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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

高性能装備の入手方-材料入手攻略中、その3。

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高性能装備の入手方-材料入手攻略中、その3。




ちゃおの愛称で呼ばれる小さい黒魔法使い、
瀬戸千晴は、母の机を占領したまま、
ノートとにらめっこを続けていた。
解いているのは問題集ではなく、
養母の師匠である魔王に頼んだ、帽子の材料の集め方だ。
ほぼ全て揃ったが、最後の一つ、
人狼の毛が手に入らない。
さて、どうしたものだろう。
カオスの言葉から、もっと何かわからないだろうか。
ヒントを探して千晴は首を傾げた。

いざとなったら、
祀が故郷の島国ヤハンで入手してくれるという。
心情的にとても出来ないが、
本気で頼めば祀は今直ぐにでも、
ヤハンに行ってくれるだろう。
元々、自分たち親子専属の使用人だった異色の剣士は、
それぐらい、千晴に甘い。
そして、これを良くない方法、
良心と後日の母を思えば最悪の入手方法と仮定し、
他の方法と比べてみる。
隣国ソルダットランドの貴族、
ユーリの伝手を使った購入ルートも駄目だ。
彼女の伝手を使うのに、
どれだけの代償が必要かはわからないが、
恐らく高額な金銭が必要な上、
今度はユーリに迷惑をかける。
あの、可憐で優しい賢者に迷惑をかけるなど、
男のすることじゃない。

反面、自力入手はそんな気くばりの必要性は感じない。
付き合わせるノエルやジョーカーの負担は、
それが彼らの仕事と無視できなくもないからだ。
けれども、人狼と戦うのは非常に危険だと聞く。
下手に大けがするリスクを背負うなら、
大人しく、祀に頭を下げた方が利口かもしれない。
今すぐではなく、次、帰省するついでにと頼むのなら、
差ほど負担ではないはずだ。
「いやいや、伝手を当たるっていったって、
 相手によっては相当苦労するかもしれないし、
 やっぱり駄目だお。」
考えをすぐに訂正し、千晴は鉛筆を握りしめ、
思いついた入手法をノートに書きうつしていった。

【最悪
 ・今直ぐ祀さんにヤハンに行って貰う。(大迷惑)
 良くない
 ・次の帰省に祀さんに頼む。(迷惑&時間掛かる)
 ・ユーリさんに探して貰う。(高額&迷惑)
 次点
 ・自分で取りに行く。(超危険)
 例外
 ・あきらめる。           】

「見事に良いパターンがないお。」
腕を組んで、うーんと唸る。
カオスの態度からして、
これ以外の方法があるはずだと千晴は考えていた。
諦めるのはまず論外として、
最悪を含め、人に頼むやり方は、
正直、気を使うという点では大差ない。
気を使わない自力入手は危険すぎ、
自分にも可能という点で違う気がする。
いくら天才児だ、飛び級だと騒がれても、
所詮、千晴は黒魔術系初級職マジシャンでしかない。
上級職が揃って辞退する人狼の討伐など、
無理無茶無謀の三拍子揃ってお釣りがきてしまう。
「つまり、もっと安全で楽なやり方が、
 どこかにあるはず・・・」
鉛筆を片手でくるくる回そうとして落とす。
学校の先輩が考えごとをするとき、
良くやる仕草をまねたのだが、
千晴にはちょっと難しかった。
座ったまま、床に落ちた鉛筆がとれないか、
四苦八苦していたら、乱暴に扉が開いた。
背後からのバシンと叩きつける音に驚いて、
椅子から落ちたところを、大声で呼びつけられる。
「こんな所にいた。
 もう出かけるぞ! さっさと準備して!」
「でかけるって、どこに?」
驚いたのと、危なかったのとで半泣きの千晴に、
ドアを開けた金髪の白魔導士、
ユッシはこともなげに言った。
「狩りに決まってるだろ!」
決まっているのだろうか。
そんな話は聞いていないのだけれども。

予約もなければ相手の都合も考えない勝手な言いぐさに、
千晴は悲鳴に近い声を出した。
「だって、狩りなら午前中に行ったお?」
「まだ、午後が残ってるの!
 今から出掛ければ、1時間ぐらい狩っても、
 夕飯前の6時にはギリギリ戻れるだろ!」
今日は朝御飯を食べた後、
昼ご飯までびっちり害虫退治こと、
虫型魔物と休みなしで戦わされたのに、
まだ、どこかへ行かねばならないらしい。
膝をついたまま、ずるずると引きずり出され、
せめて狩り場ぐらいは教えてほしいと千晴は嘆いた。
「でも、今日はちょっと考えごとしたいから・・・」
「学校に戻ってからしなよ。」
「学校じゃあ、授業と宿題と予習で手一杯で、
 他のことする余裕がないお!」
「じゃあ、諦めなよ。」
穏便に断ろうとしているのに、
ユッシは全く千晴の意を汲もうとしない。
彼との行動を禁止していた、
母や周囲の判断は間違っていなかったようだ。

