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HPで管理するのが色々と面倒になってきたので、 とりあえず作成。

高性能装備の入手方-材料入手攻略中、その1。

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高性能装備の入手方-材料入手攻略中、その1。



 
ちゃおの愛称で呼ばれる小さい黒魔法使い、
瀬戸千晴が集めなければならない装備品の材料は、
始めに告げられた灰色の魔法反応石30個の他に、
いくつもあった。
灰色山脈に住む、野生の羊の毛は暖かく、
衣類の材料として人気があり、
加工前の毛が1kg50ロゼで売られているがそれが10kg。
美しい青い花で知られ、口にすれば興奮作用により、
魔力を回復させるというボリジットの花弁は、
10gで15ロゼもするが、これが500g。
高級傷薬の材料であり、
入っている量で効果が決まると言われるライラの葉は、
10g5ロゼだが、これが200g。
吸血鬼などと同じく、
霊体と実体の間の性質をもつ生物であり、
鳳、不死鳥などと呼ばれる火鳥の羽は、
装飾品にも、簡易魔法器具の材料にもなるため、
美品は1枚50ロゼの値が付くが、これが30枚。
魔応石が1つ3ロゼだというから、
市場価格は併せて約3000ロゼになる。
決して手が届かない額ではないが、
わずか7歳の千晴には莫大な金額だ。
町で一般職の給与が1日100ロゼと考えても、
約1ヶ月分の稼ぎに匹敵する。
公式冒険者として狩りにいき、
自ら集められなくもないが、
羊の毛はまだしも、火の鳥の羽や、
薬草は数多く収穫できる性質のものではないから、
それなりに時間がかかるだろう。
その上別途必要な、しかも入手困難な材料があるらしい。

求められたものを手にする労力と、
目の前で不機嫌も露わな養母をどう攻略するかを考え、
千晴はますます憂鬱になるのを感じた。
「どういう事か、きちんと説明してもらいましょうか。」
「いいじゃん、そんなに目くじらたてて怒らなくても。」
幸いなことに、現在責め立てられているのは彼ではなく、
千晴の取引相手でもある、養母の魔術の師匠であった。
なんとか彼が上手い具合に話を進めてくれないか。
若干の期待を込めて千晴は事の成り行きを見守っていた。
「いい事じゃないか。
 親に買ってくれと強請る代わりに、
 自力で材料を集めて防具作って、なにが悪い?」
「悪くありませんよ。むしろ、誉めるべきでしょうね。
 作るのが師匠じゃなければ。」
他人事のように答える師匠に対し、
受けた恩義をかなぐり捨て、全力の不信を込めて、
隻眼を吊り上げた弟子、紅玲が怒るのには訳がある。
彼女の師匠は何を隠そう、
山羊足の魔術師という通り名を持つ魔王、
カオス・シン・ゴートレッグだからだ。
その弟子であるからこそ、
彼と取引した者が求められる対価の怖さを、
紅玲はよく知っていた。

一歩間違えれば大惨事になりかねない。
しかし、必死に反対したところで、
どれだけ通用するだろう。
ただでさえ、横になっていたい体調だというのに、
更に顔を青くせざるを得ない状況に、
彼女は怒りを隠さなかった。
対するカオスはのんびりとしたペースを崩さない。
軽く耳の後ろを掻いて、弟子は何故怒っているのかと、
さも不思議そうに小首を傾げる。
「そんなに問題のある材料は要求してないぞ、
 一点を除いて。」
「その一点がある時点で駄目でしょうが。」
「何でもかんでも、ダメダメ言ってると、
 自主性が育たないぞ。
 ここは思い切ってやらせてみろよ。」
「幸いうちの息子は、
 薄気味悪いくらい自主性に富んでますので不必要です。
 大体、駄目と言わざるを得ないことを、
 やらないでください!」
わずかにも会話を途切れさせることなく、
紅玲は言い返す。
病んではいても彼女の口撃は、
他の追随を許さないものがある。
回復・防御魔法を主とするホワイトウィザード、
通称白魔導士でありながら、
唯一の全体攻撃魔法に特化したのも頷ける激しさで、
大恩ある師匠を責め立てる様からは、
昨今の不調は微塵も感じられない。
しかも、別方向にも酷い。
自主性に富んで何が悪いのさと、千晴は口の中で呟いた。

