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クリスマスソング抗争。

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クリスマスソング抗争。






暦は既に12月にはいり、
天候によっては雪がちらつく厳しい季節となった。
そんな寒さに負けることなく、
今、人族の作りし王国、フォートディベルエは、
何処もクリスマスムード一色で染まっている。
首都シュテルーブルに居を構える個人ギルドの一つ、
ZempことZekeZeroHampも例外ではない。

「冬だ。」
「冬だな。」
「冬ですね。」
マスターを押し退け、メンバーの人望を集める、
実質ギルドの運営係、
鉄火、クルト、紅玲の三人は居間のテーブルにつき、
ぼんやりと虚空を眺めた。
紅玲の隣には彼女の養子、千晴が、
暖かいココアをすすっている。
無言の息子にちらりと目をやり、
養母は大きく息を吐いた。
「去年の今頃は大変だった。
 フロティアの人狼に喧嘩売った馬鹿がいたから。」
「煩い。」
言い終わる前に鉄火が吐き捨て、千晴は黙って下を向く。
なんてことはない。
今、馬鹿呼ばわりされたのは彼らのことだからだ。
確かに年末の忙しい時期、
魔物相手に大立ち回りをやらかしたのは事実だが、
彼らとて望んでのことではなく、むしろ巻き込まれた、
はめられた面が強く、
ついでに紅玲のはた迷惑な師匠が絡んでもいる。
「あれは不可抗力だ。」
鉄火はちっと舌打ちし、思い出しついでに、
習慣で叩いただけなのか、紅玲もそれ以上、
何を言うこともなかった。

「なんか、大変だったんだな。」
当時、まだギルドに所属していなかったクルトは、
詳細を知らないが、出てきた魔物の名前から、
それらしい感想を述べる。
「そうね。大変だったね。」
「あれに関わらず、もっと早くからお前がいてくれれば、
 どれだけ楽だったろうな。」
「それはお互い様だ。」
挙げた事例ならず当時を思い出した紅玲は目をつむり、
鉄火は肩を落とし、クルトもため息をつく。
実際にはそんなに長い付き合いではないのに、
十数年も前から一緒に暮らしていたかの如く、
今のメンバーは家族のような絆で結ばれているが、
それを纏める彼らにとっても、
お互いが掛け替えのない、パートナーであった。

主に、問題解決の協力者として。

湧き水もかくやと思えるほど、
次から次にしょうもない騒ぎを引き落とす仲間達に、
散々付き合わされ、尻を持たされた彼らとしては、
後始末を手伝い、一緒に謝ってくれる相手というのは、
重要で貴重である。
そう、うちのメンバーは非常に問題が多い。
世間一般で言う悪人はいないが、
問題はこれでもかと言わんばかりに多い。
今も同じ部屋で楽しく唄いながら騒いでいる連中を眺め、
彼らは何ともいえない顔をした。

視線の先では右から順にポールとジョーカー、
アルファ、敦、ユッシにヒゲとメンバーの多数が、
クリスマスツリーや部屋の飾り付けを楽しんでいた。
一人前に手伝っているつもりの幼いキィと、
世話係のスタンもその列に加わり、
作業に参加していないノエルと祀は、
暖炉の前でくつろいでいる。
一見、実に平和でのどかな風景だ。
紅玲が師匠より預かっているキィのような、
幼児であれば当然喜んでしかるべきだろうが、
大人であってもクリスマスの準備は楽しい。
仲良く唄いながら手を動かす彼らは、ある一点を除けば、
非常に微笑ましく、何の問題もなかった。
着々とツリーや窓の飾り付けが進む中、
エンドレスで繰り返されている歌が一巡し、
再び最初から始まる。


走れ俺よ 風のように 雪の中を 軽く早く
笑い声を 耳にすれば 涙が溢れて滝になるよ

シングルベル シングルベル 鈴が鳴る
今年も寂しく 独り者 ヘイ!
シングルベル シングルベル 鈴が鳴る
今日も悲しく クルシミマス 

「ヘイ!」じゃないよ、「ヘイ!」じゃ。
突っ込まざるを得ない歌詞に変えられた、
定番のクリスマスソングに、三人は瞑目した。
「誰だ、あの歌考えたの。」
「いや、この際、誰が考えたかは問題ではない。」
鉄火の疑問にクルトが首を振る。
作詞者が誰であろうと、現状はなにも変わらない。
唄っている連中は騒がしくも非常に楽しげなだけに、
余計にまとわりつく脱力感を抱えたまま、
紅玲が息子に問いかける。
「ちは、あんたは飾り付けに混ざらなくていいの?」
「いやだお。運気が下がりそうだもん。」
本来、喜んで参加する作業にもかかわらず、
千晴は即座に拒否し、
まあ、そうだろうなと母親は肩を落とした。
理性があれば好んであの中に混ざりたいはずがない。
よく見れば、
暖炉前で作業を眺めているノエルの目も虚ろで、
祀に至っては完全に無視して寝こけている。