好意的に言うならば、鍛えれば延びるという、
期待の現れなのだが、相手の都合を考えないのは、
どう考えてもよろしくない。
確かに他の同年代の子に比べ、驚くほど千晴は優秀だ。
だからこそ、教師たちが挙って課題を出すので、
平日は学業に専念しないと首が回らない。
学校のない週末だけが、
帽子についてゆっくり考える唯一の時間なのに、
全て狩りだけに費やすよう求められても困る。
資金集めは重要な課題であり、
手伝って貰えるのは大変助かるが、
世の中には限度というものがあるのだ。
魔力の使いすぎは体にも悪い。
実力行使で逃げ出そうと試みるが、
腕をふりほどくどころか、首根っこを捕まえて、
持ち上げられた。
魔法メインのホワイトウィザードでも、冒険者の端くれ。
物理特化のヒゲではないが、
この程度の力技はできるようだ。

「ボクは猫じゃないお!」
「なに? 何が不満なわけ?
 早くブラックウィザードになりたくないの?」
吊されて、暴れる千晴が全く理解できないと、
ユッシは眉間にしわを寄せている。
「そりゃ、なりたいけど・・・」
中級職を飛ばし、上級職の名前がでてきたのは兎も角、
そこをつつかれれば、答えは決まっていた。
超高性能装備GET以外では、
今のところ最大の目標に思わず千晴が言い淀むと、
白魔導士は見下げ果てたと言わんばかりに吐き捨てた。
「じゃあ、少しでも狩りにいって、
 経験を積んで、RP貯めなきゃ駄目でしょ!
 さぼっててなれるほど、上級職は甘くないよ!」
公認冒険者として活動するためには、
魔物を倒し、討伐の証拠として、
規定の部位や魔力の残滓などの回収したものを、
冒険者ギルドを通じて国に納める必要があり
その上納量に対してレンジャーポイント、
略してRPと呼ばれるポイントが支給される。
RPは換金し、活動資金や老後の備えとしたり、
一部の機関から提供される冒険者向けサービスの、
代金代わりに使うのが主だが、
上位への転職試験にも必要になる。
ブラックマジシャンへの中級職試験でも、
換金すれば5000ロゼ程度、
平均収入約2ヶ月分近いポイントが必要になるが、
上級職試験となれば、
小さな家が買えるようなRPを求められる。
余りに高額なので、採集や簡単な狩猟で、
日々の糧を得ることを目的としている職業冒険者は、
無理に上級職まで進まないのが一般的だ。
そこを敢えて転職するのは、
中級職では相手に出来ないような上位の魔物の討伐や、
国の防衛を目的とする者達であり、
実力差も大きい。
当然、試験も受験資格も相応に難しく、
普通に冒険者をやっているだけで転職できるほど、
甘くないのだ。

「それは、分かってるし、
 狩りに行くのが嫌な訳じゃないけど・・・
 あと、どの道、中級職試験は15歳にならないと、
 受けられないって言われてるお?」
一応、言われていることは理解できるので、
言い訳混じりに規則をあげてみたが、鼻先で笑われた。
「初級職試験受けるのに特例作ってるじゃん。
 一度例外ができれば二度も三度も変わんないでしょ。」
千晴がどうかは兎も角、
規則や形式というものがそんなものらしい。
公式冒険者の数が減少し続けてる現状を踏まえれば、
そのうち規制自体がゆるめられる可能性も高いと、
割と冷静にユッシは予測した。
「上級職だって最低でも20歳以上とか言われてるけど、
 うちやノルだって、10代で試験受けたし受かったし、
 マツリちゃんなんか、全然歳足らないじゃん。
 外国出身者はその辺ごまかしが利くとは言え、
 前例があるんだから、黒魔法系でもいけるでしょ。」
自分の言葉に納得して頷くと白魔導士は、
小さい黒魔法使いをせかした。
「分かったら、早く準備しな。」
「はーい。」
もう、これ以上逆らっても仕様がない。
千晴は大人しく抵抗を諦めた。

結局のところ、
早い段階で人狼の毛が問題になるのが分かっていたのに、
未だ検討と対策が出来ていない原因の8割は、
休みの度にユッシに引きずり回されるからだ。
勿論、週末全てが彼との狩りで埋まるわけではないが、
千晴が暇でも、若干7歳の身としては付き添いなしで、
露店を見て回る訳にもいかないし、
資料を集めに図書館に行くのも難しい。
平日離れて暮らしている母と、
ゆっくり過ごす時間だってほしい。
紅玲が材料探しに協力してくれれば、
その辺りを両立できるのだが、
彼女はこの件が絡んだ途端に耳が聞こえなくなるので、
結果的に何の調べもできていなかった。

