺都市への距離がより明確になった。
「ここがイデル? 思ったより、離れてないね。」
「森道だから直線で進めないしな。
 こんなもんだろ。」
朝から3時間は歩いているはずなのに、
15km程度しか進んでいないことに千晴は驚いたが、
イーギルによれば、予定範囲らしい。
次々と地図の縮小が変わるのがおもしろくて、
そのまま二人で色々といじってみる。
「おい、勝手にいじって壊すなよ?」
ユッシが文句を言うが、
こんな珍しいもの、黙って見てはいられない。

「自分が今いる場所がわかるなんて、
 純粋な地図としても超高性能だよね。
 その上、探知機能まで付いてるなんて。
 こんな凄い魔道具、どこで手に入れたんだお?」
ここまで簡単に目標の動きが感知できれば、
魔物の討伐は勿論、犯罪者の逮捕など用途は数知れない。
使い捨てと言うし、まだ発展途上にしても、
大まかな技術が開発された時点で、
ニュースになっても、おかしくないぐらいだ。
けれども、そんな話は聞いたことがない。
話題にあがらないのは、便利すぎて、
公の場に持ち出すべきではないと、
国や技術開発部で判断されたからだろうか?
どちらにしろ、一体どうやって、
ここまで都合のいい道具を入手したのか、
全く予測がつかない。
小さい黒魔法使いの疑問に、白魔導士は肩をすくめた。
「まあ、裏技が色々あるんだ。
 プリン20個でこれが手に入ったのは運が良かったよ。」
特別な裏ルートで入手したものだから、
二度目はないらしい。
便利な魔道具が入手できた幸運と自分の功績に、
感謝するようユッシは言うが、
妙な説明にイーギルは顔をしかめた。

「プリン? なんかの隠語か?」
国の極秘技術になってもおかしくない魔道具を、
お菓子と交換したとは信じ難い。
赤毛騎士が納得できないのは当然だが、
千晴にはピンとくるものがあった。
正確にはチートなぐらい便利な道具を、
プリンと引き替えに提供しそうな魔王の心当たりが。
「詳しくは、聞かない方が身のためですお。」
妙に達観した様子で静かに微笑む小さい黒魔法使いに、
身の危険を何となく察したらしい。
イーギルは背筋に寒い物が走ったような顔をして、
質問をやめた。
「まあ、ユッシだからな。深くは聞かないよ。」
「そうそう、ユッシンのする事ですから。」
「わかってるじゃんって、どういう意味よ!」
二人の認識にユッシが怒ったが、
どのみち、詳しい説明を求められれば困るのは彼だ。
そのまま、流してしまうことにしたらしく、
白魔導士は話題を変えた。

「それより、このままいくと、
 人狼とやり合うことになりそうだけど、」
頭をポリポリ掻きながら、
ユッシははぐらかすようにのんびりと言う。
「引き返すなら、今のうちだよ?」
暗に死に挑む覚悟を問われて、
イーギルは顔を強ばらせたが、
直ぐに吐き捨てるように言い切った。
「ここまできて、引き返せるかよ。
 あいつを何とかしないと、帰るに帰れないぜ。」
「あそう、だよねー」
真剣さの欠片もなくユッシは呟いて、
そのまま魔道具を懐にしまい、周囲を片づけ始めた。
無言で示された休憩終了に千晴とイーギルも、
黙って立ち上がる。

火を消し、荷物を片づけ、装備を確認し、
ライクーンに持たせていた戦利品をまとめる。
「折角狩ったのに、置いていくんですか?」
解体の苦労を思えば、もったいない気持ちを捨てきれず、
眉尻を下げた千晴に、イーギルは肩をすくめた。
「何を相手にするにしても、
 こんな大荷物抱えて、戦える訳ないだろ。」
どんな高額な獲物も命あっての物だ。
欲張るなと叱られて、小さい黒魔法使いは下を向いた。
「そりゃ、そうですけど・・・」
「どうせ帰り道だし、無事に終われば回収してくさ。」
半ば自分に言い聞かせるよう呟き、
赤毛騎士は枝にロープを掛け、
荷物を次々と吊していった。
腕力的に千晴には手伝えず、
ぶらぶらと木の上で揺れる荷袋をぼんやりと眺める。