「まあまあ、紅さん、そう怒らないで。」
関係のない周りのものまで首を竦めるほどの言い争いに、
見かねたフェイヤーが横から口を挟んだ。
所属ギルド、
ZempことZekeZeroHampのマスター自らの制止を、
無視にするわけにもいかず、紅玲が若干矛先を緩める。
「だってフェイさん、師匠ったら酷いんですよ。」
「誰に対しても酷いのが、俺の仕事です。」
事の次第をギルマスに説明しようとするそばから、
今度はカオスが横やりを入れた。
だって俺、魔王だもん等と適当な口振りと態度で、
肩をすくめてみせる彼に、紅玲は思い切り噛みついた。
「それなら一介の小僧相手に、
 防具を作る約束などしないでください!!」
尤もなことをいう弟子を、
カオスは耳を塞いで完全に無視した。

「カオスさんは本当に余計なことばっかりするよね。」
ことの成り行きを見守っていたギルドメンバーの一人、
ジョーカーが笑った。
自分を棚に上げてせせ笑うアサシンの態度は、
相手の正体を考えれば、身の程知らずもいいところだが、
咎める者は誰もいなかった。
代わりに新米騎士のポールが、呆れ顔で指摘する。
「どう考えても、
 ジョカさんほどじゃないと思いますよ。」
「失敬な。」
当然、ジョーカーは憤然としたが、
怒っている紅玲を除いた他の者は、皆、笑った。
「それで、何がいけないって?」
「っていうか、まず、何を作るつもりなのさ?」
そう聞いてきたユッシ、ノエルの幼なじみコンビも、
いかにも他人事と言わんばかりで、
紅玲が忌々しげに口元を歪めたが、
不機嫌な弟子のことなど、カオスが気にするわけが無い。
「きいこと同じのが欲しいっていうから、
 帽子でも作ろうかな、と。」
俺ってば器用だからと自画自賛するとおり、
彼の愛娘、キィの上着やぬいぐるみは、
お手製のものが殆どだ。
その中で、自分に作ってもらえるのは帽子なのかと、
千晴は顔に出さず、ほくそ笑んだが、
その真価を知らないユッシは、
多少がっかりしたように肩を落とした。
「帽子ねえ、あの耳付きの?」
代わりにポールが大喜びで食いつく。
「カオスさん、それならオレも欲しいです!」
キィの持ち物には、
傍目から判らない特殊魔法が組み込まれ、
持ち主を守っていることに彼らは気が付いていない。
千晴の予想では、
帽子にもセンサー付きの防御魔法が組み込まれているが、
何も知らないはずのポールが飛びついたのは、
純粋に見た目が可愛いからだろう。

「今度な。」
あっさり断られ、ブーブー言っている様からも、
高級装備を求める必死さは感じない。
本当のことがばれてなくてよかったと、
小さい黒魔法使いが一息付いた横で、
新米騎士は先輩に咎められた。
「あんたはまた、横道へ逸れる!
 他にいくらでも揃えなきゃいけない物があるのに、
 そんな見た目装備に、
 うつつを抜かしてる場合じゃないでしょうが!」
ポールの手持ち装備と実力をよく知る紅玲が、
ますます怒る。
帽子が見た目だけかどうかは兎も角、
彼女に責められれば、ポールに逆らえるはずがない。
「ちぇっ。」
「まあまあ、ちゃんとした装備買ってから、
 ゆっくり考えればいいじゃない。」
口をとがらせた後輩をノエルが慰め、
紅玲は改めてカオスに文句を言った。
「師匠もそんなことやってる場合じゃないでしょ。
 散々、ペナルティがキツいってボヤいてるくせに、
 まだ余計なことやるつもりですか。」
「安心しろ。その辺は計算済みだ。」
“ペナルティ”という、聞き慣れない言葉に、
周りは軽く眉をしかめたが、
当人は意に介した様子もなく、一笑にふした。
「適当に何とかするから、お前もそう心配するな。」
「師匠の心配するなが、
 あてになった例がないんですがね。」
数年とは言え弟子であったが故に、
皆が知らない何かを知っているのか、
紅玲は眉間の皺を更に深くしたが、
フェイヤーが改めて間に入った。
「まあまあ、紅さんが心配するのも分かるけどさ、
 可愛い子には旅をさせろとも言うし、
 カオスさんだって、ちゃお君相手に、
 そう、無茶は言わないでしょ。」 
ねえ、そうだよねと求められた相づちを、
カオスは相変わらず何処吹く風で流し、
代わりに他の者達が漫然と頷いた。

