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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

高性能装備の入手方-欲望の代償、その3。

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高性能装備の入手方-欲望の代償、その3。





落ち込んだ気分そのままに、
のったらのったら、獲物に近づこうとして制止される。
「そのまま、待ってて。危ないから。」
ヨハンに少しきつめに注意され、
気を抜きすぎたと恥じる。
獲物の生死を確実に確認するまで、
油断してはならない。
これは職に限らずレンジャー全般の鉄則だ。
顔を引き締めて頷き、安全の合図を待つ。
みれば、イーギルも騎乗したまま動かず、
レイナもフーゲディアに近づこうとしない。
栗毛のハンター一人が、獲物に近寄って、
獲物が確かに死んでいることを確認すると、
そのまま屈んで、何かを探し始めた。

程なく、じゃらじゃらと鎖が音を立てて、
いくつかの大きな罠が掘り出される。
「二の四の六の八の・・・よし、これで全部。
 もう、大丈夫だよ。」
ようやく近寄っても良いと許可がでる。
他に仕掛けた罠を回収し終わったようだ。
考えてみれば当然だ。
たった一つで、獲物を捕まえられるはずがない。
改めて近寄って、
しとめたフーゲディアの大きさに感心すると共に、
彼の足に食い込んだ、
いかにも頑丈そうな鋼鉄製の罠に興味を持つ。
見れば鉄の歯は肉をえぐり、骨まで食い込んでおり、
その痛さを思って千晴は身を震わせた。
重く、冷たく、捕らえたものに死をもたらす鉄の罠は、
気弱そうなヨハンには似合わないが、
千晴がぼんやりしている間に、
手慣れた様子で栗毛のハンターは、
罠を獲物から取り外しにかかった。
どうやったのか、ギイと音を立てて、
貝のように罠の口を開き、挟んだ足を取り外す。
足が抜けたら再び口を閉じて、
安全ピンで勝手に開かないよう固定し、
その他の罠とひとまとめに地面において、汗を拭う。
「お疲れ様ですお。」
「お疲れなのはこれからだよ。」
千晴のねぎらいにヨハンは苦笑して、
腰からナイフを取り出した。
「大きいから解体は大変だよ。
 早く血抜きもしないといけないしね。」
そう、獲物をしとめたら、持ち帰るべく、
解体しなければならない。
小さい獲物であれば何度か経験したこともあるが、
皮をはぎ、肉をばらす作業は、
けして気持ちのいいものではないし、
上手にできた試しがない。
まして、こんなに大きいのはやったことがない。
覚悟しろとほほえまれ、千晴は顔を歪めて唸った。

それから1時間はまさに地獄だった。
ヨハンとレイナの指示に従って、
足を持ったり、皮を引っ張ったり、賢明に千晴は働いた。
フーゲディアは巨体なだけに重く、
どれもひどい重労働で、後々自分でもできるよう、
手順を覚えろと言われても、そんな余裕などなかった。
むしろ、血の臭いで吐いたり、
引き吊り出された内蔵におびえて、
泣いたりしなかっただけ、褒めてほしい。
大変だったのは大人たちも同じ事で、
皆、不機嫌に黙り込み、あの穏和そうなヨハンまで、
鏃が取り外せないと苛立たしげに舌打ちした。
ご機嫌だったのは、イーギルのライクーンだけだ。
解体作業に加わることもなく、
処理しきれない内蔵を貰った彼は、
大喜びでご馳走に飛びつき、ろくに噛みもせず、
次々と飲み込んで、ぐるぐると猫のように喉を鳴らした。

何とか、いくつかのブロックに解体して、
ようやく一息つく。
顔に付いた血を拭おうとして広げてしまい、
イーギルが呻く。
「大体、こんなもんか?」
「そうだね。」
ヨハンが答えながら、肉をいくつかの袋に入れ、
剥いだ皮も丸めて同じようにする。
辺り一面に散らばった血と、肉のこびり付いた骨を眺め、
ユッシがむすっとした顔でに腕を組む。
「これはどうすんの?」
「そのままにしておけばいい。 
 獣達が片づける。」
「あ、そう。」
答えたレイナも素っ気ないが、
聞いたくせに白魔導士の態度が非常に悪い。
流石のユッシも疲れているのだろう。
最後の内蔵をライクーンに与えながら、
疲労で座り込んだ千晴の顔を、
長い舌がベロベロと嘗めた。