「んもー 実戦も資金集めも大事だけど、
 ここまで無策が続くと落ち着かないお。」
「無策とは、聞き捨てならないこというじゃん。
 何が気に入らないのさ。」
急かされながらぶつぶつボヤけば、
白魔導士が顔をしかめた。
一応、彼にも世話になっており、
気分を害してしまったのならば申し訳ない。
大急ぎで首を振る。
「ううん、狩りに誘って貰えるのは、
 とっても嬉しいし、助かってるお。
 でもね、ユッシさんも知ってるでしょ?
 人狼の毛がないと、帽子は完成しないんだお。
 それなのにボクともあろうものが、
 何の見通しも立ってないなんて、
 プライドが許せないお。」
「なるほどね。でも、本当に必要なの、それ?」
千晴の主張を、なければないで良いのだろうと、
ユッシは簡単に切り捨てた。
「うちも軽く露店を探してみたけど、
 全く見あたらないし、
 下手すれば万単位の値段になるって言うじゃん。
 分不相応と、さっさと諦めた方がいいと思うけどね。」
ようやく話を聞く体勢にはいってくれたのは良いが、
否定的な反応に、千晴は口を尖らせる。

「だって、ないと帽子の質が落ちるっていうんだお?」
「落ちるったって、作るのカオスさんでしょ。
 多少上下したってたかがしれてるじゃん。
 それなのに、何万ロゼも追加してまで、
 チート性能が必要なわけ?」
反論を軽く受け流されると同時に、
重点をサックリ突かれる。
詳しい裏事情はばれていなかったはずなのに、
何時、気がつかれたのだろう。
小さい黒魔法使いが目をまん丸くするのを後目に、
ユッシはサクサクと話を続けた。
「そりゃ、良い装備は、
 絶対あった方がいいに決まってるけど、
 手の届かないものを追いかけつづけてたら、
 貰えるものも貰えないでしょ。
 カオスさんなら黙ってても、
 それなりに高性能なの作ってくれるだろうに、
 高望みも程々にした方がいいと思うよ。」
「ユッシさんは、チート装備、欲しくないのかお?」
驚いたまま、話とずれた質問を千晴は口にした。
知り合いの中で、
上昇思考が最も高い彼が事実を知れば、
自分以上に目の色を変えると思っていた。
戸惑いを隠せない千晴を、
ユッシは小馬鹿にしたように眺め、ハッと息を吐いた。
「やっぱり、
 そういうのを作ってもらう予定だったんだ。」
「ぼ、ボクとしたことが、姦計に引っかかったお!」

鎌を掛けられていたと知り、
ますます千晴は慌てふためいたが、
ユッシの態度は特に変わらなかった。
「まあ、何でも良いけどさ。
 正直、実戦経験とRPを稼ぐ以上の必要性を感じないね。
 どんなに良い装備があったって、
 持ち主が駄目じゃ、意味ないもん。
 さあ、出かけた出かけた。」
「それは、確かにそうなんだけどー」
話は終わったと、
ぐいぐい装備ごと押し出されそうになるのを、
足を突っ張って耐えながら、千晴は頭をフル回転させた。
ただ、高性能と言うだけでは、
納得させられないのなら、他の切り口を考えなければ。

「で、でも、良い装備はあった方がいいでしょ?」
「手に入る範囲ならね。」
「手に入るお!
 どうも、楽な方法があるみたいなんだお!」
「楽な方法?」
破れかぶれに手持ち札を全部さらけ出す。
再び、白魔導士の動きが止まった。
「楽な入手法があるってんの? 人狼の毛皮が?
 どうやって?」
眉をしかめ、口元を歪め、
不信を全面に押し出したユッシに負けるかと、
千晴は強い口調で言い張った。
「それは今から探すんだけど、
 根拠のない話じゃないお! 祀さんのお墨付きだお!
 後、毛皮じゃなくて毛玉!」
自分一人では相手にされないかもしれないが、
祀の名を出せば、無碍に扱われはしまいという、
予想は外れていなかった。
案の定、肩を片手で揉みながら、
ユッシは考える素振りを見せた。
祀の威光を勝手に借りてしまったが、
それを後悔する余裕は今、ない。

