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サンタクロースとプレゼントと思い出と。

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サンタクロースとプレゼントと思い出と。




暦は既に12月にはいり、
天候によっては雪がちらつく厳しい季節となった。
そんな寒さに負けることなく、
今、人族の作りし王国、フォートディベルエは、
何処もクリスマスムード一色で染まっている。
首都シュテルーブルに居を構える、
個人冒険者ギルドの一つ、
ZempことZekeZeroHampも例外ではない。

本日より、クリスマス休暇に入り、
各自それぞれの判断もあるが、
基本的に年明けまで、冒険者活動は休業だ。
久方ぶりの長期休暇に、
更に朝から雪が降っているとくれば、
休暇の喜びは否が応でも盛り上がる。
この寒い中、外で仕事しなくていいなんて、
なんて幸せなのだろうか。
万年新米騎士、ポール・スミスはご機嫌だった。
「シュはきまっせりー フッフー
 シュはきませりー フッフーン
 ねえ、ユッシさん、“シュ”って何でしょうね?」
「知らない― 興味もないー」
彼が鼻歌を歌いながら、
先輩冒険者のユッシと交わした内容は、聞くものが聞けば、
深く苦い溜息を零さずにはいられない内容であったが、
オーディンをはじめとした海神信仰が主体となり、
他の宗教はほぼ完全に廃れてしまった現在では、
如何仕方のないことであり、
当人の与り知るところでもなかった。

上機嫌のまま、お茶でも飲もうと席を立った彼の目に、
ギルドの先輩が預かっており、
今では父親とともに居候という名でギルドの一因となっている、
小さな幼児とその愛ぬいぐるみ(犬型、動いて喋る)が、
揃って窓の外をのぞき込んでいるのが映った。
何をしているのかと近づいてみれば、
降り積もる雪を眺めているらしい。
「きいたん、寒くないかい?」
窓にしがみついているので、
冷たかろうと心配してみるも、
幼児を悩ませていたのは寒さとは別のものだった。
「ぽーるくん、ゆき、いつ、やむかねえ?
 きいたん、はやく、おそとで、ゆきだるま、つくりたいよー」
部屋で遊ぶのに飽きてしまったらしい。
幼いながら、キィは心底困り果てたように言う。
普段なら、相棒のルーが一生懸命慰めるところだろうが、
今回、彼は黙って尻尾をぱさりぱさりと振るに留まった。
「ゆきがやまないと、だめだって、
 あちしおにいちゃんも、
 すたんおにいちゃんも、いうんだよー」
遊び相手のお兄ちゃん達に断られてしまったらしい。
悲しそうなキィの様子に、ポールも窓の外を見て、少し考えた。
朝から続く雪は全く弱まる気配がなく、
むしろ強くなりそうだ。
「そうだねえ、ちょっと外で遊ぶには天気が良くないねえ。
 もうちょっと、我慢しようか。」
止んだら自分も付き合うと、ポールも幼児を慰めたが、
気休めにしかならない。
しょんぼりする二人を眺め、
ルーは鼻の頭をぺろりと舐めて言った。
「しかたがないよ、きいたん。
 天気はどうにもならないからね。」
ルーは見た目は小さい犬のぬいぐるみだが、
中身は不可侵の森に棲んでいる、
ちょっと口外できない何かである。
大自然の厳しさをよく知っているらしく、
端から諦めているようだ。
「それより、あっちでボールで遊ぼう!」
「いや、部屋の中でボール遊びはダメだよ。
 こないだ、テツさんにも怒られたでしょ。」
そのくせ、小さな子犬の如し考え無しな提案をするので、
なかなか侮れない。
慌てて窘めるも、大人は良いのに何故駄目だと憤慨された。
正式には大人だって駄目であるが、
そういうことをする大人がいるのも事実である。
この流れは危険だと、ポールは早々に話題を変えることにした。