「うひー! ちょっと、やめてお!」
悲鳴は上げたが、そこまで嫌なわけでもない。
餌をくれる人と認識したのか、
ライクーンは嬉しそうにパタパタと尻尾を振り、
千晴も笑顔でその頭をなでてやった。
竜型騎獣は気持ちよさそうに目を細めたが、
近寄ってきた主人を認め、
まじめな顔をして居住まいを正した。
「スモーク、ご馳走は食べ終わったか?」
愛竜の首をトントン叩いてやりながら、
イーギルが手綱を引く。
「この子、スモーク〈煙〉っていうのかお?」
カーキ色の鱗に煙っぽいところはないが、
聞かれたイーギルはこともなげに頷いた。
「ああ、
 目がスモーキークォーツ〈煙水晶〉みたいだから。」
「ほんとだ。」
洒落た命名だと千晴はライクーンの目をのぞき込んだ。
騎士の手となり、足となるばかりか、時には盾として、
凶暴な魔物に立ち向かう騎獣とは思えない、
優しい竜の瞳は、口悪くも優しい養母、紅玲を想わせた。
併せて、言いつけを破ったことも思い出す。
ユッシの特訓と紅玲のお説教のダブルスは耐えられない。
『今日のことは絶対にばれてはならんお!』
改めて己に言い聞かせ、千晴が拳を堅く握った間に、
イーギルがスモークを戦利品の山、近くに連れていく。

「じゃあ、俺はどれを持っていけばいいんだ。」
「こっちをお願い。」
イーギルの問いにヨハンが指した場所には、
いくつもの袋が山の用に積み上げれ、
どれも肉がパンパンに詰まっている。
反面、ハンター達が持ち上げた彼らの取り分は、
バックパック二つ分だった。
2対3に分けたとはとても言えず、不公平に思えるが、
取り決め通りの分配らしい。
ライクーンの背中に荷物を括りつけるのを手伝いながら、
ヨハンが言う。
「この気温じゃ滅多なことはないだろうけど、
 燻したりしてないから、早めに処理してね。」
「ああ、わかった。
 それより、本当に罠はもって帰らなくていいのか?」
「うん、重いし、スモークも持ちきれないだろ。
 このまま、捨ててくよ。
 もう、古いから、新しいのを買うつもりだったし。」
大きな取り分を手にしたはずなのに、
赤毛騎士の声はどことなく暗く、
栗色の髪のハンターもどこか寂しげだ。
解体が終わった疲れにしても、
妙に感傷的な男二人を振り払うように、
レイナがきっぱり狩りの終了と、
パーティの解散を宣言した。
「では、最初に断ったとおり、
 私たちはこのまま村に帰る。」
「休憩しないの?」
雰囲気からして、そうなるかと感じてはいたが、
腕も上がらないぐらい疲れているのは、
千晴だけではないはずだ。
強行軍は失敗の元にもなる。
けれども美しい顔の四本傷をひきつらせるようにして、
レイナは冷たく言い放った。
「こんな所にいつまでも滞在して、
 何かあったら面倒だからな。少しでも早く離れたい。
 そちらに同じことを強制する気はないが。」
ここは禁猟地でこそないが、
人狼の生息地に近い、危険な場所。
休みたかったら勝手に休めと突き放されて、
千晴は俯いた。
その様子に言い過ぎたと思ったのか、
レイナは眉尻を少し下げたが、
迷いを振り払うように頭を振り、白魔導士たちを睨んだ。
「それより、帰り道は大丈夫なんだろうな?」
確認された事項について、
千晴がその意味を考えるより先に、
ユッシが右手の杖を降り上げ、イーギルが鼻先で笑った。
「ちゃんと杭打ちしてきたよ。」
「それにこいつが臭いを覚えてる。」
主人に呼ばれたことを察してライクーンが、
グフグフと鼻を鳴らし、千晴はユッシの顔を見上げた。
「杭打ちって?」
来たときについた臭いを辿れると言うのはわかるが、
杭打ちとはなんだろう。
実際にそのような作業は、していなかったはずなので、
恐らく魔法専門用語であろうが、聞いたことがない。
千晴の問いにユッシは意外そうに目を見張った。
「あれ、魔杭・ポイントチェックってまだ教わってない?
 白魔法だと基礎なんだけど。」
「あー マーキングのことね。」
説明をうけて、理解する。
いわゆるマッピングだ。
冒険者はありとあらゆる場所に向かう。
当然、見通しのいい平地ばかりではなく、
今日のような森や洞窟などでは、迷わぬよう、
要所に専用の魔導具を打ち込んで楔とし、
帰りの目印にするのだ。
白魔法と黒魔法では時々同じ魔法でも、
呼び方が違うことがあるが、
どちらにしても魔法使いの大事な仕事だ。