幾度か魔物としての本性をみている千晴ですら、
時々、馬鹿らしくなるほど、
カオスはギルドに溶け込んでいる。
山羊足の魔術師といえば真偽は兎も角、逸話が多い。
千晴の学校があるニュートーンに伝わっていたのは、
血生臭い話が多かったが、他の地方では魔物というより、
不思議な出来事を起こす存在、
妖精や、仙人のようなものとして、
捉えられていることが多いようだ。
巨大な力を持つという点は統一しているし、
当人は妖精ほど良いイメージの持ち主ではない、
どちらかといえば妖怪っぽいが、
学校の先輩から散々怖い話を吹き込まれた千晴とは、
違った認識を持っているのか、
ギルドの大人たちはカオスの正体を知っても、
あまり恐れなかった。
実際、普通どちらか片方だけのはずの、
白黒双方の魔法を難なく使いこなすこと、
移動魔法が特逸していることを除けば、
見た目も態度も、その辺の兄ちゃんと大差ない。
自然と警戒心も薄れるばかりか、
彼が時折紅玲に預ける愛娘、キィの存在もあって、
皆、カオスが魔王だということを忘れている。

暢気なメンバーの認識の甘さに、
紅玲は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、
多勢に無勢とようやく諦めた。
「分かりましたよ。しょうがないなあ。」
「大丈夫だって。
 俺らも見てるし、危ないことはさせないよ。」
「クレイさんは、心配症だよねー」
肩を落とした彼女をノエルが慰め、
ジョーカーは無責任に肩を竦めた。
「ママ、ありがとう!」
「全く、あんたの周りは甘い連中ばかりで、
 よかったね。」
正式な許可に大喜びで飛びついた千晴の頭を撫で、
母親はもう一度、出かける際の約束を守るように、
言いつけた。
Zempに所属する白魔導士、
自分かヒゲが同伴しない限り、狩りには行かない。
繰り返された決まりに千晴が頷くと、
後ろから、同じく白魔導士のユッシが、
不服そうに口を挟む。
「ねえ、何でうちは駄目なのよ?」
「その理由が分からないからかな。」
無表情で答えた紅玲にユッシは強く反発した。
「でもさ、ヒゲ氏はまだしも、
 クーさん、殆どつき合ってあげてないじゃん!
 ずっと具合悪いのは分かるけど、
 このままじゃ、ちゃお君、何処もいけないよ?」
その分、自分が手伝って何が悪いのだと、
不満を露わにする同僚を、紅玲はきっぱりはね退ける。
「だからって、余計なリスクをこれ以上背負えるかい。
 まず、師匠と取引してる時点であれだって言うのに。」
「リスクって失礼だな! 
 守りきれないところには連れていかないよ!」 
自分の存在が負担になるかの言いように、
プライドを傷つけられたユッシが怒った。
彼はけして腕の悪いホワイトウィザードではない。
それどころか、人の二倍、三倍も努力を重ね、
他の白魔導士よりも、遙かに抜きんでた存在として、
ギルド内は勿論、外でも厚い信頼を獲得している。
それでも、その場にいた者は彼に賛同することなく、
黙って目を伏せ、紅玲は更に激しく言い返した。
「ユッシンの腕は信頼してるよ!
 自分が駄目なら、
 誰がいても助けられないと思ってる!」
それは同職の自分が誰よりも知っていると紅玲は言い、
そして、ぼそりと呟いた。
「問題はペース配分なんだよ。」
ハァ・・・と、周りから聞こえる嘆息が、
彼女の主張の正当性を証明した。