「それより、きいたんはサンタさんに何をお願いしたんだい?」
クリスマスとセットでやってくる赤い服の老人は、
いい子にプレゼントを持ってきてくれる。
当然、キィも楽しみにしているだろうと思ったのだが、
幼児はますます困ったような顔をした。
「おねがいは、しないよ。」
「え、なんで?」
予想外の答えに不思議がれば、
キィはつまらなそうに言った。
「さんたさんは、きいたんに、
 ほしいもの、もってきてくれないんだよー」
「えっ?!」
方向性が多少一般的ではないが、父親に溺愛され、
ギルドの面々にも可愛がられているキィのことだから、
願いは叶って当たり前ではないのか。
要望も複数挙がるぐらいに考えていたポールは、
ショックを受けた。
しかし、ルーが別段不思議そうでもなく首肯する。
「ボクにも欲しいもの、来ないよ。」
「そうなの?!」
キィやルーのような子供たちに、
サンタクロースが来ないとはどういうことか。
詳しい説明を求めたポールに、
小さい人達は口々に教えてくれた。
「きいたん、ほんとうは、
 まんまるぺたぺたふうせんがほしいんだよ。
 でも、さんたさんは、おかししか、くれないんだよ。」
「ボクも新しいボールが欲しいんだ。
 でも、いつもほねほねボーンなんだよ。」
ルーはお菓子しか貰えないことをそれほど気にしていないようだが、
キィは寂しそうに肩を落とした。
「どうして、ふうせんは、だめなのかねえ?
 きいたんが、おりこうじゃ、ないからなのかねえ?」
「カオスさん、お話があります。」
毎日大人しくお姉ちゃんとお留守番し、
帰りの遅い父親の帰りを一生懸命待っているキィが、
お利口でないはずがない。
これは一体どういうことか。
ポールは居間で寛ぐ父親を呼びつけた。

「なんすか。」
「なんすかじゃないですよ! 聞いてたでしょ!
 なんできいたんに、ちゃんとサンタさん来ないんですか!!」
キィの父親でうちの居候のカオスは、
そう見えなくても山羊足の魔術師の二つ名を持つ、
世界最強の魔王である。
それを頭から怒鳴りつけ、場合によっては許さんと意気込むポールに、
周囲のメンバーは首をすくめ、カオスは心底嫌そうな顔をした。
「なんでサンタが来ないって、
 それはあいつがちゃんとお片づけをしないからだ!」
苦虫を噛み潰したように吐き捨て、
魔王様は強い口調で理由を述べた。
「お前、あいつが欲しがってる真ん丸ペタペタ風船って、
 なんだか知ってるか?
 詳しくは省くが、くっ付けてオブジェを作る類だぞ。
 そんなもの与えた暁には、床から棚まであたり一面、
 わけのわからない風船の塊が、所狭しと放置されるんだぞ。
 紅玲だって、ずっとあいつの面倒を見ていられるわけじゃなし、
 怒られる元でしかないだろう!
 それでも与えたかったら、お前がお前の責任においてやれ!
 俺は嫌だ!」
彼の主張はポールにも容易に理解できるものであり、
問題発生時、普段キィの世話係をしているメンバーの一人、
紅玲がとる言動も安易に予想が付いた。
キレる。まず、間違いなくブチ切れる。
もっとも、幼児を怒鳴り付けるなど、
大人げない行動はとらないだろうが、
代わりに周囲にあたる。全力で当たり散らす。
無差別攻撃に出た紅玲ほど怖いものは、あまり無い。
全くじゃないのが悲しいところだが、あんまりない。
「つまり、普通にきいたんが悪いから、
 サンタさんは来れないんですね。」
反論できず、ポールは顔をそむけて遠い目をし、
カオスは深々と溜息をつく。

