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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

高性能装備の入手方-材料入手攻略中、その2。

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高性能装備の入手方-材料入手攻略中、その2。




「ほれ、約束の品でさ。」
「わー! 祀さん、ありがとう!」
材料がすべて判明してから数週間後、
長旅から帰ってきた異色の剣士が差し出した袋を、
千晴は大喜びで受け取っていた。
早速袋を開けると、真白い火鳥の羽が、
溢れんばかりに入っていた。
早朝の光を受けた雪のように輝く美しさにうっとりし、
期待以上の品を用意してくれた祀に、
心からの感謝を述べる。
「すっごく、綺麗だね! こんなので作ったら、
 帽子もきっと素敵なのが出来るお!」
「そりゃ、ようござんした。」
いつも飄々とした態度を崩さない祀だが、
嬉しそうな千晴の姿に気を良くしたのかニマッと笑った。
「代金は、何時でも構わねえっすから、
 他のとまとめて、都合のいいときに。」
「うん、本当に助かったお。」
ほくほくと受け取った袋の口を閉め、
事の順調さを千晴は喜んだ。
序盤の滑り出しは悪かったが、
此処のところ、特に祀が事情を知ってからは、
恙無く材料が集まっている。

やっぱり、祀の収集力は凄い。
人狼の毛と火の鳥の羽は流石に持っていなかったが、
それ以外のほとんどが倉庫に備蓄があったし、
足らない羽も心当たりがあると、帰省の序でにこの通り、
最高級品を手に入れてきてくれた。
当然、このことは紅玲やカオスにも筒抜けなため、
身内から購入する時も市場価格で買い取るよう、
養母に言いつけられてしまったが、
同伴の許可が下りたユッシが、
多々狩りに連れていってくれるおかげで、
資金集めも順調だ。
此処は地道に頑張るのが妥当だろう。
早速、居間で母と雑談しているカオスの元へ運ぶ。
「カオスさん! 火の鳥の羽、集まったよ!」
「集めたのは祀ちゃんでしょ。しかも代金後払いだし。」
紅玲に苦笑されるが、
素知らぬ顔で魔術師に領収を催促する。
「そんなことより、早くちゃんと確認して!」
「へいへい。」
火鳥の羽は非常に美しく、血糊どころか、
砂埃すらついていなかった。
何の問題もないだろうと千晴は思ったのだが、
袋を開けた途端、
カオスは何ともおかしそうに口元を歪め、祀をみやった。
「随分、いい仕事をしたらしいな。」
「へえ、お陰さんで。」
受けた祀もしたりと涼しい顔で応える。
「下のがいつも通り、騒いでましたがね。
 いただいた書状が良く効きましたわ。」
「まあ、これに懲りて、当分はおとなしくなるだろ。」
クケケと悪役みたいな顔で笑い会う二人に、
何の話か分からず、千晴はきょとんとし、
紅玲が静かに嘆息する。
「師匠、あんまり祀ちゃんに悪いこと、
 させないでくださいよ?」
「させてねえよ。ありゃ、向こうが悪い。」
誰が悪いのかは紅玲にも分からないようだが、
カオスはさらりと話を戻した。
「じゃ、そういうわけで、後もう少し頑張ってな。
 リタイアしたくなったら、何時でも言えよ?」
「リタイアなんてしないお!」
魔術師が作った優しげな柔らかい微笑みこそが、
悪意の現れだと、千晴はきっぱりと拒絶した。
なにが何でも約束道り、
強力な魔術を組み込んだチート装備を作らせてやる。
プンプン怒りながら階段を上り、
3階の紅玲の部屋へ向かった。