「それは5年生からだって聞いてるお。」
今まで、その手の雑務は、
当然の如くユッシがやってくれていたので、
意識していなかったが、一人前の魔術士なら、
忘れていたでは済まない重要事項であり、
今後、気をつけようと心の隅に刻む。
ついでに一応、まだ学校で習っていないことを伝えれば、
ユッシは鼻にしわを寄せ、
白魔法なら1年生で習うのにと不服を唱えた。
「随分遅くない? 迷子防止にもなるんだし、
 もっと早くから教えるべきだ思うけど。」
「そんなこと、ボクに言われても困るお。」
学校の方針までは、流石に変更できない。
何でだ? 知らないよーなどと、
言い合っているうちにも、
ハンター達は身支度を整えたらしい。

「では、これで失礼する。」
「お疲れ、様でした。」
余りに淡泊に背を向けて歩きだしたレイナの後を、
すまなそうに頭を下げたヨハンが追う。
「じゃあ、またな。」
イーギルがかけた声にも、
彼らはほとんど反応しなかったが、
20歩ほど進んだところで、思い返したように立ち止まり、
二言三言、言葉を交わすと、
ヨハンだけ走って戻ってきた。
栗毛のハンターはイーギルではなく、
千晴のところにやってきて、右手を差し出した。
「チハル君、これ、君にあげるよ。」
「? なんですか?」
「ベルンでよくあるお守り、っていうか、虫避け。
 僕はもう、使わないから。」
じゃあ、と改めて別れを告げてヨハンは去って行き、
改めて受け取ったものを確認すると、
緑色をした素焼きの首飾りだった。
何かが香るのに気づいて鼻を近づければ、
出先に塗った暴風薔薇の汁に似た、
少し青臭い森の臭いがした。
「ちゃお君、うちらもいくよ。」
「あ、うん、今行くお。」
ユッシに呼ばれて顔を上げ、肉の詰まった袋を担ぐと、
千晴も家路を辿るべく、白魔導士の後を追った。

帰り道、ユッシもイーギルも口を開くことはなく、
千晴も俯いてその後ろを歩いた。
背中に負った戦利品が重い。
ヨハンに渡された首飾りを、
ポケットから取り出して眺める。
さっきのあれは、何だったんだろう?
まるで形見分けみたいだった。
自然に浮かんできた感想を頭を降って振り払う。
何を考えてるんだボクは、縁起でもない。
それより、人狼の毛はどうなったのか?
そうだ、ボクとしたことが忘れてた。
本来の目的を思い出すが、
前を行く大人たちの足並みは早く、
質問できる状況ではない。

確かに狩り自体は魔法を数発打っただけで終わったが、
解体作業で疲れきっているというのに、
大した休憩もなく帰宅というのは無理がある。
疲労と不満で爆発しそうになりながらも、
20分ほど歩いただろうか。
少し、開けた場所に着き、
先を歩いていたイーギルがぴたりと止まった。
「そろそろ、いいか?」
こわばった声に、ユッシが冷淡に答える。
「いいんじゃ、ないの。」
それを皮切りにして、二人は大声で叫びだした。
「ああー! もう、あり得ない!
 何考えてるんだよ、あいつ等!」
「怪しい! 怪しすぎにも程があるだろ!
 なんかの振りなの!?」
「えっ? そんなに言うほど、なんかあった!?」
ガーッとそろって頭をかきむしり始めた二人に驚いて、
千晴が飛び上がると、やはり二人とも揃って、
ブスリとしてした顔に戻り、その場に座り込んだ。
「いや、もの凄く、というほどでもないけどよ。」
「でも、しっくりこないことが多すぎて、
 変だと言わざるを得ないね。」
「どっちよ!?」