「本当にそんなもんがあるなら全面的に協力するけどさ、
 信憑性が薄いって言うか。」 
「本当! 本当だって!
 ボクの予測が正しければ、フォートディベルエ国内で、
 安価かつ、安全に入手する方法があるはずなんだお!」
大急ぎで机の上から、ノートを取ってくると、
無理矢理押しつける。
ぐちゃぐちゃに記載された考察の後を、
ユッシは実に嫌そうな顔で眺めたが、
仕方なしにノートをぱらぱらとめくり、最後には頷いた。
「わかった。話を聞くよ。」
「本当かお!」
ギルドの上級冒険者の中でもレベルの高い、
彼が協力してくれれば百人力だ。
手に入ったも同然と、
諸手をあげて喜ぼうとした千晴の腕を、
ユッシはがっしりとつかんだ。
「でも、帰ってきてからね。
 友達と約束してるから、これ以上待てないよ。」
「え、ちょ、そうなの~!?」
ずるずると引きずられながら、千晴は部屋を後にした。

「・・・と、言うわけなんだお。」
「なるほどね。」
コトコトと、母が料理を作る音が響くリビングで、
狩りから戻った千晴は、息も絶え絶えながら、
考察結果を改めて報告した。
夕食までの僅かな間に、話を纏めてしまいたいが、
口と頭が回らない。
本日2回目とはいえ、たった1時間狩りに出かけただけで、
ここまで疲れるような動きを要求されたことは、
今まで一度もなかった。
魔力も体力もぎりぎりだ。
そのくせ、頭が興奮状態に入ってしまったらしく、
暫く眠ることもできそうにない。
おかげで疲労で倒れることもなく事情を説明できたが、
金髪の白魔導士の曇った顔は晴れなかった。
「まあ、筋は通っていると言えなくもないけどさ、
 これを元に動くには、考察も真実味も足りないよね。」
「それは、その時間を貰えないからだお!」
詰めが甘いと責められて、千晴は大声で反論した。
反動で体がびしびしと軋む。
再びぐったりと、机に突っ伏した千晴の前で、
ユッシは何事もなかったの様にノートを睨み続けた。
考えをまとめているのか、
指でとんとんとリズムよく机を叩きだす。
上下する指の動きを眺めながら、
千晴はぼんやりと考えた。
自分は座るのも億劫なほどクタクタなのに、
なぜ、彼はこうも平然としていられるのだろう。
年齢も違えばキャリアの差もある。
そう言ってしまえば当然なのかもしれないが、
自分が必死だった以上に、ユッシも激務だったはずだ。

公共転移魔法施設を幾つも乗り継いで、
ソルダットランドまで行き、そこから更に飛んで、
ようやく到着した古代都市イデルは、
話に聞いていた通り、野生化したホムンクルスが、
大量に住み着いていた。
後、数年は訪れることはないだろうと考えていた、
高レベル狩り場へ連れて行かれたのには驚いたが、
10人近いパーティーにも関わらず、
白魔導士がユッシしかいなかったのにはもっと驚いた。
詠唱速度を上げることに特化した母、
紅玲ならばまだしも、ユッシでは、
人数分の詠唱が必要となる単体補助魔法の維持に、
難があると思われたが、けしてそんなことはなかったし、
防御も攻撃補助も完璧だった。
当たるか否かを瞬時に見分けてシールドを張るので、
魔物の攻撃に怯え、避けようと動いた者が、
返って怪我をするような場面もあったが、
それは術士側の問題ではないだろう。
腕が良いのは知ってはいたが、
同じホワイトウィザードある母やヒゲが、
自分達とはレベルが違うと一目置くのを、
改めて納得させられる働きだった。
確かに、彼と肩を並べられるようになるには、
膨大な修練が必要になるに違いない。
まだまだぜんぜん足らないと己の技術不足に歯噛みする。

大丈夫だ。自分はまだ7歳。
努力を続ければいくらでも延びる。
焦りを押さえ、千晴は自分に言い聞かせた。
今日だって、初級職にしては悪くはなかったはず。
少なくとも、そこで延びてるポールよりマシだ。
千晴と一緒に引きずられ、
狩りに参加させられた新米騎士は、
帰宅と同時に床に転がって、まだ復活していない。
前衛職として魔物に直面し、
戦い続けなければならないのは、
確かに辛いかもしれないが、辛いのは、
魔力を使い続けなければならない後衛職だって同じ事だ。
魔法職であれば動かずに、
一カ所で固まっていられる訳でもなく、
同じ様な負担のなかで、
魔術師の自分が何とか起きているのに、
体力勝負の騎士がダウンとは情けない。
なんにしても、先日の態度からすれば、
彼が起きているとうるさいことになるだろうし、
全面的非協力派な母が料理に没頭している間に、
さっさと話を進めてしまおうと、千晴は考えた。