母は自身に割り当てられた部屋の隅に、
千晴のスペースも用意してくれている。
平日は紅玲と離れて、学校の寮で生活しているから、
大半の荷物は向こうにおいてあるが、
狩りの簡単な装備や、その他の雑貨は、
こちらで管理する方が使いやすい。
小型ながら冒険者専用の簡易金庫に向かい、
公式冒険者の身分証でもあるレンジャーバックルに、
取り付けられた魔応石を押しつけ、鍵を開ける。
いかにも初心者と言った体のローブに帽子、
子供が持つにしてはちょっと高そうな杖を、
引っ張りだして横に避け、その奥から、
小さな貯金箱を引っ張り出す。
ずっしりと重い。
重いのだが、中身は小銭ばかりであることを、
千晴は良く承知していた。

「さてと、これからどうしようかな。」
祀のお陰で、残りの材料は人狼の毛だけだが、
カヴルク砂漠、フロティア、ベネッセの森など、
生息地には進入許可が下りていない。
露店で買い集めるとしても、市場には、
滅多に出回る品ではない上、非常に高額だと聞く。
うーんと唸って考え、材料がほぼ揃ったのを期に、
まずは借金を出来るだけ返してしまうことにする。
そうすれば金銭的にも、
どれだけ稼げればいいのか、明確になるはずだ。
早速貯金箱を祀のところへ運ぼうと部屋を出たところで、
自室に戻る途中の当人に出くわした。
難しい顔で貯金箱を抱いている千晴をみて、
事情を察した祀は軽く小首を傾げた。
「後で良いっすのに。」
「ううん、今、払える分だけでも、払いたいんだお。
 そういえば、さっきの火の鳥の羽って幾ら?」
首を振った千晴に、祀は困った顔で頭を掻いた。
「まとめて1500ロゼ、と言いたいところなんすが、
 下手にいいもん集めちまったんで、市場にだしゃ、
 どんなに安くとも3000は下らねえと師匠が。」
「えー もーカオスさんったら、余計な事をー」
最近、カオスに魔術を習った紅玲だけでなく、
祀と敦も彼を師匠と呼ぶようになった。
カオスの二つ名は魔術師だが、
持ちうる技術は魔法に限らない。
ちゃっかり二人して、何らかの指導を受けたらしい。

それはそれで気になるが、まずは材料代を払わなければ。
お友達価格は紅玲にきっちり禁止されている。
祀はその辺が甘いと、特にきつく注意されており、
必要以上の値引はして貰えない。
加えて言えば、ユッシ達との狩りの収集品や、
売り上げなども公正に分配することになっていて、
結果的に通常より厳しく、
端数を受け取る事も止められている。
頼りきってはいけないのはわかるが、
そこまで厳格に執り行わなくても良いと思うのだが。

可能な支払いを終え、残りの付けを確認して、
ため息をついた千晴に、祀も眉尻を下げた。
「そう、がっかりしなさんな。
 身内同士の持ち合いは確かに楽ですが、
 ちゃんと集めた方が、出来たとき、
 より嬉しいでしょうよ。」
装備は自力入手が基本だ。
周りから与えられては、ありがたみも薄かろう。
それに身内に甘えるのが当たり前では、
千晴のためにならない上に、
関係に悪影響を及ぼしかねない。
あまり文句を言うものではないと窘められる。
「そんなことより、後は人狼の毛っすか。」
不満を口にするよりも、まずは努力してみるべきと、
話題を変えられて、取りあえず頷く。
「うん・・・そういえば、祀さん、
 カヴルク砂漠ってどんなところなの?」
祀の帰省先、極東の島国ヤハンに向かうには、
海路を取らねばならず、
人狼が住む砂漠の端にも、港があったはずだ。
暑い季節は勿論だが、冬は冬で極寒と、
非常に環境の厳しい地域だと言うのは本当か尋ねると、
少しずらされた返事が戻ってきた。

「気候も厳しいらしいですが、
 あの辺は確か、寄港も難しいはずっすよ。
 現地の魔物が危険なのは勿論、海賊も出るとか。」
「えー そうなの?」
「その前にオリンポス海峡を越えねえといけないんで、
 あそこで一旦休憩できると、
 随分楽になるはずなんですがな。」
オリンポス海峡には人面鳥ハーピーや、
海の魔女セイレーン、巨大な海蛇など、
様々な魔物がでるはずだ。
その上、海賊となれば、
海路自体が封鎖されてもおかしくない。
当前のように話すが、よく無事に帰れたものだ。
しかし、人づて風なのは何故なのか。
カオスから適当っぷりまで伝授されないでほしいと、
千晴は思った。