その様子を横から心配そうに見ていたポールの後輩、
スタンがおずおずと間に入ってきた。
「なあ、」
切り出しはしたものの、どう言うべきか悩んでいるようで、
眉根を寄せて、唇を真一文字にするその様は、
普通に因縁つけているようにしか見えない。
「どうしたの?」
中身は優しいのに見た目が怖い後輩に、
ポールが先を促せば、スタンは意を決したように、
飛んでもないことを言い出した。
「さんたさん、って、何?」

20代前半に見えるがスタンはポールより年下にあたる。
とはいえ、サンタクロースを、
その正体を含めて知らない歳でもない。
予想外の質問に、ポールはうーんと悩みながら、
途切れ途切れに説明した。
「えっとー 赤い服を着たおじいさんで、
 クリスマスにプレゼントを持ってきてくれるんだけど、
 スーさん知らない?」
「ん。」
街中で飾られているモニュメントは多々目にしており、
名前も耳にしているが、どのような存在かは知らなかったらしい。
皆、当然のように話しているので、
聞く機会を逃し、今に至ったようだ。
「なんでプレゼント、くれんだ?」
「ええとー それは、一年間、いい子にしてたからかな?」
改めて問われても、正確で詳しい由来はポールだって知らない。
何とかひねり出した答えに、スタンはふんふんと頷いて、
顔を青ざめさせた。
「じゃあ、おらんとこに、サンタさん来なかったんは、
 おらが悪かったから…」
「スタンの実家近辺にはクリスマスねえぞ、普通に。」
幸いにして、彼の疑念はカオスが即行で否定してくれた。

「え、スーさんの故郷って、クリスマスないの?」
先ほどから在籍していたが、
内容が内容だけに、我関せずを示していたユッシが、
思わずと言った体で口をはさみ、
その他のメンバー、ヒゲと敦も目を丸くする。
「スーさんの家って、何処だっけ?
 ずっと北の方だったよな!?」
「わいんとこにも、クリスマスはあったのになあ。」
不思議そうな面々を、
訳知り顔でギルドマスターのフェイヤーがまあまあと宥めた。
「フォートディベルエは大きいけど、
 ここの習慣が世界共通でもないし、そういうこともあるよ。」
尤もな意見だが、今一つ納得いかなさそうな連中を無視し、
カオスは淡々とスタンに説いた。
「スタン、お前、この時期、家なら何してた?」
「冬眠。」
「つまり、そういうことだ。
 お前んところ、冬が厳しいからな。
 クリスマスなんか、する余裕ねえ。
 サンタもたどり着く前に凍え死ぬわ。」
「ん。」
スタンの故郷は一体どれだけ寒いというのか。
聞いてる側としては、やはり今一つしっくりこない説明だったが、
当人は至極納得したらしい。
満足そうに、何度もうなずくスタンを鼻先で笑い、
カオスはケッと吐き捨てた。
「兎も角、きいこにサンタはおもちゃを持ってきません。
 大体、うちにはあいつ以外にも大量に小さいのがいるんだぞ。
 逐一要望を聞いてたら、破産するわ。」
我がギルドに入り浸っているので忘れていたが、
彼の本宅には世界中から趣味で集めた、
虐待されたり、身寄りのない子供たちが保護されている。
漸く納得できる理由に皆が頷いた。