狩りに関してユッシは厳しい。
自分に、そして他人に厳しい。

彼の要望に応えるのが至難の業であるのは、
公然の事実だった。
いくら千晴が黒魔法使いの才を持っていたとしても、
ユッシに任せたら、叩いて延ばしてへし折りかねない。
へし折っちゃ不味いだろ、へし折っちゃ。
そう言わんばかりの雰囲気が立ちこめる中、
支援を極めた生粋の白魔導士と、
異色にも攻撃に特化した隻眼の白魔導士は、
無表情に言い争った。
「でも、ちゃお君が頑張ろうとしてるのに、
 ろくに協力もしないで反対ばかりって、
 親として酷いんじゃないの?」
「新婚の嫁、ほったらかしてでも、
 友達と狩り行くような自分に酷いとか言われたくない。
 第一、行動が全て賛辞に繋がるというのは短絡的だ。」
「もうその辺でよしなさい、二人とも。」
見かねて三度、フェイヤーが止めにはいる。
「紅さんはユッシンの参加を認める。
 ユッシンはちゃお君と狩りに行くときは、
 絶対、もう一人以上連れていく。
 この辺で折半しなさい。」
ギルマスの提案に、皆、揃って頷いて、
そうしようと口々に白魔導士二人をなだめた。
なし崩し的に決定しそうな雰囲気に、
紅玲が一言、追加を要求する。
「その一人はジョカさん以外ね。
 居てもストッパーにならないから。」
「どういう意味よ、それ。」
今度はアサシンがふてくされたが、
これは全員に無視された。

「もー 勝手なことばかり言って。何かあったら、
 フェイさんに責任取って貰いますからね。
 主に金銭的な面で。」
「地味に怖いこと言わないでよ。」
ぶつぶつと不平を呟く母親に、
ギルマスが突っ込んだのを除けば、
一件落着したように見え、ノエルが改めて聞く。
「それで、最後の何がやばいって?」
この質問の答えは是非知りたいと、千晴も大きく頷いた。
入手の難しい材料があるなら、
予め、対策を練っておきたい。
母はああ言うが、
材料は自分に集められる物だとカオスは言ったし、
どうにもならないことはないだろう。
息子がそんな算段をたてているのを知らず、
紅玲は再びため息を付き、カオスは意味ありげに笑った。

夕食が終わり、ギルドのメンバーそれぞれが、
夜遊びに出かけたり、自室に戻ったりしている中、
千晴は居間の机に突っ伏して、
止まらないため息を付いていた。
メンバーの一人、
ワイズマンのユーリが夕飯の後片付けをしながら尋ねる。
「それで、なにがいるんですって?」
「まずは高山羊の毛10kg、
 ボリジット500g、ライラの葉200g、
 火鳥の羽30枚にC級魔応石30個だお。」
「ふうん。」
千晴が告げる材料を聞き、ユーリは軽く小首を傾げた。
「そんなに落ち込むようなものじゃない気がするけど。」
小さい黒魔法使いが何故、
そんなにしょげ返っているのか分からないと、
賢者系黒魔導士が不思議がれば、
家の中だというのにガスマスクの白魔導士が、
楽しそうに警告する。
「甘いですぞ、ユーリさん!」
油断するなと彼、ヒゲは言う。
「追加がまずいんです、追加が。」
「自分のその格好より、不味いもんがあるんか?」
横から拳闘士の敦に万年ガスマスクをからかわれ、
ヒゲは大喜びで悲鳴を上げた。
「むごし!!!!!! だが、事実です!!!!!!!」
白魔導士ホワイトウィザードと、
拳闘士ことグラップラーは同じ白魔法系職、
特にヒゲは魔導士でありながら物理攻撃を重視する、
殴りというスタイルであることも加わって、
この二人は仲がいいが、それを差し引いても、
嘲られて喜ぶのは、世界広しと言えどヒゲぐらいだろう。
見た目と違わず、中身も変わっている彼に付き合っても、
時間の無駄だと千晴は話をさっさと進めた。
「後、人狼の毛、集められるだけだって。」
「人狼の、毛皮?」
「ううん。皮はいらなくて、毛。」
ユーリの確認を訂正して、千晴が肩を落としたのに、
その場にいたメンバーは憂鬱の原因を悟った。
「そりゃ、難問やね。」
軽く肩を竦めて敦が言い、話に加わることなく、
千晴の隣で事務仕事をしていた剣士、
鉄火も手を止めて眉を顰めた。
「人狼は数が少ねえし、生息地も限られるからな。
 居るのが判ってんのは、
 カヴルク砂漠とフロティア、ベネッセの森ぐらいか?」
「一昔前ならイアールンヴィズや、
 灰色山脈にも居たらしいけど、今はねえ・・・」
ユーリが北部に流れる大河ヴァン川を越えて、
もっと北まで行ければと呟いたが、
彼女が示した先には、
竜から始まる凶悪な魔物が住み着いている。
とても人間が行ける場所ではない。
カヴルク砂漠も海を越えた先にあるため、
訪れるならば月単位の時間が必要になるだろう。
どちらも検討するには現実味がなく、
ユーリは軽く首を傾げた。