「なんで、ここまでするんですか?」
「あ?」
なんとなしにこぼれた言葉は、
急速に強い疑念となって千晴の胸に渦巻いた。
イーギルの気分を害する可能性が頭の端をよぎるが、
質問を止められない。
「ギルメンっていっても、他人でしょう?
 戦利品の放棄は勿論、なんで人狼とか、
 何だか判らないような危険があると知って尚、
 あるともしれない可能性のために動くんです?
 そんなにヨハンさんが大事なんですか?」
「大事って、」
予想は外れず、赤毛騎士は眉を潜めたが、
これまでの経過を思えば、
答えないわけにいかなかったのだろう。
「・・・俺が、公式冒険者になってから、
 5年間、ずっと同じギルドでやってきたんだよ。
 そりゃ、相方と言うほど組んでる訳じゃないけど、」
言い訳するようにイーギルはそっぽを向き、
言い澱んだが、それでも先を続けた。
「でも、友達だ。」

その答えに、千晴は自分の顔が歪むのを感じた。
そんな小さい黒魔法使いに、
イーギルはばつが悪そうに背を向けると作業を再開した。
他に理由があるのかとぶつぶつ呟く彼を眺め、
千晴は顔を両手で擦った。
怒られもしないとは、
余程自分は酷い顔をしたらしい。
恐らく、彼にとってのヨハンは、千晴にとってポールや、
ジョーカーみたいなものなのだろう。
唯一無二の親友と胸を張る仲ではないが、
あからさまに様子がおかしいのを、
黙って見ていられるほど、無関心ではいられない。
しかし。

だが、しかし。

支払う代償に見合う価値が、その相手にあるのだろうか。
友情や愛情などと言えば聞こえは良いが、
他人のために自身を危険に晒す必要が、
何処まであるのだろうか。
いや、仲間のため、
損得度外視で動くことを否定するわけではない。
むしろ賞賛されるべき勇気ある行動で、
人間の善良性が現れる最たるものだと思う。
けれどもヨハンはイーギルにとって、
昔からのギルドメンバーとはいっても特別な間柄、
例えばヒゲとジョーカーのように、
冒険者家業を共に行うパートナー、
いわゆる相方ではないという。
単なる狩り仲間としても、
イーギルは冒険者業中で最強とされる、
人気職のナイト系であり、特段腕も悪くない以上、
高望みしなければ、幾らでもよい相手を見つけられる。
特別相性のよい職でもない、
ハンターのヨハンを重視する理由はないはずだ。
何より、ヨハンは兄嫁に付き従い、
心配する彼に何の相談もせず、答えようともしなかった。
その程度のつき合いなのだ。

特別な間柄でもないのに、
命を懸けるだけの意味がある他人とは何なのか。
そんなもの、存在するのだろうか。
誰にそんな価値が、あるんだろうか。

ボクには?

パンパンと顔を叩いて、
場にふさわしくない余計な思考を千晴は振り払った。 
イーギルとはそれこそ親しい間柄ではなく、
ヨハンと彼の仲が今、語られた程度の物なのか、
裏に隠された歴史やつき合いがあるのかなど、
自分には判らない。
しかし、当人にとって意味があるのであれば、
それ以上の理由は不要であろう。
友人のために危険を冒すことを否定する気持ちも、
毛筋の先ほどもない。
事情は判った。
そう言うことなら、朝からの無礼な態度は見逃し、
全力で協力しようじゃないか。
半ば無意識に杖を握る力を強め、
ブンと大きく降り降ろす。
これから先、何が出ようと負けるものか。
ニュートーン最高峰、
トリニカル黒魔術学院の天才児を舐めんなお。
人狼でもなんでも、まとめて吹っ飛ばしてくれる。