何にしても、気に入らないらしい。
確かにハンターたちはおかしな雰囲気だったが、
それを言うならあんたらだって結構なもんだとの言葉を、
寸でのところで千晴は飲み込んだ。
「もー 最初から全部話して欲しいお!
 一体全体、今回の狩りは何なんだお?
 聞いた話と全然違うし、判んないことばかりだお!」
「ああ? 俺はちゃんと話したぞ?」
「もう、いいじゃん、後で後で。」
千晴の苦情にかみつき返すイーギルを振り払うように、
ユッシがパタパタと右手を降る。
「取りあえず、腹ごしらえしようよ。
 もう、疲れたし、腹減ったよ。
 何だよ、あの鹿。何だよ、あの重労働。 
 デカいにしてもほどがあるだろ。
 一旦休んで、何か食うまで、
 うちはこれ以上の言い争いを全力で拒否する!」
そのまま、ユッシは背を向けて火をおこす準備を始め、
イーギルも黙ってライクーンから、
括りつけた袋を卸す作業を始めた。

こうなっては千晴に為すすべはない。
なんなのか、この二人は。
赤毛騎士が変なのは元々だが、
白魔導士まで、何か感づいたらしいにも関わらず、
それを教えてくれようとしない。
とはいえ、千晴としても空腹も、疲れてくたくたなのも、
事実であったので、諦めて荷物を下ろし、
昼ご飯の準備を手伝った。
枯れ葉を片づけ、周りにあった枝や石を集めて、
簡易的な竈を作ったら、
袋から取り出した巨鹿の肉に塩や香草などを擦り込んで、
太い枝に突き刺し、起こした火で炙る。
パチパチと音を立てて肉が少しずつ焼けていくにつれ、
香ばしい香りが辺りに広がり、横っ腹がキュウと鳴った。

ふてくされた顔のまま、イーギルが呟く。
「火なんか起こして、大丈夫か?」
肉の位置を直しながら、ユッシがやはり無表情で答える。
「しらん。別に休憩する事自体は変じゃないし、
 ばれたらその時はその時でいいだろ。」
「ばれるって誰に?」
焚き火に枯れ枝を足しながら、
不信感を隠さず重ねた千晴の質問には、
白魔導士の深いため息が帰ってきた。
「普通なら周囲の魔物だけど、
 今回は、+ヨハン君たちに決まってるじゃん。」
「決まってるんですか、そうですか。」
他にいないと言われればそうかもしれないが、
そもそも、ハンター達に何がばれて、
何が悪いというのか。
ここまでくると、逆に何も聞く気もしない。
程なく焼けた肉を取り上げ、口でフウフウ吹いて冷ます。
一口かじると、
じゅわっと独特の香りと油が口に広がった。
「おいしい・・・」
野生味溢れる鹿の肉は堅く、
食べやすいとは言えなかったが、
噛みしめるほどにうまみが溢れだし、
刷り込んだ香辛料と合わさって、
見事なハーモニーを口の中で奏でた。
「ああ、うめえな・・・」
「腹減ってるから、余計に旨いね・・・」
静かにイーギルが相づちを打ち、
身も蓋もないことをユッシが言う。
そのまま、三人は黙々と肉をかじった。
皆、食べているのに、臭いだけしか流れてこない状況が、
耐えきれなかったのか、
ライクーンがとんとん足で地面をひっかき、
自分の分を要求して、主人に怒られる。
「お前は、さっき内蔵を食ったろ!」
「レバーも食いたかったよなあ・・・
 あれも旨かっただろうなあ・・・」
ぼんやりと遠い目をしたユッシが呟く。
内蔵は腐りやすいので、
その場で食べてしまうことが多いという。
狩りに参加した者だけが味わえる特権は、
今回、ライクーンが全て平らげてしまった。
それでもイーギルは袋からひとかたまり、
肉を愛竜に投げてやり、
大喜びでおやつを啄み始めたスモークに、
ユッシが肩を落とす。
「よく食うなあ。」
「実際、食ってくれないと持ちきれないしな。
 みろよ、この荷物。」
スモークの隣には、未だ山のように袋が、
幾つも積み上げられている。
無理矢理、持ってきてはみたが、
幾ら丈夫なライクーンでも、
このままでは道半ばでつぶれてしまうとイーギルが俯く。
「ほんと、おかしいよ。」
「ありえんな。普通はありえんな。」
うんうんとユッシが相づちを打ち、
彼らが言いたいことはいい加減、千晴にも判ってきた。