「普通に考えるなら、やっぱりフロティアの・・・」
「駄目ですよ! 黒狼に関わったら!!」
叫び声に近い制止が飛んだかと思うと、
何処で聞いていたのか、
ポールが二階から駆け降りてきた。
「フロティアの黒い人狼に関わったら、
 魂まで喰い尽くされますよ!
 駄目ったら駄目ですからね! 駄目、絶対!!」
冒険者としてギルド一新米のくせに、
その場にいた先輩全員に言いつけて、
憤りながら自室へ戻っていく。
「・・・どうしたの、彼?」
「ほら、ポール君はベルン出身だから。」
人狼ならここ、首都シュテルーブルから東にある森林、
フロティアが有名だと言いたかっただけなのに、
尋常ならない態度で咎められたユーリが目を丸くし、
ヒゲが説明する。
ベルン村はフロティアの西側にある集落だ。
森に住む者、9割が弓士となるなかで、
騎士を志した変わり種の彼だが、
同森の東側に生息する人狼の怖さは、
きちんとたたき込まれているらしい。
「ポール君がああ言うんもわかるけどな。
 わいも森ん中入ったらあかんて、
 散々言われとったし。」
そういう敦は遠国ヤハンから来た、
竜王討伐支援隊の一人だ。
十数年前、長き冬眠から目覚めた金色の竜王に、
フォートディベルエが壊滅寸前まで追いやられた際、
遠い島国から海を越えて救援にきた彼らには、
終戦後、働きの恩賞として、
ミミット村の支配権が与えられた。
ミミットは森の中でこそないが、ベルンから更に東、
黒毛の人狼のテリトリーに密接した地区にある。
森と隣り合わせの生活で、怖さも重々知っているのか、
積極的に相手はしたくないと、
らしくない事を言い、他も顔を見合わせた。
「まともな親ならそういうだろう。
 フロティアは特殊だしな。」
「人狼は普通の魔物と違うしねえ。」
鉄火が腕を組み、ユーリがため息をつく。
一口に魔物と言っても、獣に近いものから、
人に近いものまで様々だが、知能が高いほど、
手強い相手になるのは間違いない。
そして人狼は、悪魔族や他の人型の種族と同じく、
最も知能の高い魔物の一つとして知られている。
だから、人狼を嫌がるのは、
敦やポールに限ったことではない。

「ジョカさんもノエルさんも、嫌だって言うんだお。」
幾ら手強い相手だからといって嫌いすぎだと、
千晴はブツブツこぼしたが、
嫌がる理由もわかると、鉄火は頭をかいた。
「森の中じゃな。
 騎士の軌道力は生かせねえし、
 槍のリーチも返って邪魔になるからな。」
いくらノエルが戦士系上級職ナイトマスターであっても、
利点は生かせなければ、苦しい戦いを強いられる。
苦戦必須と知りつつ、望んで赴く者はいないだろう。
そう言うのに、ヒゲも一緒になって頷いた。
「あいつ等、鼻が良いかんなあ。
 シーフ系なんか、
 お得意の隠密術が使えなくて、かなりの痛手じゃね?
 独特のステップも、森の中では踏み辛いだろうし。」
如何にもジョーカーが文句を言いそうだと吹き出せば、
困ったようにユーリも言う。
「森の中じゃ、魔法でなぎ払うわけにも行かないしね。」
「そうなんだお。」
幾ら黒魔法が強力でも、
森の中では木々が邪魔になって本来の力は発揮できまい。
折角、初級職マジシャンには規格外の、
高範囲魔法を覚えたのに意味がないと、
千晴は口に出さずにぼやいた。
有効無効以前に中級職ブラックマジシャンの領域である、
高位呪文に手を出したのがバレれば、
当然違反行為として黒魔術協会から罰を受けるし、
何より、周囲の大人から、
山のようなお説教を喰らうに決まっている。