決意を新たにした千晴に、
ユッシが呆れた様子で息を吐く。
「誰も見る人がいないのに、なんで格好付けてんの?」
「格好付けるのと、気合いを入れるのは違うお!」
言い返して鼻息荒く、
小さい黒魔法使いは白魔導士の腹に拳を叩き込んだ。
ぐえとあがった悲鳴を無視して、ドンと足を踏み降ろす。
「そんなことより、この後の作戦はどうするんだお!?」
白魔導士ホワイトウィザードと言えば、
冒険者の中でも相応の知識と技術を持たねばならない、
上級職の最高峰のはずだ。
大げさに痛がっている暇があったら、
先輩としてさっさと次の指針を述べて欲しい。
いや、そうするべきである。
さっさと指示を出せと千晴はユッシに迫った。
「この後は作戦もなにも一定の距離離れて監視でしょ。」
ゴキゴキ首を回しながら、当然のことを白魔導士が言う。
ただ、問題は何処まで離れるかだ。
「あんまり近づきすぎると気づかれるし、
 かと言って、離れすぎるといざって時、間に合わない。
 何処で待機するかがポイントだね。」
言いながら、ユッシは魔導具を操作し、
改めて地図を拡大した。
「最終目的地はフーゲディアの解体場所と予測して、
 ヨハン君たちに見つからず、
 状況を黙視できる丁度いい場所は何処かな?」
北東からわずかに南下しつつ戻ってくる赤い線を眺め、
暫しの沈黙が流れた後、
自信なさげにイーギルが地図の一点を示す。
「作業中の雑把な記憶だから絶対とは言い切れないけど、
 確かこの辺が特に木が多かったと思う。
 隠れるなら、身を隠す物が多い方がいいよな?」
「こっから斜め左下かお。
 じゃあ、今からそこを目指して動くかお?」
既にハンター達は、
千晴達からも離れていないところまで戻っているが、
目的地が予測通りなら、
これ以上西へ進むとは考え難い。
見つからないために少し距離を置くにも良い位置と、
頷きつつ意見を求めて千晴がユッシの顔を仰ぎ見れば、
白魔導士は軽く首を傾げ、黙り込んだ。
とんとんと足踏みしながら、考えを纏めている様子に、
騒がず答えを待てば、
ユッシは改めてぐるりと周囲を見回し、
そのまま首を横に振った。
「いや、最終的にそこへ移動するにしても、
 まずは来た道を戻ろう。」
「けど、」
獣道とはいえ、単純なルートで下手に南下すれば、
ハンター達と鉢合わせする可能性がある。
反対しかけたイーギルを片手で押さえ、
ユッシは言葉を続けた。
「言いたいことは判るし、うちも色々考えたけど、
 結局うちらは森のことについては素人だろ。
 知らない道を進むのは危険だよ。
 イーギルの言う茂みが記憶違いじゃないかは勿論、
 レイナさんが言ってた暴風薔薇とかだと不味いし。
 それにさ、あわてて隠れなくても、
 ここから南下しなければ、見つかっても大丈夫。
 むしろ、向こうが避けると思うんだよね。」
今まで何もなかったが為に忘れかけていた森の危険性を、
改めて指摘され、頷きつつも、
隠密行動を否定する意見に千晴は首を傾げた。
「なんで?」
「いや、今回、後ろ暗いのは向こうじゃん。
 逆にこっちは慌てて動く必要もないわけだし、
 森に留まってることについて何か言われても、
 休憩してたで済むだろ。」
故に、来た道を戻るなど不必要な動きさえしなければ、
怪しまれる謂われはない。
「あー」
「確かに。」
小さい黒魔法使いと槍騎士が納得したのをみて、
ユッシは更に言葉を続けた。