「大体、あいつらが貰うお菓子って、王様が食ってるのと同じだぞ。
 王家専属パティシエ、シャルル・ラインリヒ作だからな。」
「マジで?! 何気にきいたん、ワシらより良いもん食ってるな!!」
「なんで、王家専属パティシエにそんなの作らせてるの…」
「人の弱みと交渉に有益な情報は握っておくもんだ。」
「何やってるの。何やってるの、カオスさん!」
「あいつが片思中の相手の情報流してるんだよー 
 面白いように言うことを聞くよー」
「汚い。流石世界最強最悪の魔王、これは汚い。」
淡々とカオスとその他が微妙に恐ろしい会話をする中で、
敦が訳知り顔で肩をすくめた。
「ま、一口にサンタ言うても、各家庭の事情があるわな。
 わいんところも、クリスマスはあっても、
 サンタは来うへんかったしな。」
「それは普通にあっちゃんが悪かったからじゃないんですか?!!」
ヒゲが元気よく指摘し、もっともな意見に敦は憤慨した。
「失敬な。しかし、否定しかねるところがあるんは確かや。」
明らかにいい子な幼馴染のところにも来ていなかったことや、
当時の村の経済状況からすれば、故意ではなかろうが、
余裕があったとしても、サンタが来たか微妙な自覚はあるらしい。
「せや、何時だかユーリから聞いたんやけど、
 あいつの国には悪い子を叩くブラックサンタっちゅうんが居るらしいな。
 実家でその話したら、もっと早よう知りたかったって泣かれたわ!」
「いや、それ、多分、絶対笑って話す状況じゃなかったよね、きっと。」
ゲラゲラ笑う敦に、フェイヤーが泣きそうな顔になる。

監督者側の苦悩は顧みられることなく無視され、
敦は人のことがいえるのかとヒゲを突いた。
「そういう自分こそ、サンタ来なかった口やないんかい?」
「んー まあ、確かにワシには、サンタどころか、
 誕生日プレゼントもお年玉もなかったんだが。」
叩かれて喜ぶ異常な習性を持つヒゲには、美味しい質問のはずだ。
しかし、歯切れ悪く言い淀み、事情があると言い添えた。
「あれは、ワシが10歳の頃だった。
 クリスマス休暇を前に、親父が引越しの話をしていてな。
 幼いワシは、それを友達に話したんだ。
 『もしかしたら、引っ越すかもー』ってな。」
ヒゲ少年にとっては、
直ぐ話したこと自体を忘れたぐらい、
軽い気持ちの世間話だったらしい。
「そして、終業式と帰りの会が終わった時だった。
 いつも通り帰宅しようとしたワシは皆に呼び止められ、
 そのまま、サプライズお別れ会が始まったんだ!!!」
衝撃の展開に、ヒゲ少年が状況を把握できないまま、
お別れ会は着々と進められたそうだ。
「次から次へとはじまる、練習の成果が感じられる出し物。
 忘れないでねと涙を浮かべる級友たち。
 差し出される真心の籠ったプレゼント。
 今ならそれらを受け取って、
 新学期に何事もなかったかのように笑顔で登校できるっ!!
 しかし、幼いワシには耐えられなかったっ…!
 全力で家に帰宅したワシは、
 今後、誕生日もクリスマスもいらんから引っ越しさせてくれと、
 泣きながら必死で両親に頼み込んだんだっ…!!!」
だから、自分にはサンタは来なかったと、
苦しげに語り終わったヒゲに、掛ける言葉は誰も持たなかった。
「僕さー 偶に真剣に考えるんだけど、
 ヒゲさんの話って、どこまで本気にしたらいいのかね?」
「こっちが冗談言い合ってるつもりでも、
 普通に素で返してきよるんもんな。」
「先生、親に確認とらなかったのかよ。」
こればかりはお天道様にも見抜けまい。