兎も角、広範囲の魔法は使えない、
騎獣を駆る、騎士の軌道力も槍の範囲も生かせない、
驚異の回避力と一撃必殺を得意とするアサシンも、
あてにできないとなると、
参加メンバーは自ずと絞られてくる。
「そうなると、行く行かないは別として、
 役に立てそうなのは、あたし達かしら?」
「せやねえ。」
「まあ、な。」
軽く小首を傾げたユーリの問いかけに、
鉄火と敦が頷き、ヒゲがフシシと笑った。
ユーリが所属する黒魔法系職の一派、
アセガイル系は戦うことを意図した職ではないため、
上位のワイズマンになっても、
広範囲への攻撃を目的とした呪文はあまり習得せず、
対多数戦では、火力として数えられることすらない。
しかし、賢者とも呼ばれ、
学問の極みを求める学者職だけに、
純粋に攻撃力のみを突き詰めた、
単体術式を幾つか開発しており、一撃だけで考えれば、
攻撃専門のブラックウィザードを上回る。
敦のような拳闘士は白魔法に準ずる技法を多用するため、
刃物など、魔力を四散させる金属類は余り使えず、
拳による直接攻撃か、
棒術や鈍器など殺傷力に劣る武器しか使用しないが、
純粋な近距離戦に特化した職であり、
職業上は騎兵、ナイトマスターではあるが、
騎獣を持たず、徒歩で刀をメインに扱う鉄火も、
白兵戦を最も得意としている。
森のような障害物の多い場所で、
対少数戦を行うのであれば、
彼らのようなタイプで固めるのが無難だろう。
また、少数であるが故に、
攻撃にも回れるヒゲの特性も生きてくる。
普通なら、皆、
喜んで狩りのお供を申し出てくれるところだ。

だが、今回は勝手が異なり、まず、敦が首を振った。
「けど、フロティアの狼が相手なら、
 わいは遠慮させてもらうわ。」
「珍しーい!
 随分腰が引けてますな!!1」
ヒゲの挑発は、いつもであれば一悶着起こしただろう。
敦は血の気が多く、相手が強いほど燃えるタイプだ。
軽口に黙っているほど大人しくもないはずなのに、
気乗りしない様子で首を振る。
「わいの所為で、実家に何かあっても困るしなー
 それにあいつ等には借りがあんねん。」
「何かあったの?」
人狼に手を出すことによって、
そのテリトリーに近いミミットに、
報復があっては困るというのは分かるが、借りとは何か。
居心地悪そうにもじもじと手をこねる様は、
本当に彼らしくない。
ユーリが事情を問うと子供のころの話だと敦は嘆息した。
「熱出した先生に必要な薬草が、
 どうしても足りんことがあってな。
 一度だけやし、ばれんやろと思うて森に入ったら、
 見事に見つかってしもうたん。」
彼らしい、無謀な過去である。
フロティアの人狼は、
侵入者をけして許さないことで有名だ。
縄張りを荒らせば魔物ですら生きては帰れないといわれ、
国の法でも進入禁止危険地区に定められている。
噂では、最強と呼ばれる彼の金色竜にも、
恐れず牙を剥いたと言う黒い狼達のテリトリーに、
のこのこ潜り込むなど、自殺行為でしかない。

「よく生きて帰れたな。」
「見逃してもろおたんよ。」
呆れて鉄火が眉をしかめ、力なく、敦は肩を落とした。
「見逃してもらった?」
ネズミ一匹逃がさないと言われる、
フロティアの人狼とは思えない温情に、
ユーリが首を傾げると、敦は深く頷いた。
「せや。
 事情を話したら、頭が偉い話のわかる奴でな。」
そういうことならと、必要な薬とともに、
無事、村まで送り返されたのだという。
自分が子供だったことも考慮されただろうが、
他の黒狼であれば、あり得なかったであろう判断に、
文字通り命拾いしたそうだ。
あの時のリーダー狼には、
未だに足を向けて寝られないと拳闘士は強く主張し、
右手の指を3本たてた。
「ちなみに、薬代&身代金は鶏3羽やった。」