「それならさっさと討伐隊でも出せばいいのに。」
重要な拠点であれば、きちんと押さえてしまえばいい。
ブツブツ文句をこぼすと、意外な事実が返ってきた。
「一度失敗してますかんな。
 そこを敢えて踏み込むほど、
 重要性を感じてねえんでしょう。」
「失敗してるの?」
「数年前に、遠国との貿易利益を見込んだ商人組合が、
 かなり無理したらしいっすがね。
 大転けして一時は海路自体が凍結されたそうっすよ。」
驚く千晴に、敦が口にしていた、
「ミミット全体で人狼に借り」が出来たのも、
無縁ではないらしいと祀は肩をすくめた。
「詳しい話は、敦さんに聞きゃあ分かるでしょうが、
 どの道、横を素通りならまだしも、 
 砂漠に行きたがる船はないでしょうよ。
 只でさえ、船旅は時間もかかりゃ危険も多いですし。」
そもそも、わざわざ世界の反対側、
龍の住まう国パイロンや、
島国ヤハンまで行く船自体が少ない。
ここ、人の国の中で最も大きいフォートディベルエと、
隣国ソルダットランドで探せば、
大半のものが手にはいる。
危険をおかし、数ヶ月もかけて遠出しなければ、
入手できないものは少ないのだ。

「それにしては祀さん、
 帰ってくるの、異常に早いよね?」
「その辺は裏ルートを使ってるんで、
 あんまり聞かないで貰えると助かりますな。」
気が付きついでに突っ込んでみたら、
なんだか、黒い答えが返ってきた。
祀は剣士であり、戦士系上級職ナイトマスターであるが、
取得スキルは何故か他職に似通っている。
その辺の伝手を使ったのだろうか。
祀がどこまで深入りしているか分からないが、
同じ盗賊系でも、暗殺者とは名ばかりのアサシンと違い、
そちらの系列はあまり良い噂を聞かない。
裏ルートやらが、
どの様な用途で使われているかを予想しても、
これ以上詮索しない方が良さそうだ。
しかし、思うところもあって、千晴はしたり顔で頷き、
何気ない風を装って聞いた。
「因みにその裏ルートでさ、人狼の毛とか、
 扱ってたりしないかな?」
「しませんな。」
思った以上にきっぱりと否定された。

トホホと肩を落とした小さい黒魔法使いを眺め、
祀は顎をなで、首を傾げた。
「そう言やあ、先日ユーリさんが、
 探せないこともない様なことを言ってましたが、
 確かにこの辺で出回るとしたら、
 ソルダットの方でしょうな。」
「そう、かもねえ。」
今でこそ、人狼と言えばシュテルーブル東、
フロティアの森が有名だが、
一昔前はソルダットランドの方が、
生息数が多かったはずだ。
なによりユーリの愛称で親しまれているギルドメンバー、
リーネ・ユーリア・フォン・ヴォルフは、
かの国で最も古く由緒正しい貴族、ヴォルフ家の直系。
彼女の実家の力を使えば、難しいことはあるまい。
「でも、きっと、ユーリさんに頼んだら高いよね。」
「でしょうな。」
只でさえ、安いものではないのに、
貴族向けに用意される様な品ときたら、幾らになるのか。
良い材料は欲しいが限度がある。
物が揃って帽子を作ってもらえました、
でも、お金が払えなくて質屋に流れましたでは、
笑い話にもならない。