こそこそとヒゲを置いて話し合う先輩方に、
ポールも肩を落とした。
「まあ、クリスマスと言っても、
 そうそう美味しい話はないですよね。」
はははっと乾いた笑いを浮かべた彼に、
スタンが小首をかしげて聞く。
「そういう、ポールさは、どうだったん?」
「オレ? オレは普通にもらえてたけど…」
確かにごく普通の一般市民だった彼は、
普通にプレゼントをもらっていた、が。
「それが毎回、弓に取り付けるアクセサリーとかでさ。
 確かに、友達の間で流行ってたものだったけど、」
話しながら、ポールの顔も暗くなる。
「オレは、ほら、弓、苦手だったからさ。
 正直、あんまり嬉しくなかったっていうか…」
彼の故郷、ベルンは出身者の9割が猟師として、
弓を扱う地域であるだけに、
それに興味がないのも、苦手というのも、
幼い心に圧し掛かるものがあったそうだ。
その上、年に一年のプレゼントが弓絡みと来ては、
喜べるはずがないばかりか、普通にプレッシャーである。
「あーな。 子供の進路は押し付けるもんじゃないけど、
 親の気持ちも分からんでもないな。」
「好きになるきっかけになればって思うもんねえ。
 でも、ベルンのあの閉鎖的で頑固な体質は、
 確かにちょっと問題だよね。」
心情を思いやり、カオスとフェイヤーも眉尻を下げたが、
現実は更に良くなかった。
「いや、それが、最近判明したんですが、
 姉ちゃんが『オレが欲しがってる』ことにしてたらしいんですよ。
 頃合いを見て、横からかっさらうために…」
両親は、彼の希望と信じていたらしい。
「酷い話やね…」
「いや、ここまで来ると、その狡猾さは天晴かもしれん!」
遠い目をするポールに、敦はただ、同情することしかできず、
ヒゲが前向きな見方を提案するも、状況は一向に改善しない。

いい加減、楽しさとかけ離れた流れに飽きたのか、
ユッシが大げさにため息をついた。
「もうさ、どうでもいいじゃん、そんなの。
 結局、プレゼントなんか当てにするもんじゃないんだよ。
 貰えたらラッキーってだけで、
 欲しいものがもらえるとか、違ったとか、
 あったとか、ないとかさ、どうでもいいじゃん。」
それだけなら、冷めた感想だったが、
ユッシは力強く、そしてはっきりと言った。
「大事なのは、そういうことを一緒に祝える家族や友達がいて、
 今年も一年間、ありがとう。
 来年も宜しくって、思えることでしょ!」
クリスマスは本来、新年を祝う儀式が始まりである。
至極真面で、尤もな、
何よりユッシからぬ発言に、皆、驚きを隠せなかった。
「珍しくユッシンが真面なこと言うとる。」
「一体、どうしちゃったんですか、ユッシさん!!」
「怖い。」
「おのれっ! 貴様、偽物だなっ!!!
 本物のユッシンを何処へやったっっっ!!」
「ヒゲ、生憎だが俺の目を誤魔化せる奴なんかいねえよ。
 残念だが本物だ。悪いものでも食ったんだろう。」
「ちょっと、酷くない、君たち!!」
散々な反応に、当のユッシより、
その育て親であるフェイヤーが怒る。
「確かに、僕もどうしちゃったのとは思うけどさ、
 でも、ユッシンだって人の子だよ!」
「いいんだ、フェイさん。」
フォローになってないフォローを行うギルドマスターを片手で留め、
ユッシは淡々と語った。
「確かにうちも、うちらしくないと思うよ。
 でも、この件に関しては本気だよ。」
自分にとって、クリスマスは特別だ。
そう語る彼にいつもの我儘で勝手な調子はなく、
自然と、周囲も静かに話を聞く体制に入った。
「本当なら、うちもノルも、クリスマスなんか祝える立場じゃない。
 村が焼かれたとき、全部諦めたんだ。」
ユッシと幼馴染のノエルは孤児である。
幼いころ、魔物に村を襲われ、全てを失くした。
住むところも、友達も、家族も。
「もう、死ぬしかないんだって思ってたところを、
 フェイさんに拾ってもらった。
 それどころか、普通の子供みたいに、
 食べさせてもらって、学ばせてもらって。
 初めてのクリスマス、確かフェイさんは仕事で遅くて居なかったし、
 ケーキも何にもなかったけど、
 こんなに良くして貰ってるのに、
 その上、人並なクリスマスなんてとんでもない、
 我がままだって、皆で話したのを覚えてるよ。
 そう、幼いうちらは何も期待してなかった。でも、」
子供たちだけで布団に入り、
朝、目覚めると、枕元にプレゼントが置いてあったという。
「凄い、驚いた。同時に、凄く申し訳なくて、
 嬉しくて、どうしていいか分からなかった。
 こんなこと、してもらう義理も、
 理由もどこにもないのにって泣いたんだ。」
今、思い出しても、涙が出てくるとユッシは語り、
聞いている者の涙腺も緩む。
らしくはないが、確かにいい話だと頷きあう中、
語られる思い出は終結を迎えた。
「だから、本当に忘れられない衝撃だったよ。
 プレゼントの箱から、飲み屋のお土産チャーハンと、
 食べかけのするめが出てきた時は!!」
「悪かった!! 本当にあの時は悪かった!!!」
あの晩、フェイヤーは仕事上がりに仲間としこたま飲み、
帰宅したときは前後不覚もいいところだったらしい。
用意していたプレゼントも何処にしまったか思い出せない為体で、
取り急ぎ、持っていたものを枕元に置いた模様である。
「あの時、思ったんだ。
 大事なのは幸せに気が付ける気持ちと仲間だって。
 そしてプレゼントにどんな定義も当て嵌めちゃいけないって。」
「御免なさい! 酔ってたんです! 
 あの時は酔ってたんです!!」
「何時もじゃん! いつも酔っぱらってるじゃん!!!」
半泣きで、すがるフェイヤーを振り払い、
ユッシは全力で宣言した。
「ともかく、世の中、何時、どうなるか分からない。
 けど、今、こうやって馬鹿な話しながら、
 暢気にケーキ食べてられるんだからさ、
 本当に幸せなんだよ、うちらは!」
「やめてユッシン! もうやめて!」
非常に良い理念ではあるのだが、そこに至った経過が経過だけに、
マイナス面を際立たせる効果にしかなっていない。
「このギルドに、まともな思い出を持ってる奴はいないのか。」
無表情にカオスが述べた感想を覆す要因は、
非常に遺憾であるが、ない。