それは言わなくて良かったのに。
鉄火とユーリは勿論、千晴も口にするのを止めたが、
ヒゲが真面目な顔で頷く。
「つまり、アッちゃんのお値段は、
 鶏3羽分ということですな。
 お安いっ!!!」
言うと同時に吹き出した白魔導士に、
敦は猛然と抗議した。
「当時、鶏は貴重なたんぱく質やったんやで!」
若干、論点が違う気がするが、
ぎゃいこぎゃいこと争い始めたのを、
鉄火が間に入って止める。
「くだらねぇ喧嘩すんじゃねえ。」
眉間にしわを寄せて、
余計な騒ぎばかり起こすヒゲを睨む。
「大体、それをいうならお前なんか、
 オークションで30ロゼだったじゃねえか。」
「おう…テッカさんも、よく覚えてましたな…」
以前、知人主催イベントのネタ商品として、
自身の冒険者としての腕を売ったところ、
相場の100分の1の値段しか付かなかったという黒歴史を、
ヒゲは所有している。
白魔法系上級職ホワイトウィザードであれば、
こぞって買い手がついても良いはずなのに、
見事に売れ残り、場を白けさせた挙げ句、
続けて販売された白魔法系初級職、
メディカルの少年の方が遙かに高値がついた。
見た目が悪すぎたんだろうなと関係者は言い、
主催の紅玲は未だに大爆笑する、悲しい出来事であった。
「いくらネタだったとしても・・・
 あれは惨い結果でした!!」
「あらあら。」
古傷をえぐられて、げらげら笑うヒゲに、
対処に困ったユーリが眉尻を下げ、
千晴は思い切り大きくため息をついた。
これだからヒゲにはつきあっていられないのを、
思い出した敦が話を進める。

「兎も角、フロティアの狼はあかんのよ。
 ついでにカヴルクもあかん。
 あっちはミミット全体で莫大な借りがあんねん。」
「っていうか、貸し借りあるなしじゃないだろ。
 どっちもほぼ、立ち入り禁止地区じゃねえか。
 そうじゃなくてもフロティアにマジシャンなんか、
 危なくて連れてけねえぞ。」
手を出したら実家に帰れなくなると敦は首を横に振り、
どんな理由だと呆れながら、鉄火が吐き捨てた。
フロティアの森に出るのは黒狼だけではない。
狩りが許可されている西側にも、
不死者の溢れる洞窟があり、
そこからこぼれでる魔力を取り込んだ魔物は、
どれも凶暴で、上級者向け狩り場とされている。
また、カブルク砂漠は船に乗り、海を越えた先にある。
魔物の驚異はもちろん、滞在するための支度や、
移動手段の手配、過酷な環境に耐える体力や知識が、
必要になる。
どちらも実戦経験がほぼない千晴を、
つれていくような所ではない。
「でも、他に入手の仕方も無くね?」
「少数なら黒悪魔と一緒に、ベネッセにでるけど。」
横からヒゲとユーリが口出しするが、
双方きっぱり取り下げられる。
「駄目だ。どの道、危険すぎるだろ。」
ここシュテルーブルから西、
80km先にあるベネッセの森には、
古くから山羊の角を持った黒い悪魔が生息しているが、
ここ数年前から、人狼の姿も目撃されるようになった。
黒悪魔にしても人狼も、
熟練の冒険者ですら勝つのは難しいというのに、
初級黒魔法使マジシャンでしかない千晴には、
荷が重すぎる。
ギルド最強とされる鉄火が、フロティアもベネッセも、
狩り場候補から外した方がいいと言うのだから、
他のメンバーが連れていってくれることはないだろう。