「ちょっと、その線は使えないなあ。
 借金するにも限度があるお。」
仮に頼むとしても、今の負債を完済してからだと、
千晴は首を振った。
「それに、上手く見つかるとも限らないし。」
「え? それは問題ないと思いますが?」
「そうかなあ。」
貴族の力を使えば、毛皮の一つや二つ、
どうにでもなると祀は思っているようだが、
千晴の認識は異なる。
「だって、ボクが欲しいのは加工済みの防具じゃなくて、
 帽子に織り込む毛、そのものだもん。」
人狼の毛皮は魔法道具の材料として優秀だ。
もし、手に入れば、すぐに加工され、
有効利用されるだろう。
材料として、再利用できる状態ではないかもしれない。
加えて、その生息数は少なく、一部の地域を除けば、
ほとんど見かけない、つまり、入荷がなければ、
在庫は減る一方。
仮に見つかっても、今後の付加価値を見越して、
倉庫に仕舞われたようなものでは、値段も知るよしだ。

「そりゃそうかもしれませんが、
 かといって、狩りに行くのはおすすめできませんな。」
購入を諦め、自力入手に絞ろうとしている千晴の考えを、
先読みするように祀が首を振る。
「相手が悪すぎますわ。
 人狼は気軽に敵に回す相手じゃありませんよ。」
知能の高い魔物と簡単に人は言うが、
悪魔や人狼、吸血鬼など、
その殆どが人間を軽く上回る能力を持つということは、
忘れられがちだ。
通常の魔物と同列に考えてはいけない。
「偶然出くわして、戦闘になったってんなら、
 必死で戦うよりないっすが、好んで相手にするなんざ、
 自殺願望に等しいっすな。馬鹿がやることですぜ。」
「そんなに強いの?」
普段、どこで何と戦うとしても飄々としている祀が、
ポールや敦以上に嫌がるのが少し意外で、
首を傾げた千晴から、
異色の剣士はばつが悪そうな顔をして、視線をずらした。
「一昔前に、一戦まみえたことがありますがね。
 結果は惨敗でした。」
今でも勝てる気がしないと言われ、千晴は目を見開いた。
祀は強い。
剣士としては邪道な類になるかもしれないが、
冒険者としては間違いなくトップクラスだ。
その祀が惨敗するほど、人狼が強いのであれば、
確かに自分は手も足も出まい。

「買い取りも、自力入手も不可能だなんて・・・
 どうすりゃいいんだお。」
ぎりりと歯噛みした彼を、心配そうに眺め、
祀は少し、考える素振りを見せた。
「でも、坊、あたしゃ思うんすけどね、
 師匠は坊に揃えられる材料だって言ったんでしょう?」
「そうだお。」
今となってはどの辺がだと問いつめたいが、
一応、そう言われた。
それがどうしたのかと、祀の考えを先読みしようとして、
違う切り口に気がつく。
「あっ、つまり、契約違反を指摘して、
 そこを攻めろってこと?」
「違いますよ。」
良い案だと千晴は思ったのだが、呆れられてしまった。

「相手はあの師匠ですぜ?
 のらくらと逃げられるに決まってますわ。
 それで機嫌損ねても、つまんねえでしょう。」
「それもそっかー」
怒らせて、条件を変えられ、悪化する可能性だってある。
むーっと口を尖らせた千晴に、
噛んで含めるように祀は言った。
「坊、師匠はああ言うお人ですがね、
 この手の話で根拠のねえことは、意外と言いませんよ。
 坊に出来ると言ったからにゃ、
 何か、上手いやり方があるんだと思いますぜ。
 不可能と決めんのは、早いんじゃないすかね?」
責めている節はなかったが、
自分のやり方が不味いと言われたようで、
カチンときた千晴は言い返した。
「そんなこと、言ったってさー
 これ以外の方法って言われても、思いつかないお!
 悪い事はするなって言われてるし、する気もないけど、
 狩りも買うのも無理なら、どうすればいいんだお?
 まさか、本当に飛んでくる毛玉を待ちかまえて、
 何とかなるっていうの?」
「その辺は、確かに適当言ったんだと思いますがね。」
納得いかない様子の千晴に、祀は難しい顔をし、
出来なかった以上、黙っているつもりだったがと、
前置きして言った。