何処までも残念な状況であっても、
世界最強の魔王様はそれなりの仕事をしてくれる。
「兎も角、どんなクリスマスを迎えてきたかなんて人其々だが、
 それが良かろうが、悪かろうが、
 今年のクリスマスを楽しくやらない理由にはならないだろ。
 宜しくやろうぜ、適当によ。」
かなり強引であるが、カオスは場を大まかに纏め、
明るい話題も提示した。
「当日はユーリがご馳走作ってくれるっていうし、
 さっき言ったちびどものお菓子も、
 今年は大目に頼んだから、こっちに多少横流せるはずだ。」
「マジで!?」
「凄い! 王家専属パティシエの奴でしょ?!」
「あと、別方面からも差し入れが入る予定にもなってる。」
「酒も? お酒はどうなの!?」
「黙れ、フェイさん!!」
今年はご馳走三昧だぞと言われて、
喜ばないひねくれ者はうちのギルドにはいない。
各自揃って大騒ぎしポールもキィを抱き上げた。
「よかったねえ、きいたん!
 クリスマスはご馳走だって!」
何故、ポールがそんなに喜んでいるのか、
急には理解できず、キィはきょとんとしたが、
嬉しそうなお兄ちゃんに気をよくしたらしい。
直ぐにニコニコと言われた言葉を繰り返した。
「よかったねえ、ぽーるくん。」
「うん、ご馳走、沢山食べようね!」
「きいたん、そんなにたべられないよー」
沢山がどれ位なのかも分かっていないまま、
楽しそうに答えるキィを抱えて、
ポールはグルグル回り、
その足元でルーがつられて跳ね回る。
「クリスマスが今年もやってくる! 
 早く来ないかなあ、ねえ、きいたん!」
「なんでもいいけど、転ぶなよー」
幼児と同レベルではしゃぐポールに、呆れたカオスが声をかけ、
その他も笑顔で肩をすくめあった。
何にはともあれ、今年も後僅かである。

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