「それにこっちには向こうの位置を把握できるんだ。
 離れすぎは不味いけど、逆にそれさえ気をつければ、
 見失う事もないから、無理に近づく必要もない。
 それより、下手に近辺に潜んで索敵された時、
 見つかる方が痛い。」
「何か作業をするなら、
 必ず周囲を確認するだろうしな。」
ふんふんとイーギルが打った相づちに、
ユッシは正に其れ、と眉をしかめた。
「だから、それまでは索敵に引っかからない範囲で待機、
 折を見てとっさの時に間に合う場所まで移動、
 具体的には向こうが広場につくまでここにいて、
 更に移動するなら尾行、
 留まるなら一定時間待って接近が良いと思う。」
意見は求めても、自信の考えはまとまっていたのだろう。
理路整然と持論を述べた白魔導士は、
ここで一旦話を区切り、反対意見を求めたが、
イーギルは首を横に振り、千晴にも異存はなかった。
「よし、じゃあ、そういうことで。」
お互い意見がまとまったことを確認するも、
イーギルが肩すかしを食らったように肩をすくめた。
「でもなんだ、そうなるとまだ待機だよな。
 てっきり、もう移動するのかと思った。」
「移動はしないよ。」
即答しつつも、
ユッシはまだ何か考えているように空を仰ぎ、
やがて意を決したように頷いた。

「移動はしない。けど、これからここに魔法陣を張る。」
一体、この白魔導士はいくつ隠し玉を抱えているのか。
突拍子のない発言に呆れ果てた千晴は大きく口を開け、
言いながらも計算を続けているのか、ユッシは腕を組み、
動物園の熊よろしく周囲をぐるぐる歩き回った。
「ここから現地まで歩いて15分、急いで10分、
 全力で移動して7、8分、いや5分としても、
 間に合うかどうか。そもそも、現場が予想を外れて、
 更に奥だった場合は無駄になる可能性もある。
 けど、これより先に適切なスペースはなかったし、
 効果の保証もできない。もう、博打だな、これは。」
ぶつぶつ独り言を呟く白魔導士に、
しっくりきていない様子のイーギルが首を傾げる。
「魔法陣って何の?」
「簡単に言うと、移動魔法に特化した能力向上効果。」
答えたユッシは、
不機嫌に髪の毛を右手でガシガシ掻き回し、
どこか上の空ながらも説明した。
「主にラウムハーフェンの発動時間を短縮するんだ。
 距離はぎりぎり間に合いそうだけど、
 ここは土地の魔力も強いし、
 補助があるに越したことないからね。
 どちらも意味でも効果は抜群だよ。」
移動魔法は制御が難しく、必要な呪文も長い。
しかし、魔法陣を使えば、
単純な魔力注入と発動宣言だけで、
使用可能になるらしい。
詠唱の待ち時間なくハーフェンで移動できれば、
とっさの逃げ道として最適なのは千晴にも判ったが、
距離がぎりぎりという言葉に引っかかる。
「ここって直線ならイデルから15kmぐらいなんでしょ?
 距離は普通に問題ないんじゃないかお?」
移動魔法ラウムハーフェンの最大稼動距離は20kmのはず。
ユッシの腕なら当然MAXまで使用可能と考えていたが、
現実はそう甘くないらしい。
「確かに平地なら18kmはいくけどさ。
 でも、ここは場所が悪い。
 さっきも言ったけど、土地の魔力が強すぎる。
 体力向上や怪我の治療なんかの白魔法の殆どは、
 術者の技量が重要で周囲の影響は受けないもんだけど、
 ラウムハーフェンは少ない例外なんだ。
 元々多少の誤差で効果がおかしくなったり、
 発動すらできなくなる不安定な魔法だしね。
 冒険者家業をやってれば、
 ハーフェンの距離が縮まるなんてよくあることだよ。」
だから、実際にはどれだけの距離を移動できるか、
現場で豆に確認する必要があるそうだ。
確かに黒魔法でも環境によって、
威力が変わることがある。
「そうなのかお。
 でも、ボクはそんなに影響を感じないけどな?」
半分納得、半分しっくりいかず、
曖昧な理解を示した千晴に、白魔導士は肩をすくめた。
「白魔法と黒魔法は使う魔力が違うからじゃない?
 そんなことより、魔法陣を張るのを手伝ってよ。」