「実家に戻ったとき、あたしも伝手を当たったんすよ。
 今回は無理でしたが、時間を掛けりゃ、
 何とかなるかも知れません。」
「え、そうなの!?」
それが本当であれば、今回の帰省で、
全て材料が集まる可能性もあったということだ。
島国ヤハンは遠いから、
今すぐ、どうこうすることは出来ないが、
新しい入手ルートに千晴は身を乗り出し、
話に聞き入った。
「当然、師匠もそのことに気が付かれてましたが、
 反応がどうも微妙でしてな・・・
 ストップを掛けてきたとかじゃ、ねえんすけども。」
曰く、帰省前のカオスとの会話、
と言っても、実家に帰ることを伝えた祀に一言、
「あ、そう。」と口端を動かしただけらしいが、
それが引っかかり、日程を変更してまで、
入手してくる気になれなかったそうだ。

「微妙って、手伝い過ぎだって怒ってそうって事?」
確かに材料全て祀に頼むというのは、お手軽すぎる。
不評を買っても仕方がないが、
幸いなことに首を横に振られた。
「いや・・・それならまだ分かるんですが、なんちゅーか、
 テスト中、答案を覗いた先生に、
 あってるはずの答えを苦笑いされたような、
 複雑且つ嫌な感じだったんすよね。」
「抽象的でありながら、
 的を射た表現をありがとうだお。」
不愉快なことに、魔術師は多々そう言う顔をするので、
受けた印象はよく分かった。
想像して思い切り鼻の頭に皺を寄せた、
小さい黒魔法使いに祀は苦笑し、そのまま話を進めた。
「まあ、良い悪いは兎も角、いざとなったら、
 あたしがひとっ走りすりゃ、
 どうとでもなるレベルってことなんすよ。
 そう考えると、そんなに難しい話じゃねえし、
 師匠が出来るってなら、出来るんじゃないすか?」
「祀さんは、カオスさんを信用しすぎだと思うお。」
言われたことは理解できたが、
素直に受け入れる気になれず、
千晴が頬を膨らませると、祀はケケケと笑った。

「そんなわけで、どうしてもとなりゃ何とかしますから、
 もう一度、落ち着いて考えてみたらどうっすか。」
「わかった、そうするお。」
アドバイスに感謝して、祀と別れ、千晴は部屋に戻った。
軽くなった貯金箱を金庫の中に戻し、
一張羅の装備もきちんと仕舞う。
それから紅玲の机を拝借して、ノートを広げ、
考えを一つずつ整理していく。
人狼の毛を手にする方法は相変わらず不明だ。
祀に頼むのは、カオスが微妙な反応をしていたという。
何故だろう。
カオスは祀が材料を全て用意してしまう可能性に、
気が付いていた。
それが気に入らなければ、
禁止する措置を予め取るだろうが、
そのようなことはなく、
事実、祀が伝手を当たることも止めはしなかった。
否定はされていない。だが、肯定もない。
だからこそ、祀も引っかかったのだろう。
本当に何の問題もなければ、
これ見よがしな態度はとらないはずだ。
一体、魔術師は何を考えているのか。

すぐに思いついたのは、過程を採点されている可能性だ。
材料揃えの経過次第で、
作る装備のランクを変えるつもりとすれば、
意味ありげな含み笑いの一つもでてくるだろう。
「そんなの、聞いてないお!」
どんな手を使っても良いとしておきながら、
実際は評価が異なるとすれば、それこそ契約違反だ。
絶対、許せない。
何らかの理由で千晴の実力を試したいのだとしても、
それならそうと、言えばいいのだ。
「いや、でも、ボクに内緒でやるから、
 意味があるのかな?」
考えれば、当然の理由かもしれない。
むう、と学校で難しい問題が出されたときのように、
千晴は静かに唸った。
今回の件が試験であると仮定するならば、
確かに式と答えはセットだ。
両方あっていないと丸は貰えない。
「でも、これはテストじゃないはずだお。」
元々の発端は、千晴のわがままだ。
それに自分が試される理由も思いつかない。
師匠として、弟子の養子の出来を見たがるような、
人並みの性格であればいいのだが、
あの魔術師に限って、そんな趣味は持ってないと思う。
何より、材料の正しい集め方など決まっていない。
違法行為をせずに必要数用意できれば、
購入でも採集でも、全て正解のはずだ。
だから答えは合っている。合っているはずだ。