「何か、わかったお?」
先輩冒険者として、何か思いつくことはないか。
早く終わらせたい千晴の気も知らず、
ユッシはくるりと向きと話題を変え、
台所に立っている紅玲に声をかけた。
「ねえ、ユーリさんはどこに行ったの?」
ギルドを移ってきてから、
高確率で夕飯を作成している友人の不在を問われ、
紅玲は隻眼を細めて答えた。
「今日は大学に研究結果を報告する日だとかで、
 明日まで帰らないって言ってたじゃん。」
「そっかー 今日は実家かあ。」
ユーリは公式冒険者の一職、
黒魔法系上級職ワイズマンであると同時に、
ブロウブルグ黒魔術大学に席をおいている。
学者職であるアセガイル系黒魔法使いには、
よくあることだが、隣国ソルダットランド最高峰の、
黒魔術校に所属するのは簡単なことではないらしい。
千晴には、まだなんだかさっぱり判らない研究を、
こつこつと自室で行い、定期的に大学へ報告している。
千晴の通うニュートーン黒魔術学園でも、
上級生になれば似たようなことをしなければならないが、
頻度が違う。
大変だなと小さい黒魔法使いは嘆息し、
ユッシはつまらなさそうに口を尖らせた。

「それで今日は、クーさんが夕飯担当なのね。」
「文句があるなら、自分で作ってもいいのよ!
 むしろ、なんでうちが自分らの分まで、
 作らにゃいかんのよ。」
「別に文句はないけどさー」
家で食べられるなら何でも良いと、
ユッシは失敬な事を口にしたが、悪気はないらしい。
「ユーリさんの料理が別格だとしても、
 クーさんのだって、ちゃんと美味しいよ。
 でも、クーさん、料理嫌いじゃん。
 だから、聞いてみただけ。」
「それを知って尚、
 うちにやらせるその根性が流石だと思うね。
 ったく、呪詛でも練り込んでやろうか。」
ぷーと大きく息を吐いて、
椅子に寄りかかった金髪の白魔導士と、
眉間にしわを寄せて野菜を刻む隻眼の白魔導士は、
顔を合わせようともせず、
聞き方によっては喧嘩をしているような会話を、
交わしていたが、別段仲が悪いわけでもなければ、
争うつもりも本人達にはない。

「それで、クーさんはちゃお君の材料集めについて、
 どう思う?」
「しらんがな。」
率直に意見を問われて、紅玲はようやく顔を上げ、
さも不愉快そうに文句を言った。
「なんにしても、
 これ以上、祀ちゃんに迷惑をかけるような真似は、
 やめていただきたいね。」
病で白くなった髪が、ますます白くなるとこぼす。
予想通りの反応を示した母に、千晴は首をすくめ、
ユッシはどうでも良さそうにフォローした。
「一応、その辺は考慮されてるらしいよ。」
「だったら、尚更どうでも良いわ。」
心底嫌そうに紅玲は野菜を処理する作業へ戻り、
ユッシはコキコキと肩を回した。
暫く、トントンと包丁の音だけが響く、
重苦しい雰囲気が立ちこめる。

会話を再開させたのは紅玲で、
まな板の野菜を鍋に流し込みながら、ユッシを見やった。
「一応言っとくけど、千晴に協力してあわよくばって、
 思っているなら、やめといた方がいいよ。」
「分かってる。リスクでかそうだもんね。」
危ない橋をわたるにも限度がある。
ユッシは首を横に振り、紅玲はただ、ため息をついた。
「分かってるなら良いけどと言うべきか、
 意外と言うべきか。」
「なに、言ってんの。
 目先の利益に釣られて魔王に手を出すとか、
 大転けする典型じゃん。
 それに装備品は高性能に越したことはないけど、
 あくまで補助であって、肝心なのは自分の腕だしね。
 装備に頼る前にするべき努力が、
 うちにはまだ残ってる。」
「なるほど。」
大人達の会話が耳に痛い千晴は下を向き、
己とて、目的の為に欲しいだけで、
道具の力を自分の力と勘違いする気も、
努力を怠るつもりもないと、自身に言い聞かせた。
望みを叶える為に、あらゆる手段を講じるのは、
別に恥じることではないはずだ。
「何より、相手はカオスさんだしなあ。
 なんもないなら全力で便乗するけどさ。怖すぎるよ。」ユッシがブルブルと身を震わせ、首をすくめる。
その大げさな態度に千晴は首を傾げた。
確かにカオスは魔王だが、彼や母が言うリスクの高さが、
よくわからない。

カオスは周囲を物理的な危険に晒すことを、
あまり好まない。
腹立たしいイタズラや嫌がらせスレスレの絡みが、
大好きなのは確かに迷惑だが、
千晴が知る限り、生死に関わる事は勿論、
誰かが怪我を負うようなことはしない。
それどころか逆に色々と便宜を図ってくれることもある。
一般的に魔王と呼ばれる魔物が、
人間に対してどの様な行動をとるかに比べれば、
無害と言って差し支えないとも思えるのだが。
事実、紅玲は家族同然の扱いをされて、
恩恵を受けているし、
ユッシだって、特別親しくなくとも、
気の置けない付き合いをしているのに、
どうして彼らはここまで警戒しているのだろう。