ますます落ち込む千晴を見て、心配そうにユーリが問う。
「それでカオスさんは、どうやって入手しなさいって?」
「森の奥まで行かなくても、春になれば、
 抜けた毛玉が飛んでくるから、それを集めろって。」
「ずいぶん、気の長い話ねえ。」
気が長いどころか、本当に入手できるのかすら怪しい。
最後にこんな落とし穴が用意されていると、
思わなかったかを問われれば、カオスの性格的に、
如何にもありうることだと答えざるを得ないが、
それにしても酷い。
「それで、正確にはどのくらい必要なの?」
ユーリに悪気はないのだろうが、
具体的に聞かれると、ますます悲しくなってくる。
「だから、あればあっただけだお。」
「それって逆に、なくても大丈夫ってこと?」
「そうだお。でも、それじゃ意味ないんだお。」
流石にユーリは察しが早いと千晴は思った。
なければないで、いいのだ。
その話をしたときのカオスの態度を思い出して、
落胆は怒りに変わる。
『無理なら無理で、別にいいぜー
 そのかわり、質はお察しくださいだけどな。』
確かに人狼の毛皮は柔らかく、肌触りが良いだけでなく、
保温性が高いのに通気性もいいと、
衣類の最高級材料としても扱われるらしいが、
高山羊の毛糸だって、帽子を作る材料としては一級品だ。
勝っても劣るはずがない。
引いては、下がるのは防寒具としての質ではない。
本来の目的、魔装防具としての質だ。
人狼の毛は魔術の媒体として優秀であるばかりか、
それ自体が魔力に対する一定の耐久性を持っており、
冒険者の装備の材料としても優秀だ。
防具の質に関わるとなれば、
用意する以外の選択肢を千晴は持っていなかった。
「確かに入ってた方が、丈夫にはなるんやろうけどな。」
「でも、お値段も張るし、なくていいなら、
 入れなくてもいいんじゃね?」
敦とヒゲが顔を合わせて、必要性に首を傾げているが、
ただの帽子に用はない。
性能を考えれば、人狼毛100%でもいいぐらいだ。
「こうなったら、どんな手使っても、
 入手するしかないお!」
先日の挑発じみた発破を思い出し、
千晴は鼻息荒く宣言する。
だが、タイミングが悪かった。
「どんな手って、どんな手だ。」
鉄火の眉間の皺がますます深くなってしまった。
直接入手を制止された今、する発言ではなかった。

「え、っと・・・まだ、考えてないけど、
 狩りに行かなくても、露店で探すとか方法はあるお?」
別に、無理矢理狩りに行くつもりはないが、
慌てていたせいで、返って言い訳臭くなってしまう。
それで大人を納得させられるはずがない。
場を取り繕おうとする千晴を、
胡散臭そうに鉄火は眺めた。
「露店で買うったって、そうそう出回るもんじゃねえし、
 相当するだろ。金はどうする気だ?」
「取り合えず、地道にやるお。
 ユッシンが狩りつれてってくれるって言うし、
 プチグリ狩りだって、結構儲かるし。」
「そうは言ってもだな・・・
 大体、子供の帽子に人狼とは、カオスの奴、
 何を考えてるんだ?」
上級冒険者が使う装備ならまだしも、
資格を形ばかり得ただけの初心者、しかも子供が、
狙う材料じゃないと眉を顰められる。
「それはほら、カオスさん、一応魔王だから、
 ちょっとした防御魔法も組み込んでくれるって。
 簡単な奴だと思うけど。」
鉄火は勘が鋭い。
下手にごまかすのは逆効果だと、千晴は素直に白状した。
実際に組み込んで貰うつもりなのは、
竜王の攻撃すら跳ね返すような奴だが、
そこまで説明する必要はない。

「ふむ・・・しかしなあ。
 媒体なら、火鳥の羽だけで足りるんじゃないのか?」
「その辺はお任せだもんー
 ともかく無茶はしないから、大丈夫だお。」
彼に睨まれると、ユッシとは違った意味で怖い。
『ボク、子供だから難しいことは分かんない。
 でも、危ないことはしないよ?』
そんな無邪気でお利口さんな7歳児に見えるよう、
半ば自分に言い聞かせるようにして、
殊更にこやかに千晴は笑った。
あから様に子供らしい笑顔をどう思ったかは知らないが、
物言いたげに口元をひきつらせた後、
鉄火はため息を付いた。
「なんにしても、
 紅玲に心配掛けるようなことはするなよ。」
「はーいだお。」
そんなこと、言われるまでもない。
話は終わったと早々に立ち去ろうとして、
千晴は本来の問題が片づいていないのを思い出した。
さて、どうやって材料を入手するべきか。
人狼の毛に関わらず、集めるべき物は多い。
取り合えず、購入資金の準備を含めて、
出来るだけ狩りに行くことを、
小さい黒魔法使いは決めた。 


 

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