「ああ、もう、わかんないおー」
合っているはずの答えを笑われたとは、
祀は良い例えをしてくれたものだ。
ノートをグシャグシャと黒く塗りつぶして、
もう一度はじめから考える。
下手に話をくっつけたり、予測したりしては駄目だ。
カオスが言った条件だけ書いてみよう。
最初に彼はなんと言っただろう。

【1.材料はボクに集められるものである。
 2.誰かに手伝ってもらってかまわない。
 3.材料の集め方は問わない(悪いこと除く)。】

まず、この3つの点は間違っていないだろうか。
1の収集難易度はどうだろう。
材料はどれも一人で集めるのは難しいが、
大人に手伝ってもらえば、
なんと言うこともないものばかりだ。
祀が所持していなくても、いずれ何とかなっただろう。
人狼の毛も、ヤハンで入手して貰えるとすれば、
手に入らないことはない。
と、すれば、嘘ではないと言える。
2は大事な点だ。
思い返せば最初から、
カオスはポールらに手伝わせるよう進言していたし、
躊躇する千晴に、気後れする必要がないとけしかけた。
第一、全て一人でやろうとするのも無理があり、
抱え込みすぎて、失敗する事を考えれば利口と言えない。
やはり、手伝って貰うこと自体は問題ないはずだ。
3も間違いないと思っていいだろう。
脅すようにして発破をかけてきたくらいだ。
思う存分、目的を果たすために動くべきだろう。

「うん、この3つは間違ってないお。」
呟いて、千晴は首を傾げながら4つ目を書き足した。

【4.今のやり方=祀さんにお任せは良くないらしい。】

「これのせいで、おかしくなっちゃうんだよなー」
1から3が正しければ、祀に全部お任せだって、
問題ないはずだ。
それどころか、難しいことは全部大人にやらせて、
自分は楽ちんなんて、なんて賢いやり方だと、
言えなくもない。
「手伝って貰うのも限度があるって事かな?
 でも、方法は問わないんだし・・・
 それに、祀さんが全部揃えられるのも、
 知ってたんだから、今更だよね。」
大体、複数の材料を集める努力は確かにしていないが、
ただで貰うわけではなく、
購入するための資金集めをしなくてはいけない。
その労力を認めるとも、カオスは言っていた。

まとまらないノートにグニグニと丸を書きながら、
千晴は頬杖を付いて、唸った。
「4が祀さんの気のせい、ってことはないよね。」
祀が受けたカオスの微妙な態度が、
過保護過ぎるのではないかという、
後ろめたさからきた勘違いであれば、話は早い。
けれども、祀がそんな勘違いをするだろうか。
あの異色の剣士は見た目細いが、神経は図太い。
カオスが実際に文句を言ってきたとしても、
しゃあしゃあと言い返すぐらいするだろう。
逆にカオスの方が気兼ねして、
言いたい文句を言えず、微妙な態度になっていたのか。
あり得ない。それはもっとあり得ない。
あの魔術師は気に入らなければ、
相手が国王であろうと正面から喧嘩を売る口だ。
つまり、祀が不信を感じたのであれば、
何らかの、恐らく手伝い過ぎ以外の理由で、
カオスはそういう態度をとったのだろう。
そして、相反しているように思える1から4が、
全て正しいとすれば、何を意味しているのだろう。
「でも、別に変なことはしてないしなあ。
 カオスさんは何が気に入らないんだろう?
 そりゃ確かに全部他人任せ、
 祀さんのお世話になりっぱなしだけど・・・ん?」
自分の言葉に引っかかる。