大人しく黙っている千晴をどう思ったのか、
ユッシはくるりと向き直り、小さい黒魔法使いに尋ねた。
「悪魔と契約するには何が必要か知ってる?」
「それは勿論・・・」
答えは判っていたが現実味がなく、言い淀んだ千晴を、
ユッシはフンと鼻先で笑った。
「魂だよ、魂。全く、洒落にならないよな。」
「悪魔と称されてる魔物と契約することがあっても、
 実際にはそんなもん、求められないらしいけどね。」
横から紅玲が口を出す。
「まあ、それ相応の代償は覚悟しろって事だね。
 師匠も意外と甘くないしね。」
そのまま白魔導士達は顔を見合わせ、
最後までしっぺ返しには注意するよう、
口を揃えて注意してきた。
「絶対忘れちゃ駄目だよ、
 あの人は腐っても魔王だってことを。」
「隣人、同居人としてではなく、
 師匠の力を目当てに接するんなら、
 身内同士の優遇は望むんじゃないよ。
 魔物との契約や取引は、そういうもんだからね。」
当然のように言われて、学校の先輩から聞いた、
山羊足の魔術師に関わる噂を思いだす。
その力を利用しようとして、逆に全てを失った商人、
意に逆らい、生きたまま焼かれた領主。
財宝を望んで、四肢を裂かれた盗賊。
マイペースながらもフレンドリーな、
カオスのペースに慣れてしまってすっかり忘れていたが、
どれも血生臭い話ばかりだった。
まさか、自分がそんな目に遭わせられるはずもなく、
他人事だと思っていたが、考えが甘かったかもしれない。

急に心拍数をあげた心臓を千晴が押さえる間にも、
白魔導士達の会話は続いた。
「つっても、ちゃお君相手じゃ、
 流石にカオスさんも滅多な事はしないだろうけどさ。
 うちには絶対手加減してくんないもん。」
ユッシはつまらなそうに口を尖らせ、
紅玲は辛そうに目を伏せた。
「その分、こっちに回ってきそうで、
 保護者としては非常に後が怖いです。」
「弟子入り中の負債も完済できてないんだっけ?
 なんにしろ、普通は魂なんか貰ったって意味ないし、
 別の物を要求されるよね。」
「まあね。
 人によっては、良い鑑賞用になるらしいけど。」
「瓶に入れて、飾ったりするの?
 ふーん。それは見てみたいような気もするけど、
 入手する労力の割に、実益はなさそうだね。」
何故そんなことを知っているのかと、
問いつめたくなるようなことを母が口にしているが、
淡々と交わされる会話のここまでは、
世間話の範疇だった。

「でもさ、」
椅子に寄りかかった、だらけたポーズはそのままに、
ユッシの視線と口振りが強いものに変わる。
「手に入れた魂の、
 使い道があるって言うなら別だよね。」
その一言が終わるやいなや、
ガンと包丁を強くまな板に叩きつけた音が響いた。
実力行使に移るのではないかと疑うほど、
紅玲が強い殺気を放つ。
「何が、言いたいわけ?」
「別に。」
突然、殺意の篭もったとしか表現できない、
冷たい視線を向けられ、
千晴は驚いた顔のまま硬直し、ユッシも少し身じろいだ。
しかし、金髪の白魔導士は引くことなく、
居住まいを正し、まっすぐ同業者に身を向ける。
「今回はさ、実際、そんな話じゃないよね。
 でも、今まで何度も、
 魔王クラスを相手にしてきたクーさんとしては、
 どう思うのか、是非聞きたいね。」
そう問われたところで、紅玲が答えるはずもなく、
冷たい緊張があたりを包んだ。
こんな紅玲は、千晴も見たことがない。
ユッシが動じてないからには、
予想範囲内なのだろうが、一体、なにが逆鱗だったのか、
母は本気で怒っている。
周囲で最もカオスと付き合いが長い、
紅玲の意見を聞きたいのは千晴も同じだが、
ここまで怒らせる必要があるとは、
とても思えないのだが。