「やっぱり、こんなに大きな獲物、
 普通は5人じゃ狙いませんよね。」
最初の懸念どおり、この計画には無理がある。
当然だと、イーギルが頷いた。
「ああ、少数でしか狩れないにしても、
 運搬方法は別に考えるだろ。」
幾ら良質な獲物をしとめても、
持って帰れなければ意味がないからだ。
しかも、元々はハンター二人で、
しとめるつもりだったくれば、異常性は更に際だつ。
気に入らないと腕を組み、ユッシがうなる。
「解体も、雑だったしな。」
「そうなの?」
千晴には手際よい手つきにしか見えなかったが、
何をみていたのかと怒られた。
「辺り一面に肉の欠片が散らばってたろ。
 骨にも沢山、肉が残ってたし。」
「ハンター、特にベルンの奴らは、
 獲物を狩るって言うのは、
 命をもらって食べることだって、自覚が強いからな。
 獲物を粗末に扱うのを、罪悪みたいに考えてる。」
焚き火の前に座りなおし、
イーギルは力なく焼けた肉を食いちぎった。
「ヨハンも、普段はもっと丁寧に時間をかけるし、
 むしろ、俺が雑だって怒られるんだ。」
肉の一欠片、骨一本だって、
無駄にしようとしない彼らにしては、
今日の作業も、計画も雑すぎると言う。
「罠だって、ただじゃない。
 幾らフーゲディアの肉が高く売れるからって、
 商売道具をもって帰らないなんて、おかしいだろ。
 しかも獲物だって、
 あいつらの取り分は殆どないんだ。」
「でも、沢山の荷物は、帰省の邪魔になるし、」
イーギルを疑うつもりはないが、一応、反論してみる。
同じフロティアの森の中でも、
ベルンの村は西側に集中しており、
ここから優に50kmはある。
しかも、道なき森の中を通るとなれば、
できるだけ軽装で進みたいはずだ。
可能性の一つとしてあげてみた千晴の意見は、
頭から否定された。
「そんなの、後で受け取ればすむ話だろ!
 知り合いが全く居ないならいざ知らず、
 同じギルドの俺がいるんだ。俺にはスモークもいるし、
 代わりに持ち帰らせればいい、
 帰ってくるまでに腐るのなんのって言うなら、
 換金まで任せて、金を受け取ればいいじゃないか。
 なんで、そうしないんだ・・・」
怒鳴るように始まったにもかかわらず、
後半の声は少し震えていた。
「あいつ、2ヶ月ぐらい前、
 レイナと会うようになってから、おかしいんだ。
 何か、悩んでるみたいなのに、
 聞いても何も話してくれないし。
 死んだ兄貴の元嫁と会ってるだけで、
 何であんな風になるんだ?
 挙げ句、ハンター二人でフロティア東側で狩りとか、
 不自然だろ!」
赤毛騎士の朝からの不自然な様子に、
レイナに対する乱暴な態度の理由がようやく見えてきた。
要するに、彼はヨハンが心配で苛ついていて、
問題の原因がレイナにあると考えているのだ。
納得し、無言でうなずいた千晴の横で、
ユッシが更に指摘する。

「あの矢筒からして、
 ただの無計画っていうわけじゃないみたいだしね。」
「ああ。」
深くイーギルは頷き、千晴は慌てて記憶の中を探った。
そうそう、始めにフーゲディアをしとめ損ねたとき、
ヨハンが手を伸ばした矢筒には、
ぎっしりと矢が詰まっていた。
けれども、それのどこがおかしいのだろうか?
確かに、今回は罠猟で多くの矢は必要なかったし、
帰りに荷物になるのが判って、
あんなに矢を持つ必要があるかは疑問だが、
ここは危険な魔物が多く生息するフロティアの森だ。
ここにくるまでは偶々、何もなかったが、
いつ、何に出くわすか分からず、
帰り道も油断はならない。
ハンターの弱点は消耗品を使うことだ。
どんなに腕のいい弓士でも、矢を使いきったら、
何の役にも立たない以上、
多めに準備をするのは、別におかしくない。
と、すれば、他に何かあるはずと、
千晴が答えを見つける前にユッシが正解を答えてしまう。