他人任せだと何故、悪いのか。
千晴は楽をできるが、他の者が苦労するからだ。
自分のことで、周りに迷惑をかけるのは良くない。
尤も、手伝って貰わなければ進まないし、
この際、その辺のメンバーはどうでも良いとしても、
祀と鉄火だけは別だ。
紅玲にこっぴどく叱られる。
誰も信じないかもしれないが、千晴の良心だって痛む。
売って貰っているのは倉庫の在庫、
火鳥の羽も帰省の序だからというので、
ついつい甘えさせてもらっていたが、
今だって、手を煩わせて申し訳ないと思っているのだ。
加えて、遠いヤハンに戻って人狼の毛探しだって?
目の前の難問に気を取られていたとはいえ、
その気になっていた自分が恥ずかしい。
これ以上、迷惑はかけられない。
だから、祀に頼むのは駄目だ。
物理的は兎も角、精神的にも、予測されるお説教的にも、
辛い物がありすぎる。
「と、すると、お任せするのは楽じゃないんだから、
 楽をしようとしてるのが駄目ってことじゃ、
 ないのかな・・・?」
絡まった糸の端がつかめた気がした。

祀に物を頼むことを千晴がどう考えているかなど、
カオスの知るところではないだろう。
魔術師のことだから、予想しろと言われれば、
ピタリと当てるかも知れないが、
基本的にはどうでも良いはずだ。
そのあたりは考慮しないかもしれない。
だが、祀に甘え続ければ、紅玲が怒ることは明白だ。
千晴が直接頼んでいなくても、養母が許すはずがない。
つまり、カオスの苦笑いの意味は、
千晴にとって良くないこと、この場合、
紅玲に怒られる方法をとっていることに対してだと、
解釈できないだろうか。
「うーん、でも、そんなの、
 カオスさんの知った事じゃないだろうしな。」
他に方法がないのであれば、仕様がないだろと、
気にも留めなさそうである。
原因を作った要因として、
自分も一緒に怒られるからだろうか。
これもあまり、気にしなさそうである。
「自分に大きなマイナスがあるわけじゃないし、
 ボクが怒られるのも、仕方がないのに?
 なんで? わざわざ怒られることをしてるから?
 でも、そうしなきゃ、材料は手には入らないし・・・」
考えろ、もう一度はじめから考えろ。

材料は千晴に手に入れられる物である。
実際、祀に頼めば手に入る。
しかし、それは怒られるし、精神的にもきつい、
嫌な入手方法である。
だが、人狼の毛は買うにしても、
とってくるにしても、大変難しいらしい。
まず、無理だろう。
だから、嫌な思いをするのも仕方がないこと、なのか?
違うかも知れない。他にいい方法があるかも知れない。
まだ、大人の話を聞きかじっているだけで、
実際に値段を確認するどころか、探してもいないのだ。
仕方がなく、ないのかも知れない。
何故なら材料は、
千晴にも手に入れられるような物だからだ。
事実、他の材料は地味に自分で集めたり、
お金を貯めていけば、なんとかなった。
「つまり、カオスさんの苦笑いは、
 『わざわざキツい入手ルート使ってんな。
  ご苦労なこった。』っていう、意味かお!!」
興奮して机をたたき、千晴は立ち上がった。
他にもっと良い方法があるのに、
わざわざ良心を痛め、紅玲に怒られるリスクを犯して、
用意して貰っているのをみれば、
そりゃ、苦笑いの一つもでるだろう。
これなら、全て、つじつまが合う。
「謎は全て、解けたお!」
人狼の毛は手に入る。
恐らく、ここフォートディベルエ国内で、
少なくともヤハンまで行かずとも、
入手可能であるとみた。
激レアアイテムGETまで、後少し。
して、その方法とは。
ぎゅっと拳を握りしめ、
すとんと千晴は椅子に腰を下ろした。
「なんだ、始めに戻っただけだお。」
肝心の入手方法は、未だ不明である。
まだまだ、暫く掛かりそうだ。

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津路志士朗
性別:
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