「ジョカさん、もっと引っ張ってください!」
「O.K.! ポール君、そのまま動かないでよ!」
「アッちゃん、これ、ここでいいかな?」
「ええんとちゃう? ユッシン、これも頼むわ!」
「任せとけ! ヒゲさん、もっと右に動いて!」
「ワシは何時まで台を押さえればいいんでしょうか!?
 寧ろ台として踏んでください!!」
全く、このいつも以上の連帯感はなんなのか。
良い歳した大人がはしゃぎすぎだと言わざるを得ない。
外見は兎も角、中身は比較的まともなスタンが、
大人しく列に混ざっているのは、
キィが喜んでいるからだろう。
事実、小さい人は歌詞の意味も分からず、
「しんぐる、しんぐる!」と、飛び跳ねている。
「ありゃ、確実になんか勘違いしてんな。」
また師匠に怒られるよと紅玲は口端を歪め、
幼児への悪影響を見過ごせず、
クルトがスタンを呼びつける。
「スタン、キィを回収して戻ってこい!」
「でも、きいこ、喜んでるし。」
案の定、スタンはご機嫌なキィを押さえてまで、
作業を中断させようとせず、鉄火がけっと吐き捨てる。
「喜んでりゃ良いってもんじゃねえだろ。」
2歳児に物事の善し悪しなど区別が付くはずもなく、
代わりに大人が判断するべきだ。
しかし、年に一度のお祝いの準備にけちを付け、
嫌な気分になってまで、止める必要があるだろうか。
それ以上に怒ったところで、
どれだけの効果があるだろうか。

いや、全くなんの意味もない気がする。
だって、いつものことなんだもん。

怒って変化がみられるのであれば、
端から起こり得ない現象である。
そうこうしている間に、周囲への拡散という、
状況悪化の兆しすら見え始めた。
「ノエルさんも、そんなところで見てるなら、
 一緒にやりましょうよ。」
「いやだ! 俺はまだ、そこまで捨てきれない!」
「祀ー そんなとこで寝とると、風邪引くで!」
「るっせえ、話かけんな。」
非参加者に声をかけ始めたあたりからして、
そのうち彼らは自分たちにも誘いを掛けてくるだろう。
今のところ、抵抗しているが、
どうせノエルはユッシに引っ張られば結局従うだろうし、
祀は元々戦力外である。
さて、どのように収拾をつけようか。
自分達の無力を実感しながら、
三人がそろって嘆息したところで、想わぬ援軍が現れた。

バンと強い力で玄関の戸が開き、
取り付けられた鈴がチャリリンと悲鳴を上げる。
「ちょっと君たち、なにやってんの!!」
現れて早々、フェイヤーが怒声をあげた。
ギルドマスターの帰宅に、
叱られて尚、無邪気な笑顔でポールとキィが出迎える。
「フェイさん、お帰りなさーい。」
「ふぇいお兄ちゃん、おたえりー」
「はい、ただいま、って、そうじゃなくて!」
釣られて普通に応えてしまったギルドマスターは、
慌てて態度を改める。
「なんて歌を歌ってるんだい!
 今すぐやめなさい、みっともない!」
みっともないと言われたポールとキィはきょとんとし、
悪意のないその態度にフェイヤーは頭をかきむしった。
「もー きいたんは兎も角、ポール君はなにが悪いか、
 分かって当然でしょうが!」
大声に慣れすぎているのと、自覚がないのとで、
叱られていると気が付いていなかったメンバーも、
ようやく手を止めて、
何事かと帰宅したギルマスに目を向ける。
「なんなの、帰ってきて早々。」
「どうしたの、フェイさん?」
「怒っても、ええことないで。」
「てか、はげるよ。」
「ワシは禿げてません! まだ、禿げてません! 
 まだ! まだ大丈夫なはずだ!」
「うるさいよ、ヒゲさん!
 っていうか、何じゃないでしょ!」
口々に好き勝手言うのを、もう一度頭から怒鳴りつけて、
フェイヤーは皆を制止した。
「今すぐ、その変な歌を止めなさい!」

確か我がギルドはほぼ独身者で形成され、
特定の相手がいない者が殆どであるのも事実だ。
しかし、いくら何でもそれを自ら強調し、
周囲に自虐を巻き散らかすのはよろしくない。
ギルマスとしては当然見逃せず、
フェイヤーが強く替え歌合唱の停止を求めるのは、
当然であったが、その評価は散々たるものだった。
「珍しく、まともなこと言ってやがんな。」
「流石にこの時間帯は飲んでないでしょ。」
「酔ってさえなければ感覚は普通だからな、
 酔ってさえなければ。」
鉄火がギルドマスターに白眼を向け、紅玲は鼻先で笑い、
クルトも気がない様子で相づちを打つ。
何故、彼らがマスターを押し退けて、
ギルドの要と呼ばれるのか。
それは、マスターが働かないからである。
ギルド公式に禁酒令がでているにも関わらず、
隙有らずとも酔っぱらい、
業務を放り出すフェイヤーが、
偶にそれっぽいことをやったところで、
ありがたみの欠片もないどころか、白々しい。
それでも一応、それなりの人望はあるので、
完全に無視されるということもないだろう。
さて、どうなるかと三人は傍観を決め込んだ。