「あの三段も返しがついた鏃は普通じゃないね。」
返しとは鏃の先を曲げて、
刺さった矢が簡単に抜けないようにすることだ。
それ自体は別に珍しくもないが、
あまりしっかり肉に食い込んでしまうと、
解体の邪魔になるという。
事実、ヨハンが鏃の回収に手間取っていた。
「それにもう片方は、うちの見立てじゃ毒矢だね。」
そう言えば、矢羽も2種類の色違いに分かれていた。
「あの矢羽はブルズアイ製の蛇毒だと思うんだよね。
 三段返しのもブルズアイだったし、
 一発目をはずした後、次を出し渋ってたことからも、
 多分間違いないよ。」
有名なメーカー品だから、何度もみたことがあるそうだ。
毒矢は刺さった部分の肉を捨てるなど処理が必要になり、
捕食目的の狩りには不向きだ。
また、あのメーカーの毒は効き目も強いが値段も高い。
そう気軽には使えないだろうと、
白魔導士は自信を持って断言し、イーギルも頷いた。
「矢を買うならブルズアイだって、
 ヨハンのやつ、言ってたからな。」
そのまま、昔を懐かしむように、
赤毛騎士は目を細めた。
「返しの数が多いと、肉を痛める原因になる。
 幾つも返しが必要になるのは、
 食べる為じゃなく殺すため、
 黒悪魔や豚鬼、人狼が相手の時、か。」
まさかとは思っていたがと呟く彼の言葉から、
今回の要因であった魔物の名前を、
千晴が聞き逃すはずがなかった。

「そうだ、人狼! 
 今回人狼は、どう関わってくるんですか?」
「あー・・・だから、ユッシから聞いてるだろ?」
違うのかとイーギルが顔を歪め、
ユッシが仕方ないと言わんばかりに説明する。
「ことの始まりは、ヨハン君とレイナさんが、
 『四つ足の悪魔を狩る』って話してるのを、 
 イーギルが聞いたところから、始まってるんだよ。
 で、その四つ足の悪魔ってのが、
 何かってことなんだけど。」
「フロティアに強い魔物は沢山居る。
 死出の洞窟の不死者やオーク、
 いわゆる豚鬼の生き残りとかも怖い。
 けど、四つ足っていったら、人狼だろ。」
他に何か思いつくかを問われ、千晴は首を振った。
悪魔と呼ばれる種族は実際には妖精の亜種族で、
人型が多い。
死体が元となる不死者や亜人に属する鬼族も、
二足歩行が基本だ。
わざわざ四つ足と言うのであれば獣の類だろう。
そしてフロティアで凶悪なのものといえば人狼だ。
黒い亡霊などとも呼ばれるがと付け加え、
イーギルは苦々しげに話を続けた。
「けど、人狼なんか、それこそハンター二人で、
 どうにかなるようなもんじゃない。
 実際、狙いはフーゲディアだって言うし、
 人数が少なすぎることを除けば、
 話におかしなとこもない。
 それでも無理に参加することにして、
 他になんかいらないのか聞いてみたら、
 出てきたのが初級黒魔法だ。
 アウフローダーなんか、人狼に通用すると思えない。
 だから、なんか狙ってるにしてもそれ以外、
 下手すりゃ四つ足の悪魔ってのも、
 俺の聞き間違いかと思ったけど、
 獲物の運搬を考慮しないってのはやっぱ変だし、
 現場が現場だろ。」
どうにも、納得できなかったところに、
ユッシがフロティアを調べていると聞いて、
声を掛けたとのことだ。 
「ガキのお前を巻き込むのは気が引けたんだけどさ、
 ちょうど条件にぴったりだったし、
 あんまり大事にして、なにもなかったら、
 それはそれで面倒だろ。
 少なくともユッシが居れば何とでもなると思ってさ。」
確かに、何か危険なことがあったり、大けがをしても、
腕利きの白魔導士がいれば大概のことは対処できる。
ついでに防御を補助できる黒魔法使いがいれば、
尚、いいぐらいのもんだろう。
やっぱり自分はおまけだったと千晴は納得し、
念のため、白魔導士にも確認する。

「ユッシンは、今の話のどこまで聞いてたの。」
「ヨハン君の様子がおかしいのと、
 狩り中、もしくは終わった後に、
 なんかあったら付き合って欲しいって言うのと、
 それがもしかしたら、
 人狼に関係あるかもって言うの。」
「うん、今の話と大体同じだね。
 でも、ボクは何も聞いてないんですが。」
「だいぶ、間が抜けてたのは認める。」
「安全かどうかも聞いたじゃん。」
「少なくとも装備狙いの強盗や、 
 詐欺ではないと判断しました。」
「んー 確かにこの場合、詐欺師はユッシンだよね!」
身内に情報規制を掛けないでいただきたい。
レイナたちやイーギルの腹に逸物有ったのは事実だが、
誰が一番悪いといったら、ユッシだろう。
『こいつとペアで組むな。』
母を始めとして再三、
周囲に止められた理由がよく分かった。
しかし、どう考えても、もう遅い。

 

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津路志士朗
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