確かに、今は魔法学について学ぶ時間ではない。
ユッシの指示に従い、周囲の意志や枯れ葉を片付け、
適当なスペースを作る。
「これもやっぱり、」
「そ、極秘ルートで入手したものだから、
 追求及び、他言しないでよ。
 余所にばれると文字通り、うちの首が飛ぶから!」
言いかけた側から質問を封じられ、
イーギルが顔を青くする。
其れを気にかけることもなくユッシは、
魔法陣が描かれたスクロールを広げ、
魔法の発動を補助する魔応石を配置していった。
見たことのない魔法陣に、
出元は高性能過ぎる魔導具と同じと判断し、
若干興ざめしつつ、千晴は肩を落とした。

「随分、大盤振る舞いだお。」
帽子を作ってもらう約束を取り付けるまで、
千晴がどれだけカオスの元に足を運び、
交渉を続けたことか。
一回限りの使い捨てとはいえ、
時期的にユッシが同じような苦労をしたはずはなく、
こんな簡単に便利道具を受け渡すなら、
もうちょっと自分にも、
配慮してくれたって良くないだろうか。
彼の不満を大方理解して、ユッシが鼻先で笑った。
「まーね。本当は探知機だけのはずだったんだけど、
 人狼を相手にする予定として、
 逃げ道をどうしても確保したかったから、
 粘りに粘って交渉に応じてもらった。
 話をするだけで、時間と経費が相当掛かったよ。」
そればかりか、何度か殺されるところだったと嘯く。
「それじゃあ、俺も折半しないといけないじゃないか。
 幾らぐらいだ?」
魔応石、薬剤や矢代など、職業的に必須の消耗品や、
回復薬などは個人負担が基本ではあるが、
狩りの成立に必要な経費はメンバーで折半するものだ。
安価であるなど、
購入者の判断により対象とならない場合もあるが、
今回のようにメンバーの安全を確保する為であり、
高価なアイテムとくれば、
一定割合を支払うのがマナーだ。
ユッシの独断で入手したものとはいえ、
必要性は明確であり、値段を問いたイーギルに、
当人は首を傾げた。
「えー 結局、幾ら掛かったんだろ?」
「勘定してないのかお?」
高額と言った割に大雑把な回答に千晴が呆れれば、
ユッシは口をとがらせて言い訳した。
「しょうがないじゃん。
 何回か、小分けにして交渉したしさ。」
それでも、一応明細は覚えているらしく、
一つ一つを上げていく。
「ええと、契約締結までに渡したのが、
 確かマカロン20個が2回でしょ、
 それからシュークリーム6個と、プリンが15個と、
 メレンゲが一袋だったかな。」
洋菓子専門店の品を差し出せば、
結果は兎も角話だけは聞いてくれることが多いらしい。
「肝心の魔法陣代は?」
「いろんなケーキ1ダースとカスタードタルトが1ホール、
 後、カヌレ20個。」
内容を聞いて、千晴は深く息を吐いた。
「うん、高いんだか、安いんだか、さっぱり判らんお。」
どれも専門店の品であれば、
確かにそれなりの金額はいくだろう。
しかし探知機の時も思ったが、
他ではけして入手できない超高性能魔法陣の価値として、
見合っているのか。
複数の意味で非常識な価格に、
イーギルが口元をひきつらせる。
「本当に、おまえは何と交渉してきたんだ?」
それは、彼自身のためにも、
触れてはならんところである。

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