「そんなこと言わないで、
 フェイさんも一緒に歌いましょうよ。」
やはり、叱咤としての効果はなかったらしく、
ポールがフェイヤーを誘う。
「冗談じゃありません。
 大体僕が独身なのは、純粋な個人的意志故であって、
 もてないとか、相手が居ないからじゃありません。」
即座に断ったギルマスに、
ユッシとアルファが口をとがらせる。
「それを言うなら、うちだって既婚者だし。」
「僕だって、別にもてない訳じゃないもんー」
言われてポールがヒゲを振り返った。
「だったらヒゲさんだって、確か結婚してましたよね?」
「内縁で式は挙げてませんけどな!」
のんきに肯定するヒゲの隣で、
ジョーカーが不機嫌に主張する。
「そういう意味じゃ、ボクはどちらかと言えば、
 アッちゃんを外したいんですけど。」
「なんでやねん。」
突然敵意を向けられて敦が口端を歪め、
ノエルが顔を両手で覆う。
「それがわからないから、アツシ君はだめなんだよ・・・
 そして資格が十分なのは俺だよね。やっぱ俺だよね。」
「もう、いい加減によしなさい。」
ざわざわと不穏な空気になってきたところで、
フェイヤーが何度目かの制止をする。
結局、既婚者であっても別居中であったり、
女友達が居ても言うほど親密ではなく、
恋愛感情を持たれていても、当人が気づいておらず、
見てれば判るでしょお察しくださいな状況なのだ。
だからこそ、現状にどっぷり浸かってはならぬ。
ギルドマスターはメンバーを見渡し、
きっぱりと宣言した。

「兎にも角にも、その替え歌はいけません。
 ご近所に恥ずかしいでしょ!」
普段、酔っぱらいで何の役にも立たなくても、
一応、ギルドマスターはマスターだ。
こうまではっきりと宣言されては、
逆らう術も余地もない。
メンバーはそれぞれの顔を見渡し、肩を落とした。
「はーい。」
「わかりました。」
「了解でーす。」
「しゃあないなあ。」
「もー 口うるさいんだから。禿げてしまえ。」
「惨い! ユッシン惨い! ワシは禿げましぇん!
 貴女が好きだから!」
「ヒゲさん、訳が分からない。」
口々に多分了承の意を示して作業に戻り、
流れでノエルも飾り付けを始める。
キィだけが、理解できずに目をぱちくりさせた。
「なんで、だめなんだ?」
「主に、ジングルじゃねえから。」
非常にざっくりとした説明をしたスタンは、
幼児を抱き上げ、紅玲達のところへ戻ってきた。
千晴のココアに気がついたキィが、
飲みたいとねだり、それに応えて立ち上がった紅玲に、
フェイヤーが自分の分もと頼む。

「やれやれ、全く手が掛かるよ。」
着ていたコートに手をかけつつ、
ギルドマスター大げさなため息を一つ吐き、
問題は解決されたと安堵した様子だったが、
鼻先で笑われた。
「考え甘いよ、フェイさん」
「何が?」
「じゃあ別の歌、唄うかー」
妙に疲れた様子の紅玲に嘲られ、
不遜な態度を怒るより先に首を傾げたギルマスの背後で、
それは誰からと言うこともなく、始まった。

ヒイラギ飾ろう ファララーランランラン
楽しく唄おう ファララーランランラン
今年も 寂しく 独りクリスマスイブ

「違う!」
途中で歪められた歌詞にフェイヤーが大声を上げるが、
合唱は止まらない。

彼女が 欲しいよ タララーラーランランラン

「だから止めなさいって、判ってやってるでしょ!
 何で君たちはそうなんだい!!」
もはやヒステリーじみたギルドマスターの怒声は、
軽く流され、当然のごとく、喧噪の嵐に発展した。
「やはりか。」
「ですよねー」
「まあ、こうなるだろうな。」
予定通りの流れに、
ギルドの要の三人は異口同音な感想を述べ、
ぼんやりと怒鳴るギルドマスターとその他を眺めた。
我関せずを決め込んで、
寝ていた祀がゆっくりと身を起こし、
大あくびしながら言う。
「こんなことばっかりやってっから駄目なんだと、
 うちの連中は何時、気がつくんすかねえ。」
その疑問への回答として、
理性有るメンバーの口から揃って溜息が吐き出される。
もはや、自覚云々のレベルではないだろう。

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