紅玲は敵意に満ちた隻眼でユッシを睨み、
憎々しげな顔をしていたが、
チッと大きく舌打ちして、右手をひらひらと差し出した。
意味が分からず、ユッシと母の顔を交互に仰いでいたら、
吐き捨てるように催促される。
「ノート。さっさと寄越しなさいよ。」
慌てて考察ノートを持っていくと、乱暴に奪い取られた。
逃げるように席に戻れば、
ユッシはしてやったりと言わんばかりに胸を張っている。
それでようやく紅玲を説得できたのだと理解して、
小さい黒魔法使いが感じたのは賞賛の念ではなく、
心からの非難だった。
今のがどんな手だったのかは、
息子であるにも関わらず、恥ずかしながら判らないが、
紅玲に大きく意味を持つものだったのは間違いない。
本気で怒らせるほどの強硬手段を執らなければ、
協力は得られなかったかもしれない、が。
何の前触れもなく、危険牌を切らないで欲しい。
しかも、最終的な怒りの矛先は自分だ。
そう思うと素直に感謝を口にできず、
微妙な面もちでユッシを見上げると、
大層、不思議そうな顔をされた。
意識的にしても、無意識にしても酷い。

「考察と言うほどのもんじゃないね。詰めが甘いわ。」
「だから、詰める時間がなかったんだってばー・・・」
1分経たずにノートを閉じた母にも鼻先で笑われて、
千晴は弱々しく反論した。
これから細かく推理していこうとしていた矢先に、
ユッシにさらわれたのだ。
それで評価を決められるのは理不尽なものがある。
しかし、原因を作った当人にとっては、
どうでも良いことであり、紅玲の答えをユッシは急いた。
「で、どうなのよ?
 本当にちゃお君が言うような抜け道があるかな?」
「考え方としては正しいと思うよ。
 師匠が出来るっていうなら、出来るんじゃないかな。」
「ふーん。」
幸先の良い予測にユッシが口元を綻ばせる。
よしよしと、満足そうな同僚と反対に、
難しい顔を斜めに傾けて、紅玲は息子を振り返った。
「春先の毛玉は?」
先日、一悶着あった後、
カオスが提示した入手方法が何故、
考慮されていないのかを指摘され、
千晴は大きく顔をしかめた。

「えー? 
 だって、あれは適当なこと言ってるだけでしょー?」
「いや、判らんよ。」
協力すると腹を決めたのか、
至極真面目な顔で紅玲は首を振った。
「師匠の言うことだから、そうしろというのなら、
 できるのかも判らん。
 うちには今、あっちゃんがいるしね。」
最近新規加入した拳闘士の実家は、フロティアの南東、
黒狼の縄張りに隣接しているミミットだ。
何か、手がかりがあるかもしれないと言われ、
千晴は頬を膨らませて反論した。
「でも、一応敦さんにも相談したし、
 それならそうと言ってくれると思うお?」
「春まで待てないから駄目だとか、
 勝手に思ってるのかもしれないじゃん。
 あっちゃんはおっちょこちょいだからな。
 なんか勘違いしてる可能性は十分あり得るよ。」
息子の意見を簡単に下し、
実際、何らかの情報がミミットで手にはいるだろうと、
紅玲は言い切った。
「隣接していて何の接点もないわけがないし、
 聞くだけでも聞いてみないのは如何なものか。
 とはいっても、
 春先のは今回の件と直接関係ないだろうけどね。」
「その心は?」
可能性を指摘した側から取り下げるのに、
今度はユッシが不思議そうに首を傾げ、口を挟む。
隻眼の白魔導士は肩をすくめ、
なんて事はないと、同僚の疑問に答えた。
「ミミット近辺で抜け毛を集めるのが、
 最低ラインだと仮定して、毛の生え替わりが、
 正確に何時頃なのか判らないけど、3・4月だとすると、
 その前に祀ちゃんが帰省するでしょ。
 正月帰らない代わりに、短期で戻ってこいって、
 お兄さんがうるさいらしいからね。
 だったら、頼んじゃった方が楽だし確実だけど、
 それよりも良いやり方があるっていうなら、
 待ち時間も関係してると思うね。」
感情的な柵云々で良い悪いを気にするほど、
今回の件にカオスは重きを置いていまい。
ならば、もっと実務的な点で、
難があるのだろうとの意見に、
ユッシは首をひねり、確認する。
「つまり、もっと早く手にはいるって事?」
「恐らく。」
紅玲は自信を持って首肯し、
千晴は素直に感嘆の声を上げた。

「じゃあ、その方法は?」
「さて、そこまでは・・・」
興奮気味に尋ねる息子に、紅玲は首を傾げた。
肝心の方法までは、やはり思いつかないらしい。
だが、カオスとの付き合いの長さから、
予測できることも少なくないようで、
話にはまだ、続きがあった。
「ただ、値段が値段だから、
 難易度的に購入させる事は考えてないと思うよ。
 となると、採ってくるか、持ってる人と交渉か、
 狩ってくる・・・のも、無理だろうなあ。
 でも、その辺のどれかになるだろうね。」
「それが出来そうなところとなると、
 限られてきそうだけど・・・
 現場がソルダットにである可能性はどうかな?」
隣接しているとはいえ外国で、有名な狩場はまだしも、
市場などの細かい事情などがわからないが、
元々カオスはそちらがメインテリトリーのはずだ。
地元民しか知らない方法を持ち出してくるかもしれない。
ユッシが思案するのに、師同様、正式な住所は、
ソルダットランドに構えている紅玲は首を横に振った。
「可能性としては0じゃないと思うよ。
 ただ、市場は似たり寄ったりというか、
 こっちより動きが悪くて、品数も少ないし、
 直接採集はどこでやんのかってなるね。 
 確かにソルダットにも、居るには居るそうだけど、
 どの辺かは全然分かんない。
 時間的なことを考えると、
 探し出すのは難しいんじゃないかな。
 何より採集なら、数揃えるのに、
 何度も通う必要がありそうだけど、
 それにしちゃ、ソルダットは遠い気がする。
 持ってそうな人っていうのも、心当たりがないねえ。 
 ユーリさんに聞けば、何か判るかもなあ。」
もう一人の地元民の名前を呟きつつ、
ノートをフリスビーのように投げ返す。
「ま、うちからは今のところ以上かな。」
話を終えた紅玲に、
ユッシも千晴も惜しみない拍手を送った。
短時間でここまで読みとれれば十分だ。

「と、すると、仮に持ってる人が見つかっても、
 買うのとそんなに変わりなさそうだし、
 やっぱり、フロティアかベネッセで、
 取ってくる線が濃厚か。」
ふむふむと楽しげにユッシは頷くが、千晴は心配だった。
「でも、討伐だって危な過ぎないかお?」
難易度というのであれば、
直接対峙するのは、相当危険なはずだ。
ギルドの実力者全員が反対した方法が、
最良回答だとはとても思えない。
不安げに眉尻を下げる息子に、
自身も眉をひそませ、紅玲は耳の後ろを掻いた。
「直接狩ってきて入手しろってなら、
 無茶だとしか思えないけどね。
 別に戦わなくても、人狼がよく居る場所、
 例えば通り道なんかに行ければ、
 春まで待たなくても抜け毛の一房ぐらい、
 かすめ取ってこれるかもよ?」
「そんな簡単に、入手できるかなー?」
手に入れば高収入確実な人狼の毛だけに、
そこまで都合のよい場所があるとは思えないと、
疑心を口にするユッシを、紅玲は冷たくあしらった。
「しらんがな。うちだって、
 そんな場所があるとは思えないけどね。
 まあ、超穴場だとか、一時的なものだとか・・・」
言いながら、
自分の言葉に気がつくところがあったらしい。
紅玲はふっと顔を上げた。
「むしろ、そういうポイントが出来たからこそ、
 人狼の毛なんて、言い出したのかもね。」
「よしきた!」
がたっと音を立てて、ユッシが立ち上がる。

「それだけ分かれば、なんとかなるだろ。
 らしい場所がないか、ちょっと調べてくるわ!」
動くと決まれば、彼は行動が早い。
思い立ったが吉日と、飛び出していこうとするのを、
紅玲が呼び止める。
「後もう少しで夕飯だけど?」
別の件ならばまだしも、
嫌いな調理をさせるだけさせておいて、
食べないなどという勝手を許せるほど、
彼女の度量は大きくない。
しかも、先ほど思い切り怒らせたばかりだ。
ユッシに対する態度としては珍しく、
不機嫌も露わな紅玲は普通に怖い。
「・・・帰ってきてから食べるんじゃ、だめかな?」
「ああ? 何だって?」
一応妥協案を提示するも、
地の底から湧き出たような低音で、もう一度と言われ、
流石のユッシも大人しく席に戻った。
「じゃあ、また、来週ね。」
「はいだお。」
今日はここまでと小さくなって、
机の上の片付け始めた二人に、
紅玲は呆れ顔で付け加えた。
「ポール君にも聞いときなさいよ。
 森の中のことなら、あっちゃんより、
 ポール君のが詳しいだろうし。」
「はーい。」
素直に返事をしたが、それは必要ないと千晴は考えた。
確かに森に詳しいかもしれないが、
ポールは人狼に関わることを、
全力で禁止していたから、協力は望めまい。
それに森の知識と言えばハンターの領域だ。
狩人の村、ベルンの出身とは言っても彼は騎士で、
他職の知識や技術を求められても困るだろう。
床にぐったりと延びたままの、
当人の頭をぺしぺし叩き、形ばかり声をかける。
「と、言うわけで、ポール君。
 なんか、心当たりはあるかお?」
「だめだよ、黒狼に関わっちゃ・・・」
それ、見たことか。
弱々しくも新米騎士が返事をしたのは、
条件反射に違いない。
やれやれと肩を落とし、
千晴は頼りにならない友達を邪魔にならないところまで、
ずるずる引きずって片付けた。

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